経済広報

『経済広報』(2013年6月号)掲載
企業広報研究
広がる「統合報告」の動き
ANAホールディングス(株)、オムロン(株)
 決算などの財務情報と、経営戦略やCSR、ガバナンスなどの非財務情報を組み合わせ、一冊のレポートで企業の将来展望を多様なステークホルダーに分かりやすく説明する「統合報告」の動きが広がっている。先行して統合レポートを発行する企業に、その取り組み事例を聞いた。

ANAホールディングス 統合版『アニュアルレポート』

統合レポート発行の経緯

 ANAグループ(以下「ANA」)では、2010年3月期から統合報告書として『アニュアルレポート』(日本語・英語)を発行している。以前は、財務情報を中心とした『アニュアルレポート』と、非財務情報を中心とした『CSRレポート』を別々に発行していた。しかし、2009年3月期の『アニュアルレポート』で特集された燃料節減策は、『CSRレポート』で紹介するCO₂(二酸化炭素)排出量の低減や環境への取り組みにも繋がる内容であるなど、財務的にも非財務的にも重要なテーマが、両レポートに重複して掲載されるという状況が生まれた。そこで、改めてレポートの在り方を見直し、統合することとした。
 統合版『アニュアルレポート』の発行に向けては、他社の先行事例をヒアリングしながら、約半年かけて準備を進めた。最新の2012年3月期レポートで3回目の発行となり、まだ初歩段階ではあるものの、少しずつ融合し始めていると認識されている。

統合レポートの位置付け

ANA 統合版『アニュアルレポート』は、基本的には従来の『アニュアルレポート』と『CSRレポート』を組み合わせた内容となっているが、統合に当たり重複する内容を集約した。また、ホームページにはウェブ版を掲載しているが、ホームページはプロの投資家・株主だけでなく、個人投資家や学生など様々な人が訪れるため、ウェブ版にはCSR(企業の社会的責任)関連の情報を多く紹介している。
 いわゆる会社案内は作成しておらず、統合版『アニュアルレポート』を全ての会社情報を網羅した資料と位置付け、あらゆるステークホルダーに向けた情報提供ツールとして活用している。

制作体制

 従来の『アニュアルレポート』はIR推進室(現:財務企画・IR部)、『CSRレポート』はCSR推進室(現:グループ総務・CSR部)がそれぞれ制作していたが、統合版『アニュアルレポート』は、財務企画・IR部とグループ総務・CSR部に2名ずつ担当者を置いて、共同で制作している。統合報告を行うために、IRやCSR、広報などの関連組織自体を統合する企業もあるが、ANAでは担当者(組織)間の連携によって対応している。
 株主・投資家をはじめとするステークホルダーに会社の姿や将来性を正しく理解してもらうためには、財務面・非財務面から、どのようなメッセージを発信すべきかを意識し、担当者間で緊密に意見交換している。

今後の方向性

 現在は、IIRC(国際統合報告委員会)が提唱する統合報告のフレームワークも参考にしつつ、最適な統合レポートの形を検討している。統合報告がルール化された時に迅速かつ柔軟に対応できるよう、早めの情報収集と体制整備に取り組んでいる。
 ANAでは、統合報告は単にレポートを合冊すればよいというものではなく、経営戦略の段階から財務的側面と非財務的側面を融合することで企業価値を最大化し、それを報告するのが本質と捉えている。その意味で、経営戦略部のような組織との一層の連携を今後の課題として挙げている。  
(文:国内広報部専門研究員 森田真樹子)

オムロン 『統合レポート』

統合レポート発行の経緯

 オムロンは以前、IR部が財務情報を中心とした投資家向けの『アニュアルレポート』、CSR部が非財務情報を中心とした『企業の公器性報告書』(CSRレポート)を発行していた。
 同社では、投資家が、中長期でより良い投資判断ができるような情報提供の在り方を検討している時期に、IIRC発足の動きもあり、2012年3月期から、両レポートを融合した『統合レポート』(日本語・英語)を発行することとなった。

統合レポートの位置付け

 『アニュアルレポート』は、複数の特集の中で、もともと、コーポレートガバナンスなどの非財務情報にも厚く触れていることから、100ページを超えるボリュームだった。一方、『企業の公器性報告書』は、2008年以降、ウェブ版のみとなったが、印刷した場合、200ページほどのボリュームがあり、もし両方を単純に合冊してしまうと、300ページにも及んでしまう。
 オムロンは、単純合冊ではなく、既存の『アニュアルレポート』の内容に中長期の投資判断に関わるCSR領域の要素を融合させた『統合レポート』を目指している(CSRレポートそのものはウェブ版として継続開示している)。中長期の投資を考えている投資家をメインターゲットとして制作しているが、出来上がったものは結果的に、そのほかのステークホルダーの方々にも十分役に立つと考えている。

制作体制

オムロン 
 IR部が主幹となり、CSR部とプロジェクトチームを編成して制作。非財務情報は特にCSR部が持っている英知をうまく融合し、いかに有益な情報を発信できるかを重視している。IR部からは4名、CSR部からは3名が参加し、それぞれのテーマに合わせて、主幹となる担当者を決めているが、最終的には、全ての記事を全員で確認している。また、広報部門は、制作には直接関わっていないが、外部に出る情報という観点から、テーマを検討する際や全体整合の面で参画している。
 リーマン・ショックの時期から、ウェブ版に移行する会社が多く、オムロンもこの時期にはほとんど印刷していなかった。現在は、冊子(紙)で見たいというニーズに対応し、最低限必要な部数を印刷している。

統合レポートの特色

 『統合レポート』では、事業の責任者や、それを統括している人の“生の声”を、なるべく伝えるため、インタビューや取材記事による特集が目立つ。読み手の興味・関心を引く“読み物”として読んでもらいたいためで、臨場感を大事にしている。これはもともと、非財務情報を包括した側面を持つ、『アニュアルレポート』から続く編集方針である。2011年度の『アニュアルレポート』に掲載した“新社長誕生秘話”は、社内外から大きな反響があった。『統合レポート』は企業価値を多角的に理解できるよう、『アニュアルレポート』をさらに充実させたものとなっている。
(文:国内広報部主任研究員 塩澤 聡)
注 IIRCは、国際的に合意された統合報告フレームワークの構築・普及を目的に、2010年に設立された民間団体。現在公表している草案では、「業績」「将来見通し」「ビジネスモデル」「ガバナンス」など、7項目の開示要素を提唱している。
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