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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’10/5月12日〜’10/6月10日)

 鳩山首相の辞任・菅直人首相選出を受けて、東京に特派員を置く英米の主要紙は、電子版で速報するとともに、その後の紙面では、WSJ、WP、FT、エコノミストなどがニュース記事のほかに社説や解説を掲載し、論評した。
  
 鳩山辞任の原因と影響について、WSJ、NYT、WP、FT各紙は、日米関係の視点から論じている。
 WSJA(6/3)社説は「鳩山首相退陣の直接の理由は、沖縄の米軍基地移転問題をめぐる対米交渉のつまずきが国民の怒りを買ったことだ。普天間の海兵隊飛行場移設に関し不必要に交渉を蒸し返して、国内の反米感情を煽った。朝鮮半島の緊張がここ数年のうち最も高まって、中国海軍が一段と示威行動を強めている、まさにそのような時期に、鳩山首相は米国との50年にわたる同盟関係に疑問を差し挟んだ」と述べている。
 NYT(6/3)のマーティン・ファクラー東京支局長らの記事は、「(オバマ政権は否定するけれども)ワシントンの専門家の中には、オバマ大統領が鳩山首相に冷たくして基地問題での譲歩を拒否することで、鳩山首相失脚に一定の役割を演じた、と言う者もいる」と指摘している。「鳩山首相がいなくなっても、米政府はあまり寂しいと思わないだろう。ホワイトハウスは声明で、誰が首相になっても同盟関係は『引き続き強化される』とだけ述べて、鳩山氏に謝意も賞賛も示さなかった」と報じた。
 WP(6/3)社説は、首相が4年間に4人と、くるくる代わるのは日本にとって良いことではないが、慰められることがあるとすれば、「鳩山首相が8カ月の在任中に日米同盟の重要性を再発見する行程をたどったことである」と皮肉って述べている。
 さらに、「(鳩山)新政権の政策のひとつが、日米同盟関係の見直しであった。外交政策の決定を、一握りの日米専門家の手に委ねるのではなく、もっと透明にしたいという欲求は健全なものである。しかし、日本が中国にすり寄ることによって米中を対峙させ、その間でバランスを取ることができると考えるのは妄想である。ほとんどの日本国民はこの考えを支持しなかったが、最近の出来事、特に北朝鮮による韓国哨戒艦沈没と、中国がこの戦争行為への非難を拒否していることを見れば、それがなぜかがよく分かる」としている。
 WSJ(6/3)のジェイコブ・スレシンジャー日本総局長らの記事は、「成立間もない鳩山政権が、米国との安全保障関係をめぐって崩壊したことは、日本における米国海兵隊のプレゼンスを強固にしようとする米国の計画にとって打撃である」と指摘。WSJ(6/2)電子版も、「突然の辞任は、発表されたばかりの沖縄の米海兵隊基地に関するオバマ大統領との合意の履行を行き詰まらせるかもしれない」と、懸念を示している。
 FT(6/3)のミュア・ディッキ東京支局長らの記事も同様に、「鳩山首相の退陣は、普天間基地移転に関する日米合意の実施の見通しを不透明にし、米国側に懸念をもたらすだろう」と指摘している。また同日の社説は、「鳩山首相は優柔不断で思い付くままに発言した。決断力のなさを象徴的に表したのが、米軍普天間基地移設問題における屈辱的な前言撤回である。この政治的誤算だけでも辞任に値する」という。
 一方、FTのギデオン・ラクマン外交問題担当チーフコラムニストはFT(6/3)で、「日本は米国との『特別な関係』に距離を置こうとしているのではないかと思わせ、東アジア共同体の熱意を語った鳩山首相が退陣しても日本の『中国への傾斜』が終わることにはならないだろう」と述べている。そして、鳩山首相の考えは、日本は中国との関係を強化して中国の台頭という状況に適応しなければならない――たとえそれが日米関係を一部、犠牲にするものであっても――という、日本国内にある考え方を反映したものであり、鳩山首相が辞任しても、その考え方は消えてなくならない、と論じている。
 
 今回の辞任につながった鳩山首相の能力や資質、民主党の政権担当能力について、先のWSJA(6/3)社説は、「鳩山首相の、より大きな問題は、(適切な政策・指針を示せないという)能力の危機(crisis of competence)であった」と指摘する。「有権者は民主党政権の経済運営に我慢できなくなった。控えめに言っても、日本を慢性的なデフレと輸出依存から脱却させる明確なビジョンを欠いていた」と批判し、「普天間基地問題をめぐる混乱は、民主党がまだ政権を担う準備ができていないのではないかという疑念を確認したものに過ぎなかった」と述べた。
 NYT(6/3)電子版でファクラー東京支局長も、4年間で4人目となった鳩山首相の辞任によって、「日本は効果的な指導者を出せていないことに対する自己反省を繰り返している。しかし、日本の政治麻痺のために20年近くにわたる経済のを食い止められていないとの懸念がますます膨らむことになる」と述べている。
  
 菅新首相について、FT(6/3)社説は「党も国もまとめる能力がある政治家」と評して、「財政規律のための消費税引き上げを含む、かなり一貫性のある経済政策を明確に述べてきた。もし国民に政策を示し、それを実行するために説得できれば、今回のような政治の茶番劇からも何か良いことにつながる可能性が出てこよう」と肯定的に述べている。
 一方、WSJA(6/3)社説は、「民主党に統治能力があるのかという内外の懸念に対処するのは、次期首相の仕事だ」と述べて、「菅氏は、自分が有能であるように見せることは鳩山氏よりうまいかもしれない。鳩山氏より明確な政策の考え方を持っているという評判である」としながらも、菅氏の安全保障政策、経済政策について懐疑的である
 「安全保障問題について言えば、菅氏の普天間基地に関する考えはブラックボックスのままだ。昨年、この問題の担当をするようにという鳩山首相からの要請を断って以来、菅氏はこの問題で発言を避けてきた。普天間基地問題は決着したように見えるが、実施段階で再燃する可能性があるし、日米間で断続的に問題が起こる心配もある」と述べ、「菅氏の経済政策面でのスタンスはよく知られているが、勇気づけられるものではない。財務相としてのデフレ脱却の戦略は、主に日銀に圧力をかけ一層の金融緩和政策を実施させたことだ。日本に元気を取り戻し、資金需要を起こすような構造改革の計画は持ち合わせていない。財政赤字削減のために消費税引き上げを提案したが、これはデフレという状況下で国内の消費をさらに抑える危険がある」と指摘している。
 エコノミスト(6/5号)社説は、「菅直人氏は、日本の財政をめぐる議論では、鳩山、小沢両氏よりも高い見識を示してきた。だが、民主党のリーダーシップが迷走する中で沈黙を貫いてきた菅氏が、小沢氏を自制させられるとは想像しにくい。残念ながら、世界における日本の地位を回復させるだけの資質を持つ人物は1人も見当たらない」と厳しい見方をしている。 

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