経済広報

『経済広報』(2016年5月号)掲載
企業広報研究

「ステルスマーケティング」に潜むリスク

祝前伸光

祝前 伸光(いわいさき のぶみつ)
ヤフー(株) ニュース・スポーツ事業本部メディアビジネス部 部長

 2015年、広告であることを隠し、編集記事と誤認させて広告を届けるような行為がニュースサイトで行われていたことが大きな問題となりました。自社に都合のよいレビューを、対価を支払って口コミサイトに書かせたり、芸能人ブログに商品を推奨するような投稿を、対価を支払って書かせたりするなど、読者を欺いて広告宣伝を行うことが「ステルスマーケティング」と呼ばれ、かつて問題になりました。記事に偽装した広告がニュースサイトに紛れ込んでいたわけで、「ステルスマーケティング」がニュースサイトでも行われていたというのです。
 『週刊ダイヤモンド』などの報道を通じて、この問題に関する認識が広がり、関連業界団体の啓発活動の効果もあって、問題の共有や解決に向けての具体的な動きも進みつつありますが、あらためて「ステルスマーケティング」の問題やリスクについてまとめました。

ネイティブ広告の表記に関するガイドライン制定

 2015年3月に一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(略称JIAA、当時の名称はインターネット広告推進協議会)が「ネイティブ広告に関する推奨規定」を発表しました。ネイティブ広告に関する広告表記・広告主体者の明示、広告審査に関する規定を整理したもので、タイアップ広告には、誘導枠、ランディングページ共に広告としての表記を行うこと、広告主体者を明示することなどを推奨するガイドラインです。
 ネイティブ広告とは、JIAAの定義によれば「デザイン、内容、フォーマットが、媒体社が編集する記事・コンテンツの形式や提供するサービスの機能と同様でそれらと一体化しており、ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」のことです。記事調の広告コンテンツであるタイアップ広告は、ネイティブ広告の一類型に分類されています。広告であることを読者に示す適切な表記(クレジット)のないものは「ノンクレジットのネイティブ広告」ということになり、これがニュースサイトにおける「ステルスマーケティング」記事です。
 「欺瞞的な行為又は慣行」を包括的に違法とする規定(FTC法第5条)のある米国と異なり、日本では広告の表記がないこと(=「ステルス」)だけでは違法とはいえないとされています。しかし記事を偽装することで、優良誤認や有利誤認に当たる広告表現を禁止する景品表示法の対象から逃れられることもありませんし、読者を騙すという社会規範や企業倫理に反する行為を、違法でないことを理由に正当化できないことは本来自明なはずです。にもかかわらず残念ながら紛らわしい広告が存在していたのも事実です。
 JIAAのネイティブ広告のガイドラインが公表されたことにより、これが「ステルスマーケティング」を抑止するための事実上の自主規制基準としての役割も果たすといえると思います。

「ステルスマーケティング」に潜むリスク

 「ステルスマーケティング」は、読者や消費者を騙す行為ですから、企業や商品の評価を下げかねないレピュテーション上のリスクがあり、やっていることが発覚したり、疑いを持たれてしまうと、広報担当者としては嬉しくない出番となってしまいます。「ステルスマーケティング」に潜むリスクについて幾つかの事例を紹介します。
 メディアが編集記事として取材する過程で、「編集協力費」や「取材協力費」などの名目で費用を要求することがあります。名目が広告費ではないから、あるいは金は取るが記事内容に口出しをさせないからといった理由で純粋な編集記事だと主張して正当化しようとするメディアもあり、金を出す側もその説明を受けて問題ないと判断してしまう例もあるようです。編集協力費や取材協力費の存在自体を一概に否定するつもりはありませんが、記事化に当たって直接対価のやりとりがあることを説明もなく純粋な編集記事として読者に提供することには無理があると思います。なんらかの協力費を支払う場合でも、協力費の負担者と媒体との関係性の明示がきちんと行われているかにまで注意を払う必要があります。
 デジタルマーケティングの手法の多様化や専門化に伴って、それらの業務を行ったり支援したりするアウトソース先の数も増え、アウトプットの直接管理が難しくなっている面もあると思います。細分化された予算の一部がモラルの低い媒体に流れ、作為か不注意か、結果的に「ステルスマーケティング」そのものが行われていたり、紛らわしい表現で掲載されてしまったりということが起き得るようになっています。広告予算が知らぬ間に読者や消費者を騙すようなコンテンツに使われていないか、最終的なアウトプットやアウトソース先の適切な管理や教育が重要になります。
 メディアに対価を払って掲載を働き掛けている悪質なPR会社があるようです。そうした行為を迷惑に感じ要求には応じなかったメディア関係者から得た情報なので、結果的に対価を受け取って記事を掲載したメディアがあるという証拠はありません。このような迷惑行為は減っているとも聞きますが、なくなっているわけでもありません。クライアント企業が直接指示したり、これを容認し対価を負担していたりすると論外ですが、パブリシティー活動の成果として認識しているとしても、それは隠れたリスクでしかありません。ルール違反をしてまで買った露出は成果といえないどころか大幅な減点要素であることを共有すべきだと思います。
 ばれないようにやればよいという確信犯は論外ですが、紛らわしい手法も取るべきではありませんし、知らぬ間に加担していたということも避けなければなりません。

ヤフーの取り組み

 数多くの媒体から記事の配信を受けているYahoo!ニュースでは、ニュース提供各社との契約で、広告としての表記の有無にかかわらず記事広告やタイアップ記事を配信することを従来から明示的に禁止しています。契約違反が明らかになった場合は、契約解除はもちろんのこと、Yahoo!ニュースが信頼を損なうことによって被った損害や信頼回復のために要した費用の請求、そのほか法的措置を含む厳正な対処を行う、ということを2015年7月にあらためて宣言しました。
 一方で、ヤフーや関連会社が運営する複数のメディアにおいて、広告表記のない記事広告を販売したり、掲載したりしていたことが同年9月に判明し、その事実を公表すると共に読者へのお詫びを行いました。業界の自主規制であるJIAAのガイドラインが不徹底であったことも問題ですが、それ以上に「ユーザーファースト」を標榜する企業が結果としてユーザーを裏切る行為をしていたことは残念なことで、反省すべき多くの課題を残しました。
 2016年2月には、Yahoo!ニュースをはじめとするヤフーのメディアサービス運営の基本方針となる「メディアステートメント」を発表しました。「ステルスマーケティング」に加担しないことは言うまでもなく、誰もが安心して情報に出合える場として、社会規範や品位を守って良質で信頼できる情報を提供しながら、同時に不正確な情報や、過剰に扇動的な表現、誤解を招く情報を届けることのないメディアサービスの運営に努めていきたいと考えています。

pagetop