経済広報

『経済広報』(2016年3月号)掲載
企業広報研究

日本企業に迫るグローバルクライシスの影
その最新事例と対処法

リチャード・レヴィック

リチャード・レヴィック
レヴィック社 会長兼CEO 危機管理コンサルタント

 リチャード・レヴィック氏は、『Forbes』や『Time』のレギュラー執筆者であり、「役員会(ボードルーム)に最も影響力を持つ100人」に4度選ばれた米国のクライシスマネジメントの第一人者である。同氏が来日した機会に、グローバル化を進める日本企業の留意点、取るべき方策について聞いた。

マーケットから突きつけられた新たな課題

 現在、日本はグローバル市場から新たな課題を突きつけられている。この課題はここ数年間で急激に顕在化し、なおかつ、非常に深刻なものだ。日本は世界で最もデジタルメディアを活用している国のひとつだが、多くの人がこれをデジタル革命と捉えている。しかし、これは情報革命だ。システム全体の変化、つまりパラダイムシフトであり、歴史的に見て農業改革や産業革命と同様の大きな影響を及ぼすものだ。一般市民がパソコンやスマートフォンを持ち、記者になり、プロデューサーになり、カメラマンになっている。人々はメディア以外の多くのソースから情報を入手できるようになり、企業は一般市民からの批判を受けやすくなった。これまで日本企業は、なんらかのクライシス事象が発生すると、その事象を一過性のものと捉えがちだった。事象が収束したなら、その事象に対する準備をやめ、いつも通りに回帰する。それが日本の企業文化だった。しかし、こうした時代の変化は新たなクライシスの潮流をつくり、日本企業もこれまでと同じようなスタンスでいることはできなくなっている。

新たな訴訟リスク

 情報の流れだけでなく、規制環境も変化している。10年ほど前から、米国の証券取引委員会、司法省、FBIが連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)を積極的に適用するようになった。今では、英国など、38カ国の政府が汚職防止法を活用している。この法律は大事件を起こしたときに何億ドルという莫大な罰金を課すだけでなく、比較的軽微な事象に対しても罰金を課すことができる。そして、この法律の特徴として法域に国境がないことが挙げられる。米国に子会社や工場がなかったとしても、米国に上場していなかったとしても、米国当局はこの法律の適用を主張できる。事実、米国司法省が課している罰金を最も多く課された企業は米国企業ではなくアジア企業であり、次は欧州企業、その次にやっと米国企業という現状だ。昨今においては世界銀行やアフリカ開発銀行といった国際開発金融機関などが、日本企業に多額の課徴金を課したり、プロジェクトへの参加を禁止したりという事態も起きている。

危機発生時の対応に失敗する3つの要因

 では、なぜ日本企業が標的にされているのか。それはまさに規制当局が日本企業の危機管理に対する脆弱さを知っているからだ。日本企業は非常に素晴らしい戦略を持ってグローバル化を進めてきた。しかし、いったん不測の事態、特に海外で危機が発生したとき、適切な対応を取った日本企業を思い浮かべることは難しい。日本企業がグローバルレベルの危機に直面したとき、対応に失敗する要因は3つある。
 1点目は、恐れだ。多くのCEOは企業が成長する過程では力を発揮できるかもしれないが、本当のチャレンジはその歯車が逆回りし始めたときだ。世の中で恐れを感じたときに良い判断ができる人は一人もいない。こと「恥の文化」を持つ日本企業では、CEOが感じる恐れの影響が対応に強く出る。もちろん、日本人以外でもいつもうまく対応できるわけではないが、恐怖心を克服する強い覚悟を持って取り組まなければならない。
 2点目は、過去と同じ方法では現在の問題を解決できないということだ。デジタル時代の危機対応は、これまでのやり方、考え方は通じない。危機が発生したとき、最も重要なのは企業でも文化でも、その企業が善意であったかどうかという意図でもなく、そこで起こった「ストーリー」だ。被害者の生々しいストーリーがネットやメディアに露出し、事態の風向きを大きく変えたりもする。インターネット時代の今、もはや広報の世界ではBtoBオンリーのコミュニケーションというのはない。取引先ではなくエンドユーザーが、またはその企業と全く関係ない人たちが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて、その企業を批判する能力を持っているということを忘れてはならない。
 3点目は、Why we can't(なぜできないか)だ。グローバル企業でよくあることだが、危機が発生すると、法務、人事、IR、渉外など、各部門が自分たちのテリトリーの立場で主張する。こういった場で、弁護士に話を聞くと、できない理由を主張して、その結果、何も行動が起こせないことがある。貴重な時間を費やしたにもかかわらず、初動を取る機会を失い、一般市民に対する説明内容も決まらない。特に日本企業では、広報と法務の意思疎通が不十分な企業が多いため、こういったことに陥りやすい。

部門を超えたオープンなコミュニケーションを

 危機が発生した際には、まず戦略を定める必要がある。それはコミュニケーション戦略であり、対政府戦略であり、法的な戦略だ。(クライシスに結び付く)批判や規制は欧米を発端とすることが多い。故に、その秘匿特権について理解しておかなければならない。日本の法的特権とは性格が異なっている。問題が発生してすぐに広報と法務が話し合った場合、それは秘匿特権対象となり、規制当局も原告弁護士もアクセスすることができない。そうすることによって戦略を有利に進めることができる。
 また、危機が継続している間は、異なる部門、異なる役職の人たちが互いに信頼し合い、オープンなコミュニケーションを取り続けることで、スムーズに戦略を実行し、危機にうまく対応することができる。部門間で意見が異なる場合もメールではなく対面で論じるべきだ。

CSR活動と戦略をリンクさせる

 我々は企業のCSR(企業の社会的責任)活動についてもアドバイスしているが、CSR活動は単なるチャリティーだと考えてはいけない。CSR活動は企業のコミュニケーション戦略、レピュテーション戦略上重要な要素だ。CSRにおいて、重視すべきは、企業が何をやっているかではなく、ニーズがどこにあるかだ。企業が行うプロジェクトによって、最終的に誰に、どのような便益がもたらされているのかを把握することが必要だ。その上で、CSRが実際にどれだけの恩恵をもたらしたのかが分かるような、受益者を主人公とする2、3分の短い動画を制作し、どれほどの社会的インパクトが生み出されたかを可視化する。企業自らが、社会貢献を声高にアピールするのではなく、生活者自身が企業をポジティブに評価していることが分かるものであることが重要だ。ここでは動画がポイントになる。動画はウェブ上で共有されることで、何十倍もの影響力を発揮する。例えばインターネットで企業名が検索された際、その動画があることで、検索結果のネガティブニュースの順位が下がっていく。企業はコミュニケーション戦略、ネット戦略とCSR活動をリンクづけ、自社にとって、どのようなプロジェクトがふさわしいか見極めなければならない。しっかりと結び付けることができれば、そのCSR活動は企業のレピュテーションに貢献する強力なツールとなるだろう。

最後に

 外国市場、特に米国、英国マーケットの思考回路について十分に理解すること、自社のCSRの取り組みを世論やメディアに紹介してくれる独立した第三者(有識者、政治家など)を増やすこと、外国のソーシャルメディアに対して自社の批判が台頭しつつあるかどうかをチェックするリスクマネジメントを導入すること、こういった取り組みを平常時から行うことが、緊急時に自社を助けることに繋がるだろう。

(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
pagetop