経済広報

『経済広報』(2017年8月号)掲載
企業広報研究

企業広報の基本とマスコミ対応

篠崎良一

篠崎 良一(しのざき りょういち)
PR総研 所長/広報の学校 学校長

 経済広報センターは6月2日、「企業広報講座」を名古屋市で開催した。共同ピーアールでPR総研の所長を務める篠崎良一氏が、広報活動の目的とパブリシティの重要性や日本メディアの特殊性などについて講演した。参加者は17名。

信頼は地道なパブリシティで形成される

 広報活動の目標は、企業とその存続を左右するステークホルダーの間におけるツーウェイ(双方向)コミュニケーションによって、最終的に相互に利益をもたらす関係性(継続的な信頼関係)を構築・維持することである。一言で言えば、良いレピュテーションをつくり上げることだ。広報活動の中心となるパブリシティを通じ、会社の良い評判をつくっていく。パブリシティとは、企業がメディアに対して、記事そのものではなく、情報(ニュースの素材)を自主的に提供し、メディアの積極的な関心と理解(取材・確認)と責任の下に、広く一般に報道してもらう方法と技術である。
 パナソニック(旧社名:松下電気器具製作所、松下電器製作所、松下電器産業)の創業者である松下幸之助は、「良い評判=信用(ブランド)は金では買えない」という言葉を残した。広報の重要性を端的に表した言葉である。「広告」はお金で買うことができ、知名度や認知度は上がるかもしれないが、信頼を与えるには及ばない。信頼は地道なパブリシティ活動によって形成されるのだ。自分の会社がいかに優れているかを自らが述べたところで、誰も信用してくれない。だから、第三者に手助けをしてもらう。名声も悪評も他人(第三者=メディア)がつくるのである。

広報担当者が行うべき3つの活動

 ステークホルダーの期待に対し、企業がそれを実現する能力があると認められれば、ブランドが形成される。ブランドが形成されると、持続可能性(将来の安泰性)と競争優位性(同業他社に対する優位性)の2つのメリットを得ることができる。ブランド形成を目標に、広報担当がすべき活動は3つある。
 1つ目が、ポジティブな広報だ。ポジティブな広報には、企業広報とマーケティング広報という2つのジャンルがある。企業広報においては、まず、強力なリーダーシップを伴ったトップ広報により、ブランドの礎となるビジョンやミッションを伝える活動が大切だ。次に、会社の将来の安泰度を占う企業戦略をアピールすることが重要だ。自社の企業戦略が世間の変化に対応し得るか、他社よりいかに優れているか。このような活動を地道に行うことにより、企業ファンを獲得していく。マーケティング広報の領域においては、商品の品質、信頼、他商品との違いを広報し、商品ファンを獲得することが目的である。企業広報とマーケティング広報それぞれで、企業ファンと商品ファンを獲得すれば、トータルな会社のファン(コーポレートブランド)に繋がっていく。
 2つ目は、危機管理広報の活動だ。会社は、常にネガティブな問題が起きる危険をはらんでいる。ネガティブな出来事が発生すれば、ブランドの毀損に繋がってしまう。そうした事態が起きたときに、イメージ悪化やブランド毀損のダメージを最小限に抑えることが、危機管理広報において大切である。
 3つ目にCSR(企業の社会的責任)活動だ。今は、どの企業にもCSR専門の部門があるが、20年前には考えられなかった。CSR活動が注目されたのは、どの会社の商品もほとんど差がない状況になってきたからである。性能も価格にも大きな差がなく、デザインの優位性もすぐにキャッチアップされてしまう。どこで差別化を図るかが重要な課題として認知され、そこで生まれてきたのがCSR活動だ。
 CSR活動は、目的に応じて2種類に分けられる。コンプライアンスを正常に機能させるための活動と、社会貢献活動である。前者は、危機管理広報と同じ役割を果たす。コンプライアンスが根付いていれば、危機発生度が低くなるからだ。後者は、他社との差別化を図る役割を果たす。似たような商品であれば、いかに社会貢献性があるかにより、商品が選ばれる時代だからだ。このように、企業広報というのは、ポジティブな広報、危機管理広報、CSR活動という3つの活動を行う時代に移ってきた。

パブリシティの組織活性化効果

 パブリシティには5つの効果がある。(1)信用度効果、(2)組織の活性化効果、(3)財務効果、(4)マーケティング効果、(5)リクルーティング効果の5つである。
 組織の活性化効果について掘り下げて説明する。これは、企業風土の活性化、社員のモチベーション向上に、パブリシティが有効だということである。社長が全社員の前で、売り上げを伸ばすための戦略について、スピーチや社内報で知らせる。そうして、末端の社員にまで伝わったときに、どれほど本意が伝わっているだろうか。実は、10のうちの3程度であるといわれている。
 要するに、上から下に伝わる情報は、割り引いて考えてしまう人間心理のせいで、社長の本意がうまく伝わらないのだ。
 ところが、社長のスピーチと同じ内容が新聞に取り上げられ、社員がそのインタビュー記事を読むと、10の伝えたい内容のうち、8か9程度の本意が伝わるといわれている。自社からの情報は信用しないが、外部からの情報ならば信用するという傾向が、知的レベルが高い人ほどあるといわれている。そうした人間の傾向を活用し、自社についての情報をマスメディアに発信してもらうことで、社員の理解促進・士気向上に繋げていく。外に向かって発信した情報が社内に戻ってくるので、ミラー効果またはブーメラン効果と呼ばれている。

取材対応のポイント

 取材やインタビューに関して、2つの誤解が生じている。1つは、インタビューは受けるものという誤解だ。その姿勢でインタビューに応じると、質問にどう答えるかに集中してしまい、企業として伝えたいことが反映されなくなってしまう。
 2つ目は、話した内容は正確に伝わるはずだという誤解である。1時間のインタビューで1万5000字分ほどの量に匹敵するが、実際に記事になるのは800~1500字であり、企業が思い描くような記事にならないことはよくある。記者の質問には丁寧に答えつつ、回答の中にメッセージを入れ込むことが大事である。
 そのためには、質問の枠の中で考えず、質問をきっかけに自分のテーマにシフトし、メッセージを伝えなければならない。そこで、事前にポジティブなキーメッセージを考えておく必要がある。キーメッセージとは、企業・団体のスポークスパーソンがメディアを通して利害関係者に最も伝えなければならないことである。また、キーメッセージを考えるのと同時に、その裏付けとなるデータを集めておくことが重要だ。キーメッセージとサポートデータをセットで考慮しておくことで、聞き手の納得を得ることができる。

日本におけるメディアの特殊性

 日本のメディアには、幾つかの特殊性がある。まず日本には記者クラブ制度があるが、これは日本特有の制度である。また、米国の新聞発行部数に比べて、日本の新聞発行部数は桁違いに多い。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は133万部、『USA TODAY』は142万部、『ニューヨーク・タイムズ』は57万部となっている。日本の新聞発行部数はというと、世界で発行部数が多い新聞トップ5のうち、日本の新聞社が4社もランクインするほどだ。世界でトップの発行部数を誇るのは、『読売新聞』で902万部(印刷版)。
 なぜ、こんなにも日本の新聞発行部数が多いかというと、充実した宅配制度の存在と、新聞・雑誌・単行本が一律定価販売であることが原因である。また、テレビにおいても特徴的な点がある。日本では、20%台の視聴率を取る番組も見受けられるが、欧米にはあまりそうした番組はない。なぜなら、欧米は無料で見られるチャンネルがとても多いからである。それに比べて、日本のテレビの影響力は圧倒的だ。視聴率1%で100万人が見ているといわれている。最近のテレビ離れを加味すると視聴者推計は落ちるかもしれないが、それにしても、ものすごい視聴者数である。
 以上より、世界に比べ、日本の新聞とテレビの影響力は極めて強いのである。その影響力は落ちつつあるものの、それでもいまだ、強い影響力を持っているのだ。
 では、一番読まれている『読売新聞』の影響力が最も強いのかというと、そうではない。日本で最も影響力のあるメディアは、「ヤフトピ(ヤフートピックス)」だ。Yahoo! JAPANというポータルサイトの中に、8本のニュースコンテンツがある。1日のうちに新規ニュースが80本ほど発信される。ヤフトピは、自分で取材をしているわけではなく、情報を買っている。買っている先は様々である。日経新聞に掲載されても、ヤフトピに載ることはないが、産経新聞、毎日新聞、時事通信の3社に掲載されれば、ヤフトピに載る可能性がある。この3誌に報道されれば、日経新聞や読売新聞よりも、影響力のあるヤフトピに載る可能性が高いのである。
 今の時代は、ニュースの情報源がクロスメディアする傾向にある。ネットの情報の約8割は、新聞が元であり、マスメディアの情報の2割はネット発である。お互いに、情報を取るようなクロスした構造となっているのだ。つまり、ソーシャルメディアの影響力が増しているものの、結局のところ、その情報源はテレビや新聞なのである。
 また、今は情報爆発の時代といわれている。99.996%の情報はスルーされているという、オーバーフロー(供給過剰)状態となっている。そして、ネットの情報は、ソーシャルメディアやスマートニュースなどのキュレーションメディアにより、拡散される傾向が強くなっている。また、今は気になったことをすぐに検索する時代。そこでもまた情報が拡散されていくのだ。
 このような状況の中、マスメディアはネットを24時間365日監視している。ネットを見て、すぐ取材に移る傾向が増えている。そのため、企業が自社内で起きている事件を把握するよりも前に、メディアの方が先に知っているというケースも起きてきた。
 米国では、PESOモデル(「Paid Media」「Earned Media」「Shared Media」「Owned Media」のそれぞれの頭文字を組み合わせたマーケティング手法)を用いて、メディアを4種類に分けている。
 ペイドメディア(広告)は、信頼度が低下している。米国の調査では、信頼度が17%といわれている。最も信頼度が高いのは、友人などを経由したソーシャルメディアの情報であり、2番目は企業のウェブサイト、3番目はネット上のクチコミ情報(掲示板)、4番目にメディアの報道となった。
 特筆すべきは、2番目に企業のウェブサイト、つまりオウンドメディアが位置していることである。要するに、今までメディアを通じて情報を流していたわけであるが、既存メディアの信頼度低下により、欧米を中心に自社が持つオウンドメディアを使い、ステークホルダーに直接情報を伝える傾向が強くなってきている。とはいえ、やはり大きな影響力を持つのがソーシャルメディア。今後は、このソーシャルメディアとオウンドメディアに注力しなくてはならない状況が、日本にも訪れるであろう。
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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