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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’11/4月14日〜’11/5月13日)
 この期間、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)が米国債の格付け見通しをAAA(トリプルA)の「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたことを、主要紙誌がそろって社説で取り上げている。各紙誌とも、S&Pの決定の発表を、増大する財政赤字と公的債務の削減に向けて早く手を打つようにという、米国政府や政治家への警告と受け止めている。 
 また、国際テロ組織アルカイダ指導者のウサマ・ビンラディンが米特殊部隊に急襲・殺害された今後の影響についても多くの論評が見られた。
 
 NYT(4/19)社説は、「金融危機の直前の段階においても、ウォール・ストリートの顧客の不良資産にAAAの格付けをした」格付け会社の言うことは「マユツバ」だとしながらも、「この(S&Pの)発表は検討に値する」と述べている。
 そして「S&Pは議会と政府に対し、赤字削減に着手するようにという警告を発したのである……この春以降、米国債発行の限度を引き上げるための法案が必要だが、この警告により共和党議員が説得されて、その気になれば、ある程度成果は上がったことになるだろう……S&Pなどは、格付け機関としての信用を失ってきた。しかし、予算を巡る論争に威嚇射撃をする機関としてはS&Pはよくやった」という評価をしている。
 WSJ(4/19)社説は、S&Pの発表には新しい事実は何もないことを指摘しながら、「S&Pが突然ワシントンの政治に、これほど悲観的になった理由はただひとつ。先週水曜日(13日)のジョージ・ワシントン大学でのオバマ大統領の演説である。オバマ氏の『財政方針』の演説は進歩的な専門家・評論家を喜ばせたが、これで予算交渉の見通しが立たなくなるという結果を生んだ」と予算を巡って、共和党攻撃のレトリックを使い、大統領選挙運動のような演説をしたオバマ大統領のスタンスを批判している。
 「注目すべきは、S&Pの見通しには格付け会社の常として財政・赤字削減の決め手として挙げる増税を、今回求めていないことである。我々は、この点は、ギリシャのような国々が、増税する一方で財政支出の削減を迫られて、終わりのない成長の落ち込みのスパイラルにどのようにして入り込んだかということについての認識があってのことだと思いたい。一国の財政見通しが本当に『ネガティブ』になるというのは、こういうことなのである」と述べた上で、ライアン下院予算委員長が提案した共和党の予算案をこの点で評価している(前述のNYT社説は、共和党の大規模で即時の歳出削減提案に反対している)。
 エコノミスト(4/23号)社説も、S&Pの米国債の格付け見通し引き下げ(実際にAAAを引き下げたのではない)を重大視しないとしながらも、「今回は違うかもしれないと思う投資家がいるから、S&Pの発表を直ちに退けてしまってはいけないのである。重要なのは、米国の財政問題が、ついに格付け会社を目覚めさせたという事実は、事態がいかに悪化しているかを改めて強調している点である。問題は、金融危機と不景気で不可避となった財政赤字と債務残高の大きさではなく、それらを減らすための計画が欠如していることだ。英国、フランス、ドイツは、多大の負債を抱えているにもかかわらず、格付けはAAAである。しかし、S&Pが指摘するように、この3国には債務をコントロールするための信頼できる中期的な計画がある。IMF(国際通貨基金)は、この3国は2016年には債務残高のGDP(国内総生産)比率を今年よりも減らせるだろうと見ている。米国の方はもっと増えるだろう」と指摘、「S&Pは米国民がすでに知っていることを言っただけなのかもしれない。しかし、赤字削減計画はいまだに示されていない」と述べている(日本にとっても他人事ではない)。
 FT(4/19)の社説も同様に、S&Pの発表は、「市場に戦慄を走らせた」が、「その決定に何か新しい情報が入っているからではなく、言うのもはばかられる恐ろしいことを言ってしまったことからくる禁制のスリルであったのだ」と述べた。そして、前回のサブプライム危機で果たした格付け機関の役割を指摘、「あらゆる債券の中で最も流動性も透明性も高い米財務省証券にとっては、債券格付け機関の分析がたとえ完璧なものでも、そもそもなぜ興味を引くのか、理解に困る」と、発表を重要視しない見方を示している。
 それでも、「米国が、膨大な赤字にもかかわらず財政出動を行ったことによって、景気の落ち込みが懸念されたほど深刻になるのを食い止めることができた。それは正しい措置であったが、それによって急速に増え始めた政府の債務を削減するよう早急に取り組まなければならない」とした上で、「金利は上昇するしかない状況で、国債は政治的リスクがなくても魅力を失う。S&Pの警告によって、米国の指導者たちは奮い立つべきだ」と述べて、財政赤字、公的債務の削減へ向けての米国政治指導者の真剣な取り組みを求めている。
 
 ウサマ・ビンラディン殺害の今後の影響について、WP(5/8)社説は、「ビンラディンの死によって、米国政府の中には、南アジア政策の抜本的な見直しが可能だと結論付ける者もいる。議会からは、アフガニスタンに駐留する米軍をすぐに撤退させるべきだとの声が上がっている。パキスタンへの援助は大幅に削減するかやめるべきであり、少なくともパキスタン政府が国内のイスラム過激派グループに対して、断固たる態度を取らざるを得なくなるように持っていくべきだ」と指摘した上で、「しかし基本政策の変更を要求するのは、楽観的過ぎで見当違いであろう。ビンラディンの殺害は、米国にとって戦術上の実質的勝利であったが、この地域において米国が取り組むべき基本的な課題は変わらないし、それに対しての効果的対処方法を変えることはないだろう」と述べている。
 そして、「対パキスタン援助、特に経済援助を削減すれば、米国議会は親米派の力を削ぐだけだろう。結局、ビンラディンの殺害は、米国が南アジアで続けている困難でコストがかかり、痛みを伴う任務を和らげるものにはならないだろう。それは、自力で防衛できる安定したアフガニスタン政府の樹立と、パキスタンにおいてイスラム教にこだわらない非軍事政権を米国が支持することを意味する」と論じている。
 NYT(5/10)、パリ政治学院のジル・ケペル教授は「ビンラディンはすでに死んでいた」と題する寄稿で、「ウサマ・ビンラディンがブッシュ大統領の在任中に殺害されたならば、イスラム世界の反西欧運動の偶像的殉教者となっていただろう。その時代は過ぎ去ったのだ。結局は、ビンラディンはその約束を果たさなかった。彼は西欧に対する憎しみのほかには、何ももたらすことはなかった。ビンラディンの後継者たちは、まだ破壊を繰り返すことはできるが、彼らはすでに政治的な勢いを失ったのである」と論じている。
 そして「アルカイダの存在意義は薄れて独裁政治の正統性は後退し、チュニスの『ジャスミン革命』やエジプトのタハリール広場での反乱に道を開いた。かつてアルカイダの神話に引きつけられた者も、今では、イスラム文化の信条に民主主義と多元主義を交ぜ合わせようとしている。世俗主義国家でイスラム色を保っているトルコの方が、アルカイダのジハド(イスラム聖戦)的ビジョンよりもよく議論されている」と述べている。 
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