経済広報センタートップページ調査報告 > 英米主要16紙の論調分析

調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’12/7月13日〜’12/8月9日)

   この期間、南シナ海の島々を巡る周辺諸国と中国との領有権争いは、南沙、西沙、中沙諸島を中国海南省三沙市とし、軍の駐屯地を設置する中国の一方的措置によって、さらに厳しい状況に発展した。一方カンボジア・プノンペンで行われたアセアン(東南アジア諸国連合)外相会議は、中国に近い議長国カンボジアの反対で、南シナ海の領有権争いを取り上げた共同声明を、アセアン45年の歴史上初めて、出せないまま閉幕した。これらの問題を、米国戦略・外交の「アジア・ピボット(シフト)」の観点からも含めて論じた記事、社説、コラムが目立った。
 
 WSJA(7/31)でAEI(アメリカ公共政策研究所)のマイケル・オースリン日本部長は、中国の三沙市設立、駐屯軍設置は「緊張をさらに高め、この地域の領有権争いの交渉による解決の可能性をさらに困難にした。特に、この外交上の紛争に対し軍事的措置を重視する決定は、最近の中国の軍事力の増大は脅威とはならないし台頭する国としては当然の行動である、という議論をしてきた人たちを悩ませること必至である」と述べている。
 特に、「オバマ政権の中国への『ピボット』(戦略・外交政策のシフト)の信頼性が試されている折から、米国は、ますます自己主張を強めている中国にいかに対応すべきかを決断しなければならない。はるかに弱小の近隣諸国を中国に単独で立ち向かわせることは、アジアにおける米国の影響力を放棄し、恐らく軍事衝突の可能性を高める危険を冒すことになる」と論じている。
 そして、「南シナ海で強く出ている中国というのは、大いに吹聴されてきた米戦略のアジアへの『リバランシング』(ピボット、シフト)を考えると、米国にとっては問題である。国務省はこれまでのところ、ますます武力外交の挑戦の様相を見せている中国の行動を前にして、相互協力的な外交によって解決すべきだと繰り返すだけで、レトリックさえ変えようとしていない。中国が南シナ海の兵力を増強している一方で、そのようなスタンスを続けることは、アジアにおける米国の信頼を損なうだけである」と米国が強い態度に出る必要を説いている。
 
 WP(7/15)社説は、アセアン外相会議後の地域フォーラムに出席したヒラリー・クリントン国務長官がモンゴル・ウランバートルでの演説で「(米戦略・外交のアジア・ピボットには)海上の艦船だけでなく、民主主義が大事だと明快に語った。民主主義は『米国の戦略の核心』であり、アジアの未来にとって不可欠だと強調した」ことを取り上げ、「中国とは一度も名指しはしなかったが、中国の独裁的資本主義のモデルは持続可能ではないと警告し、他の国々が中国と異なる道を取るべきだと呼び掛けた。そうすることでクリントン長官は、中国の政治的抑圧と政府のてこ入れによる経済成長のシステムが幾つかの発展途上国にとって実行可能な代替案となる、という考えは間違いだとして批判した。『長い目で見れば、政治の自由化なくして経済の自由化を享受することはできない』と述べた」と指摘。
 そして、「欧米の中国との関係は競争と依存の両面から成り立っている。クリントン長官の演説は、米国のアジアシフトが単なる力の誇示を超えて、現代の超大国としての中国の台頭がもたらす複雑さに対抗するための重層的なアプローチになるという希望を与える」と論じている。
 
 同様に、WSJA(7/16)社説も、「南シナ海の領有権問題で東南アジア諸国を結束させようとしたクリントン米国務長官は落胆したかもしれないが、だからといって先週の彼女のこの地域の訪問が何の成果も挙げなかったということにはならない。ベトナム・ハノイでの短い滞在中に、クリントン長官は人権問題に関して特に重要なメッセージを届けることができたのだ」と述べて、クリントン長官が、「発展途上国は経済成長を優先して、政治改革や民主主義は後から考えればいいと主張する人たちがいることを承知しているが、それは近視眼的で、長い目で見て得なやり方ではない」とベトナム外相との会談後に語ったことを評価している。
 そして、「クリントン長官の発言は特に注目されなくとも、オバマ政権の戦略的アジア・ピボットの重要な側面であり続け、効果を挙げる可能性があるだろう」と述べて、「アジアシフト」には軍事面だけでなく人権や自由、民主主義の価値が含まれることに注目している。そして「健全な経済の発展は、ベトナムをこの地域における、より強力な米国の同盟国にすることになる」のであり、そのためには、人権問題や自由の抑圧を改善し、「経済成長を押し上げるために大幅な国内改革を行う必要がある」のだと論じている。
  
 FT(7/27)でコンドリーザ・ライス前米国務長官は、「もし米国が、世界をより安全で、より自由で、より繁栄した所にしたいと望むなら、世界をリードするのをう気持ちを克服しなければならない」と述べている。さらに、「米国国民は再び世界をリードする意欲を奮い立たせなければならない。米国がどこにでもある普通の国ではないのだということを思い起こす必要がある。すなわち、自由市場と自由な人々が未来を約束してくれるという我々の信念の明確性において、そして、その信念に基づいて行動する意欲において、我々は特別なのである」と米国のリーダーシップの必要を説いている。
 また、「米国のアジア『ピボット』(アジア回帰)は安全保障問題にかなり重点を置いている。米国は太平洋においてはずばぬけた軍事パワーであり続けるべきだ。しかし、中国は過去8年の間に15カ国とFTA(自由貿易協定)を結び、さらに20カ国とのFTAの可能性を検討している。一方米国は2009年以来、ブッシュ政権下でFTAを3件締結し、2008年にTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉を始めたが、まだ完結していない。米国にとって中国の台頭に対応するのに最も有用な手段のひとつは、アジア太平洋地域における経済関係の強化である」と指摘している。
 さらに「最も重要なことは、米国は世界中の米国の友人を安心させる必要があるという点である。敵対国の機嫌を取るのを急いだことは同盟国との信頼関係に影を投げ掛けた。米国の欧州との関係は散発的になり、時には素っ気なくなってきている。インドやブラジル、トルコなどとの戦略的関係は近年、強化も深化もしていない」と述べて、オバマ政権の戦略・外交姿勢を批判している。(ライス氏はミット・ロムニー共和党大統領候補の外交アドバイザーの1人)そして、こう結んでいる。
 「そうできない場合は、空白が生じ、その空白は自由を尊ぶ“バランス・オブ・パワー”を大切にしない勢力によって埋められる可能性が高い。そうなれば、米国の利益や価値にとって、そして、それらを共有する国々にとって悲劇となるだろう」。
 
 エコノミスト(7/21号)は、アセアン外相会議で共同声明が採択されなかったことを、「(カンボジア、ラオスなど)中国に忠実なアセアン加盟国と、南シナ海で中国と領有権を争い、中国の力の誇示に不安を感じ、次第に米国に支持を求める海洋国のグループ(フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシアなど)との間にある『亀裂の広がり』を反映する」ものだと指摘する。
 そして「日本も、中国とのバランスを取るために、この地域で親米派のグループを作る考えを支持している。南シナ海の北東部には、日本と中国が小競り合いを演じている小さな諸島が横たわっている。これらの紛争はすべて、アジア地域で激しいナショナリズムの感情をかき立て、外交官が穏やかに問題を解決するのを難しくしている。だからこそ、短気な国がこの地域を牛耳ることがないように、紛争水域での海軍の艦艇の行動を規定する『行動規範』が必要なのだ」(アセアンでの対立を受けて、10年越しで準備されてきた行動規範は締結されなかった)と述べている。  

pagetop