経済広報

『経済広報』(2015年7月号)掲載
企業広報研究
企業の危機管理力調査2015
企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内)
 近年、危機管理の不備が、企業経営に重大な影響を与えることへの認識が高まっている。情報環境の急激な変化に伴い、危機管理の重要性がより高まってきていることに鑑み、企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)は、今年の2月から3月にかけて、東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センターと共同で「企業の危機管理に関する調査」を実施した。
 本調査は、主に企業(日本企業と外資系企業)を対象とした調査(以下、企業対象調査)と、報道関係者を対象とした調査(以下、メディア対象調査)の2種類の調査を実施。企業対象調査は392社、メディア対象調査は177名から回答を得た。本稿では、2つの調査から導かれる企業の危機管理力について、速報としてご紹介する。

最もスコアが高い分野は「回避力」求められるさらなる「予見力」の向上

 本調査では、独自の評価分析モデルとして「危機管理ペンタゴンモデル」を開発した。「危機管理ペンタゴンモデル」は、企業の危機管理への取り組みについて、危機を発見する「(1)予見力」、未然に防ぐ「(2)回避力」、発生時に迅速・的確に対応する「(3)被害軽減力」、発生後の「(4)再発防止力」、危機管理に対する経営陣の「(5)リーダーシップ力」の5つの観点から分析を行っている。
 それぞれ100点満点とした中で、全体の平均スコアが最も高かったのは「回避力」(47点)だった。以下、「リーダーシップ力」(43点)、「被害軽減力」(39点)、「予見力」(38点)、「再発防止力」(31点)と続く(図表1)。
 分野別のスコアで注目したいのは、「予見力」である。危機の回避のためには事前のリスク予測が不可欠であり、「予見力」の向上により、危機の回避や被害低減に結び付けられる可能性がある。「予見力」に関連する個別の設問の回答率を見ると、ソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している日本企業は24.8%にすぎなかった。また、海外で発生している危機について情報収集を行い、日本国内の事業活動に与える影響を予測している日本企業の割合は33.3%であった。
注 「再発防止力」については、有効回答の全体(392社)のうち、過去に危機に直面した経験がないとする企業の一部が無回答であったため、その分のスコアが低く算出されている。

高スコアの業種は「電力・ガス」「食品」

 回答企業15業種のうち、500点満点で総合スコアが最も高かったのは「電力・ガス」の396点。2位は「食品」の293点となった(図表1)。
 東日本大震災以降、エネルギー問題の報道が続いている電力業界や、昨年から異物混入で大きく報道されるケースが相次いだ食品業界など、実際に危機を経験している業種で意識が高まり、取り組みが進んでいることがうかがえる結果となった。
 企業を取り巻くリスクは「電力・ガス」「食品」など業界特有の環境に限定されるわけではなく、大規模な個人情報の漏洩などの危機は、業種を問わず発生する可能性がある。同業界で危機が発生した後に、初めて本格的に危機管理に取り組むのではなく、全業種の企業が抱える潜在的なリスクを冷静に見極め、危機管理能力の向上に取り組むことが求められる。

図表1 危機管理ペンタゴンモデル分析スコア

(単位:点)

No.   N

総合

スコア

(1)

予見力

(2)

回避力

(3)

被害

軽減力

(4)

再発

防止力

(5)

リーダー

シップ力

  全体 392 198 38 47 39 31 43
1 電気・ガス 8 396 81 77 82 82 75
2 食品 15 293 53 63 61 54 63
3 運輸・倉庫 17 277 52 62 57 48 59
4 金融・証券・保険 43 245 50 56 50 34 55
5 鉄鋼・非鉄金属 13 219 38 51 40 41 49
6 電気機器 29 205 43 48 41 30 42
7 繊維・化学・医薬 53 201 37 48 37 34 45
8 その他製品(ガラス・土石・ゴム 等) 23 193 36 47 35 30 45
9 輸送用機器・精密機械 24 189 37 49 33 27 42
10 建設・不動産 17 178 31 43 35 32 38
11 サービス業 24 172 35 43 27 26 41
12 卸売・小売 69 166 32 40 31 25 37
13 情報・通信 19 164 28 39 36 25 35
14 その他 17 146 26 39 34 21 26
15 機械 21 110 22 32 21 10 24

メディアは社会性、企業はコンプライアンスを重視

 今回の調査の大きな特色のひとつは、新聞、テレビ、雑誌などのメディア関係者177名から回答を得て、危機に直面した企業と、それを取材する側のメディアとの間にある意識のギャップについて定量的なデータが把握できたことである。
 企業において発生し得る28項目の危機について、企業が感じる「社会からの批判の強い項目」、メディアによる「関心度が高い項目」として、同じ項目を回答してもらった結果、両者の危機の位置づけにかなり違いがあることが分かった。
 そのギャップが顕著に生じ、企業よりも、メディアの関心が高かったのは「国内での大規模災害発生時の事業停止/顧客への危機発生」(27.5%、14.2ポイント差)、「従業員が重大感染症に罹患」(22.0%、18.4ポイント差)、「海外でのテロ・暴動発生時の事業停止/顧客への危機発生」(21.9%、13.1ポイント差)だった。これらの項目は、企業の個別の問題というよりも、社会全体に影響を及ぼす問題であり、両者の視点のずれが浮き彫りになったといえる。
 実際、新型インフルエンザ、東日本大震災、中東や北アフリカの紛争などをめぐっては、個別の企業への影響や講じた対策について数多く報道された。このような社会問題に関しては、企業は前向きに情報開示について検討や準備をしておく必要がある。
 その一方で、メディアより企業の関心が高かったのは「反社会勢力との癒着」(35.7%、16.1ポイント差)、「不適切な決算・財務報告」(32.7%、13.5ポイント差)、「談合・独占禁止法違反」(27.8%、13.5ポイント差)などだった。いずれもコンプライアンスに関わるもので、企業の社会的責任を問われる重大な問題だと考えられる。
 これらのギャップを理解しやすいよう、企業が感じる「社会からの批判の強い項目」、メディアによる「関心度が高い項目」をそれぞれ指数化し、マッピングした図を作成したので参照してもらいたい。

図表2 3Dリスクマップ

迅速性と正確性の両立が求められる

 危機に際して、メディアが求める情報開示の重要点についても、これまで経験則で挙げられていた項目が、データで裏付けられる格好となった。
 「迅速な対応」(89.8%)がトップとなり、これに「情報開示の正確さ」(71.8%)が続いた。両立が難しい項目が1位、2位を占めたことは、危機発生時には厳しいメディア対応が要求されるということである。そのためには、平常時からの広報マニュアル整備やシミュレーショントレーニングが不可欠である。
 危機発生時に記者会見を開くかどうか、その判断は、企業にとっては非常に難しい問題だが、上位の「人的被害がある」(88.7%)、「多発・拡大する可能性がある」(85.9%)、「違法性がある」(74.0%)の3つのポイントが、今後の判断基準の参考となりそうだ。さらに、4位には「社会的インパクトがある」(68.4%)が続き、その時々に社会的に関心が高い危機内容の場合は、メディアから情報開示を求められる可能性もあり、メディアや世論の動向を踏まえた判断も求められる。

ステークホルダーの不満や期待を把握すべき

 ここからは企業の危機管理活動の実態と課題について指摘したい。今回の調査は日本企業については、東証一部上場企業を対象としているため、注目の「コーポレートガバナンスコード」の対象企業となる。コードでは、株主をはじめとしたステークホルダーとの継続的な“対話”を促すことで、株主価値向上を目指している。適切かつ有意義な対話を行うための企業努力として、ステークホルダーが企業に期待する行動を的確に把握しておく必要がある。
 しかし、「危機管理ペンタゴンモデル」のうち「予見力」を構成する調査項目の1つ「生活者・顧客から、自社の経営や商品・サービスに対する評価や問題点を把握する仕組みがある」では、Yesと回答した企業は48.8%にとどまった(図表3)。

図表3 「予見力」項目別実施率 (日本企業のみ集計 N=246社)

 また「自社にとって『危機』となりうる、ソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している」では、さらに低い24.8%との回答率にとどまった。自社に対する生活者や顧客などステークホルダーの不満や期待を継続的に把握することは、質の高い“対話”に繋がると確信している。
 ガバナンス改革において注目されているもう1つのポイント“社外取締役”に関して、危機管理活動との関係性について問いを設けている。例えば予見力の設問「社外有識者と定期的(3か月に1回以上)に意見交換をする場を設け、自社の経営や商品・サービスに対する評価や問題点を分析している」とした企業はわずか12.2%。さらに「リーダーシップ」の設問「社外取締役等に危機管理について報告・提言している」においても34.1%と低い水準にとどまった。
 経営に外部の視点を取り入れ、企業活動の成長力と健全性を確保することが目的のひとつといえる社外取締役制度だが、運用面では未成熟といえる結果が浮き彫りになっている。

経営陣の危機管理への適切な理解と投資が不十分

 一方、危機管理活動が十分とはいえない結果になった理由として考えられる要因が、危機管理推進を阻害する要因を問うた質問の回答からうかがえる。その中で最も高かったのが「人員の不足」(52.8%)であった。危機管理専門部署が設置されていると答えた企業も半数以下にとどまった。
 さらに、「トップなど経営陣が率先して組織の危機管理力向上に資する行動・発言を行っている」(50.8%)企業も半分程度にとどまった。
 こうした結果からも、経営陣による危機管理活動への適切な理解と投資が不十分であることが、日本企業の危機管理活動の遅れを招いている大きな要因のひとつではないかと考察している。企業の持つポテンシャルを適切にマネジメントしていくためには、危機管理力、とくに「予見力」を高め、自社に発生する可能性とそのインパクトを想定内にしておく必要性が高まってきていると考える。
 今回の調査レポートが、企業の危機管理力の向上、さらには成長力に資すれば幸いである。本調査に関するお問い合わせは info-csi@dentsu-pr.co.jpまで。調査結果詳細は www.dentsu-pr.co.jp/csi/を参照。

【 調査概要 】
(企業対象調査)東京証券取引所一部上場企業(1825社)と日本に拠点を置く外資系企業(1170社)を対象に、各企業における危機に関する経験や認識、危機管理のための具体的な取り組み、危機管理の阻害要因、危機管理に対する問題意識を聞いた。郵送配布・郵送回収(一部インターネットによる回収)。有効回答数は392社。
(メディア対象調査)メディア関係者全般(ウェブメディア、新聞、テレビ、雑誌等)1638名を対象に、企業の緊急時の情報開示姿勢への期待、緊急時に会見を行う判断基準、危機事象への関心度、危機管理・災害対応に関する実例などを聞いた。インターネット調査(一部訪問留置・郵送配布回収)。 有効回答数は177名。
実施時期 2015年2月4日(水)~3月13日(金)
執筆:企業広報戦略研究所(電通PR内) 阪井完二・大森朝日・北見幸一・長濱 憲
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