経済広報

『経済広報』(2017年8月号)掲載
企業広報研究

戦略広報成功のための3つのポイント

井上岳久

井上 岳久(いのうえ たかひさ)
井上戦略PRコンサルティング事務所 代表 

 経済広報センターは6月9日、「企業広報講座」を経団連会館で開催した。井上戦略PRコンサルティング事務所の井上岳久代表が、戦略広報と企業事例などについて講演した。参加者は約100名。

広報活動=名前×行為×信頼

 広報活動で大事なことは、社会に対して、まず自社の「名前」を知ってもらうこと。世の中に自社の「名前」が知られていなければ、世間からの評価対象外となってしまう。そして次に、「行為」を知ってもらうこと。名前は知られていても何をやっているか伝わっていなければ、まだ企業としての存在感が薄い。事業が何かを世間に認知され、最後には「信頼(ポジティブなイメージ)」を得ていく。こうした活動が広報であり、「広報活動=名前×行為×信頼」であるといえる。広報活動を通じて大切なのは、ブランドを育成すること。世界的なブランドを築き上げて成功している企業というのは、広告ではなく広報によってブランドをつくったという特徴がある。

情報氾濫時代における広報の重要性

 情報化時代を迎え、世に出回る情報量はかなり増大した。総務省によると、情報量は約10年前に比べて637倍といわれる。新たなメディア媒体が数多く登場し、企業は情報をあらゆる媒体に発信しなければいけなくなった。しかし、メディア側は、その全てを受け切れるわけではない。また、広告の多様化により広告の効果は低減してきている。インターネットの伸張で、既存媒体(特に、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌の4大マス媒体)の地盤沈下が起こり、一撃必殺の広告媒体がなくなってしまった。当然、広告費もかかるため、手当たり次第にプロモーションを行うこともできない。そうすると、こうした課題を解決するためのひとつの方策として、広報がより効果的に情報を伝えていかなければならなくなった。
 ブランド育成に成功している企業ほど、最初の事業構想段階、製品の企画段階から広報が関わっている。広告は付属品くらいに考えている。広報で新規性のあるネタがなくなってしまったときになって、初めて広告により補完している。

経営戦略をもとにした戦略広報

 経営戦略に従いPR・広報を展開する広報、つまり経営戦略の戦略を取って付け、“戦略広報”とした。経営戦略の中核を担う広報を行うには、経営戦略に沿った経営計画(事業計画)の段階から、広報戦略を立案することが大事である。財務計画や商品計画、予算計画などいろいろある中で、同時に広報計画もつくっていくのである。現実には、新たな事業構想が固まり、実行した後になって、初めて広報が登場する企業も多い。広報を通じてブランドを構築し、成功している企業は、最初から広報が核である。広報を中心に据え、商品開発から広告、SP(セールスプロモーション)、ウェブまで、トータルでブランドを構築していく。どういう企業になりたいか長期ビジョンを立てて、そこからブレイクダウンしていく。そうして最終的に計画をつくり上げるのが、“戦略広報”なのである。

戦略広報成功のための3つのポイント

(1)企画段階から広報の視点を
 戦略広報を成功させるためのポイントを3つ提起する。1つ目は、商品開発面・企画面で、消費者や購入者の販売面だけでなく、メディアが注目する商品を開発する。企画段階から広報担当が会議に参加し、その時点からどのようにPRしていくかなどを含め、議論する。企画担当者だけでは分からないような発信のポイントを、広報担当の視点から取り入れていく。
(2)必須スキルの習得
 2つ目は、広報を行うに当たって必須スキルを習得し、駆使することが大事である。事例として、ファクトブック(メディア向けの情報提供資料)とリリースについて取り上げる。広報が優秀な企業が、必ず持っているのがファクトブックである。しかも、製品のファクトブック、ブランドのファクトブック、キャンペーン用のファクトブックをそれぞれ作っている。企画書をそのままメディアに出すような企業は、メディアから理解してもらえない。業界の流れや、開発背景といった要素を含めたファクトブックを、きちんと1冊用意する必要がある。
 続いて、リリースについて。5年前のデータであるが、記者がリリースを見る時間は15秒程度、記者に1日1人当たりに届く枚数は500枚で、そのうち合格レベルのリリースは20%といわれている。今の時代にリリースなんてと言う人ほど、リリースがうまく書けていない。一撃必殺の広報資料として、リリースの作成と発信はとても重要である。また、リリースは1事業につき1回出して終わりではいけない。同じ事業に対して、リリースを複数回発信すると効果的である。応用的な手法として、ティーザー広告(商品の姿を全て見せない広告手法)の要素を取り入れ、多段階でリリースを発信することも効果的である。このように、ファクトブックやリリースなど、いろいろな広報スキルを駆使して、報道に結び付けていく。戦略広報で成功するために、メディアが報道したくなるようなネタをつくるテクニックが必要だ。ニュースバリューを熟知しておく必要がある。
(3)営業活動での活用
 3つ目は、広報活動の営業活動での活用について述べたい。広報効果を、企業のあらゆる局面で徹底して活用し、販売や利益、ブランドイメージの向上を最大化することが重要である。情報が世間に発信されたら、営業現場と連携し、テレビの放送日や新聞掲載日と緊密に連動させ、営業活動に生かす。掲載後も営業で使えるよう、二次使用の許可を得ておくなど、手を回しておく必要がある。また、採用面など、全ての企業活動に広報をフル活用するような仕組みをつくるべきである。場合によっては、ツールなどを作成しておくのがよい。
 この3つのポイントを補完するためにも、戦略・戦術、計画を綿密に練ること、社内コミュニケーションを盛んに行い情報の漏れがないようにすることが大事である。

戦略広報のメリット

メリット1 ブランドの長期的な構築
 戦略広報を行うメリットは、数多い。広告を出しても効果は長くは続かず、短期的に終わってしまう。それに対し、広報は効果が積み重なっていく。年を重ねるごとに効果が積み重なり増幅して、企業のブランドを構築していくのだ。
メリット2 全社的な情報受容感度の向上
 ブランド構築には、企業が情報受容感度を高くしておく必要がある。何が今話題になっているかを知らないと、戦略広報は成り立たない。テレビにどういう情報が流れているのか、新聞にどのような情報が流れているのかを把握し、どのような場面だったら、自社の情報発信に適しているかを把握しておく必要が広報担当者に求められるのはもちろんだが、全社的にそうした情報を把握するよう仕向けることが重要となる。そうした状態になれば、企画段階から、ただ売れる商品を開発するのではなく、メディアにも取り上げられるような商品を作る発想に自然となり、企業自体が強くなっていくのである。
メリット3 低コストかつ長期継続的な利益の獲得
 高コストとなる広告と比較して、戦略広報は低コストであり、効果が絶大である。しかも、長期的・継続的な利益に繋がっていく。今まで飛び込み営業をかけていたのが、消費者側から問い合わせがくるようになってくる。そうなれば、営業面でもコストダウンに繋がるため、コストをかなり抑えることができる。
メリット4 競合との差別化、競争優位性の確保
 副次的な効果もある。広告のノウハウは外部に漏れやすい。なぜなら、広告代理店を仲介するからである。我々は広告を打つ際に、必ず代理店を通じて買うしかない。成功した広告ノウハウは、転用の余地有りと、パッケージ化される。そしてそれを売るためには、当然売り文句の中に、成功企業のノウハウが説明される。そうやって、すぐに情報が漏れてしまう。一瞬にして、広告は陳腐化してしまうのである。しかし、広報は違う。ノウハウは教えてもらえるものではない。記者も、広報ノウハウまでは把握できない。記者は、毎日リリースを見ているし、何しろ文書のプロである。しかし、自身でリリースを書くわけではない。また、昨今、企業において社員への守秘義務徹底が図られている。会社を辞めた後に、社外にそのノウハウが漏れることのないように徹底されている。こうした要因から、広報のノウハウは社外に漏れる可能性が少ない。一度成功した戦略広報をノウハウとして持っておくと、継続的に他社との差別化に繋がってくるのである。
メリット5 社内の活性化、インナーコミュニケーションの円滑化
 メディアに自社が取り上げられれば社内が元気になる。自社内部へ発信される情報よりも、メディアという外部を通じて得た情報の方が、信頼度が高い。外部からの信頼性をもって、自社が世間に取り上げられると、社内の活性化に繋がるのだ。
メリット6 経営戦略、経営計画の社内への浸透とコミットメント
 経営戦略に基づいた広報が戦略広報なので、その活動を通じて、今一度経営戦略について、社員が意識するようになる。

広報計画の組み立て方

 広報の最終目標として、1つは、企業やブランドの認知度を向上させること。まずは企業の名前を認知してもらわなければ何も始まらない。2つ目は、長期的・継続的な売り上げ・利益を獲得すること。長期継続こそがポイントであり、短期的な業績は通過点にすぎない。企業は最終的な利益の向上を目指しているので、そこに広報が関わっていかなければ意味がない。むしろ、利益向上に広報が影響するということを示せれば、企業内での広報の価値は高まり、経営の中核を担うようになっていく。そして3つ目に、企業イメージやブランド価値(ブランドイメージ)を醸成すること。企業の社会的価値を浸透させ、信用を得ていくことができる。
 こうした最終目標を達成するために、10年くらいの計画を立てて行う必要がある。上位目標として、10年後にどのくらいの記事をメディアに載せたいのか、(1)記事数(新聞、雑誌)、(2)放映数(テレビ、ラジオ)、(3)ウェブ掲載数を設定する。
 続いて、活動プロセス数を設定していく。(1)リリース配信数、(2)メディア訪問数、(3)記者会見数といった、プロセス指標の設定を行う。また、実施するタイミングなどの計画を立てる。
 活動の基礎要素として、年間活動計画、PRコンテンツ数、ネタ創出数を決定しておく。PRコンテンツ数は企業の取り組みだけでは枯渇してしまうので、広報部自身が幾つかネタを創出しなければいけない。費用をかけないネタの創出法はたくさんある。PRコンテンツ数が足りなければ、そこに創出したネタを散りばめていく。
 年間活動計画などの基本要素を作成し、それに基づいて活動し、露出数を得ていき、ブランドが形成されていく。最初の方は大きな効果が出ないかもしれないが、じわじわと蓄積されていく。目標にめがけてブレイクダウンして、足元の1年1年をしっかりと活動していくことが戦略広報として大事になる。
 広報が注目されてまだ日が浅いため、ほとんどの企業が基礎的な実務対応に追われている。そのため効果が出ている企業は極少である。現代にふさわしい高度な広報スキルで広報を実行すれば、必ず成果が出る。そして企業ブランドは高まる。ライバル企業よりかなり有利な立ち位置を築くことができる。
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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