経済広報

『経済広報』(2011年8月号)掲載

企業広報研究
コーポレートコミュニケーション経営が会社を変える
写真:柴山 慎一 柴山 慎一 (しばやま しんいち)
(株)野村総合研究所 総務部長(前 広報部長)

「広報活動」を超えるもの

 企業や団体(以下、「企業」とする)における広報活動とは、日々遂行されている様々な広報業務の積み重ねである。毎日、当番が早朝に出社して行う新聞記事のチェックとクリッピングで一日が始まり、マスコミからの問い合わせや取材申し込みへの対応、一般の方々からの問い合わせ電話、メールでの意見具申への返答、そして社内報の取材と自社媒体の記事編集などなど。そんな中に、危機管理案件が舞い込んできたら、それはもう大変。広報部門の一日は慌ただしく、毎日あっという間に終わってしまうものである。
 忙しい一日が終われば、充実感も達成感もあるかもしれない。社内でも、広報部門は忙しいのによくやっている、といわれるかもしれない。でも、それは単なる自己満足に過ぎない。「広報活動」とはそんなものである。
 本来あるべき広報部門の仕事とは、こんな「広報活動」を超えるものでなければならない。

経営スタイルとしての「コーポレートコミュニケーション経営」

 広報とは、人事、経理、企画、営業などと同じく、経営の諸機能のうちのひとつであることには間違いはない。しかし、“企業の見える化”、“経営の見える化”という視点で、「企業活動を社外から見た景色」を作り込むのは広報の役割であり、広報にしかできない機能である。企業の存在価値とは、その企業の活動と成果が世の中に顕示でき、顕在化されて初めて意味を持つものと考えると、広報の役割とは経営そのものである、ともいえよう。
 広報やコーポレートコミュニケーションという機能を経営そのものと捉え、それらの活動を強く意識して経営戦略の要として、または経営スタイルとして取り込んだ経営を「コーポレートコミュニケーション経営」と、ここで提起してみたい。

「コーポレートコミュニケーション経営」ができている企業

 コーポレートブランド・ランキングなるものが世の中に幾つかある。日本経済新聞が消費者とビジネスパーソンを対象に毎年行っているアンケート調査では、グーグル、マイクロソフト、ソニー、ヤフー、ヤマト運輸、キヤノン、パナソニックなどが毎年常連のようにベスト10にランクインしている。
 これらのランキング企業は、生活やビジネスにおいて日常的に接点のあるBtoC企業であることが多いが、インテル( 2010年の同調査で22位)や旭化成(同51位)、住友スリーエム(同56位)などのBtoB企業で健闘しているところも多い。また、ビジネス面で大きなヒットがあったわけでもないのにランキングを大きく上げている企業もあれば、逆に不祥事などがなくてもランキングを大きく下げている企業もある。
 このような違いが生まれてきている背景に、「コーポレートコミュニケーション経営」が実現できているか否かがあるのではないか、とここであえて提起してみたい。

コーポレートコミュニケーションにおける課題の4つの階層~「問題提起」階層の課題への取り組みが決め手~

図1  理想的な「コーポレートコミュニケーション経営」を実現させるには、広報部門の日常的なコーポレートコミュニケーション課題を4つの階層に分けて捉えてみると分かりやすい。
 まず、1つ目として、最も基礎的なレベルの課題を「問題処理」階層と呼んでみたい。毎日の記事クリッピングや社外からの電話応対、取材対応、ニュースリリース作成など、ある程度機械的に流せるレベルの課題である。主にルーティン業務にかかわる課題であるため、業務量は多いものの、難易度としては決して高いものではない。
 2つ目になる、この上のレベルの課題を「問題解決」階層と呼んでみたい。1つ下の「問題処理」階層で発生した課題のうち、少し難しいレベルのものである。また、この次に提示する「問題発見」階層から与えられる課題、下りてくる課題もここに位置付けられることが多い。この階層の課題は、日々の実務の中で頻繁に直面するため、実務能力の差が最も露呈しやすい。有能な広報部長はこの部分にかなりの時間を割き、労力や頭脳を使っているはずである。ただし、この課題は、あくまで受動的な課題にすぎない。
 この上にくる3つ目の課題は「問題発見」階層。日々の業務に忙殺されていると、多くの問題が放置されがちである。問題を放置せずに、自らの取り組むべき課題として認識するには、「広聴」が欠かせない。顧客やマスコミ、社員、社会の声を丁寧に拾い上げ、そこに自社の問題を発見することこそ、能動的なものであり、新たな発見を契機に大きな成果へとつながる。
 最後に、最上位の課題として、「問題提起」階層というものを提示したい。企業は、刻々と変化する環境に合わせて自ら変化していく必要がある。しかし、放っておくと、安定した現状にとどまってしまう。今の場所にそのままの状態で居続けることが最も居心地が良いからだ。そういった、ありがちな企業の実態にメスを入れ、組織を変革させるためにコーポレートコミュニケーション活動が役割を果たすことも必要である。変化しないことは組織の衰退とイコールであり、そうならないようにコーポレートコミュニケーションが機能するべき節目が必ずある。
 例えば、ゴーン社長が日産自動車を変えることに成功したが、そこにはコーポレートコミュニケーション改革があった、と見なすこともできる。「会社を変える」ことを実績に先行して宣言し、社内へのブーメラン効果(経営トップ自らの発言がマスメディアを通すことで信頼性が高まり社内に還ってくる。それによって社員の納得感が高まる効果)をうまく利用して、社内外への「日産らしさ」の再定義に成功した。彼の行った始めの一歩は、社内外への「問題提起」だった。提起された問題を受け止めた社会は、日産にそれを期待し、社員一人ひとりは期待に応えるべく自らを変革させたのである。
 「問題提起」階層の課題に取り組めている企業は、「コーポレートコミュニケーション経営」が実現できているといえよう。この階層の課題に取り組むには、広報部長レベルだけではなく、企業のトップマネジメントと一体となった取り組みが不可欠である。自社のトップに、この階層の問題意識をいかに持ってもらうかが重要で、まずは社長などのトップマネジメントを、自らに対峙する最重要のステークホルダーと捉えてアプローチする必要もあろう。

ビジネスモデルよりも大切な「コミュニケーションモデル」

 企業の差別化はビジネスモデルの巧拙で決定される、という考え方がある。しかし、本稿では、ビジネスモデルよりも「コミュニケーションモデル」によって企業は差別化され、それを推進するコーポレートコミュニケーション活動を通じてコーポレートブランドのイメージが構築されていると考えてみたい。
 企業とは「コミュニケーションする事業体」であり、ステークホルダーとの双方向で展開されるコーポレートコミュニケーションの巧拙次第で、コーポレートブランドのイメージや、その価値も変わってくる。そうした問題意識を持って推進されている経営のことを「コーポレートコミュニケーション経営」と定義することもできる。

コミュニケーションモデルの3つの構成要素

図2  コミュニケーションモデルは3つの構成要素で成り立っている。1つ目の要素は、コミュニケーションする対象、すなわちターゲットである。どのようなターゲットに対して活動をしていくのか。それは、あらゆるコーポレートコミュニケーション活動において大前提となる。
 2つ目の構成要素は、コミュニケーションする中身、すなわちコンテンツ。絞り込んだターゲットに対してどんな内容を伝えていくのか。また、伝えたい内容をどのような演出で表現するのか。
 3つ目の構成要素は、情報の流し方、すなわちロジスティクス(以下、ロジ)である。絞り込んだターゲットに対して提供するコンテンツを、どのような媒体やメディアを通じて、どう流していくかである。
 ターゲット、コンテンツ、ロジは常にセットで検討され、実行されるべきである。この3要素は、言い換えると、WHO(ターゲット)、WHAT(コンテンツ)、HOW(ロジ)と表現することもできる。コミュニケーションモデルの構築では、この3要素を枠組みにして検討することが有効であろう。

コーポレートコミュニケーション経営が会社を変えていく

 企業が永続的に存在するために必要なことは、社会において、その企業の居場所が確保されていることである。そのためには、社会との間に「安定した関係性」を確立することが求められる。「安定」の確保には、法の遵守など最低限のコンプライアンスの確保と財務基盤の安定性が前提となる。
 一方、「関係性」の確保のためには、有効なコーポレートコミュニケーションが実践され、企業とステークホルダーの間の信頼関係が確立していることが前提となる。
 あらゆるステークホルダーに対して有効なコーポレートコミュニケーションを展開していくには、次のようなことを考慮すべきである。
 まず、ターゲットごとに、それぞれきめ細かなコミュニケーションモデルが構築されていることを前提に、各コミュニケーションモデルの間に「調和」と「共鳴」が確立されていることが必要だ。ターゲットごとに展開されているコミュニケーションモデルに一貫性があり、施策間の「調和」が図られていることが不可欠であり、受け入れるステークホルダー側においては、それぞれの施策が「共鳴」することが重要になる。
 先述のコンテンツにおいては、それぞれのステークホルダーに対して提供されるものに、一貫性があり「調和」のとれた「その企業らしさ」が共有されていることが必要になる。統合されたコーポレートブランドが必須ということでもある。ロジには、ステークホルダー間で「共鳴」を生むような仕掛けが必要だ。そのためには「調和」のとれたコンテンツが前提となり、それらが、ステークホルダーの間を伝播し合い、反すうされ、自律的に昇華していくことが期待される。
 「コーポレートコミュニケーション経営」を実践し、その成果として企業を変えていくには、企業が自ら主体的、かつ能動的に、社会、また各ステークホルダーに対して、きめ細かくアプローチし続けていかねばならない。企業自体も日々変化しているし、それを受け入れる社会も同様に変化しているため、双方の変化に応じた、日々進化していくコーポレートコミュニケーション活動が求められている。企業は生き物であるし、人間はもちろん、社会も生きている物だからである。

参考文献 『コーポレートコミュニケーション経営』 柴山慎一 著、東洋経済新報社、2011年4月発行

(文責:国内広報部主任研究員 松井奉子)
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