経済広報

『経済広報』(2015年12月号)掲載
企業広報研究

緊急時対応のシャドーサイトの在り方

有事に求められる企業のオンライン対応

雨宮和弘

雨宮 和弘(あめみや かずひろ)
クロスメディア・コミュニケーションズ(株) 代表取締役 

シャドーサイトは緊急時の情報整理

 インターネットの活用が始まって20年、今や企業から個人まで日常的に「情報発信」をするようになりました。そんな状況を端的に言えば「情報過多の時代」となります。もし企業に有事(事故や不祥事)が生じたとき、社会に伝わりやすくするために、まずすべきことは緊急性の高い情報を優先して社会に届けること。すなわち意識的な情報整理、優先度づけを持つ、ということです。そのために通常のトップページの開示情報を一段下げる、あるいは整理し、それらにリーチしやすくする対策(もしくは緊急対策用トップページ)をシャドーサイトといいます。
 「事が起きてから」ではなく、リスク管理の観点から事故や災害などの影響で社会責任の重い事態が生じる可能性のある企業にとって、万が一に備えて、すぐに対応できるような施策(シャドーサイトの準備)は必須といえます。

初期は「やむを得ず開示」する企業が多かった

 もちろん企業にとって不祥事や事故はあってはならないことです。広報担当者は万が一そのような事態が発生したときは、できるだけ会社を守りたい、評判やブランド、売り上げの低下に繋がるようなことは避けたい、と考えます。上司や経営陣からもプレッシャーを与えられることもあるかもしれません。そうなると会社としての情報開示は必須と考える一方で、どうしても悪い情報の拡散を防ぎたいという気持ちが働きます。ネット活用初期(~2005年ごろ)には、検索エンジンに引っかからないようにお詫び全文を1枚の画像にして貼り付ける、という企業も散見しました。報道などが一段落する(喉元過ぎる)と、撤去したときに検索エンジンのサーバーに文字キャッシュが残らないという利点もあり、当時の制作会社が気を利かせたのかもしれません。しかし現在では、企業がこのような対策を講じたとしても、ネットユーザーは「魚拓(スクリーンキャプチャの保存)、文字書き起こし」をし、コミュニティーサイトや掲示板、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどで共有し、事故や事件ではなく、その対応を批判するようになっているので逆効果になりかねません。

レベルによって変わるシャドーサイト対応

 企業の緊急対応にも大小様々な事象があります。シャドーサイトの体裁も、すべて同じレベルで実施する必要はありません。グレードの設定やその考え方は様々ですが、重みづけの違いは、あくまで企業が守る価値の大小ではなく、社会の側が受ける被害や影響によって判断されるべきだということを忘れてはいけません。誰が、どんな情報を欲しているのかに準じた情報開示の最適化が必要だということです。以下がグレード設定の一例ですが、企業側の重要度や緊急度で考えるだけではなく、社会が知りたいこと、求めることに当てはめて、事前に準備することが肝要です。
 ・ 人命に関わる事故
 ・ 環境に影響を及ぼす事故
 ・ 社会倫理に反する事件
 ・ 企業経営や運営上の不正
 ・ 自然災害による二次被害や損害
 ・ コミュニケーションロス(対応や発言の失態、炎上など)
 また、自社の事故や不正、事件でなくとも、同業他社が起こした問題によって「業界内企業同一視」が起きる場合があります。自社に問題がなくても「買い控え」が発生することもあり、「対岸の火事」と看過せず、いち早く自社の見解や対応を見せることも必要です。

生活者が知りたいのは、ステータスのみではない

 ネットに繋がる携帯端末が生活に身近な存在になった現在、多くの人はニュースを自分から見にいくのではなく、グノシーやスマートニュースなど、「ニュースキュレーションアプリ」と呼ばれる配信サービスやソーシャルメディアで受け取っています。ニュースの速報性は高まり、そして関心のあるニュースを見たときに次に行うことは一次情報の確認、すなわち企業サイトへのアクセスです。では不祥事や事故などのニュース報道の先、生活者は企業サイトで何を知ろうとするのでしょうか。多くの企業は「お詫びの言葉」や「状況(ステータス)報告」をもってシャドーサイトとしては十分、と捉えていることが少なくありません。
 しかし上記のように、状況はニュースサイトで確認済みです。同じことが書かれているだけでは満足しません。企業は「その時に出せる情報をきちんと出していれば十分だ」と思っているかもしれませんが、実は生活者ははるかに多くのことを企業のシャドーサイト対応から感じ取っています。それは何かというと、「経過」と「対応速度」の記録なのです。
 マスメディアもそれぞれ自社のニュースサイトを持っています。しかし日々膨大な情報を扱うため、過去記事の保持を担保していません。ニュースサイトの記事はURLを見ても分かるようにプログラムなどで吐き出されたもので、数カ月でところてん式に消えていき、数年前の記事を参照することは難しくなっています。
 となると、事故や不祥事の対応が一定期間長く続く場合、対応の経過をきちんと継続して見せられるのは企業サイトにほかならないのです。シャドーサイトでの対応も、画像貼り付けはともかく、「一度ステータスやお詫びを開示しておしまい」で終わらせず、行動変容をきちんと積み上げ、時間の経緯を記録することで、今後この企業がどのような対策、改善、補償をするのか、その「意思」を感じ取ってもらうことができるのです。

意思を見せる方法は様々

 パナソニック社の石油暖房機で死亡事故が起きたのは2005年ですが情報開示のスピードが速く、全品回収まで日本中の全戸にDMを配布するなど徹底した姿勢で事故対策に取り組みました。現在、ブランドサイトや企業サイトは旧松下電器からのブランド変更で新サイトに統合(http://www.panasonic.com/)されましたが、以前から使っていたサイト(http://panasonic.co.jp/)を事業会社に引き継ぎ、10年経過した現在でも、そのトップに回収と注意の情報を掲載しています。これは一貫した企業姿勢と責任感の表出として素晴らしい対応です。
 また、明確なクライシス・マネジメント計画(対応指針)を持って行動していれば、シャドーサイト内にニュースアーカイブのように日付けを入れたステータスを列記するだけでも企業の意思を伝えることはできます。
 なぜかというと、企業に対応指針があると、対外的な要素、例えば国の要請や裁判の結果、被害者の状況変化に対して自社の対応が常に早い(短いスパンで対応が可能になる)ということが開示情報の前後の日付けの間隔で伝わるからなのです。これらの積み重ねによって、社会の側はこの企業が今後もきちんと対応できるか、その意思や期待値も推し量ることができるのです。しかしこれはもろ刃の剣だということを忘れてはいけません。対応指針がなく、常に対応が後手に回ってしまった場合も日付けの間隔から悟られてしまい、信頼回復の遅れに繋がることになります。

引くタイミングも難しい

 いつシャドーサイトを撤去するのか。これも一般論では判断が難しいところです。もちろん事故や事件の法的な収束が明確であれば問題ないのかもしれませんが、危機対応の本来の目的が企業の存続(評判やブランドなど信頼のリカバリー)にあると考えるならば、やはり企業側の都合ではなく生活者の感情面を考慮したタイミングを見計らうべきです。
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