経済広報

『経済広報』(2017年7月号)掲載
企業広報研究

新任広報担当者が知っておくべき12の常識
~実践企業広報実務~

江良俊郎

江良 俊郎(えら としろう)
(株)エイレックス 代表取締役/チーフ・コンサルタント

藤北村 秀実

平野 日出木(ひらの ひでき)
(株)エイレックス 取締役副社長/チーフ・トレーナー

 経済広報センターは5月10日、「企業広報講座」を経団連会館で開催した。当センターは新任広報担当者を対象とする同講座を毎年、東京で7回、大阪で4回、名古屋で3回開催しているが、今回は東京での第1回講座である。企業広報・危機管理コンサルティング会社であるエイレックスの江良俊郎代表取締役と平野日出木取締役副社長が、広報部門の役割やメディアリレーションのポイントなど「新任広報担当者が知っておくべき12の常識」について講演した。参加者は約100名。両氏による講演概要は以下の通り。

広報担当者の役割

 そもそも広報とは何か。パブリックリレーションズとは、一体なんのことなのだろうか。著名な“Effective Public Relations”(カトリップ、センター、ブルーム著)によると、「パブリックリレーションズとは、組織体とその存在を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネージメント」とある。日本語の「広報」とはニュアンスがやや異なる。
 こうした定義を念頭に置きつつ、広報担当者であるからには、まず、自社の広報部門の目的は何かを確認しておいてほしい。明確でない場合は、広報担当役員や広報部長も交え、話し合っておいていただきたい。かつては経済広報センターの調査でも「マスコミ記者との良好な関係を築く」といった項目が上位にきていたが、これからの広報活動の目的を考える上で極めて重要な視点を幾つか紹介する。
・ コーポレートレピュテーション、企業ブランド価値の向上
・ 経営理念・経営方針をターゲット層に理解してもらうこと
・ 社会との対話、理解共感の獲得
・ 危機対応
・ 社内コミュニケーション、の視点である。
(常識1「自社の広報活動の目的、目標、戦略を持つ」)

メディアリレーションのポイント

 マーケティング広報の世界ではデジタルのOwned Media(後述)全盛であるが、企業広報が主の広報活動では、マスコミ(Earned Media、後述)対応が業務の中心かもしれない。そこで今日は、メディアリレーションの基本を解説する。新聞記者15年の経験(平野)から言うと、記者の仕事は、いかに熱心に取材してもそのプロセスは評価されず、最終的には結果で判断されてしまう。その「結果」とは3点。紙面上の扱いが大きいか小さいか。他媒体より早く記事化できたか。独自ネタか、である。リリースをそのまま書いただけでは、全く評価されない。多くの他媒体に載っているのに自社媒体のみ載らなかった話題は、“特オチ”と呼ばれ、記者の担当替えに発展する場合すらある。こうしたプレッシャーに記者は常時さらされている。
 スクープを取りたい記者心理からすると、経営トップとの関係はもちろん大事だが、同時に、広報担当者とも親しい関係を築き、協力を得たいと考えている。なぜならスクープ内容について他紙から真偽の問い合わせがあったとき、肯定してもらいたいからだ。広報の側からすれば「仁義を切らずに勝手に記事を書けば否定しますよ」とプレッシャーをかけることで、記者の動きを相当程度コントロールできる。実際そうやって掲載時期をコントロールしている企業は少なくない。(常識2「『スクープ』への執念と『トクオチ』の恐怖」)
 商品に関するリリースは、宣伝色が前面に出ないようにすることが重要である。企業を取材する記者は本能的に、広告宣伝は絶対に書きたくない。従って宣伝色の強いリリースは、単純に記事化すると広告になってしまう懸念を彼らは感じ、忌避しがちだ。社会的な意義を強調するなどして、極力、宣伝色を薄めるように努めてほしい。(常識3「リリースは、ヘッドラインと第1パラグラフ(リード)で勝負する」)
 新聞社の編集局には経済部だけではなく、政治部、社会部などの他、写真部、地方部、校閲部、世論調査部、航空部、配信部などがある。ニュース素材の内容次第では、経済部ではなく、生活情報部や解説部など隣接部が関心を示す場合もある。記者は本社ではなく、記者クラブや取材センターにいることも多いので、物理的にどこにいるかを確認しておくことが大切だ。(常識4「経済部記者は本社にいない場合が多い」)
 メディアからの問い合わせに対しては、(1)リリース発表前にあらかじめ、記者からの想定質問と回答例を作成しておく、(2)リリース発表後は、必ず問い合わせに出られるようにする、(3)窓口は一本化し、社内でたらい回しをしない、(4)広報で分からない場合、すぐに現場部門に確認する、(5)記者は時間に追われているので、クイックレスポンスを心掛ける。(常識5「記者からの電話には、とにかくクイックレスポンス」)
 記者が聞く典型的な質問は、「これって、どれぐらいインパクトがある話ですか?」(業界やユーザーへの影響の大小)、「なぜ今この時期に導入するのですか?」(動機・理由・タイムリー性の深掘り)、「同じ目的のために、これまで他にどんな策を取ってきたのですか?」(これまでの経緯。他社の策との差異性の有無)などだ。
 取材の事前準備と当日の対応は、(1)取材の申し込み時は、取材の目的、企画意図をよく聞くこと、(2)記者の要望と自社でできることを、よく調整すること、(3)Q&A、伝えたいメッセージ、サポート資料を用意する、(4)取材対象者や現場と事前に十分に打ち合わせる、(5)取材時は広報スタッフが同席、協力する、といったことに注意する必要がある。(常識6「できない取材の約束は、メディアが最も嫌う」)
 記者も知り合いの広報からきたリリースは読む確率が高く、記事が書かれやすいという面はある。記者とは長期的な関係を視野に入れて、人間関係を構築してほしい。とりわけ、トップに直結している広報担当者は重宝される。記者の要求を理解し、社内調整し、多くの情報開示をしてくれる人が信頼される。また、自社だけでなく、業界全体・関連市場について知識と分析力があることが望ましい。(常識7「記者との信頼関係が正確な記事につながる」)
 一方、(1)対応が遅い、(2)知識不足、情報不足、(3)「企業の都合」ばかり押し付けてくる、(4)都合の悪いことをひた隠しにする、(5)トップの協力を得ることができない──広報パーソンはメディアに嫌われることを知っておきたい。

記者に会う時

 記者にコンタクトする際には、(1)忙しい時間帯は避ける、(2)事前に紙面を研究しておく、(3)担当の記者に直接アプローチする、(4)自社だけでなく、業界全体の動向も把握しておく、(5)他紙のことを話さない、といったことに注意する必要がある。(常識8「初めての記者への接触は書いた記事を読んでから行く」)

リリース作成のポイント

 リリースは記事にならなくとも、のちのち記者にとってその企業の公式情報として重宝される。
 リリース作成の際のポイントとしては、紙の上部にある重要要素から、そのまま下方に向かって、疑問なく流れるように書いていくことが重要。「逆三角形に」としばしばいわれる通り、見出しは1行目に最も言いたい文言を入れるべき。リリースの文章を読んでいる途中でつまずくと、そこで記者は読むのをやめる。だから文章は途中で疑問を抱かせない流れになっていることが重要。ポイントを明記して、記者に提示してやるような書き方が良い。逆に、あいまいな表現、大げさな表現、宣伝臭は嫌われる。

危機管理・緊急事態対応について

 危機管理の第一歩は、自社リスクを想定しておくこと。業種によっても起こり得る危機の種類は異なる。危機の際は、初期対応やメディア対応の失敗が危機を拡大させる。広報担当者は、レピュテーションへの影響を最小限にするよう、様々な準備に努めること。(常識9「危機管理と緊急事態対応のための準備」)
 報道が長引けばダメージも大きく、レピュテーションはマイナス圏だ。企業活動に重大な影響を与える。経済的損失や人的損失よりも、レピュテーションの損失が怖いのだ。早期の発見、初期段階でマネージメントへの報告と対応を行うこと。危機をコントロールできるのは、多くの場合最初の段階のみだからである。
 緊急事態の際、広報担当者がやるべきことは、まず情報収集と分析、つまり積極的な事実関係の確認が必要だ。「何も言えない」にしても、事実を知らなくては回答できない。そして、その事実がどういう事態に発展するかを予測し、トップに対して進言しておく。公表すべきか、どのタイミングで誰をスポークスパーソンとして会見するのか、謝罪するなら誰に対してか。一方で、緊急会見では「トップ出席が条件」、というわけではない。有力企業のトップが出て会見することは、それだけで大ニュースとして扱われてしまう点にも注意しておきたい。「トップは収束時の会見で──」そういう判断も広報が行わなければいけない。(常識10「緊急事態の際に広報がやるべきこと」)
 緊急会見開催の基準は、一言でいえば、「社会的な影響が大きい場合」となるが、お客さまの安全・安心に関わる場合や、企業・組織の倫理が問われ見解を出す必要がある場合などは必須である。この他、コメントを出したり、会見を検討したりする場面は少なくない。広報担当者は感度を磨いておきたい。ここでも他社の事例は役に立つと思う。
 さて、不祥事発覚後は、経緯と共にその問題に対して会社はどういうスタンスなのかを決めて、文字に落とす。これをポジションペーパーというが、それを基に、Q&Aを作成し質問に備える。危機対応の現場では最も重要な業務である。

広報の効果測定

 「マスメディアへの露出状況」「ネットメディアへの露出状況」「広告費換算」「リリース本数や記者発表など情報発信の回数」などを行っている企業が多いが、これらの複数の指標を併せて用いることをお勧めしたい。(常識11「広報効果の測定はできるのか? 広報活動のKPIは?」)

メディアと広報活動の最新トレンドについて

 マーケティング広報分野では、既にネットメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、デジタルでの施策が重視されている。今後、企業広報もその方向が強まっていくことは明らかである。
 広報活動を戦略的に実施する上で、ここ数年日本ではトリプルメディアの概念が浸透してきた。トリプルメディアとは、Earned Media(いわゆるメディアリレーションズとソーシャルメディア)、Paid Media(広告)、Owned Media(自社)の3つだが、最近米国では、Earned MediaからSocial Mediaを分離して、Shared Mediaというひとつのカテゴリーとして位置付ける、 PESO(Paid、Earned、Shared、Owned)モデルと呼ばれる考え方がスタンダードである。
 従来、広報は広告活動を担当すべきでない、とされた。自社メディアといえば社内報、SNSはブランド担当者の仕事であった。しかし、今後企業広報分野でもOwnedメディアを核に、Paid、Earned、Sharedを統合的に結んだ戦略が必要になるだろう。広報は、強みである「社会の視点で有益な情報」に加工して、ストーリーを語ることがより重要になってきている。商品のスペックの話ではなく、企業や商品がいかに社会問題を解決し貢献しているかを語ることも大事だ。日本では、新聞をはじめマスメディアへの信頼性が圧倒的に高く、米国とは単純に比較できないが、グローバル企業の広報担当者は、非常に細かく細分化されたターゲット層それぞれにアプローチして、対応していかなければならなくなる。SNSを含め、ターゲットとの接点で、ストーリーや仕掛けを至るところに置いておく時代がくるだろう。(常識12「企業広報のトレンド」)
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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