企業と生活者懇談会
2001年10月29日 東京
出席企業:朝日新聞社
見学施設:東京本社印刷工場

「新聞ができるまで」

朝日新聞社からの説明
会社概要の説明
 朝日新聞は、明治12年に大阪で創刊された「大阪朝日新聞」と、その9年後に創刊された「東京朝日新聞」の2社が、昭和15年に合併して現在の「朝日新聞」になりました。
 現在、東京・名古屋・大阪・北九州に本社を置いており、印刷工場は全国に19ヵ所あります。
 余談ですが、東京本社とそれ以外の3本社が発行する新聞とでは、「朝日新聞」という新聞名を書いた背景が異なっています。東京は"山桜"で、それ以外は"葦"です。これは、東西で創刊された当時のものをそのまま継続しているからです。
 新聞の使命は、正確かつ迅速に全国の読者に情報を伝えることです。しかし、刻々と変化するニュースを全国一律の新聞でお届けすることは不可能です。そこ で、配達に時間のかかる遠隔地域向けは、締め切りを早めて印刷し、発送します。一方、近い地域は、締め切りが遅くて良いので、より最新のニュースまで掲載 出来ます。新聞の各ページ左上に付した"12版"、"14版"が、それを意味しており、締切り時間が遅い新聞ほど、この数字が大きくなっています。
 また、気づかれる方は少ないと思いますが、新聞の背の部分に数字が打たれています。これは、どこの工場で印刷されたものかを示すもので、印刷の不具合などの責任を明確にするためにつけています。
 当社は、業界他紙に先駆けて2001年4月に「CS推進室」を設置しました。CSつまり顧客満足ということですが、これまで残念ながら、顧客(読者)満 足を念頭に紙面づくりをしてきたとは言えません。この業界では、120年間、新聞社側の自己満足だけで紙面を作ってきたと言えます。今このことを反省して いるわけです。活字離れ・新聞離れが言われる中、読者の皆様が満足され、購読紙に選んでいただける新聞づくりをしていきたいと考えております。それを推進 するのが、私どもCS推進室の役目です。
朝日新聞社への質問と回答
レポーター:

 新聞記者の中で、キャップやデスクと呼ばれる人は、どういう役割をしているのか。

朝日新聞社:

 新聞紙面のニュースの大半は、記者が取材して書きます。朝日新聞の記者は、全国に約2,500名おります。例えば「経済部」であれば「自動車担当」とか「電機担当」というように、それぞれチームで取材活動をしています。その中のリーダー格を通常"キャップ"と呼んでいます。
 一方"デスク"というのは、記者の原稿をチェックしたり、記者同士の原稿を合体させたりして、最終的に紙面に載せる記事を作る役です。いつもデスクから動かず"で~ん"と座っていることから"デスク"と呼ばれているのです。マスコミ業界特有の呼称です。

レポーター:

 「ひととき」は、大変楽しみにしている。中には常連と思われる方の投稿もあるようだが、この欄の採用倍率は高いのか低いのか。

朝日新聞社:

 「ひととき」は、ご好評をいただいている投稿コーナーです。全国に、「ひととき会」という有志の集まりがあり、「どうすれば、紙面に採用されるか」などを研究されていると聞いています。  熱心にご投稿いただく方が多数おられますが、掲載スペース・頻度からして、どうしても限られてしまいます。その意味では、大変高い競争倍率かもしれません。投稿者の中には、確かにものの見方の鋭い方がおられます。しかし採用にあたっては、偏りがないよう、「学芸部」で十分に気をつけています。  朝日新聞は、830万人の方にお読みいただいているわけですが、読者とのつながりは、あるようでないのが現状です。そこで、投稿やシンポジウム、座談会などを通じて、少しでも読者の皆さんとの交流を増やしていきたいと考えております。そのためにも、新聞紙面を通じて、議論の輪が拡がるということは、大変喜ばしいことです。

レポーター:

 企業の株主総会日が集中するのは、株主軽視だ。これに対して警鐘を鳴らすことができるのが新聞ではないのか。

朝日新聞社:

 企業が株主総会を行なうまでには、所定の手続があり、かなりの時間を要します。そして「なるべく早くディスクローズしよう」と考えると、決算月が同じであれば、株主総会の開催日が集中しがちなのはやむを得ない、と考えます。ただし以前のように、総会屋の影響を恐れて開催日が集中するということは、なくなりつつあるようです。それに加え、東京証券取引所の指導もあり、分散化は進んでいます。
 新聞も、総会屋の影響を排除するため、社会部などが警察を後押しするような記事を書くなどして、開催日の分散化に協力しています。

レポーター:

 最近、他紙から朝日新聞に切り替えた。その理由は、私がしている地域活動に関して受けた取材の中で、朝日新聞の記者の対応がとても丁寧だったからだ。

朝日新聞社:

 現在は、各世帯が1部以上の新聞を購読しており飽和状態です。部数を拡大するには、他紙から自社の新聞に切り替えてもらう以外に方策はないわけです。そのためには、情報を的確かつ迅速に伝えるということだけでなく、読者の皆さんとの親密度を高めていくことも必要です。
 仰るように、記者が一般の皆さんを取材し記事にする場合、記者にもCS意識が必要だということです。

レポーター:

 雨の日に新聞をビニール包装して届けてくれるサービスは、販売店がやっているのか。

朝日新聞社:

 新聞社で印刷した新聞は、それぞれの販売店に送られ、そこでチラシなどとセットにされて、各家庭に届けられます。
 朝日新聞ではASA(アサヒサービスアンカー)という系列の販売店と一緒に「気配り配達キャンペーン」を打ち出しました。その一環としてビニール包装を始めたのです。現在では他紙も、ビニール袋に入れて配達しています。
 「気配り配達キャンペーン」を始めた理由は、顧客満足の向上と販売部数拡大のためです。業界では、新聞購読者の1/3が「朝日新聞が好き」、1/3が「どの新聞でも良いが何となく朝日新聞を読んでいる」、そして残り1/3が「次々に購読紙を変える」といわれています。ですから私どもには、現状の部数に甘んじていると、次第に減ってしまうという強い危機感があります。
 何故、それほど購読部数が大事なのかと言いますと、我々が求めるのは「影響力=中身×部数」だからです。購読部数が落ちて影響力が弱まれば、主張しても空回りに終わりますし、有用な情報を仕入れる取材にも事欠くようになってしまいます。ですから、拡販活動と合わせてこうした「気配り配達キャンペーン」のような地道なサービスが重要になるわけです。

レポーター:

 日本は、署名入りの新聞記事が少ない。主張するためにも署名記事の方が良いのではないか。

朝日新聞社:

 新聞社によっては、既に記者の署名を、原則すべての記事に入れているところもあります。私どもも、編集委員の記事など、意見や主張を含むものには署名を入れております。
 一般の記事についても、読者との距離を縮め、朝日新聞のファンを増やしたいという観点から、徐々に署名を増やしています。
 また、アサヒコムのようなインターネットでアクセスされ読まれる記事であれば、アクセス件数などから読者の関心の度合いが測れます。しかし紙媒体の新聞では、どのくらいの人がどの記事を読んで、またどのような反応をしているのか、といったことは、なかなかわかりません。
 例えばトヨタのセルシオでは、どのような人がターゲットなのか、カローラのターゲットとどのように違うのかなどが明確になっています。し かし、新聞の場合は、「誰に向けてこの記事を書くのか」、つまり読者というターゲットが明確になっていませんでした。
 つまり、カスタマー(顧客)が明確になっていないのですから、サティスファクション(満足)も明確に出来るはずがありません。830万部も発行している新聞の場合、確かに読者を絞りにくいのですが、今後は、できるだけ読者(ターゲット)を明確にし、その上で、署名記事を増やし、「この記者が書いた記事なら間違いがない」と思ってもらえるファンを増やしたいと思っています。

レポーター:

 朝日新聞は、報道機関と言えども私企業なのだから、無理に公正中立を保つのではなく、自社のスタンスを明確にした方が、読者にもわかりやすいのではないか。

朝日新聞社:

 よく「右寄り」「左寄り」と言いますが、これ自体今は、不明確になっているのではないでしょうか。  一方で、報道や論評の対象となる事件などに関しても、時間の経過に従って状況は刻々と変化します。ある時点で客観的に正しいと思ったことが、数日後には正しくないということも多々あります。
 新聞が世論を作れるわけではありません。あくまでも世論を作るのは、日本という国を形成している国民1人1人なのです。新聞の務めは、「考える材料」をなるべく多く提供することだと考えています。
 朝日新聞は以前から「論高情低」(論が先行して、情報が少ない)と言われてきました。ある程度当社のスタンスは明確に出し続けますが、今後は、「情高論低」にシフトしていく必要があると考えています。

レポーター:

 若者の活字離れ・新聞離れは問題だが、これをどのように見ているのか。そして、対策はどう考えているのか。

朝日新聞社:

 若者の新聞離れは、私どもにとって大変深刻な問題です。親が新聞を読む姿を見ていないからでしょうか。さらに、テレビ・パソコン・携帯電話など電子媒体にとられる時間が長く、新聞を読む時間がない。余談ですが、1日の中で、新聞を読む時間が平均20分、携帯電話やテレビなどが2時間と言われております。  私どもは、出来るだけ新聞に割く時間を多くしてもらえるよう考えなければなりません。1日の時間は限られているわけですから、媒体間の時間の奪い合いです。
 とは申しましても、なかなか妙案がないのが現状ですが、スポーツ面やラジオ・テレビ欄を充実したり、書評などにマンガを取り入れるなど、親しみやすい記事づくりに取り組み始めています。
 そもそも、テレビという媒体は、その場限りで、内容について深く考える必要がありません。ところが新聞は、反復して読み返すことが出来、その内容について深く考えることが出来ます。「考える」ことが減っている現代にあっては、新聞こそニューメディアと言えます。また、取材力にしても新聞の方が記者数で10倍くらい多いため、内容については絶対的に自信があります。こうした特徴をきちんと理解してもらわなければいけないですね。いずれにしましても、若年層の取り込みは、社の至上命題になっています。

レポーター:

 新聞社は、長い間購読している読者への対応が悪い。半年ごとに契約を更新するような人に対してどうして過剰な景品を渡すのか。

朝日新聞社:

 景品につきましては、ご指摘の通りです。これは新聞社側(拡張員など)が「洗剤をもってこないと、お宅の新聞をとらない」とお客様に言わせるようにしてしまったことに問題があるのです。いわゆる自縄自縛です。
 長期でご契約いただいているお客様をどのように大事にしていくかについては、真剣に考えなければなりません。これまで手付かずの問題できてしまいました。ずっと朝日新聞のファンでいて下さるように、相当の努力をしなければならないと思っています。

出席者の感想から
活版に向ってピンセットで活字を拾っている職人がいない、半世紀ぶりに見た新聞社での当然の光景でした。また、パルプの原料は木ですが、ロール紙に印刷された新聞をのこぎりで切断するというお話にとても驚きました。

活字離れが叫ばれて久しいが、新聞を読むことで、記事内容を受け止めると同時に自分で考える力もつくと思う。それが個々の価値判断基準を作るのではないか。

これまで高座にいた新聞業界もCSの考え方の浸透によって、購読者を意識した紙面作りへ大きく変わってくるのだろうと思う。懇談会では、発信者(新聞社)と受信者(読者)の意識のずれが掘り下げられて有意義だった。

これまで新聞は記事だけを読んでいました。見学してからは、切断の際の爪穴やカラー刷りの見当合わせの目印、印刷工場番号など、今まで気付かなかったことを再確認しながら読んでいます。

新聞が重要なメディアとして存在し続けるために、一方的な情報発信だけでなく、読者からの発信の場や、読者と記者或いは論説委員との交流の場があっても良いと思う。同時に、新聞離れを防ぐため、教育現場で教材にできるような紙面づくりも進めてほしい。
以 上
お問合せ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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