経済広報

『経済広報』(2017年7月号)掲載
企業広報研究

世の中を動かす「戦略PR」、6つのルール

本田哲也

本田 哲也(ほんだ てつや)
ブルーカレント・ジャパン(株) 社長/CEO 

 本田さんは、2009年に『戦略PR』、2014年に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(共著)を出版。このたび、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』を上梓された。

ソーシャルメディアがもたらした変化

今回の著書発行に至った経緯は何か。
本田 最初の本の初版は2009年で、今からちょうど8年前。8年もたつと、広報PRを取り巻く環境も様変わりした。最も大きな変化は、2010~2011年のソーシャルメディアの普及だ。そのため再度、イチから戦略PRというものを世に問うタイミングと思い、出版した。
時代によって変化した部分と、変わらない部分があると思うが。
本田 戦略PRには、社会の関心に目をつけて、それをいかに「料理」していくかという発想が大事である。社会の変化に伴い、HOWの部分が変わった。つまり、ソーシャルメディアの登場で、PRに大事な世の中の関心事が細分化され、それが表出化してきている。そこで、抜本的にPRの考えを改めなければいけなくなった。
新しい6つの法則とあるが、以前と比較し、加わったものは何か。
本田 「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」の3つの法則は、前著にも記しているが、8年を経て、これらも現代的に解釈し直した。全く新しいのは、「そもそも」「しみじみ」「かけてとく」の3つ。新しい法則が生まれたきっかけは、最初に提唱していた3つの法則では網羅し切れないPRの成功例が出てきたことだ。

法則1「おおやけ」

1つ目の「おおやけ」とは、何か。
本田 公共性とか社会性のことであり、PRにとって最も重要な要素。商品のことばかり主張するのではなく、それが社会にどう貢献できるかという要素が重要であると述べた。当時に比べて、企業やブランドを社会への貢献という視点で見る目が、ますます厳しくなってきている。今回の著書で、「有言実行」と述べているように、社会を深く洞察し、多層な社会や課題を捉える視点だけでなく、それに対するソリューションが明確に提示され、さらに、それが有効性を持ったものか、という視点もより重要になってきた。
 「おおやけ」に関して、もうひとつ現代的な解釈をし直したのが、ビッグデータについてだ。ビッグデータの本質は、たくさんの人の声であるということ。ビッグデータは、PRで一番重要な「おおやけ」を捉えるのに活用できる。ビッグデータと広報との繋がりは、まだまだ希薄であるが、今後新たなPRテクノロジーという領域に繋がっていくのではないだろうか。

法則2「ばったり」

2つ目の「ばったり」とは、何か。
本田 「ばったり」は、ソーシャルメディアの登場により、大きく意味合いが変わった部分。ソーシャルメディアが普及したことによって、情報の流通が変わってきた。キュレーションメディアや、いわゆるBuzzFeedのような分散型メディアといった、一つひとつのコンテンツをソーシャルメディアの海の中に放り込むというやり方が登場した。これは、人を集めてPV(アクセスしたページの総数)を稼ぐというより、面白い情報を投稿して、その情報に人が集まるという、抜本的に考えの違うメディアである。これにより、「ばったり」出合わせやすくなった半面、競争率も上がるので、コンテンツの作り方を積極的に考えなければならない。いかに「ばったり度」を上げるかが大事である。
 例としては、野良犬や捨てられた犬(Shelter Dog)の里親探しを行うNPO団体であるSPCA(Society for the Prevention of Cruelty to Animals)が展開した、「ドライビング・ドッグ」というキャンペーン。単に、犬を飼ってくださいという動画を流すのではなく、犬が車を運転する動画を作成した。車を運転するほど、Shelter Dogは賢いという風刺も効いて、世界中で「ばったり」(情報接触の偶然性)を起こした。動画は数多くのシェアを生み、世界中に拡散し、Shelter Dogの里親になりたい人が急増した。

法則3「おすみつき」

3つ目、「おすみつき」は何か。
本田 「おすみつき」は、信頼の確保のこと。いわゆるインフルエンサーの活用についてである。インフルエンサーは、ここ10年間でだいぶ多様化した。ソーシャルメディアが増えるにつれ、ツイッター、インスタグラマー、ユーチューバーなど、影響力を持つ人たちのバリエーションが増えた。一方で、医者、有識者、専門家といった、旧来のインフルエンサーも依然として重要であることに変わりはない。
 私はインフルエンサーを2種類に分けた。事実系のインフルエンサーと共感系のインフルエンサーである。前者は、華やかさに欠けるが、信頼の「おすみつき」を与える人。後者は、セレブ、インスタグラマー、ユーチューバーといった、共感を生む人たち。広報の目的を考えたときに、それぞれのインフルエンサーの特徴を捉え、的確に当て込んでいくことを考えなくてはいけない。
 日本企業の課題は、共感系インフルエンサーをどう使っていくかである。まずは、企業側と一般人側のそれぞれのリテラシーを上げていかなければならない。昨今のステマ議論に繋がるが、金銭や物品の授受そのものが問題ではなく、それによって発言をコントロールしているのかどうかが本質であり、その本質を捉えていないからこそ、日本企業が共感系インフルエンサーを活用することに尻込みしているという現状がある。
 例えば、ユーチューバーに、商品に関する動画の制作費を払い、発言を自由に任せることで、ファンに商品を認知させていくことは、立派なPR戦略のひとつであると考えている。

法則4「そもそも」

4つ目の「そもそも」は何か。
本田 「そもそも」とは、普遍性のこと。斬新さで驚かせたり、際どいことで話題を振りまくPRもあるが、普遍的で変わらない価値を大事にすることで、支持が集まるものがある。ものすごく普遍的だが、世の中に埋もれている価値観を提示することにより、共感や共鳴が広がることもある。
 「そもそも」をニューメディアで発信すると、特に効果がある。オールドメディアの新聞が「そもそも」を社説で言っても、新規性が全くないが、ソーシャルメディアやソーシャルメディアでの発信力が強い人を介し、「そもそも」論のメッセージを訴える方法は効果的である。
 成功例としては、ヘアケア製品や化粧品、衛生用品を扱っているP&Gが、生理用品ブランドとして世界的に展開している「オールウェイズ(Always)」で行った「ライク・ア・ガール(#LikeAGirl)」というキャンペーンである。子どものとき、女性は「女性らしさ」を求められないが、10歳くらいになると、世間が「女性らしく」振る舞うことを求めることは、社会的な価値観の押し付けではないかという疑問を、PRに取り入れたところ賞賛を受けた。世間に潜在化している疑問を表出させることが、PRとしての重要な要素のひとつであるという表れである。

法則5「しみじみ」

5つ目、「しみじみ」とは何か。
本田 「しみじみ」とは、当事者性を醸成するようなストーリーテリングを展開し、感情に訴え掛けることである。広告領域は、「しみじみ」(感情に訴える)が得意であるが、企業広報は、感情に訴えることが苦手のように思う。しかし、だからこそ企業広報の分野が「しみじみ」をうまく使う可能性が、非常に大きく広がっている。
 成功例としては、スウェーデンのスーパーマーケットCoopの、「The Organic Effect」というキャンペーン。ある家族が2週間、徹底的にオーガニックフードを食べ、毎日検査を行う。すると、見るからに体内の残留物が減っていくという、シンプルなPRである。本来、もっと多くの母数で実験するのが普通であるが、それでは「しみじみ」がなくなってしまう。この例は、ひと家族だからこそ、見ている人も、その家族に感情移入してしまい、もっとオーガニックフードを食べた方がよいかもとの感情を煽られる。ネットの動画などを活用し、感情に訴えPRすることは、現在の企業広報の弱点でもあるが、今後はますます重要となろう。
 昨今マーケティング広報とコーポレート広報のすみ分けは、あまり意味をなさなくなってきた。企業のファンになってもらうことも、商品を買ってもらうことも、感情に訴えることが重要なのは同じである。企業広報においても、ストーリーテリングの重要性がだいぶ認知されてきたが、ストーリーテリングこそ、「しみじみ」の最たるものである。それができている企業とそうでない企業との差が生じてきている。信頼度と好感度は違うということを、早く認識すべきである。「しみじみ」から企業広報が学ぶべき点は多いのではないだろうか。

法則6「かけてとく」

6つ目、「かけてとく」とは何か。
本田 「かけてとく」というのは、とんちや機知性のことだ。ここ3、4年くらいの海外のPRを見ていて実感するのが、非常にウイットに富んだPRをしている点だ。世の中の流れや、社会のある事件などで、ざわついた状態のときに、ユーモアがあり、しかもスピーディーに行っているものが、賞賛され、好感を持たれている。
 例としては、Burger Kingの「Proud Whopper(プラウドワッパー)」(イベント期間限定のハンバーガー)がある。LGBT(女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の各語の頭文字をとった表現)が集まるお店で、「Proud Whopper」という商品を販売し始めた。その見た目は、虹色の紙で包まれた派手なハンバーガーなのだが、中身のことは、店員も一切教えてくれない。そして包みを開けると、「誰でも中身は一緒」というメッセージが包装紙に書かれている。つまり、見た目は異なっていても、中身は普通のハンバーガーと全く変わらないということだ。これが、賞賛と感動を生み、世界中にシェアされた。同社のLGBTへの取り組みや考えを、機知を発揮し、見事に伝えた例といえる。
 しかし、ユーモアの効いた宣伝というのは、一歩間違えると「炎上」に繋がる。だから、日本では避けられがちである。そんな現状を踏まえ、私は、これを今回あえて6つのルールに加えた。欧米に比べ、保守主義的なところが日本にはあるが、こうした手法も積極的に仕掛けていってほしい。

広報の目的は「行動変容」

日本の広報戦略に足りないものは、何か。
本田 一番言いたかったのは、今後世界と繋がる機会がますます多くなる日本の企業にとって、効果的なPRができていないこと、経営層が広報戦略を理解していないことが、足かせになってしまうということだ。日本の企業活動や商品は、クオリティは高いが、それを伝える工夫がまだまだ甘い。今回の著書を世に出した後に、PR戦略を組織全体がもっと理解し、ビジネスに積極的に活用すべきである、という反応があった。こうした反応があるということは、広報は情報発信戦略であり、それによって解決できる問題がたくさんあることに気付いていない人が多いということだ。広報の効果測定に関しては、様々な議論がなされているが、本当の効果は、人の行動を変えること、つまり、ビヘイビアチェンジ(行動変容)である。広報活動には、大きな可能性が秘められていて、そのことをもっと啓発していく必要がある。6つの法則は、あくまでPR戦略を整理したひとつの体系的なものであり、情報を発信するときのチェックリストのようなものとして役立てていただければ幸いである。
(ほんだ・てつや)
1970年生まれ。戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に『㏚Week』誌によって選出された日本を代表するPR専門家。1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。『戦略PR』(アスキー新書)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎氏との共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年よりJリーグマーケティング委員。2015年の「PRWeek Awards」にて「PR Professional of the Year」を受賞。「カンヌライオンズ2017」PR部門審査員。
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
聞き手:常務理事・国内広報部長 佐桑 徹
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