経済広報

『経済広報』(2016年7月号)掲載
視点・観点

熊本地震 現地は、いま

小野豊和

小野 豊和((おの とよかず)
東海大学 経営学部経営学科 教授  

 最大震度7を記録した熊本地震から1カ月が過ぎた5月末現在でも、なお1万人以上が避難生活を送っている。内閣府が発表した4月の景気ウォッチャー調査によると、九州地区は大幅に低下、工場設備が壊れ、電気機械器具製造業では従業員の半数が出勤不能となり、部品供給の停滞から東海、北関東では自動車などの生産面に影響が出た。九州方面への旅行など消費の自粛ムードもあり、旅館、レストランの客数は地震前に比べて1割台に落ち込んでいる。

 4月14日午後9時26分、熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の「熊本地震」が起こった。益城町で震度7、余震を経て収束に向かうと思われたが、16日午前1時25分、同地方を震源とするマグニチュード7.3の大地震が九州を揺さぶり被害が一気に拡大した。
 熊本地震の特徴は震源が浅く広域にまたがっていることだ。震源は阿蘇山を挟む熊本〜大分両県を走る九州中央部の各地に及んだ。日奈久断層帯と布田川断層帯が熊本市で重なり、14日午後の前震(M6.5)は日奈久断層帯で起こり、16日未明の本震(M7.3)は布田川断層帯が震源だった。熊本は阿蘇山を抱えているため火山活動との関連も心配されたが、今のところ昨年11月24日の噴火以降大きな変化はない。
 1カ月たって死者49人、関連死20人、行方不明1人、重軽傷者1664人。住宅被害は全壊・半壊・一部損壊が約8万5000棟。熊本県下24市町村の避難所234カ所に1万305人。本震直後の4月17日は33市町村855の避難所に約2万人に比べると減少したが、避難者には安心して戻る家がない。政府はTPP(環太平洋経済連携協定)の審議を中断し、4月25日に激甚災害法、同28日に特定非常災害特別措置法、5月10日に大規模災害復興法指定を適用。しかし、この3つの法律だと、県および市町村の財政負担一割が残ることになる。熊本県の年間予算規模が約7500億円なので、復興予算を毎年4000億円とすると5年間で2兆円、県民の税負担一割は2000億円となり税収の落ち込みが予想される。東日本大震災、阪神・淡路大震災同様、全額国庫負担となる特別立法の制定が期待される。
 各分野の被害状況は、公共土木施設などで1710億円、農林水産関係で1072億円、環境生活関係で170億円など。罹災証明申請は30市町村の10万3477件に対して交付件数は21市町村で3万682件と30%にすぎない。市内のマンション被災も8割を超え、管理組合からの要望に応え、共有部分の罹災証明を発行することとなった。

片付けたところに本震

書棚などが全て倒れた小野研究室
 個人的な体験だが、14日夜、ガタガタ、ミシミシと音がしたかと思うとテレビが動き出しアンテナ線が外れ、携帯電話の警報が鳴り出した。壁に飾っていた50枚ほどの家族写真が、紙吹雪が飛ぶようにひらひらと舞って落ちた。書棚が倒れガラスが割れた。キッチン側の大型冷蔵庫が飛び出し、引き出しは前後に揺れ、棚の食器の大半が割れた。30秒ほど続いただろうか。長方形構造の部屋が菱形状に左右に軋む中で、ただ立ちすくむしかなかった。風呂桶の湯は半分以上飛び出し、洗面所は鏡の裏に納めていた化粧品類が全部シンクに落ちた。書斎では書棚が倒れ、書籍類が散乱した。2013年10月完成の新築マンションの9階に住んでいるが、玄関ドアを開けると棟を繋ぐ免震構造の廊下が激しく軋んだのか、床が外れ30センチほど穴が開いた。食器棚などを片付けた翌々日の未明、本震が襲い元の木阿弥、以降震度1以上の有感地震が1500回になろうとしている。
 前震で持ちこたえた一部損壊の建物も本震では倒壊して、家に戻っていた主婦が犠牲になった。九州新幹線、九州自動車道など交通の要が直撃され約2週間機能不全に陥った。山間部は孤立、土砂崩れが起きて南阿蘇村では多くの犠牲者が出た。落下した阿蘇大橋の横にある東海大学農学部は活断層の真上に位置し、建物は壊滅状態、近所のアパートに住む3人の学生が犠牲になった。春学期が始まってすぐの地震だったが、1カ月と1週間の休講を8月13日までの延長で対応することにした。阿蘇農学部は7月1日から熊本キャンパスでの授業再開となる。
 経団連の指導で学生の就活期間が2カ月早まり6月解禁、春先から始めた中小企業は早期に内定を連発。地元企業は被災学生への個別的な配慮を言い出したが、復旧見込みが立たない被災企業も多い。被災者でありながら復旧ボランティアに参加する学生グループも多く、新たなインターンシップ経験と評価してもいいのではないか。

南海トラフは想定していたが

熊本市役所前で飲料水を配る福岡県と自衛隊の支援
 道州制の議論もあったが、九州の中心に位置する熊本は自衛隊部隊、内陸空港という条件から南海トラフ地震発生時の現地対策本部候補に選ばれていた。営業部長兼しあわせ部長のくまモンが「九州の安全を守るモン!」と県サイトで応援しているが、自県が震源となる大地震は想定外だった。熊本市防災計画では震度7の被災規模を最大5万7000人と想定、11万人を超える被災市民を受け入れるための避難所が不足、対応の遅れが露呈した。
 直近で熊本地域の大地震を警告する専門家はいなかった。にもかかわらず、テレビでは「想定外の地震」と言いながら、「当然起こる環境にあった」と自信満々の専門家たちに違和感を覚えた。ニュース報道は犯罪報道に似ている。初期報道では、被災者に寄り添うというよりも厳しい現場の発見と救援の遅れに力点が置かれていた。“想定外”を連発する責任回避はそろそろやめてほしい。「想定外を想定し先手先手で復旧・復興に当たらなければならない」と熊本県の蒲島郁夫知事も表明している。
小野豊和(おの・とよかず)
東海大学経営学部経営学科教授。
1947年東京生まれ、1971年早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業し、松下電器産業入社、人事、企画、広報、海外人事を担当。1998年経済広報センター第14回企業広報賞「功労・奨励賞」を受賞。著書に『企業広報論講義~企業のレゾンデートルを支える広報の役割』『学生のためのHRM入門』など多数。2012年から現職。
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