経済広報

『経済広報』(2015年9月号)掲載

グループ広報戦略(3)

世界のリーディングエアラインを目指す
ANAのグループ広報

ANAホールディングス(株)

 近年、日本の企業においても、持株会社制への移行により、ホールディングス体制を取る企業が増えてきている。また、海外展開を進める企業も増加をみせている。世界のリーディングエアラインカンパニーを目指すANAグループのグループ広報、グローバル広報の取り組みを聞いた。

ANAホールディングスの組織体制と広報体制

 ANAグループは連結子会社64社、持分法適用会社18社、合計82社(2015年3月現在)から構成されている。グループ会社の中には、航空輸送を担う全日本空輸を筆頭に、機内販売商品の企画などを行う全日空商事や、ANAスカイホリデー、ANAハローツアーなどの旅行商品を販売するANAセールス、障がい者が中心となった事業運営を推進するANAウィングフェローズ・ヴイ王子など、様々な業種のグループ会社が傘下にある。
 これら多様なグループ会社全体の広報を統括し、支援しているのがANAホールディングスのグループ広報部であり、「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」とのグループ経営理念を、グループ内へ浸透、グループ外へ発信する役割を担っている。
ホールディングスでの広報体制
 ANAホールディングスでは、担当役員が統括するコーポレートコミュニケーション(CC)室の下に、グループ広報部とグループ総務・CSR部があり、会社・部門を超えてANAブランドを高める体制が取られている。
 グループ広報部には全体で18人の部員がおり、4つのチームに分かれて広報業務を担当している。
 羽田広報チームは3人から成る。主に国内外のオペレーション(運航体制)を24時間365日管理しており、天候不順や、不測の事態が発生した際にすぐに対応できる体制を整えている。
 コーポレートコミュニケーションチームは、この春に新設され3人で対応している。このチームでは、新聞・雑誌・テレビといった従来のメディアにとどまらず、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった全世界へ情報を幅広く発信できるツールにおいてもANAのコーポレートブランドを高めていくことを目的としている。具体的には、新規就航や航空会社ならではのイベントでは従来の新聞などを目的としたリリースに加え、動画の配信などホームページでなければできないことも積極的に行っている。新たに就航した成田-ヒューストン線では、現地スタッフが新規就航を歓迎する様子や、ヒューストンの魅力を伝える動画を配信し、大きな反響があったという。成田-ホノルル線2便目の就航についても、機内食や機内サービスを、SNSといった新たな広報ツールから発信することで、現地の魅力を新しい形で発信していこうとしている。将来的には、CSV(共通価値の創造)への貢献を含め、従来の広報範囲を超えた中期的でグローバルな視野で情報発信をしていきたいとしている。
 報道チームは現在6人で新聞、テレビなどの主要メディアの対応をしている。リリースの草案、PR内容のプランニング・発信、記者会見の実施、危機管理を担当している。ANAグループ全体では年間150本ほどのリリースを発信しており、案件によって、ANAホールディングスでの発行、全日本空輸での発行に分かれるが、いずれにせよ、グループ会社のリリース発信、その他広報業務の支援を行うなど、一元的に管理している。
 メディアチームには4人の部員がいる。このチームでは、テレビ(バラエティー)、雑誌、協賛活動など幅広く対応している。雑誌については経済誌を主に担当しており、新聞とは異なり、航空業界特集などでは、より専門的な情報を提供している。

グループの成長戦略に密着したグローバルな広報活動

 ANAグループは2013年4月に持株会社制へ移行後、世界のリーディングエアライングループとなるべく、ANAグループ一丸となって、「2014-16年度 ANAグループ中期経営戦略」を実施している。
 最近では航空業界再編の動きが激しく、航空会社の統合が進み、年間売上高が3兆円を超える航空グループ会社が数多く誕生している。そのため、ANAグループとしても2025年の連結売上高2兆5000億円を目指し、北米・アジアを中心としたさらなる国際線への進出や、バニラエアといったLCC(ローコストキャリア)事業の成長、昨今のインバウンド需要に対応した、商社事業や旅行事業などのノンエア事業による安定的な収益の確保により達成していくという。
 グループ広報としては、このグループを挙げた取り組みを、社内外に正確、的確に情報発信していく考えだ。特に、10年後には売上高で国内線市場を凌ぐ勢いで成長を続ける国際線市場への広報活動を強く求められている。そのためのグローバル広報体制の構築を進めている。
 ANAホールディングスのグループ広報部では海外のグローバル広報について一元的な情報管理を行っている。例えば、宣伝部門と協同して、全米女子ゴルフツアーLPGAとのオフィシャルスポンサー契約や、2020年3月までの5年間にわたる「STAR WARS プロジェクト」を実施しており、グローバルマーケットと日本を繋ぐ存在として、ANAブランドの認知拡大を図っている。
 現地でのマスコミ対応、イベント運営は、現地駐在の日本人社員や、現地の広報スタッフが行っているが、広報部にもグローバル対応ができる人員を配置し、適宜、現地へ赴き、現場で対応している。現地スタッフとのコミュニケーションも密にして、北米・アジア地域においては週1回の電話会議を行い、現地のマネージャーや支店長クラスも出席している。現在、海外には約40拠点があり、その地域、国ごとの情報収集や情報発信を行っている。現地の総務部門に広報担当スタッフが配置されており、支店長を補佐するほか、現地でイレギュラー事象が発生した際には、いち早く、本社へ情報連携される仕組みを取っており、迅速な対応を取ることができるようになっている。

緊急時の広報体制

 危機管理については、会社のガバナンスや不祥事などの一般的なリスクと航空会社ならではの飛行機の運航に関連したリスクに分けて対応している。
 前者の一般的なリスクには、総務部が中心となって対応することになっており、危機発生時には総務と広報が連携を取りながら、対応マニュアルに従って解決を目指していく。
 一方、飛行機の運航リスクでは、広報部が率先して対応することとなっている。ANAグループは現在、国内線で1日約800便、国際線で150便を運航しており、提供座席数は国内線で1日約18万席、国際線で2万8000席、合計で20万席を超える。そのため、日々の運航情報を正確に提供することが極めて重要である。羽田空港にOMC(オペレーションマネージメントセンター)を設置し、そこにはオペレーションディレクターと呼ばれる専門スタッフが24時間詰めており、日々の情報収集や、危機発生時には広報部全体への第一報を行う。
 危機発生時からの初動対応が非常に重要なため、OMCでは、危機が発生したことを想定してトレーニングを行い、万一の場合でも適切な対応が取れるように訓練しているという。また、グループ広報部でも年2回ほど危機案件に迅速に対応するためのトレーニングを実施している。特に、役員や広報担当者が代わる4月に具体的案件を設定して、クイックレスポンスをどうするのか、記者会見での想定問答、電話の問い合わせなどを想定して、所定の時間内でリリースを発行できるか、といったトレーニングをしているとのことだ。グループのグローバル化、事業拡大に伴い、世界各地の紛争問題や経済問題などのイベントリスクは高まっていくと考えられる。しかし、ANAグループでは、こうしたリスク発生時に相互に補完でき、適切かつ迅速な対応ができる事業体に強靱化していきたいとしている。

CSVと広報活動の関係

 ANAグループは日本各地での地域創生を応援していく考えだ。現在、インバウンドで日本を訪れた外国人旅行者は東京、富士山、京都、大阪をめぐる“ゴールデンルート”を選ぶ場合が多い。今後、外国人旅行者のリピーターが増え、首都圏の羽田や成田に到着した後に、ANAの国内ネットワークを利用することで、全国各地を訪れる外国人旅行者を増やしていくつもりだ。日本に訪れた外国人を日本各地へ誘導することができるのは日本のエアラインならではの強みである。地方の魅力を海外を含めて効果的に発信するために、グループ会社のANA総合研究所では、全国の大学への講師の派遣や、地元の要請があれば地方公共団体へ社員を派遣して訪日外国人の地方への取り込み支援などを行い、地域活性化にも貢献している。
 また、沖縄の那覇空港に大規模な集荷施設をつくり、那覇空港を拠点に日本とアジアの主要都市を結ぶANAの貨物便ネットワーク「沖縄ハブ」を整備した。これにより、日本各都市から集荷した荷物を、翌日中にアジアの主要都市へ届けることができるようになった。現在では、日本各地の生鮮食品やフルーツなどを短時間で届けることが可能になり、各地の特産物のブランド化にも寄与している。また、沖縄での就業機会の創出にも繋がっているとのことだ。
 このように、ANAグループは様々な面で、CSVによる社会貢献を行っていくという。そのためにも、ANAグループの全従業員がCSVに基づき、グローバルな視野で経済交流や経済発展に寄与できるよう社内外へ情報発信を進めていく方針だ。  
文:国内広報部主任研究員 西田大哉
pagetop