経済広報

『経済広報』(2015年10月号)掲載
マスコミ事情
ビジネスリーダーの悩みに応える
鈴木勝彦

鈴木 勝彦(すずき かつひこ)『プレジデント』編集長

創刊号に掲載された激励文

 『プレジデント』は1963年の創刊以来一貫して、ビジネスリーダーのための問題解決マガジンとして読者の悩みに応えていこうという姿勢で編集に取り組んでまいりました。この50年間、幾度となくリニューアルを図ってまいりましたが、それは時代の変化に伴い、読者の置かれた環境の変化、悩みの質の変化に応えようとしたもので、根本的な編集姿勢はずっと変わっておりません。創刊号である1963年5月号に「読者の声」のページがあり、三菱石油の竹内俊一会長のお名前による激励文が載っています。それがこの50年間変わらぬ私どもの編集方針となっていますので、ここに引用いたします。
 (余談ですが、なぜ創刊号に「読者の声」があるかといえば、創刊号の前にテスト号としての0号があり、それをご覧いただいた感想を編集部に寄せていただいたためです)
 次の一文です。
 「細かい点はさておき、『プレジデント』は、一度で読み捨てにする雑誌ではなく、楽しんで読む雑誌……一度読んでしまっても、また引き出しから出して読む、そんな雑誌であってもらいたいと願っている。
 それにはまず一ページ、一ページを芸術品にすることだ。この点、カラーのポートフォリオは貴重な存在になる。また人間の面を強調したストーリーは非常に楽しめる。そればかりか、教訓も得られる。経営者はみな悩みをもっているが、他の経営者がどういう悩みをもち、それをどう解決していったかということを知りたがっているからだ」。
 今も昔も変わりなく、ビジネスリーダーの悩みがいかに深いか、雑誌への期待がいかに大きかったかよく分かります。特に、《一度読んでしまっても、また引き出しから出して読む、そんな雑誌であってもらいたい》という部分は、私のビジネス誌編集者としての道標になっています。

激励文を編集に生かす

 私は2012年春に『プレジデント』編集長に就任してからというもの、仕事に迷うたびに何度も創刊号を開いて、この言葉を見つめ直し、意味を噛みしめ、編集会議でスタッフに繰り返し話してまいりました。議論を重ねた上で雑誌編集に反映させています。
 裏方である編集者の仕事をあれこれ吹聴することを好みませんが、竹内会長のお言葉をどう雑誌編集に反映させているかについてご理解をいただくために、その一端をお話したいと思います。
 昨年、2014年7月に表紙を少し変えました。このとき版形をひと回り大きくしたことは新聞紙上でも謳いましたが、デザインを変更したことはお伝えしませんでしたので、まったく気づいていらっしゃらない読者の方も多いと思います。この表紙デザイン変更には理由があります。
 編集長になって一年が経ったころ、私はビジネスマンの話に耳を傾けていて、あることに気がつきました。特に20代後半から30代半ばの人から、男女を問わず「会社にロールモデルがいない」という声をよく聞くようになったのです。
 「将来はあの人のような働き方がしたいという先輩がいない」。
 「いつかはあの先輩のようなプロフェッショナルになりたいという人がいない」。
 「心から信頼できる、尊敬できる上司が身の周りにいない」……
 さらに通勤電車では、入社して間もないと思わしき女性がふたりで隣に座ってこんな話をしていました。
 「バブル社員はさ、プライドが高くて偉そうなことは言うけどコンサバでさ、全然挑戦しないんだよね。言うばっかりで、自分のことしか考えてない。ほんっと、使えない」。
 折しも、2013年7月に始まった大銀行の理不尽な職場を描いたTBSドラマ「半沢直樹」が大ヒット。会社の上司がすっかりバカにされる存在になっていました。
 ここで、はたと考えました。創刊50年の『プレジデント』は、若いビジネスマンからみたらどういう存在に見えるだろうか。もしも「上司そのもの」のイメージだったとしたら、通勤電車で居合わせた女子社員のように「ほんっと、使えない」と読みもしないのに思われているとしたら……。
 誌面を見直せば確かに「プライドが高くて偉そうなことばかりいう上司」のように見えなくもありません。しかも私は1991年大学卒の、最後のバブル世代。耳が痛い。どうすれば若い彼ら、彼女らに伝わるだろうかと思案します。
 そこで竹内会長の言葉に戻るわけです。
 《一度読んでしまっても、また引き出しから出して読む、そんな雑誌であってもらいたい》
 そのためにまず上から目線を排し、読者とパラレルな関係をつくるための表紙を志向してデザインを修正したというわけです。上司像のイメージチェンジです。
 しかし表紙デザインを変えただけでは看板を挿げ替えただけで大した意味がありません。中身についても「何度も何度も引き出しから出して読んでもらえる本」を目指して日々編集現場が知恵を絞るようになりました。
 不思議とこのように考え方を変えると、すぐに読者の反応が変わってきました。表紙デザインを修正する数カ月も前のことです。もっといえば議論を始めた段階で若い読者にも伝わり始めていたかもしれません。
 見えない読者ニーズにいかに迫るかというのは難しい課題ですが、いつでも創刊号の竹内会長のお言葉が私に考えるきっかけをつくってくれるのです。

『プレジデント』のDNA

 振り返れば2000年2月、月刊誌から月2回刊の雑誌にリニューアルするときもそうでした。
 『プレジデント』はかつて、1980年代に「歴史特集」が大いにウケて部数を伸ばしました。戦国、幕末・明治、太平洋戦争、中国史が歴史特集の4本柱。当時の読者はこうした歴史特集を通してリーダーはいかに生きるべきかを学びました。いや当時の読者の方々は歴史の知識が豊富でしたから、弊誌を読んで学んだというよりも、歴史上の英傑や参謀たちにわが身を重ね、あるときは自分を鼓舞し、あるときは「歴史のイフ」に頭を巡らせて戦略的思考を磨く――生きた教材として読んでいただいたことでしょう。
 それが90年代に入って日本型経営に赤信号が灯り、「自己責任」が声高に叫ばれるようになると、時代の要請か「仏教特集」のような心の安定を得られるものに人気が出るようになりました。しかし、それも一時のことに終わり広がりを欠いたため、さらなるリニューアルが求められました。そこで2000年に「ビジネスリーダーのための問題解決マガジン」であることを旗色鮮明にし、再び向上心を持ったビジネスマンに向けた本づくりにカジを切るようになります。
 『プレジデント』編集部には、その時々の読者ニーズに合わせていくDNAが絶えず残っています。
 書店・コンビニ・駅売店で買ってくださる市販読者の平均年齢はいつの時代も40代半ばで変わっていません。つまりはビジネスの最前線で指揮を執る人たちです。『プレジデント』はこれからも、どんな時代になっても、ビジネスリーダーの人生の伴走者となる雑誌をつくってまいります。
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