グローバル広報

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1.グローバル広報の重要性

グローバル広報の進展

 日本企業の広報活動においては、国内広報と海外広報(駐日外国メディア対応も含む)を分離する傾向にある。しかし、日本企業のグローバル展開が進み、海外拠点にも数多くのグループ会社を抱える企業が増えている今、国内と海外の線引きは薄れ、広報活動もグローバルに取り組まれるようになってきた。業種や海外における事業規模の違いなどにより、グローバル広報の方針や体制は企業によって異なるが、全体としてグローバルな視点で広報戦略を考え、海外を含むグループ全体で統一したメッセージを発信する動きが強まっている。経済広報センターが実施した『第12回企業の広報活動に関する意識実態調査』でも、広報部門の業務量が増加している理由の一つに、「グローバル広報の強化」が挙げられている。限られた経営資源の中で、グローバル市場における企業・ブランド価値を高めていくために、戦略的なグローバル広報はますます重要になっているといえる。

それぞれの国・地域に最適なアプローチを

 グローバル広報を実施する上で、まず理解しなければならないのは、国や地域によって社会や政治、文化、習慣などの違いが存在するという点である。また、メディアの慣習や関心も国・地域ごとに大きく異なる。こうした違いを無視して、日本での広報アプローチをそのまま海外に導入しても、十分な効果を期待することはできない。グローバル広報においては、基本となる広報理念や戦略をグローバルで共有する一方で、それぞれの国や地域にとって最適なアプローチを考え、現地に合ったコミュニケーションを図ることが重要である。

2.日本国内からの海外広報

 グローバル広報の重要性が増すにつれ、海外現地メディアとの日常的なリレーションや海外での危機対応など、広報活動における課題も大きくなっている。しかし、人員や予算の制約などの問題もあり、現地で日頃からきめ細かい広報活動を行うことへのハードルは依然として高い。一方で、日本企業は現状として、日本国内に取材網を持つ外国メディア(特派員)とのリレーションも十分に対応できているとはいえない。まずは、企業のメッセージを直接伝えることができ、経営資源も比較的投入しやすい日本国内からの海外広報に力を注ぐことが求められる。

日本国内で活動する外国メディア

 日本国内で着実に実施できる海外広報として、日本に特派員を置く外国メディアを通じた情報発信がある。
 日本には、米、英、独、仏など欧米のメディアと、中国、韓国などアジアのメディアなど、全部で数十社が独自に特派員を置き、取材・報道活動を行っている。主要メディアとしては、『フィナンシャル・タイムズ』(英)、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(米)などの新聞や、ロイター(英)、ブルームバーグ(米)、ダウ・ジョーンズ(米)などの通信社がある。これらの通信社は毎日、日本の政治・経済、企業活動など、あらゆるニュースを世界のマスコミや企業に配信している。『フィガロ』(仏)、『ハンデルスブラッド』(独)、『朝鮮日報』(韓)、『新華社通信』(中)などの有力メディアも特派員を置いている。この他、フリーランスのジャーナリストも数多くおり、東京の日本外国特派員協会(FCCJ、通称「外国人記者クラブ」)などを拠点に取材活動を行っている。
 各メディアにはそれぞれの編集方針や論調があり、海外広報担当者は各メディアが重点を置くテーマや、政治や社会問題に対するスタンスを普段からよく調べ、理解した上で広報活動を行うことが大切である。また、当然のことながら、各メディアとも最も高い関心を持つのは、自国に直接影響のあるニュースである。情報発信にあたっては対象メディアの国内トピックスに絡めるなど、メディア(読者)のニーズを意識して発信内容を加工するといった工夫も必要となる。
 なお、大手メディアを除き、外国メディアの日本企業へのアクセスは総じて少ないことから、メディア懇談会や工場見学ツアーなどの実施により、会社に対する理解を深める機会を提供することも検討したい。

外国特派員との付き合い方

 日本のマスコミの記者との付き合いと同様に、外国特派員とも普段からできる限りフェイス-トゥ-フェイスのコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことが重要である。外国特派員は限られた人員と時間の中で取材活動を行っているため、企業の広報担当者と取材以外で頻繁に面談する余裕は少ないが、積極的に取材をサポートしたり、関連情報を提供したりすることで関係を深めていくことは可能である。こうした付き合いを通じて、外国特派員が何に関心を持っているかを把握し、彼らにとって魅力あるメッセージや情報発信を行うことができる。また、日本人の広報担当者と外国特派員との間には言葉の壁があり、ニュアンスの違いなど言葉の理解度の問題から誤報が起きるケースもある。このような事態を避けるためにも、日頃のコミュニケーションによって相互理解を深めておくことが重要である。
 外国特派員との信頼関係は、企業にとって好意的な報道の実現につながるだけでなく、不祥事などのネガティブ情報が出た場合にも、公平な報道を助けるものとなりうる。日頃から、敬意を持って誠実な対応を心掛けたい。

日本メディアの英字媒体への対応

 日本国内には、外国メディアに加え、『ジャパンタイムズ』や『ジャパンニュース』といった日本メディアが発行する英字新聞や、共同通信や時事通信が提供する英文サービスなども存在する。これらの英字メディアは、外国公館や日本を訪れる政府高官、ビジネスリーダーなどに広く読まれる他、外国特派員も情報収集の目的で活用している。その影響力を認識し、これらメディアとのリレーション構築にも真剣に取り組むことが必要である。

ホームページを活用した情報発信

 企業のホームページを活用した情報発信も、日本国内で実施できる海外広報である。ホームページは世界中からいつでも容易にアクセスすることができ、企業に関心を持った外国メディアや、海外の様々なステークホルダーに向けた幅広い情報提供の場となりうる。現在、多くの企業が日本語の他に、英語や中国語など複数の言語でホームページを制作しているが、単に日本語サイトで紹介している日本国内の情報を翻訳しただけでは情報発信として不十分であり、期待する効果は得られないだろう。国や地域によって社会の関心事は異なり、企業が注力する事業分野や社会貢献活動などの取り組みもやはり国や地域によって異なる。グローバルサイトでは、理念や戦略など、企業として伝えるべき基本メッセージは統一して発信すると同時に、エリアやターゲットのニーズに応じた情報提供ができるように内容を考える必要がある。
 特に重点を置く国や地域に向けては、現地の言語で独自のホームページを制作するのも一つの方法であろう。その場合にも、企業としての基本メッセージを明確に示すとともに、例えばロゴやデザイン、色彩の統一といった工夫により、グループ全体でグローバルな企業・ブランドイメージの維持・向上を図りたい。

3.海外現地での広報活動

本社広報と現地広報との連携と役割分担

 前述の通り、海外現地で広報活動を行うには、人員や予算、時間の制約などがあり、日頃からのきめ細かな対応は難しい。特に、企業のグローバル展開が進み、カバーすべき海外拠点が拡大する中では、本社広報が現地での広報案件にスピードと柔軟性を持って対応するには限界がある。また、その国・地域特有の社会や政治、文化、言語などに加え、メディア慣習の違いも大きく、本社広報がこれらの違いをすべて把握することは困難である。海外現地での広報活動においては、すべてを本社広報で主導するのではなく、企業としてのグローバルな広報戦略をベースに、現地の実態をよく知る現地広報が主導権を持って対応するという体制が有効といえる。
 軸となる広報理念や戦略は、本社広報のリーダーシップによってグループ全体で統一・共有し、その具体的な実行にあたっては、現地広報が現地の事情を加味して主体的に対応する。グローバル広報にはそうした本社広報と現地広報との連携と役割分担が欠かせない。

海外現地メディアへの情報発信

 海外現地メディアに向けて情報発信を行う際には、それぞれの国や地域に最適な方法でアプローチしなければならない。駐日外国メディアと同様、現地メディアにとってニュースとなるのは、現地での合弁会社設立や新商品発売、現地で特に関心が高いトピックス(例:環境問題)など、自国に関係する内容である。グローバル同時に情報発信する場合にも、統一すべき内容は維持しながら、それぞれの市場に合わせた情報を盛り込んでいく(ローカライズする)などの工夫が求められる。
 また、会社として注力する国や地域では、トップの歴訪に合わせて個別取材やメディア懇談会などの機会を設けることも考えられる。トップによる直接の情報発信は最も大きな影響力を持つが、限られた時間の中で、すべての国・地域でこうした取り組みを行うことは現実的に難しい。どのエリアやターゲットに重点を置くか、伝えたいメッセージは何か、といった会社の事業・広報戦略に応じて、本社広報と現地広報が緊密に連携しながら、最も効果的な実施方法を検討する必要がある。
 海外現地メディアとのリレーションについては、本質的には日本メディアや外国特派員と同じである。メディア慣習や常識の違いを理解し、できる限りフェイス-トゥ-フェイスのコミュニケーションを図ることで、信頼関係を築いていきたい。このリレーション構築においては、現地広報の主導的な役割が期待される。そのためにも、本社広報と現地広報は日頃から積極的に情報交換を行い、広報活動の方向性を確認、共有しておくことが重要である。

4.グローバルなグループ広報

 企業のグローバル化によって海外に拠点を置くグループ会社が増加する中で、海外を含むグループ内でのグローバル広報も重要性を増している。グループ広報は、全グループ社員が目標や理念を共有し、会社に対するエンゲージメントを強める上で重要な役割を果たすものであり、グループ全体としての企業・ブランド価値向上のために、グローバルな取り組みが求められる。
 コミュニケーションのツールとしては、社内・グループ報(紙・誌)やイントラネットを活用する企業が多く、日本語で制作したものをそのまま現地の言語に翻訳するケース、多言語を併用するケース、統一のグローバル版を制作するケースなど様々な方法がある。いずれにしても、本社(日本)からグループ会社(海外)に向けた一方的な情報発信ではなく、本社とグループ会社との双方向のコミュニケーションを意識し、国・地域や立場の違いによる情報格差を埋めることで、文化や言語の違いを超えて、グループ全体の姿に対する共通理解を深めることが大切である。
 また、グローバルなグループ広報においては、海外グループ会社の社員に対してトップ自身が積極的にコミュニケーションを図ることも効果的だ。海外の事業規模が大きくなれば、すべての拠点にトップが直接足を運ぶことは難しいが、例えばDVD(ビデオ)や動画配信などを活用してトップの生の声や姿を伝えることで、企業の一員であるという意識を醸成し、求心力を高めていきたい。

SNSによるグローバル広報

 経済広報センターが2012年にフランスに派遣した欧州企業広報調査ミッションでは、BNPパリバ・カーディフで国により、またコンテンツにより使用するSNSを使い分けていた。例えば、日本ではフェースブック、韓国ではYouTube、ブラジルではフェースブック、Twitter、YouTubeなどであった。コンテンツや対象となる年齢層にもよる使い分けが行われていた。
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