経済広報

『経済広報』(2015年9月号)掲載
企業広報研究
最近の事例に見る非常時広報の留意点
中島 茂

中島 茂(なかじま しげる)
中島経営法律事務所(NTLO) 弁護士

非常時広報の「目的」を意識する

 企業不祥事が発生したときはリリースや記者会見など、当該企業の対応ぶりが否応なく注目される。耐えがたいまでの緊張感だ。そうした中でも企業としては、主体性をもってアクティブに対応すべきだ。そのためには、「戦略的発想」を持つことが必要不可欠である。「戦略的発想」とは、行動の「目的」を明確に設定し、その目的達成に向けて「手段」の在り方を必死に工夫することをいう。目的を設定することなく、ただ、「記者会見を求められているので、仕方がないから会見するか」といった受け身的な態度では、企業として能動的にメッセージを打ち出すことができないばかりか、「後手後手の対応」といった批判を受けることになる。
 では、非常時における企業対応の目的は何か。答えは単純だ。社会の非難が荒れ狂う中で「社会的信用の低下を最小限に食い止めること」である。リスク管理は、リスクを知ること、リスクを避けること、非常時において被害を最小化することの3要素からなる。このうち被害最小化を「ダメージ・コントロール」という。非常時広報はダメージ・コントロールの中心的な作業といってよい。

「誠実姿勢」を打ち出す

 社会的信用の喪失を最小化するためには、非常事態下といえども、企業としての「誠実性」を失っていないことを世間に伝える必要がある。誠実性の中身は、消費者、顧客、地域社会を尊重し、真摯に向き合っていること、企業としてのインテグリティ(integrity)を持ち続けていることである。
 2014年12月、A社の焼きそば製品について異物混入が指摘された事件が発生した。A社は、当初「製造工程での混入は考えられない」としていた。だが社内調査を行った結果、「混入の可能性は否定できない」として、指摘後2日にして一転、問題の焼きそばを含む全製品の製造販売停止を決めた。迅速な対応である。さらに再発防止のため40年間続けてきた容器の形状を変えることも決断している。今年6月に関東地区を皮切りに製品の販売を再開したところ、生産量が需要に追い付かなかったというから、A社は、これらの行動で消費者を重視する誠実な姿勢を示すことに成功したといえよう。
 ただし、初期段階で「製造工程での混入は考えられない」と強い姿勢を示したことが批判を招いた。日常から徹底した品質管理をしているとの自信があったことの表れであろう。そのくらいの自負心はあってしかるべきだ。しかし、それをストレートに示したことが反感を招いてしまった。広報担当者としては、いかに自信があろうとも、「異物混入は、当社の品質管理から考えにくいことではありますが、大至急、厳正な社内調査を行って確認します」とコメントするといった慎重な姿勢が求められる。

トップが「迅速に」姿勢を表明する

 企業の誠実性を表明するのは早いほどよい。世間は非常事態に対して企業がどう対応するのか、固唾(かたず)をのんで見守っている。人の本性は非常時に露呈する。企業も同様だ。普段は「わが社はCSR(企業の社会的責任)推進企業でございます」「コンプライアンス経営を理念としております」などと言っている企業が、いざ非常事態発生というとき、本当にうたい文句の通りに対応するのか。社会の関心はその点にある。表明が遅れると世間は、遅れているにはわけがあるのだろうと疑い始め、その疑念はやがて「隠ぺい体質企業なのだ」という確信に変わる。
 誠実性の表明は企業トップが行わなければならない。企業にとっての一大事に組織としてどう対応するのか。その基本姿勢を世間に示すことができるのはトップだけである。
 こうした観点からすると、「エアバッグ事故」に関するB社のトップ対応は遅過ぎた。2014年6月から自動車メーカーが「エアバッグ破裂の恐れ」でリコールを開始しており、同年10月には米国で死亡事故も発生している状況があった。そうであるのに、トップがマスコミの取材に応じたのは同年12月になってからであった。C社の「ハンバーガーの異物混入事件」でも、混入が発覚したのが2015年1月であったのに対して、トップが記者会見を行ったのは同年2月5日であった。
 企業全体の信用が問われる事件でトップが出てくるまでの間、消費者、ひいては社会全体がその企業をどのような思いで見ているのか、企業関係者はリアルに想像する必要がある。

自主発表は意識的に「迅速に」

 「焼きそば異物混入事件」「ハンバーガー異物混入事件」「エアバッグ事故」などでは、不祥事発生が先に世間に明らかになっている。これに対して企業対応が続く形だ。これに対して難しいのは、自主的な調査で不祥事を発見した場合である。世間に発覚していないのに自ら発表する場合を「自主発表」というが、「まだ報道されていないのだから……」「もう少し、確認してから……」という気持ちが災いして、自主発表はついつい遅れがちになる。D社の扱う「免震装置データ改ざん事件」はその典型事例である。子会社からデータ改ざんの報告を受けたのは2014年5月のことである。しかし、D社が行政による発表に合わせて発表を行ったのは2015年3月になってからであった。把握から10カ月以上が経過している。発表後、D社に対しては「社長ら昨年5月に把握」(2015年4月25日付、日本経済新聞)、「経営陣、昨年5月把握」(同日付、朝日新聞)として、発表が遅れたことに対する批判が相次いだ。データ改ざんを一次ダメージとすれば、その発表の遅れで発生する信用損害は二次ダメージということができる。社内調査で不祥事が確認された場合は、世間に発覚する前に、一応の確認がなされた段階で迅速に自主発表すべきだ。報道されていないため、日々、世間の風圧が高まるといった客観的な要素がないだけに、自ら強く意識して発表を急がなければならない。

緊急会見のポイントでは「世論」を見誤らないこと

 以上の通り、非常時広報では、トップが、企業としての誠実性をもって迅速に記者会見を行うことが求められる。
 その際、最も大切なことは「世論」を見誤らないことである。2014年7月に発表された、通信教育会社E社の「個人情報漏えい事件」では、記者会見でトップが銀行の口座番号や子どもの成績といった「センシティブ情報は流出していない」ことを理由に挙げ、「金銭的謝罪以外の信頼回復が最も大事だ」と述べた(2014年7月10日付、朝日新聞)。要するに子どもたちの住所、氏名の流出だけでは補償する必要がないというのである。この発言が世間の反感を買った。保護者たちは子どもたちの住所、氏名を守るために、届けをするときも微妙に一字を変えるなどして、万一流出したときに判明するように工夫しているという。そうした世間の保護者たちの気持ちを思いやることができたら、社会の批判を招く発言を避けることができたはずだ。
 緊急記者会見の場合、発表内容、Q&Aの準備で大わらわなのは理解できる。だが、その中でも「世論を見誤らないこと」という、非常時広報の大原則を踏み外すことは許されない。
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