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調査報告

英米主要16紙誌の論調分析
(’13/1月10日〜’13/2月6日)
 この期間、安倍首相の経済政策、いわゆる「アベノミクス」について英米主要紙誌は社説などで繰り返し取り上げている。まず緊急経済対策については、刺激策も必要だが財政だけでなく構造改革も必要という点で概ね一致している。安倍首相の強い意向を受けた日銀の2%の物価上昇率目標設定・大胆な金融緩和策については、日銀の独立性を損なうという批判と、まだ日銀の緩和策は十分でないとする意見が相半ばしている。金融緩和による円安の動きに関しては、「通貨戦争」を引き起こすという欧州などの批判に対して、日本の政策を擁護する意見が数多く見られた。
 
 NYT(1/14)社説は「安倍首相が金曜日(1月11日)に発表した景気刺激策は、日本にとっては正しい方向への一歩である。公共投資(その多くが東日本大震災の被災地・福島地域復興のためである)や投資減税、教育や医療に対する支出増などから成る緊急経済対策は低迷する日本経済を活性化する可能性がある」と緊急経済対策を支持している。
 しかし、「景気刺激策だけでは、長期的な経済再生には十分ではない」と述べて、次のように注文をつけている。「安倍氏が持続的な経済成長を達成したいと思うなら、構造改革の政策を続けて講ずる必要がある。これらの構造改革政策には、ゾンビ企業が倒産するのを許容し、多額の農業補助金を徐々に廃止し、生産年齢人口を増やすために、まだ低い合法移民の割合を引き上げることなどを含めるべきである。医療費支出増のような幾つかの前向きの対策もすでに含まれているが、それだけでは十分ではない」。
 FT(1/14)社説は、「10.3兆円の財政出動が、経済成長を押し上げ早急な雇用創出に繋がって、低迷した経済を『ロケットスタート』させることができる」という「そのような楽観的な見方は恐らく行き過ぎであろう。日本政府が公共事業と補助金を組み合わせた政策によって低迷する経済を活性化しようとしていること自体は、とうてい大きなニュースではない。先週の財政出動の決定は、それほど大規模でもない。安倍氏は日本経済を成長させようと全速力で走っているというよりも、現状を維持するために走っているように見える」と、もう少し慎重な評価だ。
 しかし、「政府がその財布のひもを緩めるのは正しい。公共部門は過剰に肥大しているわけではない。公的部門の赤字や債務は削減されるべきであるが、これは経済が持続的成長に戻れば可能になることである」とした上で、「財政出動だけでは十分ではない。日本にはもっと積極的な金融政策が必要である。安倍氏が望んでいるように、日銀の物価上昇率目標を2%に引き上げることは適切である。日銀は目標を達成するのに必要な大胆な手段をとるべきである。(その上で)長期的な成長を確実にするためには、日本は構造改革を必要としている」と論じている。
 NYT(1/14)のコラムで米プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、彼がこれまで主張していたことがほとんど取り入れられた形のアベノミクスを称賛して次のように述べている。
 「安倍氏は長く続いた経済停滞を終わらせると約束して政権の座に復帰し、(緊縮財政以外あれもダメこれもダメという)正統派が決して採用してはいけないと言う政策をすでにとっている。そして初期の兆候としては、非常にうまくいっている」。
 「終末論者は、日本の財政危機を予言し続け、金利の上昇が、今にも起こるこの世の終末の“しるし”のように大騒ぎしているが、そのようなことは起こっていない。日本政府は今も1%未満の長期金利で借り入れができるのだ。そこへ、日本銀行に、より高い物価上昇率を追求するように圧力をかけてきた安倍氏の登場である。安倍氏は大規模な財政出動を伴う緊急経済対策を発表した。市場の神々の反応はどうであったか? 答えは、すべて好ましいものだ」。
 「要するに、安倍氏は正統派理論を無視して素晴らしい結果を招いたのである。そして、もし彼がそれに成功すれば、何か素晴らしいことが起こるかもしれない。つまり、長期停滞の経済の先駆者である日本が、今度は長期停滞から抜け出す方法を我々に示すことになるかもしれない」。
   
 日銀の2%物価上昇率目標の導入と無期限の金融緩和について、FT(1/23)社説は、日銀の金融緩和策が目標達成へ十分に本気ではないとして次のように論じている。
 「日銀があまり乗り気でないことは残念である。確かに、これまでの金融政策の目途、0~2%のインフレ率は保守的過ぎた。日本が長らくデフレに苦しんでいるのは、日銀の金融政策運営の枠組みがこのように臆病なためでもある。日銀は大胆な金融緩和を即座に実行すべきだったが、新たな量的緩和の実施を2014年1月まで先送りした。また、買い入れる資産の主体は短期国債だと発表している。これが効果の薄い戦略であることは過去の経験から明らかだ。さらに、日銀は2%の物価上昇を具体的にいつまでに達成するかもコミットしなかった」。
 「日銀は安倍氏の要求をすべて受け入れたわけではなかった。日銀の独立性が脅かされると危惧していた向きは、この事実に一安心することだろう。日本政府が金融政策に干渉することを批判していたドイツ連邦銀行(中央銀行)のバイトマン総裁もそのひとりだ。しかし、バイトマン総裁の批判は的外れである。中央銀行の金融政策が経済にとって有害である時に政府が中央銀行と意見を交換するのは適切なことである」。
 「日銀の現総裁の任期が切れる今年4月に、安倍氏がインフレを比較的容認する人物を新総裁に任命するのも適切なことだ。安倍氏はそうすべきであり、その判断はデフレの循環を止めるのに寄与するだろう」。(注:この社説掲載後、白川日銀総裁は、4月の任期満了を待たずに3月19日に離任する意向を安倍首相に伝えた)
 FT(1/26)で米ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授は、日本の金融政策を「通貨戦争」を始めるものだとするドイツ、EU(欧州連合)など海外からの批判に対して、次のように擁護している。
 「第1に、2013年の今、ある国が通貨戦争を仕掛けているといって非難するのは、ばかげている。通貨戦争は(ニクソン大統領がドルの金兌換を停止した時から)もう40年以上も続いているのだから。そして、いかなる国の通貨も全ての通貨を相手に戦っているのだ」。
 「第2に、我々は、日本がどれほど悲惨な状態にあるかをよく考えてみるべきである。日本は1980年代の終わりからほとんど変わっていない。名目GDP(国内総生産)は円ベースで20年前とほとんど同じだ。公的債務は持続不可能なほど巨額で、人口動態は世界最悪だ。だから、大目に見ようではないか。第3に、日銀の決定は、およそ革新的なものではない。白川総裁は2013年に何ら新たな資産購入を示していないし、2014年に約束した購入の最終的な影響は、限定的なものになるだろう。米FRB(連邦準備制度理事会)は金融危機の初めから日銀よりもはるかに大胆な政策を一貫してとってきている」。
 「第4に、確かに、日本の対ドル名目為替レートは昨年9月以来顕著に円安に動いている。当時ドルは77円だったのが、今では90円を超えている。しかし、1990年初めにはドルは158円だったことと、1995年の短期間を除いて、ドルが90円以下で取引されるようになったのは、わずか2010年半ば以降のことだということを考えれば、最近の17%の円安はそれほど大したことでもない。最近の日本の政策はほんの一部戻しただけなのだ」。 
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