経済広報

『経済広報』(2012年8月号)掲載

視点・観点
モノづくり魂が日本を元気に
~丸の内ブランドフォーラムの片平秀貴代表に聞く~
片平 秀貴

片平 秀貴(かたひら ほたか)
丸の内ブランドフォーラム 代表

 国内で経営を続ける環境が厳しさを増す中、グローバル化の流れの中で効率化を追求した結果、日本のモノづくり魂が消え去ろうとしていると片平秀貴氏は危惧している。そこで、丸の内ブランドフォーラム・常盤塾(職商人研究会)のメンバーである常盤文克氏(三菱地所社外取締役、NPO法人日本モノづくり学会会長)、古川一郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)とともに、『モノづくり原論』(東洋経済新報社)を執筆した片平秀貴氏に、「モノづくりの原点とは何か」「本当に必要なものは何か」について話を伺った。

“職商人”という概念

著作『モノづくり原論』とブランド論との結び付きは。
片平 常盤氏、古川氏とは、企業の哲学や理念、組織の存在意義などをテーマに、2005年ぐらいから月に1回集まって勉強会を開いていた。常盤氏はモノづくり、古川氏はマーケティング、私がブランド育成と、それぞれの立場は異なるが、この3つが回らないと、ブランドも育たない、会社も成立しない、ユーザーもハッピーにならないということで、分かりやすく“モノづくり”と言っている。モノには、単なる物理的な側面のほかに、それ自体に作り手や使い手の思いがこもっているという側面がある。3人が今まで考えてきたことを、それぞれの立場からなるべく面白いケースを取り上げながら、今まさに日本経済、世界経済を支えている中小規模のメーカーの方々に応援歌を贈ろうと本書を執筆した。
 “モノづくり”に携わっている方々の多くは、物理的な商品を作っていると考えがちだが、それだけでは絶対にユーザーは動かされない。商品がユーザーにどのように使われるか、また、商品の中に作り手の思いがどの程度込められているかが大切である。単にモノを作っているのではなく、原料と、ユーザーと、商品と会話する集団になってほしいとの願いを込めて“モノづくり”とのタイトルをつけた。
同書には、モノづくりに携わる経営者の夢や熱い思いが徐々に薄れていることへの問題提起という側面と、ユーザー発想で知恵を絞ることを訴える側面があるように思えるが。
片平 作り手の思いが独り善がりになってしまうと誰も使ってくれなくなる。我々は、“職商人(しょくあきんど)”という概念を大事にしている。職人は、自分が扱う材料や技術に通じている。一方、商人は、使い手側の気持ちに通じている。職人であることと商人であることが一体化していないと、うまく回らない。一体化していると、本来の思いや夢が輝いてきて、双方にとって意味のあるものになってくる。
“職商人”を具体的に言うと。
片平 良いモノを作る際に、新しいアイデアを生み出すのはヒトであり、“モノづくり”がうまく回った時に結果として育つのはヒトである。“ヒトづくり”と“モノづくり”は別のことではない。全員が“モノづくり”に関わっているから“ヒト”が育つ。人間は怠惰な生きもので、うまくいくと考えることや努力することをやめてしまう。“職商人”がうまく回っているということは、いつも1、2割、新しいものや新しいことが起こっている状態であり、そこに人間は喜びを感じるのである。人間は時々目を覚まさなければならない、組織やお客さまに活を入れなければならない。
 例えば、数年に一度ぐらい、こんな素晴らしいことが起こるんだ、といったパルスを皆さんに発信する必要がある。これが、“コトづくり”である。成果が出たら、次はこんな新しいことをやるんだというパルスを企業のトップが発信し、組織に活を入れなければ“職商人”が元気にならない。

理念とともに生きる

『モノづくり原論』には、“理念とともに生きる”とあるが、これも組織に活を入れるということか。
片平 まさにそうだ。米国の経営学者であるチェスター・バーナードは、組織は潰れるのが普通で存続しているのは例外だと言った。その例外が起こる最も基本的な要因は、組織の目的が明確なことであると唱えた。目的が全員にきちんと理解されていないと、組織は潰れてしまう。目的に賛同する者が集まってきて元気な集団が形成されるわけである。自分たちにしかできないことで毎日行っていることと組織の掲げる目的が、一人ひとりの頭の中で結び付くと、たとえどんなに忙しくても、あるいは多少給料が安くても、一生懸命働いて幸せになる。その根本にあるのが組織の目的すなわち理念である。
 日本の企業には探ってみれば理念があるにはあるが、そのうちに消えてしまって、企業の元気がなくなるというケースが多い。ディズニーでは、自分たちが大事にしているものを言葉にして、いつも言い合っている。毎朝声を出して、忘れかけたものを自分の中に叩き込んで、お客さまの前に出るということをずっと行ってきているからブレないし、“ヒト”が育つ。
分かりやすいメッセージを発信できていない日本の企業が多いということか。
片平 そこが、日本の企業の一番弱いところだ。良いモノを真面目に作ってさえいればよしとするのが、日本のほとんどの真面目な経営者の考え方である。一方、皆に親しまれるような名前を付けることを苦手とする経営者が多い。良いモノはある、それを作り出すヒトもいる、しかし呼びようがない。それで損をしていることが、たくさんある。
著書では、社名についてブランドの観点から触れているが。
片平 名前は、他との違いを明らかに区別できる最も短い音がよい。合併して、様々な事情から長い名前になった企業もあるが、受け手のことを考えていない。“モノづくり”と同じぐらい名前を付けるのにもエネルギーを使ってほしい。
 それはブランド論の観点からいうと、預金口座名である。ユーザーの頭の中に、商品名の預金口座を作ってもらわないと、いくら努力してもまったく貯金されない。例えば、阪神タイガースという預金口座名がいったん出来上がると、勝てばプラス、たぶん負けてもプラスになり(笑)、脳細胞のかなりの部分が、阪神タイガースに染まっていくわけである。しかし、阪神タイガースではなく、「広島阪神巨人」といった名前になると、みんな知らん顔をするだろう。

広報の役割

ブランドコミュニケーションにおける広報の役割は。
片平 コーポレートコミュニケーションという観点で、自分たちが“モノづくり”、“コトづくり”、“ヒトづくり”をしている姿を関係者に正しく理解してもらうことが大切である。ただ発信すればいいというのではなく、双方向で「会話」をしなければならない。作り手の思いがきちんと伝わらなければ、本当に“愛機”や“愛車”など、“愛”のつくような存在にはなかなかならないものである。
自動車やカメラなどのような熱狂的なユーザーがいる会社はいいが、そうでない会社はどのようにストーリーを作ったらいいか。
片平 例えばカルビーのウェブサイトでは、商品記号を入力すると、ポテトチップスを作った工場と、ポテトを生産した農家の方の写真まで出てくる。商品づくりに携わる様々な人間の思いが消費者に伝わっていく。企業の中にいるヒトがどう思うか、何をやるかということが問題である。
1948年生まれ。1970年国際基督教大学教養学部卒業。東京大学大学院経済学研究科を経て、大阪大学経済学部助教授、東京大学大学院経済学研究科教授を歴任。現在は丸の内ブランドフォーラム代表。専門はブランド論。
(聞き手:経済広報センター 国内広報部長 佐桑 徹)
(文責:国内広報部主任研究員 塩澤 聡)
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