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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’12/9月6日〜’12/10月3日)

 この期間、日本政府の尖閣諸島の国有化で領有権をめぐる日中の対立はさらにエスカレート、(中国政府の許可と扇動を受けて)中国全土で繰り広げられた反日デモで、暴徒化した中国人が日系企業の工場、商店などを襲撃し、火を付けたり破壊したりして大きな損害を与えた。また、中国は尖閣海域に漁船や監視船を送り込み、領海侵犯を繰り返し、日本の海上保安庁の巡視船と対決させている。英米の主要紙誌は日中双方に自制を呼び掛ける一方で、ナショナリズムを利用する中国の行動を国際秩序への挑戦として、米国がこれに断固とした対応をすべきだと主張する論調(WSJ)も見られた。日中対立が双方の経済、ひいては世界経済に与える影響を懸念する論評も見られた。
 
 WSJ(9/25)社説は、「反日デモの日本企業への襲撃、放火は、理解に苦しむ行動だ」と非難している。初めに反日を煽っておいて、一定の線を超えると抑えるという「二重のアプローチは中国政府の典型的なやり方である」として、「中国共産党は反日感情を煽ることによって、かつて日本の侵略者を中国から追い出したという歴史的な業績から統治の正統性を得ることができる」と指摘。さらに「(日系企業への襲撃を煽り、尖閣海域に公船を送り込んだこと)これらは全て中国政府が自国の経済停滞や政治スキャンダルから国民の目をそらそうとする試みだ」と論じている。
 この社説は「これらの島々は米国が1972年に(沖縄と一緒に)日本に主権を返還したものだ」と他紙よりも明快に述べ、「野田首相は(石原都知事の購入計画に介入する形で)尖閣諸島を民間の地権者から購入して国有化することによって、北京との摩擦を最小限にするため責任ある行動をしたといえる。ところが、中国はこれを日本の挑発行為だとして、領有権を主張し続けるには、何らかの外交上の抗議が必要だったのに、それをせず、いきなり軍事的衝突の危険を増すような措置を取った」と述べて、野田首相の尖閣国有化を擁護し中国の対応を批判。
 さらに、「中国はまだ、かつてのソ連のように、国際社会の現状を覆そうとはしていないが、反民主主義勢力はナショナリズムが加わると、国際秩序を不安定にする。米国は、中国の(日本など)近隣諸国への攻撃に対し断固とした対応を取らなければならない」と主張している。
 FT(9/19)社説は、「反日デモが中国全土に広がり続けるにつれて、この紛争が外交的手段によって収められるという望みは、危険なほど不確かな様相を見せている」と述べた上で、「米政府は、尖閣諸島は日米安保の対象になるということを明らかにしている。これは、理論上、領土紛争が日中の武力衝突にエスカレートした場合は、米軍が中国の攻撃に対して尖閣諸島を防衛することを意味する」と紛争の拡大に懸念を示し、双方に抑制された対応を求めている。
 同社説もWSJと同様に、「中国当局は、高まる国民の怒りを抑えることをほとんど何もしなかったようだ……当局はデモ参加者に『秩序ある、合法的なやり方で』行動するように呼び掛けたけれども、彼らはデモを許可することによって反日デモを煽ったのだ」と指摘し、「漁船団の尖閣海域への出航を中国政府が止めなかったことは、そのような力の誇示に対して、少なくとも黙示的承認があることを示唆している。それが本当なら、危険な戦術である」と批判している。
 WP(9/22)社説も他紙誌と同様に、反日デモを中国政府が容認し煽ったことを、「中国の指導者たちは今が、ナショナリズムの感情を一斉に噴き出させるのに都合のよい時期だと考えているようだ。中国の敵と見られている外国を非難する抗議集会は、権力の座に就いたばかりの新しい指導者たちの立場を強化することになるかもしれない――そして、不透明な権力闘争と国内経済の落ち込みに対する国民の疑念をかわすことができるかもしれない」と述べて、反日デモを中国国内の事情や最高指導部の交代の時期と結び付けている。
 しかし、この社説は、「日本の指導者たちは、扇動された中国民衆の反日デモに節度ある対応をしたけれども、そもそもの政治的計算において日本政府に過失がないわけではない」と述べて、中国の反日デモのきっかけとなった日本政府の尖閣「国有化」について懐疑的である。「野田首相は、東京都が民間の地権者から島を購入すると言っていた、ナショナリストの石原都知事を出し抜こうとしていたのだ。2人の政治家は共に、来年初めまでに予想される次の選挙に先駆けて駆け引きをしているのである」と言っている。
 さらに、「(尖閣、竹島や歴史問題をめぐる)大騒動の全てが国内政治の計算から起こっているという事実は、それらが見かけほどには深刻でないかもしれないことを表している。中国、日本、韓国の政治家たちは、国民からの支持を狙っているのであって、彼らの隣国を本当に打ち負かすことを狙っているのではない」と、あまりにも楽観的に述べている。
 日中の領有権争いの経済的影響について、米カーネギー・エンダウメント国際平和研究所の中国専門家ユーコン・ファンはFT(9/25オンライン版)で「この対立が、生産の中断と製品ボイコットの引き金となる両国関係の断絶に発展すれば、中国と日本は双方とも損害を受けるのは明白である。2国間貿易は3400億ドル以上と過去10年間で3倍に拡大した。中国はいまや日本の主要な輸出市場であり、日本の対中投資は近年、米国と韓国の2倍の速さで伸びている。ほとんど取るに足らない数個の島を支配することから得られる利益よりも、経済関係の混乱によって失うものの方が大きいことは明らかである」と述べている。
 そして、「中国市場における日本の経済的プレゼンスは、中国の日本市場におけるプレゼンスより、はるかに実質的で大きいが、貿易関係の途絶や製品のボイコットで被害を受けやすいのは日本である。しかしながら、中国もまた損害を受ける。日本ブランドのほとんどは中国人所有の企業が、中国の労働者と資材を使って生産しており、二次的影響は中国企業に損害をもたらす。成長に対する影響でもっと重要なのは、東アジアの生産ネットワークで日中両国が相互補完的な役割を果たしているという点である。中国は、世界の工場として、このネットワークの顔かもしれないが、加工に使う高度な部品の最大のシェアは日本製である。しかし、輸出産業から生まれる雇用から大いに恩恵を受けているのは中国だ」と述べて、日中経済の相互依存の大きさを指摘している。
 「冷静な人たちは、経済関係をより緊密にして緊張を冷ますことで得られるものが多いことに気が付いている。感情的に火の付いた問題を解決するには憎しみの感情が和らぐのを国民感情が許すまで、『見て見ぬふり』をして先送りすればよい……島をめぐる感情的な領有権争いが、全ての者にとって広範囲にわたってマイナスの影響を及ぼしかねないということを忘れてはならない。日中双方は、この紛争を棚上げにすることが必要だ」と論じている。
 WSJAのコラム「ビジネス・アジア」エディターのジョセフ・スターンバーグはWSJA(9/27)で、日中経済の相互依存の中で、中国経済にとって日系企業の製品がいかに重要かを説明し、「経済制裁は恐れるに足らず」と述べている。「日本の製造業者はいまや中国のサプライチェーンにすっかり組み込まれている。こうした製品の多くは、中国が自らの発展のために必要としている材料や資本財である。中国がまだ独自に製造できないハイテク機器の部品などについては、特にその傾向が強い。その上、日本にとって中国は重要な市場であり続けるだろうが、唯一の市場というわけではない。日本企業の子会社による製造品と非製造品の両カテゴリーの売上高で、中国は北米地域、中国を除くアジア地域、欧州に次いで4位だ」と論じている。 

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