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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’12/12月14日〜’13/1月9日)

 この期間、年末の総選挙での自民党の圧勝を受けて2度目の首相の座に返り咲いた安倍晋三自民党総裁について英米主要紙誌は社説などで取り上げているが、主に選挙運動中の発言を捉え、ほとんど例外なく安倍首相を「タカ派」「ナショナリスト」(国家主義者)、「対中強硬派」として、首相就任前からすでに今後の政治・外交の方向性に懸念を示している。その一方で、デフレ脱却・経済再建を目指す経済政策については、積極的な支持と懐疑的な論調に割れている。
 
 経済政策についてFT(12/18)社説は「今回の安倍氏の勝利は確かに、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を巡る中国の脅威と見なされるものに負うところが多少ある。それでも次期首相は関心の大半を経済に向けるべきだ。安倍氏は日銀に2~3%のインフレ目標を設けることを提案した。これは良い考えであり、中央銀行の独立性を傷付けることなく達成できる。安倍氏はこれらの提案を推し進め、成長を回復させてデフレ脱却に全力で取り組む人物を日銀総裁に任命すべきだ」と安倍首相の主張を後押ししている。
 そして、「インフレは万能薬ではないが、ある程度のインフレなしには建設的なことはできない」と述べ、預金資産の目減りや国債の金利上昇の危険など問題はあるが、「それでも、これは唯一の賢明な道だ。『美しい日本』という(前回の首相の時に追い求めた)夢は後回しにして、安倍氏は千載一遇とも思えるこのチャンスを逃すべきではない」と強調している。
 NYT(12/20)社説も、「何十年にもわたる弱々しい成長から日本を引き戻す目的から、安倍氏は、より野心的な財政と金融の刺激策を提案している。我々も大賛成である」と安倍氏の経済政策を支持している。
 一方、WSJ(12/17)社説は、「日本の有権者は民主党を政権の座から引きずり下ろしたが、経済面ではおそらくそれほど変わらないだろう」という見通しを述べ、安倍首相の提案するインフレ目標・金融緩和、財政支出の拡大についても否定的だ。「日銀はすでに資金供給量を大幅に拡大してきており、デフレに歯止めがかけられないのは信用(資金)需要があまりにも低いからである。経済の再生には、(財政出動などで需要をつくり出す)ケインズ主義的、あるいは(経済成長に見合う通貨供給を重視する)マネタリズムの措置よりも、規制緩和や貿易の自由化の方がよほど効果がありそうなのに、自民党はいまだに企業や農業の既得権益を保護しようとしている」と批判している。
 しかし、消費税増税に反対しているWSJは2014年4月実施予定の消費税増税について、「『経済状況が上向いていれば』という増税の条件を安倍氏が利用して、大惨事を防ぐことも可能なのだ」と述べて、増税に慎重な安倍首相が消費税増税を延期することに期待を示している。
 タイムズ(12/18)社説も、「安倍氏は日銀に、より高いインフレ目標を設定し、マネーサプライを拡大するため無制限の量的緩和を行わせると宣言している。これがうまくいくかどうかは、議論の余地がある。すでに非常に高い日本の公的債務の対GDP(国内総生産)比率をさらに高め、他国を通貨切り下げ競争に走らせるので、世界経済をさらに悪化させるだけかもしれない」と懐疑的だ。
 
 安倍首相の外交・安全保障政策、政治姿勢については、WP(12/18)社説が一番真面目に論じている。安倍氏について、WPが問題だと思うことに関しても冷静、かつフェアに説いている。
 「米国の政策立案者たちにとって、不安定な日本は苛立たしい。外務大臣の名前をやっと覚えたと思ったら、もうその大臣は辞めてしまうのだから。しかし、オバマ政権が『アジア・ピボット(シフト)』を進めている中で、日本は、依然として非常に重要な同盟国である。中国がその力を誇示し、反民主的な発展の道を売り込もうとするのに対して、米国だけでなくフィリピンのような東南アジアの国々も、我々と同じ価値を共有する日本をますます重要な対抗勢力と見なすようになっている。問題は、安倍政権がその役割を強化するのか弱めるのか、である」。
 「安倍氏は、日本の軍事力を強化しアジア地域の同盟関係において日本の有用性を高めることにコミットしている。前回首相を務めた時、安倍氏はインドやオーストラリアなど同じ民主主義国との関係強化に努力した。しかし同時に、戦争中の日本の歴史的責任を過小評価する傾向がある。軍事力の強化と歴史修正主義という、これら2本の糸は、日本の保守主義者の間では絡み合う傾向がある。しかし、実際には後者は、近隣諸国や多くの日本国民を警戒させ、前者の障害になっている。安倍氏が日本の歴史の現実をより進んで受け入れれば、アジアの安全保障において建設的な役割を演じるのに日本はそれだけやりやすい立場に立つことになるのである」。これは、米政権内外の知日派の人たちの思いを反映しているようだ。
 これと対照的にNYT(12/20)社説は、次のようないやらしい言い方で安倍首相批判を展開している。「安倍氏の国会議員としての長年の右翼国家主義的な発言やジェスチャーは深刻な心配のタネである。この秋、安倍氏は主要戦犯を含む戦没者を祀る靖国神社を参拝した。彼は戦時中の日本軍による朝鮮女性の性的奴隷化を臆面もなく否定し、これまでの日本政府の謝罪をトーンダウンしようとしている。より自己主張のできる外交政策を展開するために、平和憲法の解釈を変えると言っている。そして、すでに曖昧な教科書を改訂して日本の軍国主義の行き過ぎをさらにごまかし一層の愛国主義を推進することを支持している」と述べ、「安倍氏の祖父で彼の政治志向に影響を与えている岸信介元首相が、1930年代の過酷な満州占領中に高官を務め、第二次世界大戦中に閣僚を務めた事実」まで引き合いに出している(国民の反対を押し切って日米安保を改定したことには触れていない)。
 そして、「前回首相を務めた時、安倍氏は中国との緊張を緩和するという目的のためなら、彼のどぎつい強硬姿勢を抑えることができることを示した。彼が今回もまたそうすることを希望する。日本の有権者は経済再生に票を投じたのであり、国家主義的な空想を支持したのではなかった」と述べている。
 NYT(1/3)は「歴史を否定する新たな試み」と題した社説で再び、安倍首相が先の戦争での「韓国などの女性を性の奴隷としたことを含む侵略行為に対する先の日本の謝罪を修正しようとしているようだ」として、戦争中の「犯罪を否定し、謝罪を薄めることは韓国や中国、フィリピンなどを激怒させるだろう」と追い討ちをかけ、それは「恥ずべき衝動的行為」だと批判している。これもNYTなどに根強い見方である。
 先に引用したタイムズ(12/18)社説も「総選挙で、日本は明らかに右にシフトした。新政権はこの国が抱える深刻な構造上の問題に対処し、中国との緊張関係を緩和すべきである。6年で7人目の首相になる安倍晋三氏は、前回の首相在任中に中道寄りに立場を変えた。今回もまた、彼自身の党や連携する政党がたきつけたナショナリズムの感情を煽るのでなく、前回と同じように修正する必要がある」と安倍首相の現実的な対応を期待している。  

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