経済広報

『経済広報』(2016年10月号)掲載
グローバル企業のインターナルコミュニケーション(4)

独自の企業文化を伝承し、 社員の意識醸成と組織力を強化

吉川英里

吉川 英里(よしかわ えり)
京セラ(株) 広報室長

 日本企業の事業展開がグローバル化し、世界各地の外国人社員とどのようにコミュニケーションを行えばよいのかに関心を持つ広報関係者が増えている。このため本誌では、「グローバル企業のインターナルコミュニケーション」をテーマに、PRコンサルタント、企業関係者のインタビューを連載する。今回はその第4弾として、京セラの吉川英里広報室長に話を伺った。

京セラのグローバル広報体制と戦略

まずは、京セラの事業概要について教えてください。

吉川 京セラは事業内容が幅広いのが特徴で、「情報通信市場」「自動車関連市場」「環境・エネルギー市場」「医療・ヘルスケア市場」の4つを重点市場と捉え、素材・部品から、デバイス・機器、システム・サービスまで、既存事業の拡大および新規事業の創出を図っています。京セラグループの社員数は全世界で約6万9000名、そのうち海外拠点の社員が6割強と半数以上を占めています。
 海外事業では、“ベトナムにおける生産品目の拡大および増産”が近年の主要テーマのひとつとなっており、主に部品を製造する「京セラベトナム」と、コピー機や複合機などを製造する「京セラドキュメントテクノロジーベトナム」の2社が中心となって展開をしています。

広報体制について教えてください。
●国内の広報体制
吉川 
国内の広報体制は、「広報部」「宣伝部」「広報企画部」の3つに分かれています。場所は京都本社と東京の2カ所で、人数は約30名です。
 「広報部」内には、本社広報課、東京広報課、海外広報課、社内広報課がありますが、国内報道対応は基本的に“場所の違いイコールメディアの違い”ですみ分け、本社広報課は新聞を中心とする紙媒体を、東京広報課は関西にはないデジタルメディアや雑誌を担当しています。海外広報課は現地法人との連携を主とした海外メディアの対応を行い、社内広報課は、国内外のグループ全社員に向けた情報発信をしています。「宣伝部」は国内外の媒体広告や大型展示会などを担当しており、「広報企画部」はホームページやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を運営するWEB推進課と、ブランドの認知向上やイメージ強化を図るブランド推進課から成ります。
●グローバル広報体制
吉川 海外ではBtoB事業が大半のため、コーポレートコミュニケーションの窓口があるのは北米、欧州、中国の3拠点のみで、北米は米国サンディエゴ、欧州はドイツのノイス、中国は北京です。現地採用のPRマネージャーや、WEB、社内広報誌、展示会担当者などから成る専属組織を配置しています。一方、ベトナムをはじめとする新興国では、まだ広報機能がないため、必要に応じて本社から情報発信を行っています。
 また、3拠点以外にも、ドキュメント機器、通信機器などの機器事業は部品事業と異なり、販促などの広報PR活動を行う担当者を事業部門が独自に配置しています。
関西企業ならではの広報戦略について教えてください。

吉川 プレスリリースなど通常の情報発信は本社主導で実施することが多いのですが、ここ2年ほどの新たな試みとして、中間期と通期の決算発表は大阪で実施後、翌日、東京で社長が説明会を開いています。関西だけでなく東京のマスコミの方にも会社の顔が見えるように、最近のトピックスや取り組み内容について、社長が直接説明する機会を設けています。
 さらに、国内に約15カ所ある工場からの情報発信にも力を入れています。本社や東京だけでなく工場が中心となり、生産拠点のある地元マスコミとのパイプづくりや、Facebookを通じたローカル情報の発信などを積極的に行っています。
 一方で、ますます影響力が高まるデジタルメディアを活用し、拠点所在地にかかわらず、国内はもとより、海外へもボーダレスに、即時に情報を拡散する機会は、今後さらに増えていくに違いありません。

海外社員とのインターナルコミュニケーション

海外の社員に向けたインターナルコミュニケーションツールには、どのようなものがありますか。

吉川 本社の広報部社内広報課が、海外版の社内広報誌『KYOCERA TIMES』を英語で制作し、今期はPDFで3回発信します。本社のトップメッセージや京セラグループ全体に関わるニュース記事などは日本語版と共通ですが、海外社員が興味を持ちそうなオリジナル記事も掲載しています。
 これとは別に各地域でも、北米は『The Key』、欧州は『family』、中国は 『京瓷哲学』、シンガポールは『Newsletter』など、独自の社内広報誌を制作しています。地域によって異なりますが、海外では主にイントラネットや電子ブックを活用しています。
 現在本社では、パソコンやスマートフォンからアクセスでき、社内広報誌のバックナンバーを閲覧できるアーカイブサイトを開設しています。紙媒体で掲載できなかった情報の共有や、各地域独自で発行している社内広報誌についても、このサイトで共有できる仕組みを構築したいと考えています。
 また、海外現地法人では公式サイトとして、Facebook、LinkedIn、YouTube、Twitter、Google+、Flickrなど、地域や事業内容の特性に合わせてSNSも複数活用していますが、これらは社内外へ同時に情報を発信するツールとして役立っています。中国は、Facebookなどが使えないので、WeChat(微信)を活用しています。

各地域でも独自に社内広報誌を作成されているとのことですが、何か特色がある地域はありますか。

吉川 これまで中国では、様々な情報を掲載した社内広報誌を発刊していましたが、企業理念や経営哲学(京セラフィロソフィ)の一層の浸透を目指し、今年から京セラフィロソフィの理解を深める内容に刷新しています。
 一方で、京セラグループ全体の動きや戦略について理解するためには、これだけでは十分ではないとの課題もあります。そのため、今後は『KYOCERA TIMES』を中国語版で制作するなど、多言語化を視野に入れています。

各地域の広報担当者と、どのように情報交換をしていますか。

吉川 北米および欧州のPRマネージャーが本社に集まり、“グローバルPRサミット”という広報活動に関する会議を、年に1回開催しています。また、それぞれの地域と定期的に電話会議も行います。全ての地域と同時に繋いで実施できるのが一番ですが、時差があり難しいのが現状です。電話会議では、主に社外に向けての発表案件について共有・調整をしています。
 また、社内広報誌の編集においては、グローバル通信員制度を導入、海外主要24拠点の通信員を窓口に、情報交換を行っています。収集した情報は、本社で制作する日本語・英語の媒体で取り上げ、一体感の醸成を図っています。

京セラフィロソフィの浸透のために

京セラフィロソフィなど、京セラ独自の企業文化にはどのようなものがありますか。

吉川 京セラでは、京セラフィロソフィ手帳、京セラ会計学、行動指針、ものづくりの心得といった手帳サイズの冊子を全社員が携行しています。これらは入社のタイミングで配布し、内容については社内広報誌や朝礼、各種行事を通じて日々共有し、意識醸成を図っています。
 京セラフィロソフィ手帳は、英語、中国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語など計14カ国語に翻訳しており、海外の社員にも配布しています。
 また、京セラ会計学は、数字の専門的な知識ではなく、京セラフィロソフィが基本となっています。正しい会計をする上での心構えや、アメーバ経営*の考え方を記載しており、日本だけでなく海外にも通じる普遍的な内容です。アメーバ経営だけでは競争ばかりをあおり、部分最適になりがちなため、社内がギクシャクしてしまうので、アメーバ経営と京セラフィロソフィの両輪で経営することが重要となります。

* 組織をアメーバと呼ぶ小集団に分け、各アメーバのリーダーは、それぞれが中心となって自らのアメーバの計画を立て、メンバー全員が知恵を絞り、努力することで、アメーバの目標を達成していく。そうすることで、現場の社員一人ひとりが主役となり、自主的に経営に参加する「全員参加経営」を実現させる、京セラ独自の経営管理手法
●朝礼
吉川
 朝礼が情報伝達の中心となっており、工場、事業所、営業所など、各拠点で毎日始業時に行っています。仕事を始める上でのけじめや職場の一体感を高めることを目的として、伝承している重要な企業文化のひとつです。朝礼では、事業部門においては、自分たちが立てた目標に対する進捗を毎日必ず数字で共有します。さらに、全部門で京セラフィロソフィの輪読や自身の体験、それを通じて感じたことなどを披露します。海外では、米国、中国、ベトナムなどで実施しています。
●コンパ
吉川
 コンパは、職場の仲間たちと人生や夢、仕事について膝を突き合わせて真摯に話し合い、喜びや悲しみを共有して心の絆を深め、職場の一体感を高めるための場となっています。単なる飲み会や雑談にならないように、コンパの意義を考え目的をはっきりさせることが肝要で、忘年会や新年会、歓送迎会、プロジェクトのキックオフ、慰労会、行事の打ち上げなど、あらゆる機会に開催し、国内だけでなく海外でもコンパの輪は広がっています。
●運動会
吉川
 運動会は単なる遊びではなく、団結力や仲間同士の信頼関係を、より強めるという明確な目的の下、社員全員が参加する社内行事です。また、社員だけでなく、家族の参加も歓迎しています。工場や事業所のある地域単位で開催し、海外では中国、ベトナムなど、特にアジアでの開催が多く見られます。どの地域も定時後には、競技や応援合戦の練習を盛んに行っています。仕事だけでなく、何事にも一生懸命に取り組み、同じ目標に向かって仲間が心をひとつにして努力し、成果が出たときの喜びを皆で分かち合うという、京セラフィロソフィを体現する場となっています。
京セラフィロソフィをマンネリ化させないために、どのような工夫をされていますか。

吉川 3年前に、会長をトップに「全社フィロソフィ委員会」が立ち上がりました。もう一度、京セラフィロソフィを学び直すためで、トップが一番関心を持ち、その重要性を感じています。
 京セラフィロソフィとは、そもそも研修がメインではなく、普段の業務を遂行する中で実践し、血肉化していくことが大切です。そのため、研修は一方通行な講義ではなく、ディスカッション形式を取り入れたり、自分自身を見つめ直したりできるような内容に変えてきています。
 また、個人のフィロソフィ体現の経験談や、グループ単位で企業理念を実践した業務上の取り組み事例を発表してもらい、会社として表彰する制度もあります。試行錯誤しながらも、マンネリ化を乗り越え、より社員に響く取り組みに進化させる必要があると考えています。
 京セラでは創業以来、あらゆる機会を通じて社員とのコミュニケーションを大切にしてきた歴史があります。それをベースに、これからも世界各地で、多岐にわたる事業分野に携わる社員の一体感をさらに醸成していけるよう、広報室として積極的なコミュニケーション活動を展開していきたいと思います。

聞き手:経済広報センター 常務理事・国内広報部長 佐桑 徹
(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)
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