企業と生活者懇談会
2012年9月28日 東京
出席企業:日本航空
見学施設:アーカイブズセンター、機体整備工場

「新生JALについて」

2012年9月28日、日本航空のアーカイブズセンター、機体整備工場(東京都大田区)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員15名が参加しました。同社概要について説明を受け、アーカイブズセンター、機体整備工場を見学。その後、質疑懇談を行いました。
日本航空広報部から、溝之上正充部長、阿部泰典担当部長(兼)安全推進本部付、池口薫氏が出席しました。
日本航空からの説明
■破綻から再生へ■
 日本航空(JAL)は、2010年(平成22年)1月に経営破綻に至りました。会社更生計画においては、債権者の皆さまに5000億円を超える債権放棄を、株主の皆さまに100%減資をお願いするなど多くの関係者に多大なるご迷惑をおかけし、3500億円の企業再生支援機構からの出資などさらなるご支援をいただきました。
 こうしたご支援を背景に、取引先やお客さまに支えていただきながら、航空機の機種数の削減、不採算路線からの撤退、人事賃金制度の改定といった改革を進めました。2012年(平成24年)3月期には営業利益2049億円を計上、9月19日に株式上場を果たし、企業再生支援機構からの出資全額をお返しすることができました。
 
■新しい企業理念■
 

JALグループ企業理念

 JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
 
 一、お客さまに最高のサービスを提供します。
 一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。

  昨年(2011年)1月、新しいJALを創造していくために企業理念とJALフィロソフィを策定しました。企業理念の冒頭の「全社員の物心両面の幸福を追求」については、当初、社内で議論になりました。破綻でご迷惑をかけておきながら、まず社員の幸せを求めるのかと。お客さまの満足が最優先ではないのかと。
 実は、新生JALと同様に、従業員満足度を最重要視する航空会社が米国にあります。サウスウエスト航空です。同社は「従業員が第一、顧客が第二」と公言してはばかりませんが、高い顧客満足度を誇っています。社員が生活や仕事に幸せを感じられれば、お客さまに満足いただけることに自然に自発的に取り組むはずです。そのような考えに基づいて、企業理念に「全社員の物心両面の幸福を追求」を掲げました。
 安全という言葉が見当たりませんが、「最高のサービス」の中にはヒューマンなサービスだけでなく、安全性、定時性、快適性、利便性のすべてが含まれます。安全運航を堅持するとの私たちの決意には、全く変わりはありません。
 
■JALフィロソフィ■
 全社員が持つべき意識・価値観としてJALフィロソフィを策定しました。手帳サイズにまとめられ、全グループ社員が携帯しています。2部構成で、第1章は「すばらしい人生を送るために」とし、人間としての生き方を示しています。第2章は「すばらしいJALとなるために」とし、最高の企業集団になるための判断基準を記しています。 
 ビジネスは判断の連続。当然、社員同士でも判断が分かれることがあります。JALフィロソフィという全員共通の基準・軸足があることは大きな武器です。
 JALは再出発のスタートラインに立ったに過ぎません。JALフィロソフィに「常に謙虚に、素直な心で」とあります。おわびと再生へのチャンスをいただいたことへの感謝を忘れず、最高のサービスをご提供し社会に貢献していこうと、社員一同心に誓っています。
見学の様子
■日本航空アーカイブズセンター■
 日本の航空史の宝庫です。JALの創業から現在に至るまでの機内備品、宣伝ポスターなどが所狭しと展示されています。飛行機が、限られた人のための特別な乗り物だったころの展示品などを見るうちに、航空技術やビジネス、そして社会の移り変わりの早さを実感しました。歴代の「鶴丸」のロゴも比較展示され、参加者の興味をひいていました。復活した新しい鶴丸は、JALの字体が太く、鶴の翼の切れ目が深いそうです。 

■機体整備工場■
 最初に第一格納庫へ。柱のない広大な空間が眼前に広がります。よく見ると、左右に離れて、高く組まれた櫓の奥でボーイングの777と767が整備中です。客室の装備もすべて外して機体の裏側まで点検するような、5~6年に1度の重整備(M整備)、1~2年に1度の整備(C整備)が行われています。天板やシートなど外された内装部品が並べられていました。新しい鶴丸塗装への塗り替え作業のため、少し塗料のにおいが漂っていました。
 続いて第二格納庫へ。1~2カ月に1度の比較的軽い整備や故障修理が行われます。エンジンを外された777が羽を休めていました。
 整備士が、一等航空整備士の国家資格を得たうえ、高度なレベルの整備作業を実施するための社内資格(1級整備士)を取得し一人前となるまでには、通常8~10年くらいかかるとのことです。
日本航空への質問と回答
社会広聴会員:
社員の意識は本当に変ったのでしょうか。
日本航空:        
多くの先輩社員が早期退職で会社を去る一方、京セラや企業再生支援機構など企業文化や背景が違う社外のスタッフがやって来ました。こうした人員構成の変化が、そしてなによりも「倒産」という事実が、社員の意識を大きく変えました。
破綻前は、自社のありさまを人ごとと見ていたり、批判ばかりする社員が少なくなかったように思います。JALフィロソフィが浸透した今日、そういう声を聞くことはありません。
 
社会広聴会員:
安全への取り組みを教えてください。
日本航空:
「安全管理システムの強化」と「安全文化の醸成」が2つの柱です。
航空会社では、様々な職種の人間が集まって一つの飛行機を飛ばします。運航本部、整備本部など、各本部が職種に応じた安全取り組みをPDCA(計画・行動・評価・改善)サイクルに乗せて実践しています。かつ、それらを本社の安全推進本部が総括、モニターする仕組みとし、組織横断的な情報分析と展開を可能にしています。
こうしたシステムも、安全文化が根付いていなければ機能しません。安全文化の醸成のための工夫の一つがヒューマンエラーに対する非懲戒方針です。ヒューマンエラーを懲戒の対象とせずに広く報告を集めて次の安全施策に生かすという考え方です。もう一つは2.5人称の視点。1人称とは自分がお客さま、2人称は自分の家族がお客さまという視点で情感がこもります。対して3人称の視点は冷静で理性的。2.5人称の視点とは両方を併せ持つものです。思いやりを持ちながら冷静に業務に当たるプロフェッショナルであろうと、社員は心掛けています。
安全文化を醸成していくうえで欠かせないのがJAL安全啓発センターです。1985年(昭和60年)8月の御巣鷹山の事故の墜落機体の一部や持ち主の特定できないご遺品などを詳細な説明とともに展示しています。二度と事故を起こさない、事故の教訓を風化させてはならないという思いから開設しました。事故後に入社した社員が多くなってきており、安全の取り組みの原点として同センターの役割は一層重くなっています。全グループ社員が繰り返し訪問する研修施設ですが、一般の方の見学も受け付けています。
 
社会広聴会員:
安全取り組みの推進による成果を教えてください。
日本航空:
安全取り組みを進めたことによって、例えばヒヤリハット※1の報告事象数は大幅に増加しました。非懲戒方針が功を奏したと考えています。

※1重大な災害や事故には至らなかった、ヒヤリとしたりハッとした事象
 
社会広聴会員:
破綻後、順調に再生が進んできた理由、要因は何でしょうか。
日本航空:            
会社更生計画に基づくご支援を背景に、機種数の削減、不採算路線からの撤退などの大手術を進めることができましたが、順調に再建が進んできたのは、社員一人ひとりの採算意識の高まりも貢献しています。それを可能としたのが、名誉会長の稲盛が主導した部門別採算制度です。
部門別採算制度では、整備本部、運航本部、空港本部など各部門ごとに損益計算の予実を綿密に管理します。他部門との取引関係のなかで自部門の採算性をより強く意識するようになり、ひいては社員一人ひとりに至るまでが、収入の拡大や費用の削減に向け知恵を絞るようになりました。
過去、事業部ごとの計算書を作成する試みが行われたこともありましたが、なぜそうした手間暇をかけなければならないか十分理解していませんでした。JALフィロソフィ第2部第2章は「採算意識を高める」です。そこには「売上を最大に、経費を最小に」「公明正大に利益を追求する」などの詳細項目が定められています。これらを深く学習するうちに、やらされ感無く、細かな経理作業やコスト削減の工夫ができるようになりました。
 
社会広聴会員:
これからの経営目標・課題を教えてください。
日本航空:
2012~2016年度のJALグループ中期経営計画の経営目標は3つです。
1つ目は、存立基盤であり社会的責務である安全運航の堅持です。
2つ目がお客さまに最高のサービスを提供し、2016年度までに「顧客満足NO.1」※2を達成することです。現状、一度去ったお客さまに戻って来ていただけているとはいえません。経営状況が厳しく機材※3などハードウェアに十分な投資ができなかったのも理由の一つですが、これから投資を積極化します。最新機材の787を45機導入して国際線の競争力を高めます。また来年(2013年)1月より、国際線777-300ER計13機のシートを全クラスで順次更新し、ビジネスには最先端のフルフラットシートを導入し、エコノミークラスのシート前後幅は最大約10センチメートルも広がります。
3つ目の目標は財務です。「今後5年間営業利益率10%以上、2016年度の自己資本比率50%以上」を目指します。景気動向やイベントリスクなど外的要因に左右されない揺るぎのない財務体質をつくり上げることは、破綻を経験した私たちにとって大切な目標の一つです。

※2 公益財団法人日本生産性本部サービス産業生産性協議会が公表する日本版顧客満足度指数JCSIの値
※3 航空機のこと
 
社会広聴会員:
どのようなエアラインを目指していますか。
日本航空:
社長の植木は、よく、「世界一愛されるエアラインを目指そう」と言っています。過去のJALは「質・量の世界一」を目指し、企業価値の最大化を経営の最高目標としていた時期もありました。株価とお客さまの満足がどうリンクするのか分かりづらく、漠とした目標だったと今は感じます。
上場まで再建は進みましたが、いまだご批判をいただくことも多いです。これはJALが国民に必要とされる企業に、いまだ成りきれていないためだと考えています。すべての方に「JALが再生して良かった」と思っていただけるように、キャビンアテンダント、整備士など現場スタッフを含む誰もが共感できる「世界一愛される航空会社になる」という思いを胸に、全社員が力を合わせています。
 
社会広聴会員:
格安航空会社(ローコストキャリア:LCC)に出資していますね。
日本航空:
昨年9月にカンタス航空グループなどと共同でジェットスター・ジャパンを設立。今年7月から就航を開始し、JALグループとしてのLCC事業参入への足掛かりとしています。
私自身、シンガポール駐在時に家族旅行でよくLCCを利用しましたが、仕事では使いづらいです。機材に余裕がないため、朝のうちは定時で出ますが夕方以降の便は遅れることもままあります。座席も狭く長距離には向きません。LCCは、学生の帰省などのプライベート利用や短距離路線を中心に、新しい需要を開拓するでしょう。価格勝負は難しいので、クオリティーを高めて差別化を図っていきます。
 
社会広聴会員:
従来型のエアライン、全日本空輸(ANA)などとの競合をどのように考えていますか。
日本航空:
世界中の航空会社が競争相手です。しかし日本の航空会社はすでに世界に負けないレベルにありますので、ANAさんと私たちJALが競い合いながらサービスレベルを一層向上させていけば、自然と両社ともに世界をリードするエアラインになれるはずです。2社が存在し良きライバルとして切磋琢磨することが、日本の航空業界にとってもお客さまにとっても望ましいのではないかと考えています。
参加者の感想から
●企業再生をめぐる議論が再度高まり、様々な情報を見聞きする中で、当のJALの方から直接に率直なお話を伺うことができ、大変有意義でした。
 
●企業風土という根本から変えて、前向きに再建に取り組む様子がうかがえました。「JALは変わった」と胸を張って言えるほどに一人ひとりが努力している光景が目に浮かぶようでした。
 
●整備工場の見学と懇談を通じて、「二度と不幸な事故を起こさない」との強い思いを全社で共有し、安全に取り組まれていると感じました。
 
●JAL企業理念、JALフィロソフィは、日本航空に限らずすべての企業にとっても当てはまる理念、フィロソフィであると考えます。
 
●破綻を契機に、真の意味でのお客さま目線に近づいてきたのではないかと感じました。この姿勢を忘れずに地道な努力を続けられれば、きっと再生できると思います。
日本航空ご担当者より
 「企業と生活懇談会」にご参加された皆さまには、アーカイブズセンター、羽田機体整備工場をご見学いただき、また弊社の企業再生や安全取組についてご理解を深めていただきありがとうございました。幅広い視点からたくさんのご質問・ご意見をいただき、我々にとりましても非常に貴重かつ有益な機会をいただき感謝しております。いただいたご意見・ご指摘につきましては、真摯に受け止めて今後の改善に生かしてまいりたいと思います。
お問合せ先
経済広報センター 国内広報部
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