経済広報

『経済広報』(2017年7月号)掲載
企業広報研究

ポピュリズムの台頭と企業広報の今後

ジャック・レスリー

ジャック・レスリー
ウェーバー・シャンドウィック 会長

 81カ国でPR事業を展開するPRエージェンシーであるウェーバー・シャンドウィックのジャック・レスリー会長が来日した機会を捉え、5月15日に「企業広報講演会」を都内で開催した。テーマは、「世界情勢の変革期におけるコーポレート・コミュニケーションのあり方」。42名が参加した。

時代の変化を告げた3つの選挙結果

 コミュニケーションに大きく影響を与えるのが、ナショナリズムとポピュリズムの台頭である。その風潮の到来を告げる出来事として、最近3つの大きな選挙があった。1つは英国のEU(欧州連合)離脱選挙。2つ目が米国大統領選挙、3つ目が仏大統領選挙だ。いずれも、僅差の勝負となり、票が割れた。投票結果を地理的に分析すると、その特色が見えてくる。EU離脱選挙と米大統領選挙では、「勝者」に票を入れた地域は比較的教育水準が低く、労働者が多い地方が中心である。仏大統領選挙は、マクロン大統領が66%の投票を得て、国民戦線の候補を30%に抑え勝利した。とはいえ、国民戦線の候補に30%も集まっていることに注目しなければいけない。

ポピュリズムを生む貧富差の拡大

 私は長年にわたり、政治分野でコンサルティングサービスを提供してきたが、全国規模の大きな選挙を行う際に投票者の意思に大きく影響するのが、怒りの感情であると認識している。この怒りの原因は、富の不均衡である。現在、世界規模で、富と貧の均衡が大きく崩れている。人口の1%が富を享受し、残りの99%が貧困にあえいでいるという統計もある。長く続く不景気が、この不均衡を生んだひとつの原因かもしれない。しかし、それだけではない。
 テクノロジー化、自動化が大きく台頭してきたことにより、求められる働き手の人材像が大きく変わってきたのだ。これから先20年の間に、全米の職業における45%の仕事が自動化される可能性があるという推計がある。米国では、自動化に伴って、特に自動車の労働市場が大きく変わろうとしている。全米にトラック運転手は100万人いるといわれる。しかし、最近の報道で、ウーバー社が自動運転のトラック開発を行う事業会社と業務提携を行うとの報道があった。この取り組みがさらに進むと、100万人のトラック運転手が路頭に迷ってしまうかもしれない。また、アマゾン社の売り上げが、昨年1360億ドルに到達した。この売り上げに貢献したのは、アマゾンの営業マンではなく、アルゴリズムなのだ。

ポピュリズムが企業に与える影響

 ポピュリズムの台頭による企業広報への影響であるが、怒りの感情がポピュリズムに変化することにより、怒りの矛先が組織に向けられることがあるということを認識してほしい。信頼が崩壊している現在では、企業は非常に脆弱な状態になる。例えば、離職率の高まり、株主による株式の売却、消費者による購買ボイコットなどが挙げられる。日米企業を問わず、このように信頼関係が失墜している状況に対し、コミュニケーションがより大事になってくる。この状況を改善すべく、より頻繁に、より緊密にコミュニケーションを図っていくことを求められている。
 ソーシャルネットワークの活用を図ることは、企業として怖い面もあると思う。情報が開放されると、誰かに情報をコントロールされてしまうこともあるため、企業は恐怖を感じてしまうかもしれない。企業には、情報をコントロールしたいという衝動があり、日本企業には特にその傾向が強いように思われる。ただ、このような時代に、企業情報の全てをコントロールしようと躍起になることは好ましくない。もし、会社の経営陣がソーシャルネットワークの活用や、eコマースの活用に消極的な理由が、情報の統制を図りたいという理由であれば、10年、20年後には、事業が成り立たなくなってしまうかもしれない。

CEOの政治的発言

 トランプ政権が、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を表明して以来、アジアで大きな軋轢を生んでいる。しかし、トランプ政権は、日米関係を傷付けようとしているわけではない。むしろ、先の北朝鮮のミサイル試験発射や、ペンス副大統領の来日を踏まえると、日米関係は変わらず重要視されていくだろう。しかし、我々は傍観していてはいけない。私や企業広報の皆さんが、コミュニケーションの担当者として、この二国間の関係から生じ得るメリットをきちんと伝えていくことが求められている。現在、特に重要なこととして、アクティビズムへの対応が挙げられる。今までは、企業のリーダーも政治のリーダーと同様に、利害関係者との関係を構築していくことへの重要性が叫ばれていたが、最近ではこの関係に変化が見られる。
 米国企業の動向に興味深いものがあった。トランプ大統領は就任早々に、移民に関する大統領令を発令したが、その際、各企業のCEOが、大きな声で意見を表明したのだ。企業のトップが政治にものを言うようになってきた。企業内では、ダイバーシティ(多様性)が重要視されている。このため、社員や取引先と考えが一致するならば、政治的なことであっても、CEOには発言することが求められている。ウェーバー・シャンドウィックが実施した調査では、世界の消費者の41%が、社会問題に対し、企業は明確なスタンスを取るべきだという結果が示された。

日本企業が生き残るには

 今までは、ブロードキャスティング型の情報共有が行われていた。企業がメッセージを発信し、メディアはそれを伝えるという形である。しかし、昨今では、エンゲージメント型といわれる双方向型の方法が広がっている。
 日本の企業が、グローバル競争の中で勝ち残っていくには、このエンゲージメント型のコミュニケーションが大切だ。最新のテクノロジーを活用し、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用して、従業員やお客さまとのコミュニケーションを図るという方法を、あらためて見直していかなければならない。
 日本の会社はすごいといつも感心している。世界的な技術の進歩に貢献したのが日本企業。世界最良といわれるようなテクノロジーで、私たちの生活を変えてくれた。ブランディングに関しても、豊富な知識と経験を持っている。だから欧米でもよく浸透した。ブランディングというのは、顧客が求める品質や製品・サービスに、きちんと応えていくこと。それには、コミュニケーションとマーケティングの要素が必要だ。日本企業は、マーケティングを得意としていて、性能の高い製品を作ることに秀でていた。
 しかし、世界中のオフィスには大きなコンピューター端末が置かれているにもかかわらず、素晴らしい製品を作っている日本のオフィスには最新のハードウェアはあまり置かれていない。日本はイノベーターとしてはすごく優れている一方で、アダプターとしては、なぜこんなにも最新テクノロジーの導入が遅いのだろうと、常に不思議に思っていた。今後、日本企業には、新しいテクノロジーを早期に採用する気概が必要だ。
 今年初めてデジタル広告への投資額がテレビ広告への投資額を上回ったという結果が出た。これから2、3年の間に、このデジタル広告への投資拡大は世界の至るところで起こるだろう。今後企業がグローバル化の中で生き残っていくには、最新テクノロジーの採用、SNSの採用と、エンゲージメント型コミュニケーションというスタイルに適用できるかどうかが重要となる。
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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