経済広報

『経済広報』(2015年4月号)掲載
企業広報研究
日本航空のレピュテーション向上を目指した広報活動
溝之上正充

溝之上 正充(みぞのうえ まさみつ)
日本航空(株) 総務本部広報部長

 経済広報センターは2月27日、日本航空の溝之上正充総務本部広報部長を講師に迎え、「日本航空の広報活動」をテーマに企業広報講座を大阪市で開催した。参加者は25名。

日本航空広報部の組織体制

 日本航空の広報部は企画、報道、メディアの3グループに加え、羽田と成田に広報室を置いている。企画グループでは、全体の運営方針と社内報作成や工場見学など、報道グループは、新聞・テレビの取材対応やプレスリリース、メディアグループでは、報道以外の雑誌・テレビの取材対応や作家・オピニオンリーダー対応を担っている。報道グループには海外メディア担当者が1名おり、外国メディアの取材対応やプレスリリース作成を行っている。また、運航や整備などの専門知識が求められる報道に対応するため、整備に精通した広報担当部長と広報部付機長が1名ずつ在籍している。

企業イメージの向上に向けた取り組み

最大のポイントは社員の意識改革
 2010年の経営破綻以降、決定的に毀損された企業レピュテーションを回復するために、「変わった感」をキーワードにコミュニケーション活動に取り組んできた。消費者が抱く企業イメージを変えるために、鶴丸のロゴマークの復活や新たな企業メッセージ「明日の空へ、日本の翼」の発信、新サービスの導入や設備への投資、制服の一新などにも取り組んできたが、最大のポイントは社員の意識改革だと考えている。
 会社更生法の申請からちょうど1年後の2011年1月19日に記者会見を実施し、鶴丸ロゴの復活、新たなJALグループの企業理念とJALフィロソフィを発表した。それまでの当社の企業理念は、安全や品質、お客さま視点などの5項目から構成されていたが、文章が長過ぎることもあり、社員に浸透し、実践されているとはいえなかった。一方、新たな企業理念は、全社員の物心両面の幸福の追求を根底に、お客さまへの最高のサービスの提供と、社会の進歩発展に貢献するという2項目で、非常にシンプルなものとなった。お客さまに最高のサービスを提供するには社員が幸せであることが前提で、社員の幸福を追求することにより、社員がお客さまや企業により貢献してくれるという考え方である。
 新たな企業理念を実現するために、「JALのサービス・商品に携わる全員が持つべき意識・価値観・考え方」として制定されたのがJALフィロソフィだ。このフィロソフィが社員に浸透し共通の判断基準となることで、個々のお客さまに寄り添った、マニュアルを超えたサービスが可能となり、さらには上司をはじめとした周囲からのサポートを受けることができる。植木義晴社長も、様々な場面でJALフィロソフィの重要性に繰り返し言及している。また、意識改革はまずリーダー層から行うことが重要であると考えている。
経営トップやイベントを活用した広報活動
 破綻後当面の間、定例記者会見をほぼ毎月実施し、稲盛和夫会長(当時)をはじめとした経営トップから弊社の考え方を世間に述べる場として活用した。
 業績回復を機に、硬派なテレビ番組や書籍を通じての露出だけではなく、情報番組にも積極的に出るようにした。これらの取材依頼は可能な限り受けているが、浮かれた感じが出ないよう留意し、現場視点での露出を心掛けている。
 また、各種広報イベントも活用し、積極的にメディアに声を掛けている。当社は毎月25日を「ニッコーの日」としており、被災地支援を目的とした東北物産展などを開催しているが、こうしたイベントは地方紙の東京支社にも声掛けを行っている。また、9月20日の「空の日」には歴代の制服ファッションショーなどを開催しているほか、男性スタッフのみの「こいのぼりフライト」、女性スタッフのみの「ひなまつりフライト」など、季節感のあるイベントを開催している。
 露出を増やすために、新商品などの発表の際にはイベント仕立てにしたり、記者に体験してもらうことを心掛けている。例えば、機内インターネットサービスのJAL SKY Wi-Fiを発表した際には、報道関係者向けに体験会を実施し、体験レポート形式での露出を獲得することができた。
 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したコミュニケーションでは、フェイスブック、リンクトイン、ツイッターなどに公式アカウントを設けている。特に活用が進んでいるのがフェイスブックで、ファン数は116万人に上る。現場社員が実名で顔を出し、長文で投稿するスタイルが基本で、ファンから共感を得られるような情報を届けることを心掛けているが、御巣鷹山の事故やフライトイレギュラーなど、お客さまに不安や混乱を招くような情報をどう扱うかが非常に悩ましいところである。
スピード感が求められる危機管理広報
 危機管理対応においては、迅速なQ&Aの作成を最も重視している。機材トラブルや不祥事などが発生した場合、すぐに広報部に情報が入る体制となっており、関連部署と連携して速やかにQ&Aを作成し、報道機関とのやり取りに備えている。同時に、フロントライン用に簡略化したQ&Aを日本語・英語で作成し、運航、客室や予約部門、販売部門など、お客さまから直接問い合わせを受ける現場と共有している。機材トラブルや情報漏えいなど、お客さまにご迷惑をかけるような事例の場合には、できる限り早い段階で弊社ホームページとフェイスブックにも情報をアップしている。 
 また、日ごろのコミュニケーションを通じて記者に航空事業を理解してもらうこともリスク回避の重要な手法であると考えている。専門知識が浅いために、記者が公正さや正確性を欠く記事を書いてしまうこともある。そのため、成田・羽田をはじめ各地で積極的に社会部を対象にした記者勉強会を開催している。
インターナルコミュニケーション
 インターナルコミュニケーションのツールとして、社内報『ROUTE』とイントラネットを活用している。現場社員が多いこと、家に持ち帰って家族に見せることができるといったことから社内報は紙媒体にこだわっている。同時にイントラネットやパスワードを介してのインターネット、スマートフォンでの閲覧も可能となっている。
 現場の若手社員にまで情報を届けることが、社内報の重要な役割だと考えている。そのため、メールマガジンで社内報の掲載内容を定期的に配信したり、目を引くような尖ったコンテンツの発信にも取り組んでいる。また、決算や経営状況などの難解な話題は、図を用いて分かりやすく伝わるよう工夫している。
 イントラネットには広報部のコーナーを設けており、記者会見の社長挨拶やテレビ放映・雑誌掲載情報、トップのインタビュー記事などを転載している。トップが社外に向けて何を語っているか、社外からどのように報じられているかを社員に意識させる目的がある。
今後の課題
 当社の課題のひとつが、地域拠点の広報活動との連携だ。年2回、地域拠点の広報担当者が一堂に会する広報担当者会議を実施し、本社広報部が事例紹介やガイドラインを提供するほか、事前のアンケートに基づいたディスカッションを実施している。また、フェイスブックのグループ機能を活用して、広報担当者間で日常的に情報を共有している。地域で実施したお客さま向けのイベントや報道事例を報告し合い、広報担当者の知見を高めている。今後も地域の広報担当者とのコミュニケーションを強化し、JALグループとしての統一感のある情報の発信と、広報スキルのレベルアップに取り組む方針だ。
 また、グローバル広報も大きな課題となっている。現在は海外メディア担当を1名、海外社内報担当を1名、広報部に配置しているが、日本に駐在する海外メディアとのやり取りにとどまっており、グローバルな発信力に乏しい状況である。今後は、海外支店における広報活動も、より組織的に支援する必要があると考えており、海外発の海外メディアによる情報の発信に取り組んでいきたい。

(文責:国内広報部主任研究員 鈴木恵理) 
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