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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’10/9月9日〜’10/10月14日)
 この期間、尖閣諸島沖の海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件に始まった日中対立のニュースが、英米の主要紙誌で大きく報じられ、多くの社説や専門家による分析・解説記事で、日本政府の対応、中国の強硬な態度と今後の影響などについて論じられた。今回の事件が日中間の問題というより、国際社会にとっての中国の問題として見られていることが分かる。
 
 まず、今回の事態について、NYT(9/19)のマーティン・ファクラー東京支局長とイアン・ジョンソン北京支局長の記事は「この対立は、この地域における確立された強国ではあるが今や衰退する経済大国の日本と、アジアにおいて自らが正当と見なす地位を占める時が来たと感じている、台頭する勢力としての中国とが、彼らの決意を試すものとなっている」と述べている。
 そして「日本にとっては、この事件は、中国が自国の領有権の主張を近隣諸国に押し付け、中国周辺海域の軍事支配をますます執拗に主張するようになるのではないかという不安を増幅させるものである。日本の領土に対する中国の圧力は高まる一方だとの不安があるからこそ、いつもは受け身の日本が中国の要求に対して、いつになく断固たる態度を取ることになったのだ」と、日本が当初これまでにない強い姿勢に出た理由を分析している。
 WSJA(9/20)で、ジェレミー・ペイジ北京支局長は「今回の日中の衝突は、中国がその主張を押し付けるべくアジア水域で海軍力を急速に増強しているだけに、米国にも微妙な影響が及びそうだ。他の多くのアジア諸国、例えばインド、ベトナム、フィリピンなどもこれを注視している。これらの国々も中国と領土ないし領海紛争を抱えており、中国の海軍力の増大を懸念しているためだ」と指摘し、その上で「この地域を支配してきた日米同盟に中国が挑戦し始めた今日、尖閣は世界における将来の中国の立場にとっても大事なものなのだ。この地域の米国の戦略の中心は1960年の日米安保条約であり、米国の解釈では尖閣諸島もこの対象に含まれている。中国は日米安保条約を、有事の際に自国の海軍が西太平洋で自由に作戦を行うのに(沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ)『第一列島線』を通過するのを阻止するためのものだと見なしている」と中国の一連の行動の戦略的背景を分析している。
 今回中国が示した過剰なまでの反応について、WP(9/27)社説は、「最近の中国の行動から、世界は、中国が国内および領土上の問題を抱えた独裁国家であり、その上、経済力を政治的、軍事的目的に利用すべきだとする独自の考えを持った国であることを、改めて思い知らされた……このような行動によって描かれる中国の姿は、協調の国際システムに適合しようとする穏健な大国の姿ではない。むしろ、中国の最近の行動は19世紀の重商主義により近い」と厳しく指摘している。
 そして、「今回の日本との衝突は、恐らく、この機に便乗して、日本の新しい菅政権と日米同盟の強さを試そうとするものであった」とも指摘、「オバマ政権は当初、混乱したメッセージを発したが、幸いにも、最後に日米同盟支持を表明した。日本や韓国をはじめとするこの地域の米国の同盟国は、中国の行動を見て改めて、米国との同盟が賢明であることに気が付いたようだ。米国政府はしっかりと彼らの支援に回らなければならない」と述べている。
 NYT(9/24)社説も、「中国は日本を無理やり引き下がらせたが、それは自分たちのためにもならなかった。その高圧的な態度は、中国の意図に対する、さらなる不安を周辺諸国に抱かせるだけだ」と指摘している。同時に「日本政府の意図にもまた疑問が残る」として、「なぜ船長逮捕という、これまでと違うやり方を採ったのか」と問うている。
 日本が逮捕した中国漁船の船長を中国の圧力に屈して釈放したことについて、FT(9/25)のジェフ・ダイヤー北京支局長とミュア・ディッキ東京支局長の記事は、「日本は、中国漁船の船長逮捕による中国との外交対決の緊張の高まりの中で、最初にひるんだのかもしれない。そして、日本政府は中国の圧力に屈したとして、たちまち国内から批判を受けた」と述べ、「日本は、アジア問題では比較的受け身で、自国の安全保障を日米同盟に頼り、依然としてかなり大きな経済力を持ちながら、外交的には能力以下の仕事しかしていない、というこれまでのイメージをさらに強める危険性がある」と日本には厳しい指摘をしている。
 また、「しかし、日本を抜いて世界第2の経済大国となった中国の台頭に対してアジア諸国には懸念が高まっているので、中国の強硬な姿勢は裏目に出るリスクを伴う」とも指摘する。つまり、南シナ海を“核心的利益”と呼んで領有権の主張を強める中国に対する周辺諸国の不安と不満に応えて、「米国がアジア外交と安全保障で再び存在感を示す機会が出てきた」し、「国益を守るため軍事力を増強すると同時に、米国との同盟関係を深めるべきだと考える前原新外相など、民主党議員の間に強い議論を巻き起こす可能性がある」と言う。
 エコノミスト(10/2号)も「外交上の力比べについて言えば、今回の争いに点数を付けるのは比較的簡単に見える。“1対0”で中国の勝ちだ。菅政権は統率されておらず、混乱していて弱体だという印象を残した。日本の取った措置は、司法権の独立を有名無実にしてしまい、中国の方が法的手続きを尊重したように見える結果を招いた。一方の中国は、日本の管理下にあるにもかかわらず、尖閣諸島は中国の領土であるとの見解を強硬に示し、自らの主張を通すための経済力、外交力があることを見せつけた」と評価している。
 しかし、「日本に『勝利した』ことが中国にとって本当にプラスになったのかどうかについては、議論の余地がある。(前原外相が指摘するように)尖閣諸島に関する中国の振る舞いは『相当数の国に、中国の本質の一端を』うかがわせた。それを目撃した国が、今回見たものをあまり快く思わなかったと考えるのは妥当だ」とFTと同様の見方を示している。
 WP(9/24)でジョン・ポンフレット記者(元北京支局長)は、今回の事件で中国が強硬な態度に出た背景には、新しい勢力の台頭があるとして、次のように述べている。
 「尖閣諸島をめぐる日中対立の激化で、誰が中国の外交政策を取り仕切っているのかということについての懸念が世界中で高まっている。軍や(商務省など)政府の主要省庁、国有企業の新しい世代が、中国が他国とどう付き合うかを規定し始めたのだ。中国の経済力増大によって勢いづいた彼らは、共産党最高指導層の弱体化に付け入って、10年前には不可能だったようなやり方で彼らの利益を主張している……尖閣問題での対立は、中国の対外関係を、共産党の中央指導部以外の勢力が突き動かした最近の例である」。
 FT(9/24)のジェフ・ダイヤー北京支局長も同様に、中国の外交政策に本当に影響を与えているのは、中国の世論ばかりではない、として、「世論に焦点を絞ることは、今、外交政策に影響を与えようとしている中国社会のそれ以外のグループをすべて無視することになってしまう。中国が最近、これまで以上に世界で幅を利かせているとすれば、圧力は単にインターネットからだけでなく、(国有企業などの)多くのエリートの既得権者からもかかってきているはずだ」と述べている。 
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