企業と生活者懇談会
2008年10月9日 東京
出席企業:全日本空輸
見学施設:ANAグループ安全教育センター

「ANAグループの安全への取り組み」

2008年10月9日、東京都大田区にあるANAグループ安全教育センター(ASEC)にて、「企業と生活者懇談会」を開催しました。19名の社会広聴会員が参加し、ASECを見学しました。その後、具体的な安全への取り組みや燃油サーチャージなどについてANAから説明を聞くとともに、質疑懇談を行いました。ANAからは、田中龍郎グループ総合安全推進室部長、宮川純一郎企画室企画部担当部長、広報室の今西一之副室長、秋山美恵氏が出席しました。またASECの説明は、和田重恭副センター長が行いました。
全日本空輸からの説明
■全日本空輸(ANA)グループの概要■
 ANAは1952年(昭和27年)に創業以来、安全運航を第一に航空輸送サービスを提供し、年間旅客数が5000万人を超える世界トップクラスの航空会社のひとつです。ANAグループは、子会社112社、関連会社40社(2008年3月期)で構成され、全体の総合力を生かしながら、航空運送事業を中心に旅行、その他の事業を展開しています。安全運航を堅持し、環境保全をリードするアジアNo.1のエアラインを目指しています。
 2007年(平成19年)には、世界の航空会社の中から、毎年、顕著な実績のあった会社に贈られる賞「エアライン・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。安全面でのたゆまぬ努力、優れた運航品質や先進的な旅客サービス、斬新な機内設備の開発、環境変化への適切な対応、厳しい経営環境の中での優れた業績などが認められ、受賞につながりました。

■安全への取り組み■
 安全理念に表されるように、ANAグループは、安全を「経営の基盤」「社会への責務」ととらえています。そして「確かなしくみ」づくりを行い、「責任ある誠実な行動」につながるための取り組みに力を入れています。世界でお客様が亡くなるような不幸な事故が、毎年20件以上起きていますが、ANAは 1971年(昭和46年)の雫石事故以来、37年間そうした事故を起こしていません。しかし、事故を起こしていないからといって十分とは考えていません。日常業務が常に危険と隣り合わせであることを全員が自覚し、日々の一つひとつの作業を行うに当たって、終わりのない安全への取り組みを続けています。

■ANAグループ安全教育センター(ASEC)設立の経緯と概要■
 2007年1月に設立されたASECは、事故体験者がほぼ退職する中、トップや事故体験者からの提案ではなく、事故を経験したことがない従業員からの「過去の悲惨な事故を語り継ぎ、教訓としたい」という真剣で熱い思いから生まれました。ASECは、その教育を通して、全従業員が安全理念を心に浸透させ、日々安全への緊張感と向上意識を持ちながら業務に取り組むようにすること、また一人ひとりの力を総合してチーム全体で安全を守るためにどうしたらよいかを考えられるようになることを目的に設立された施設です。施設の内容は、社員のアイデアと多くの協力を得て生まれました。
 事故の事実と向き合い、教訓とするため「東京湾墜落事故」「松山沖墜落事故」「雫石自衛隊機衝突事故」などを中心に当時の新聞記事やニュース映像、関連遺物などが展示されています。それらの展示物に加え、ご遺族や当時の従業員の言葉からは、事故の悲惨な状況、ご遺族の計り知れない悲しみ、従業員の無念さが強く伝わり、「絶対に事故を起こしてはいけない」と安全の大切さを改めて考えさせられます。しかし、同施設は展示物や事例から事故の悲惨さを喚起するだけではありません。事故発生のメカニズムやヒューマンファクターについて学ぶコーナーでは、安全運航のために一人ひとりに何ができるかを考える内容になっています。「事故の悲惨さを体感」「エラーの現実を体験」「安全の維持を体得」を目的に、実際に身体と心で感じることにより、その場限りではなく、安全に対して考え続け、行動につながる契機にしようとしています。
 ASECの教育開始から3 年間で、グループ従業員全員が受講することを目指しています。

■ASEC内の見学■
 施設に入ると、まず雫石事故の機体の一部が目に入りました。展示された機体からは事故の悲惨さが強く伝わり、さらに事故のビデオ映像、ご遺族や当時の従業員の言葉からは、安全の重要性が強く胸に響きました。また自社や世界の事故からの教訓や改善対策例なども説明を受けました。ヒューマンエラーのコーナーでは、画面に出た文字に反応してキーボードに打ち込む作業を行い、ミスは誰にでも起こるということや、一つのことに集中すると視野が狭くなり、ほかのことが認知できなくなることなど身を持って体験しました。ANAグループの、ヒューマンエラーをコントロールする仕組みづくりと、それを行動に移すための取り組みを聞き、事故を起さないために、陰で多くの人が多大な努力を積み重ねていることを知りました。
全日本空輸への質問と回答
社会広聴会員:
安全への取り組みについて、具体的にどのような方法をとっているのか教えてください。
全日本空輸:
一般に安全の定義は「事故がないこと」といわれますが、ANAグループでは、それを当然のことと考え、さらにお客様が「安心」と思える水準に維持・管理をしています。そのためには、「確かなしくみ」をつくることが重要です。リスクマネジメントは主に「再発防止活動(事後的アプローチ)」と「未然防止活動(予防的アプローチ)」から成り、それぞれ直接原因と真の原因(潜在エラー)、予兆を事前に把握することから始まります。具体的には、「原因や予兆のデータ収集、分析」→「ハザード(危険)の特定」→「リスクの評価」→「予防対策の実施」のサイクルを日々行い、これを一人ひとりの行動に結び付けています。   また、「安全に疑義がある場合や自信がない状況では、絶対に飛行機を運航してはならない。たとえお客様に遅発や引き返しなどでご迷惑が掛かっても、安全を最優先する行動に対して、会社はそれを容認し、関係者の下した判断を尊重する」という宣言を従業員に対して行っています。このような様々な取り組みによって、安全文化を確立し、維持することを目指しています。
 
社会広聴会員:
ヒューマンエラーの対策や教育はどのように行われていますか。
全日本空輸:
事故原因の60%以上がヒューマンエラーによるといわれています。ヒューマンエラーには「0%にはできない、訓練や処罰では完全になくならない」という特徴がありますが、これはヒューマンエラーが「人間の特性」に基づいているからです。しかし、エラーの影響をコントロールすることは可能です。小さなエラーの連鎖が大きなエラーにつながるので、前兆(小さなエラーの段階)で対応することにより事故を防ぐことができると考えています。そのため、全従業員に対しては、準備段階から一つひとつすべての確認を行うように徹底しています。特に従業員が体験した「ヒヤリ・ハット」は重要で、これを全員で共有し、対策をフィードバックしています。
また、エラーをするのは必ず何か原因がある、という考えのもと、エラーを起こしやすい環境や雰囲気を極力排除するために、社員から集まった声や事象などをマニュアルに反映しています。
 
社会広聴会員:
安全確保のための投資やコストに対する考えをお聞かせください。
全日本空輸:
安全を犠牲にしてまでコストを下げることは絶対に行いませんが、企業として存続していくために利益を上げることは必要であり、お客様に適切な運賃でご利用いただくためにも、いたずらに費用を掛ければ良いというものではないと考えます。しかし、機種により仕様が異なることから発生するヒューマンエラーを防止するため、スイッチ類などを改修し仕様統一を行うなど、事故防止のために必要なコストを掛けることは当然と考えています。
 
社会広聴会員:
技術継承について教えてください。
全日本空輸:
団塊世代の大量退職を控えており、重要な課題と考えています。日々の業務における様々なノウハウを盛り込んだマニュアルの作成や、整備士にマイスター制度を設けるといった取り組みを行っています。このマイスター制度は、教える側の励みになると同時に、若い人にとっての将来の目標になります。技術を絶やさないよう様々な工夫を常に考えています。
 
社会広聴会員:
原油高騰への対策や燃油サーチャージの価格設定について教えてください。
全日本空輸:
燃油消費量を抑えるために、低燃費の機体(ボーイング787最新)を世界に先駆けて導入する予定です。また機体を軽くするために、小さな備品に至るまで軽量化を進めているほか、エンジンの水洗い頻度を増やすことによる低燃費化や、ルートを工夫し飛行距離を減らすなどの対策を実施しています。また燃油を時価でなくヘッジで購入し、急激な価格上昇の影響を少しでも抑えられるよう工夫しています。
燃油サーチャージは国際旅客を対象に導入されたものですが、3カ月ごとに見直しを行っています。具体的には、価格設定前3カ月間における航空燃料(シンガポール・ケロシン)の市場価格の平均に基づいて決定し、原則として3カ月間はサーチャージの額を固定することとしています。今後も、できる限り分かりやすい価格設定を行い、経営努力によって価格上昇を抑えるように尽力していきます。
 
社会広聴会員:
私たち乗客のマナーに関して注意すべきことを教えてください。
全日本空輸:
例えば、トイレでの喫煙をお断りしていますが、これは残り火から火災が起きると密室である機内では大惨事につながります。また、携帯電話の主電源は機内に乗る前に切っていただくことが原則です。小さな電波でも1人ではなく何人ものお客様が電源を切らない場合、運航の安全に支障を及ぼす恐れがあるからです。このような安全阻害行為については、お客様の安全のため、そして、快適で確実なフライトのため、ぜひご理解とご協力をお願いいたします。
 
参加者の感想から
●ASEC設立を提案した従業員たち、それを決断したトップ共に素晴らしいと思いました。施設内のヒューマンエラー体験コーナーでは「簡単」と思っていたことをミスしたり、小さなエラーの連鎖が大事故につながることが分かり、勉強になりました。

●一人ひとりの誠実な行動、積み重ねが安全につながっていることを知り、これからも安心してANAの飛行機を利用させていただこうと思いました。

●安全・安心への熱心な取り組みはもちろん、低燃費機材など、環境への配慮やコスト削減にも努力されていることがよく分かりました。

●事故を報道で知ると、そのときは誰しも驚き嘆き悲しみを感じます。しかし、それらは年々風化してしまいます。ASECのような施設で繰り返し安全教育をすることは、とても重要だと思います。

お問合せ先
(財)経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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