経済広報

『経済広報』(2017年2月号)掲載
企業広報研究

ESG情報開示のポイント

秋山和久

秋山 和久(あきやま かずひさ)
(株)タンシキ 代表取締役 

 上場企業で広報・IR・CSR(企業の社会的責任)などコーポレートコミュニケーションに関わる担当者は、「ESG情報開示」という新たな難問に直面している。非財務情報開示は、各種指針が「百花繚乱」の状態だ。CSRの流れをくむGRIガイドラインなど、IIRC(国際統合報告評議会)の統合報告フレームワーク、ESGは評価機関によって着眼点が異なる。何を参照して、どう情報開示すべきか悩みが尽きない。さらに企業内部では、非財務情報開示が進むほど、広報、IR、CSR、経営企画、事業部、知財部など関与部署が増える。どの部署がどの媒体でどの情報を発信するか、連携や分掌の問題が生まれる。
 経済広報センターの『第12回企業の広報活動に関する意識実態調査』では、統合報告書を「発行している」企業は16.5%、「発行していないが、検討している」が約4割(39.8%)。検討段階にある企業が多いため、本稿では非財務情報開示で注目されるESGの概念を簡単に整理し、情報開示の要点を示したい。

ESG情報開示とは

 CSRやサステナビリティの報告は、マルチステークホルダーを対象とすることが多い。ESGは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の頭文字をとったものだが、幅広い対象への報告の延長でESG情報開示を捉えると混乱しやすくなる。CSR担当者は特に留意が必要だ。
 財務情報は主に現在に至るまでの成果を表すため、投資家が企業経営を中長期的な観点で評価する際は、非財務情報を参照する。ところが、非財務情報は企業によって開示する情報がバラバラだ。そこで、全企業がなんらかの形で関わる環境・社会・ガバナンスに絞って、共通軸を設けて評価するものがESGと考えると理解しやすい。
 つまり、ESG情報開示は、(1)投資家を対象にしたものである、(2)投資家が中長期的評価をする非財務情報の「一部」として使用される、という2つの基本を認識しておきたい。

投資家の関心事とは何か

 では、対象となる投資家が求める情報は何か。
 経済産業省が実施した『投資家等を対象としたESG情報の活用状況に関するアンケート調査2014』では、投資判断でESG情報を約8割が重視。この理由では、「長期的な投資先の企業の価値創造の向上の要因として捉えるため」が最も高かった。統合報告に求めることを単一回答で尋ねた結果では、「網羅的な情報開示」(34.5%)よりも、「企業価値創造等に関するストーリー性」が半数を超える51.7%で最多だった。この「ストーリー性」が、一番イメージが湧きにくい点だろう。例えば、企業は社会貢献活動について、社会的責任の観点や社会信用の獲得を目指した文脈で発信することが多い。ところが、投資家にとっては、社会的価値だけが記述された情報は解釈に困る。「ESG要素は投資家の長期的意思決定に役立つ限度においてステークホルダーにとっての重要性と両立し得るのであって、持続的企業価値に必ずしも結びつかない社会価値は特定ステークホルダーの重大関心事項だったとしても、統合報告における重要性は認められないことになる」(越智,2015)との指摘もある通り、投資家は業績やリターンと結びつかないと、評価の対象から外してしまうこともある。これは、企業側からすると、正しい理解や評価を獲得する機会を損失していることになる。
 投資家は、基本的に「業績向上・リターンに繋がるのか」の一点に関心がある。このため、企業の考え方や取り組みを、(1)機会創出・リスク低減に繋がるか(それぞれ売り上げとコストの増減にどう影響するか)という視点、(2)内部要因に加えて外部要因も捉える視座、(3)中長期の時間軸の変化を洞察する視野——で定性的に分析をしていく。こうした関心に応えていく必要がある。
視点・視座・視野で見る投資家の関心事


ESG情報開示の肝

 当然、水、気候変動、人権などのESGの「テーマ」も重要だが、投資家にとっては将来を見越した投資判断の「根拠」となり得る情報を求める。この根拠は、(1)自社にどのような影響を与え得るのかという環境認識、(2)具体的な取り組みの継続性・発展性、(3)上記2点を包含した持続的成長を実現し得る固有の経営能力の存在——の3点が挙げられる。
 1点目の環境認識は、前節で示した投資家の視点・視座・視野に即して表現することが必要だ。
 2点目の継続性・発展性に関しては、投資家は、必ず数年分の各種報告書から変化を読み取る。時折、企業担当者から、数百ページもある報告書を投資家が全部読むのかと疑う声もあるが、読まなければ評価できないので彼らは全部読む。今年に入って各種報告書でガバナンス強化の変遷を紹介する企業が増えたが、こうした情報は投資家が努力・改善の過程を評価しやすくなる。時系列を意識したい。前年踏襲で内容に変化がない報告書発行は避けたい。
 3点目の能力に関しては、上記の2点を含めた形で「マネジメント」の質を見る。EやSのサプライヤー管理でいえば、調達方針や委員会構成などの基盤はもちろん、サプライチェーン全体・グループ全体で具体的にどのような取り組みをし、サプライヤー、顧客、地域社会にメリットがある仕組みになっているか、この背景として中長期的な環境変化をどう認識し、自社の機会創出・リスク低減に繋がる実績が出ているか、あるいは期待される成果は何か、といった情報が必要だ。投資家は固有の経営能力にまで落とし込まれていれば「根拠」として確信できる。これが、投資家が求める「ストーリー性」である。
 この3つは、良い「頭脳」がなければ実現できない。これが「ガバナンス」である。投資家がガバナンスを重要視するのは極めて自然なことだ。

現状把握が出発点

 ここまでESGの概念と情報開示の要点を見てきた。ところが、情報開示の強化に当たっては、どの「ネタ」を優先すべきかという悩みも生じるはずだ。この悩みは、自社の認知・評価の現状を測定できていない場合に特に生じやすい。
 経済広報センターの調査では、広報活動の効果測定の指標として「自社で定期的に行っている企業イメージ調査の結果」を挙げたのは21.6%だった。企業内部で非財務情報開示に多くの部門が関わり、あらためて企業独自で認知度調査を実施したい。社会に近い個人投資家と自社のことを深く知っているはずの社員を対象にすると内外ギャップを確認できる。また、媒体の閲覧前後で認知・評価の変動を確認すれば、自社固有の「響きやすい情報」や「思っていたよりも伝わっていない情報」も見えてくるはずだ。こうした現状把握がすべての出発点となる。十分に理解・評価されていないことを特定できれば、その開示を優先すべきと決めやすくなるのだ。
 ESG情報開示は、マネジメントの質向上の努力を外部に開示するものであり、経営体質の強化にも繋がる。ぜひ他社の事例を参照したり本稿をヒントにしたりしながら取り組んでほしい。
(あきやま・かずひさ)
 機関紙記者、PR会社、学校法人広報、企業広報コンサルティング会社を経て2016年6月に現職。
 学校法人在職中に、社会志向のマーケティングや企業倫理・CSRの広報を多数手掛けたほか、企業広報のコンサルティング会社では、東証一部上場企業の企業サイトリニューアルや広報体制構築のコンサルテーションを実施。この間、ESG情報開示の企画支援やIR・CSRの媒体整理の助言を行うほか、開示情報の閲覧効果を測定する独自メソッドを考案。
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