経済広報

『経済広報』(2015年12月号)掲載
企業広報研究

「PESO」を組み合わせた戦略的広報を
~グローバルPR最新事情~

スティーブ・バレット

スティーブ・バレット
『PR WEEK』編集長

 『PR WEEK』は、米国で最も権威あるPR業界誌であり、優れたPR活動を表彰する世界的アワード「PR WEEKアワード」の主催者でもある。同誌の編集長であるスティーブ・バレット氏が来日した機会に、グローバルPRの最新事情について聞いた。

最善のPRを行うための「PESO」

 現在のPR業界は、大変エキサイティングな状態だ。ソーシャルメディアの普及により、企業がいったん発信したメッセージは一瞬で全世界を駆け巡る。PR、広告、マーケティング、メディアといった従来縦割りだった分野が収斂(しゅうれん)され、企業がステークホルダーへ直接的に関与する機会が大きく増している。同時に、企業にとっては、常に怖い時代でもある。メディアミックスの時代では、企業がこれまで築き上げてきたレピュテーションが一夜にして壊れることもあり得るからだ。企業の信頼性や透明性がこれまでになく重要になってきており、より徹底した危機管理が求められている。
 まず、「PESO」の概念についてお話ししたい。「PESO」とはPaid(広告)、Earned(PR)、Shared(ソーシャルメディア)、Owned(自社メディア)の頭文字を取ったものだ。先ほども話したが、これらの分野は従来縦割りになっていて、マーケティング部門が広告を担当し、デジタル担当者がソーシャルメディアを担当していた。しかし、現在は各分野の境界は曖昧になっていて、PR担当者が広告スペースを買ったり、広告担当者がPRを行ったりしている。
 コンテンツによるPRが効果的となっている現在において、最善の仕事とは、「PESO」の4要素全てを組み合わせたときにできるものだ。PR担当者は単にメディアリレーションズを行うだけでなく、ソーシャルメディアに詳しくならなければならないし、良いコンテンツを書くためにはどうすればいいかを考えなければならない。作成したコンテンツを広めるための広告の活用についても知らなければならない。ソーシャルメディアが普及しているから、単にフェイスブックでキャンペーンを展開すればそれでよいというものではなく、そのキャンペーンをさらに広めるために、オンライン上の広告スペースを買うことも考えなければ効果的なPRにはならないということだ。
 「PESO」の4要素を組み合わせた事例として有名なものは、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで受賞し、PR WEEKアワードでもグランプリを受けたプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のAlwaysというブランドの事例がある。Alwaysは女性向けの生理用品のブランドで、受賞したコンテンツは思春期を境に自信を失い、自らの可能性を閉じてしまう女性たちに対して、自信を持とうというメッセージを送ったものだった。このコンテンツはPR会社によって作成された映像で、非常に良いストーリーだったため、メディアに多く取り上げられ、ソーシャルメディアでシェアされ、広告によってさらに周知された。まさに「PESO」の4要素を満たしたコンテンツだ。この効果は非常に大きく、露出回数は45億回、世界人口の約半分がこのコンテンツを見たといわれている。このコンテンツでプロクター・アンド・ギャンブルのレピュテーションは上がり、結果として売り上げを伸ばすことができた。
 PRの成功事例のトレンドとして、映像を使っているということも挙げられる。長さは短いものから長いものまで様々だが、成功事例はいずれも「PESO」の4要素を満たしているものだ。

PR担当者に必要なスキルは危機管理、インターナルコミュニケーション、CSR

 PR担当者にとって、企業のレピュテーションを守ることは非常に重要だ。レピュテーションを守るためには、まず、企業や組織の幹部がレピュテーションの重要性についてしっかり認識する必要がある。ソーシャルメディアは非情であり、ニュースの環境は真にグローバルになってきた。経営幹部は一貫したメッセージを発信し続けることが重要だ。2年前、ある企業のインドの経営幹部と米国のCEOが発言した内容が異なっているという話題が数分のうちにソーシャルメディアで世界中に広がった事例がある。かつてのように、従業員、お客さま、投資家と相手によってメッセージの内容を変える時代は終わった。全てのステークホルダーに一貫したメッセージを伝えなければならない。
 現在のPR担当者に必要な中核スキルはクライシスプランニング、インターナルコミュニケーション、CSR(企業の社会的責任)の3つだ。何かが発覚してから謝っても遅過ぎる時代になった。ソーシャルメディアでは刻々と状況が変化していて、後から追いつこうとしても対応が後手に回ってしまう。何かが起こる前にクライシス対応プランを作っておかなければならない。
 だからこそ、企業にはスマートなコミュニケーション環境が求められる。PR担当者は、何か問題があると感じたら、勇気を持って速やかに経営幹部に進言すべきだ。
 危機対応の事例として、アンダーアーマーの事例を紹介する。アンダーアーマーは、2014年にソチで開催された冬季オリンピックにおいて、米国のスピードスケート選手にユニフォームを提供していた。この大会で米国のスピードスケートは残念ながらメダルを1つも取ることができず、メディアではユニフォームにデザイン上の欠陥があるのではないかと取りざたされ、ソーシャルメディアで話題になった。その結果、アンダーアーマーの株価は下がった。しかし、この企業のコミュニケーションチームはきちんと準備していた。CEOは米国のオリンピック委員会と共同声明を出し、米国チームとの契約を8年間延長した。CEOはアスリート側に責任転嫁は一切せず、契約を延長することで企業批判の流れを変えることに成功した。その結果、株価は下落前よりも上昇した。
 この事例を見ると、ソーシャルメディアを常にモニターし、自社がどのように語られているかを把握すること、そして危機が発生する前にクライシスプランを立て、迅速に対応することが重要であることが分かる。また経営トップが責任を持って対応することも、レピュテーションを守る上で重要な要素だ。

メディアリレーションズの重要性が大きい日本

 メディア環境が急速に大きく変化し、新たなビジネスモデルやコンテンツモデルが出てきている。米国のオンラインニュースメディア「バズフィード」やオンライン政治メディア「ポリティコ」などがそうだ。ソーシャルを通して、ニュースを入手する人も増えており、「バズフィード」のアクセスの40%はフェイスクブックからだというデータもある。
 コンテンツを作り、アクセスを増やすためには、PR担当者は様々なメディアや新たなソーシャルチャネルについて最新の情報を得なければならない。そしてそれぞれのチャネルの特徴を把握し、自社にとって、どのチャネルが適切かを判断していく必要がある。
 一方で、主流メディアの存在もまだまだ重要だ。米国であれば『ニューヨーク・タイムズ』やトゥデイショーに登場するということは、大きな実績となり企業にとってもメリットに繋がる。
 日本ではメディアリレーションズの重要性が他国より大きく、PRの大部分を占めているように感じる。現在のように変化する環境下で効果的なPRを実践するためには、企業として新たな挑戦をする勇敢さが必要だ。
(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
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