企業と生活者懇談会
2014年11月19日 兵庫
出席企業:鹿島建設
見学施設:国宝姫路城大天守保存修理工事施工現場

「鹿島建設のモノづくり~よみがえった白鷺、国宝姫路城」

11月19日、鹿島建設国宝姫路城大天守保存修理工事施工現場(兵庫県姫路市)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、生活者19名が参加しました。会社概要、保存修理工事概要について説明を受けた後、特別講演として姫路市役所産業局姫路城総合管理室の小林正治課長補佐より、姫路城保存修理工事の意義について説明を受けました。その後、姫路城内を見学し、質疑懇談を行いました。
鹿島建設からは、姫路城大天守保存修理JV工事事務所の野崎信雄総合所長、河原茂生所長、広報室の原田健室長、姫路営業所の太田誠所長が出席しました。

鹿島建設からの説明

■鹿島建設の歴史と事業展開■
 鹿島建設は、1840年(天保11年)、大工の鹿島岩吉が棟梁として江戸に店を構えることから始まります。幕末には英一番館を始めとする多くの外国商館を建築し、「洋館の鹿島」として名をはせました。明治維新後は鉄道請負業へ転進し、「鉄道の鹿島」と呼ばれました。その後、日本の近代化とともに土木事業、建設事業へ積極的に進出し、1963年(昭和38年)には年間受注高が世界第1位の1368億円に達しました。1968年(昭和43年)には、当時の技術の粋を結集し、地震の多い日本では建設不可能といわれた超高層ビル「霞が関ビル」を完成させ、その後の超高層ビル建設ラッシュの先鞭をつけました。 
 時代のニーズに合わせ、事業分野を変革、拡大していくためには、技術開発が欠かせません。当社は、1949年(昭和24年)に建設業界初となる技術研究所を設立し、設計・施工技術の向上、コスト削減、安全性向上、品質向上を追求し続けています。来年(2015年)で創業175周年を迎えますが、今後も建設業を核にして、世界を舞台に、100年先までも見据えた安全・安心・快適な社会づくりに貢献していきます。

■建設業界の現状■
 現在、日本に建設会社は約47万社あります。コンビニが約5万2000社ですから、その約9倍もの数です。小規模な会社が数多くあることが、建設業界の特徴でもあります。 
 東日本大震災の復旧・復興や、東京オリンピック・パラリンピック招致などで、建設投資は増加傾向にあります。橋やトンネル、空港といったインフラ施設の維持修繕工事の需要も増えています。 
 最近、人件費や資材の高騰で、工事の入札が不調に終わり、建設計画が延期になったというニュースを聞かれたことはないでしょうか。現在建設業界が抱えている一番の課題は、建設労働者の不足です。特に、鉄筋工や型枠大工といった、技能を持つ熟練労働者の不足が顕著で、これらの技能労働者の労務費単価はいずれも東北地方を筆頭に大幅に上昇しています。東京オリンピック・パラリンピックを控え、技能労働者の不足がさらに進むのではないかと懸念しています。また、建設労働者を年齢別に見ると、34歳以下が19%、55歳以上が34%を占め、高齢化が進んでいます。この状況を改善すべく、現在業界をあげて、賃金の引き上げや休日の確保などの労働環境の改善整備に努め、人材の確保に取り組んでいます。 

■鹿島建設の女性活躍推進■
 建設業は男の仕事の代名詞といわれていましたが、状況は変わってきています。鹿島建設の従業員は単体で約8000名ですが、その15%に当たる1200名が女性です。施工現場や設計に携わる女性も増え、女性ならではのきめ細やかな配慮でお客さまからの信頼を獲得し、業績に貢献しています。総合職の採用についても、採用数の15%を女性が占め、建設業界に希望を持って入社する女性が増えていることを実感しています。現在、建設業界では、女性の技術者を5年以内に倍増することを目標に取り組んでいます。建設業界で働く女性に対する「けんせつ小町」という愛称もできました。造ったものが50年、100年と後世に残ることが建設業の醍醐味です。人々の暮らしを便利に、豊かにするというやりがいを感じて当業界に来ていただくために、今後も情報発信を継続していきます。 

姫路城大天守保存修理工事

■大天守を覆う素屋根づくり■
 姫路城大天守保存修理工事の工期は、2009年(平成21年)10月から2015年(平成27年)3月までのおよそ5年半です。工事は、まず、姫路城を覆う「素屋根」の建設から始まります。素屋根は、瓦や漆喰壁を外したり補修したりする間、大天守を風雨から守り、作業足場を確保する重要な役割を果たすのですが、この素屋根づくりが大変な難工事でした。姫路城の大天守はいくつかの小天守や渡り櫓(わたりやぐら)で囲まれており、非常に複雑な形状をしています。当然、傷を付けることは許されません。まずは現地の測量を綿密に行い、当初の設計図を修正しました。
 さらに、大天守が建つ地面の下には史跡が埋まっているため、敷地内では杭打ちや掘削ができません。杭が打てないということは、素屋根は自重だけで建つ必要があります。地盤を傷めないよう地面に特殊な土木シートを敷き、コンクリートで厚く基礎を固めました。鉄骨の組み立ては、CGなどを使って手順をシミュレーションした上で行いました。鉄骨が城の屋根まで10センチメートルに迫る個所もあり、作業には高い精度が要求されました。文化財保護法と消防法の規制により、現場では火が使えません。鉄骨の連結は溶接ではなくすべてボルトで固定しました。着工から1年2カ月、ようやく素屋根が完成し、内部で保存修理工事が始まります。 

■職人の持つ伝統技術が光る■
 今回の保存修理工事では、瓦の葺き替えなどを行う屋根工事、壁の漆喰の塗り替えを行う左官工事、床や建具などの修理を行う木工事、耐震性を高めるための構造補強工事を行いました。屋根工事では、約8万枚もの瓦をすべて実測し、寸法や使用個所などを詳細に記録しました。文化財工事では、使えるものはできるだけ再利用するのが原則です。反りやゆがみなどの状態を確認し、約8割の瓦を再利用しました。新たに製作する瓦の中で、最も時間がかかったものが鯱瓦(しゃちがわら)です。瓦づくりの中で一番難しいのは焼く前の乾燥作業ですが、鯱瓦は、その大きさから乾燥に3カ月もの期間を要しました。形状の変化や割れを想定して4尾(2対)製作しましたが、いずれも満足な出来となり、そのうち出来の良い2尾を選定して使用しました。 
 城を保護し、白く美しく見せていた漆喰は、傷んでいる個所ごとに修理方法を決め、最善の方法で作業を進めていきました。新たに塗る漆喰は、昭和の大修理(1956~1964年)の配合を再現するため、古文書を参考にしながら配合試験を行いました。漆喰の主原料の中には、現代では使用の機会が減っているものも多く、選定、確保には半年間を要しました。 
 木工事では、各木部の腐食度合いによって取り替えの判断をし、傷みのある部分のみを補修しました。補修部分が目立たないよう古色塗りで色を合わせるなどの工夫も行っています。また、見えない個所でステンレスを使った柱の耐震補強工事も行いました。

特別講演「かけがえのない文化遺産を次の世代へ」

■姫路市役所産業局姫路城総合管理室  小林正治課長補佐■
 姫路城には、大天守を含め82棟の国宝、重要文化財があります。大天守を除く81棟は、平成中期保存計画として、世界文化遺産に登録された翌年の1994年(平成6年)から29年間かけて修理を行います。傷んだ瓦の修理と漆喰の塗り替えが主な作業です。姫路城はすべて木造のため水にとても弱く、柱が腐ると修理規模が大きくなってしまいます。そのため屋根や外壁を小まめに修理することで劣化を止めています。29年もの年月をかけて工事を行う理由は、絶えず工事を発注することにより、伝統技術を守るためです。29年の工期が終わると、最初に手掛けたところが傷んできます。そうすると、第2期平成中期保存計画が始まります。最近の一般の建物では、壁に漆喰を塗ることはそうありません。絶えずどこかで工事をしながら建物と伝統技術を守り、職人を育てることが、姫路市に託された課題です。 
 今回の大天守保存修理に当たっては、一般の方が修理の様子を見学できる施設「天空の白鷺」を開設しました。姫路市のシンボルである姫路城が、長期間の修理工事により見られなくなる状況は、姫路市の観光産業にとって大きなダメージになります。そこで、50年ぶりの修理という状況を逆手にとり、修理中の姫路城を観光スポットにしようと考えたのです。この「今しか見ることのできない姫路城」の効果は大きく、2011年(平成23年)3月のオープンから閉館までの2年10カ月の間に、約184万人の方に来ていただきました。 

見学の様子

 参加者は、姫路城の歴史や、瓦や漆喰壁の保存修理状況についての説明を受けながら、城内の西の丸、百間廊下、二の丸などを見学しました。二の丸には、江戸、明治、昭和の各時代に製作された大天守鯱瓦が展示されています。明治時代までの鯱瓦は3分割ですが、昭和のものは2分割になっています。これは使う道具や技術が進歩したことにより、より大きく、重いものでも揚げ降ろしが可能になったからです。今回の修理工事で製作した鯱瓦は7代目で、6代目である昭和のものを参考に製作されました。昭和時代と同様の2分割ですが、重心を下げるために、分割位置を少し下げたそうです。 
 城内の瓦や漆喰壁は、修理を行った年やその使用場所により傷み方が違っています。普段の観光とは違う視点での見学に、参加者は熱心に説明を聞き、瓦や壁に見入っていました。

鹿島建設への質問と回答

社会広聴会員:
国宝建築物ならではの、一般の建築物の修理とは違う苦労を教えてください。
鹿島建設:
多くの法令による制限を受ける点です。姫路城は世界文化遺産に登録されているので、文化財保護法と消防法による規制に加え、ヴェニス憲章により形状や材料、工法を変えないように工事を進めていかなければなりません。ドイツでは、住民の利便性を優先して峡谷に橋を架けたために、世界遺産の登録を抹消された事例もあります。溶接したり、少し形を変えたりした方がお城の強度が増すような場合でも、そうした変更を加えずに構造補強を行いました。
 

社会広聴会員:
城周辺に杭を打ち込めない中で、素屋根の安全性はどのように確保したのですか。
鹿島建設:
高さのある建築物にとって一番の敵は風です。素屋根は置いてあるだけの設計ですので、基礎をしっかり固め、約5500トンの自重で倒れないようにしました。また、素屋根には実物大の姫路城を描いたシートを掛けていましたが、このシートに特殊な処理を施し、風を通すようにしていました。通常の工事では、台風が来ると風に煽られないようカバーを外しますが、今回の工事では、3シーズン台風が来ましたが、一度もカバーを外すことなく工期を終えることができました。
 

社会広聴会員:
「天空の白鷺」では、多くの見学者や報道関係者の視線があったと思うのですが、現場の方々にプレッシャーなどはありましたか。
鹿島建設:
オープン当初、現場の職人たちは人の目があることを嫌がりました。工事は安全と品質が第一ですので、見られることを意識して気を散らしては作業に支障が出かねません。まずは見学者から見えない場所から作業を始め、徐々に慣れていってもらいました。取材に対応したがらない職人も多いですが、いざ報道されるとうれしいものです。そういった職人の気持ちに配慮しながら作業を進めました。
 

社会広聴会員:
工事に従事した職人は何名程度ですか。
鹿島建設:
左官工事は16名、瓦工事は12名程度です。保存修理には手順があり、品質維持の観点から、できるだけ同じ職人が手掛けることを意識しました。
 

社会広聴会員:
伝統技術の伝承にどう取り組んでいますか。
鹿島建設:
今回の現場には、ベテランの50代から将来有望な10代まで、幅広い年代の職人を配置し、技量に応じた仕事量を担当してもらいました。横に並んで同じ作業をしたときは、隣と仕上がりを比べられますから、いい刺激になったことと思います。国宝姫路城の修理に携ったという経験も、職人としての誇りにつながったのではないでしょうか。 
 

社会広聴会員:
技能労働者の不足が課題ということですが、外国人労働者を受け入れて、日本の技術を教えているのですか。
鹿島建設:
今は「外国人技能実習制度」という制度があり、建設関係では年間約5000人が来日し、3年間の実習を経て自国に帰ります。実習期間の延長や受け入れ人数枠の拡大などを求めていますが、今の労働者不足を解消するまでの効果は期待できません。また、この制度は日本で学んだ技術を自国で生かしていただくためのものですので、長期的に日本の技能労働者を増やすということにはつながらないのが現状です。

参加者の感想から

●修理工事に当たっての苦労、努力が心に伝わりました。自分の仕事が後世に残るのは、建築や土木の世界で仕事をする人の特権だと感じました。 

●最近は便利さだけを追求しがちですが、後世に残る仕事は、やはり手間のかかることだと感じました。職人の年代を各層に分けるなど、次の世代への伝統継承を心掛けておられた点に感心しました。 

●地面を傷つけることなく素屋根を完成した最新の技術と、それを使いこなす鹿島の「人の持つ力」にわくわくし、大変感動しました。 

●「けんせつ小町」という愛称のもと、女性の雇用に力を入れていることをうれしく思います。現場で働く女性が増えることで、男性も働きやすい環境になると期待しています。 

●建設業界の現状は興味深いものでした。今後は維持修繕工事により、既存のものを大切にしていく時代だと感じました。また、地方が活性化し、その地方の個性を生かした建物が増えることが建設業界の発展につながると思いました。

鹿島建設 ご担当者より

 当日は、よみがえった大天守の一般公開を約4カ月後に控え、既に保存修理工事は完了しておりましたので、DVDなどを使いながら、5年間工事を指揮してきた総合所長から工事の模様やポイントをできるだけ詳しくご説明させていただきました。暖房設備がなく肌寒い現場詰所での説明となりましたが、ご参加いただいた皆さん熱心にお聴きくださりありがとうございました。子どものころ、「昭和の大修理」を間近で見、今回「平成の大修理」の仕事を最後に鹿島を退職する総合所長にとっても想い出に残る見学会となりました。 

お問合せ先
経済広報センター 国内広報部
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