経済広報

『経済広報』(2016年6月号)掲載
企業広報研究

雪印メグミルクのインナーコミュニケーションと風土改革

足立 晋

足立 晋(あだち しん)
雪印メグミルク(株) CSR部長

 経済広報センターは3月15日、雪印メグミルクの足立晋CSR部長を講師に迎え、「雪印メグミルクのインナーコミュニケーションと風土改革」をテーマに企業広報講座を東京で開催した。参加者は59名。

雪印メグミルクグループの沿革

 雪印メグミルクは2009年10月に設立された比較的新しい会社である。前身の雪印乳業は、2000年と2002年に起こした2つの大きな事件により、アイスクリーム事業や医薬品事業、冷凍食品事業、粉ミルクなどの育児品事業が分割された。その後、雪印乳業の市乳部門、JA全農系と呼ばれる全国農協直販、全酪農系と呼ばれるジャパンミルクネットが合併し、2003年に日本ミルクコミュニティが誕生した。その後2009年に、雪印乳業と日本ミルクコミュニティが経営統合し、雪印メグミルクが誕生した。

信頼回復に向けた取り組み

 前身の雪印乳業グループは、雪印乳業大阪工場食中毒事件(2000年)、雪印食品牛肉偽装事件(2002年)と、立て続けに消費者の信頼を裏切る事件を起こした。事件の原因として3つの要因が挙げられている。1つが内向きの体質。消費者よりも社内優先の風潮があり、企業倫理が体質化されていなかった。2つ目は縦割りの組織で、チーズ部門や食品部門が全く別の組織であり、一度目の事件の際にも、別の組織での出来事と捉えてしまい、危機意識を植え付けることができなかった。3つ目がリスクマネジメントの欠如。現在では、多くの会社で取り組んでいる経営トップ層へのメディアトレーニングも当時は行っておらず、記者会見などの対応も不十分であった。
 このような3つの要因を踏まえ、2つの事件を反省し、信頼回復に向けた取り組みを開始した。ひとつは消費者向けの工場見学や牧場での酪農体験、さらにグループディスカッションなどで消費者の意見を聞き、企業活動に反映させていく「お客さまモニター制度」である。2001年から開始し、累計500人を超える消費者が参加している。そのほかにも、酪農家・生産者の方々との対話や、工場開放DAY、全国社員交流会など、信頼回復に向けた取り組みを進めた。

CSRグループ活動

 当社は、「雪印メグミルク行動基準」の浸透・定着を目的に、CSR(企業の社会的責任)グループ活動を実施している。職場または事業所をひとつのグループとして、全社約3000名の従業員を66のグループに分け、毎月1回業務として実施している。全社統一テーマ(6回)と各グループが独自のテーマを自由に設定する個別テーマ(6回)で実施し、設定されたテーマについての討議やCSR活動についての情報共有を行っている。
 実施されたテーマのひとつである「『酪農』の歴史、現状の課題、当社の現在の取組みを理解する」では、『活動報告書2015』を活用し、会社の生い立ち、日本の酪農の現状、企業理念のひとつである「酪農への貢献」の理解を図り、「酪農生産への貢献」について、自身の職場ではどのようなことができるのか、などの意見交換を行った。
 そのほかにも、「『ハラスメント』の未然防止について」「『乳(ミルク)にこだわる』商品への理解を深める」などのテーマでグループ活動を行っている。これらの活動は、グループリーダーが活動内容や、出された意見、決定した取り組み内容などをイントラネット内で報告する。そして、所属長(部長・工場長・支店長)が承認して報告が完了する。全国各地から集まった報告は、社外の有識者・労働組合代表や役員をはじめとする社内委員から成る企業倫理委員会で共有化され、経営全般に対する「社外の目」による検証や提言がなされる。そして、取締役会に報告され、最後に全従業員へフィードバックされる仕組みになっている。
 CSRグループ活動への参加率は約80%である。人数の多い職場では、数回に分けて実施し、なるべく多くの人が参加できるようにしているほか、やむを得ず欠席した従業員には、後日資料を渡して説明し、出席として認めている。これらを含めた認定参加率は約95%に上る。効果測定としては、従業員アンケートを毎年実施しており、「あなたの職場では、コミュニケーションは円滑ですか」「あなたの職場では、皆が目標に向かって一体感を持って仕事をしていますか」「あなたの職場では、誰も自由に疑問等を問題提起できる雰囲気がありますか」の質問項目について約80%の従業員が肯定的な意見を寄せている。

食の責任を強く認識し果たしていくことを誓う日の活動

 CSRグループ活動とは別に、同社の前身のひとつである雪印乳業グループが起こした2つの事件を決して忘れず教訓とするため、雪印食中毒事件が発生した6月と、雪印食品牛肉偽装事件が発覚した1月に全社一斉活動を実施している。本社では、できるだけ多くの従業員を一堂に集めて本社統一活動を開催している。2015年6月の活動では、二度とこのような事件を起こさないとの社長メッセージを確認。テキストを読みながら、品質保証基礎理解度チェックテストに回答してもらい、知識の定着を図った。また、事件を直接経験していない従業員もいるため、雪印乳業食中毒事件のテレビでの報道をまとめたDVDを視聴し、事件を風化させないために、事件の経験者・未経験者双方がどのように協力し、主体的に何をすべきか意見を交換した。
 2016年1月の活動では、同じく社長のメッセージを確認した後、お客さまセンターに入った「お客様の声」を資料にまとめて配布した。内容もお叱りの声ではなく、あえて、お褒めの声を取り上げ、お客さまの満足に繋がる、大切にしたい思いや意識について考えてもらった。
 また、6月の本社統一活動では従業員によるパネルディスカッションも実施した。事件の未経験者が正社員の半分を超えるまでになっているため、事件当時、現場にいた従業員をパネラーとして参加させ、事件後にどのような危機が会社を襲ったかなど、当時の体験を語ってもらった。その後、従業員同士でディスカッションし、その場で自分の意見を発表してもらった。以前は、このような何百人もいる場で、自発的に発表するといったことはほとんどなかったが、今回は多くの従業員が自発的に発言するなど、社内の雰囲気が変わってきていると実感している。

今後の展開

 今までは、「雪印メグミルク行動基準」の浸透・定着、CSR知識の習得に力を入れて取り組んできた。それにより、従業員のCSRへの意識が高まり、CSRグループ活動を通して、従業員同士が率直な意見交換を行い、社風も風通しの良いものになってきた。
 今後はこのCSRグループ活動をより一層定着させるために、テーマの設定や進行方向など工夫をしていきたい。そして、不正をしないのはもちろん、さらに、ルールだけを守るコンプライアンスを基盤にしたCSRから一歩踏み出し、正しいことは積極的にやっていこうという企業体質に変えるべく、未来志向のCSRを目指していくつもりである。
(文責:国内広報部主任研究員 西田 大哉)
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