経済広報

『経済広報』(2017年4月号)掲載
企業広報研究

スポーツイベント協賛で成功するブランド戦略とは
~ブランドストーリーを基軸にした協賛活動の効果最大化~

並木将仁

並木 将仁(なみき まさひと)
(株)インターブランドジャパン 代表取締役社長兼CEO

スポーツイベント協賛がブランドに与える影響とは

 スポーツイベント協賛で失敗するブランドと成功するブランドの境界線とは何か、五輪を例に考えてみたい。TOKYO 2020とその協賛は、意味や期待、そして費用の大きさにも増して、ブランディングの観点からは課題がある。
 まず、日本のグローバル企業の多くが、国内でしか使えない権利に協賛金を投入している。しかし、FIFAワールドカップのような看板露出などもない協賛のため、「国内で広告」を打たないと協賛していること自体を伝えることが難しい。
 また、本大会の協賛は「一業種一社」の原則が特例的に適用されないケースが多く、協賛するだけでは「差別化」にはならない。さらに言えば、どの企業が協賛企業なのかと顧客が混乱するリスクさえも抱えている。我々インターブランドがロンドン五輪やリオ五輪での協賛活動がブランドに与える影響を分析した結果、「五輪を筆頭とするスポーツ協賛は自社のブランドストーリーにしっかりと組み込まない限り、一過性の盛り上がりで終わってしまったり、効果ゼロか、ブランド価値の毀損を引き起こす危険性もある」という事実が明らかになっている。

自社ブランドストーリーの中で五輪協賛を語る

 東京にとっても、もちろん日本にとっても、TOKYO 2020は非常に重要で、絶対に成功させなければならないイベントであることは異論の余地もない。だからこそ、他社とは違う各企業が持つ固有の「ブランド」をしっかりと活用し、自社のブランドストーリーの中でオリンピック協賛を語ることが、今読者の皆さまの多くが関わられるオリンピック協賛に必要なのではないだろうか。
 具体的な成功事例やアプローチに入る前に、ここでスポーツ協賛における「冷酷な現実」を確認しておきたい。ぜひ覚えておいていただきたい視点としては、以下の3つが挙げられる。
論点1. 【関心を持ってもらえない】企業が期待しているほど、人々は協賛に関心を持っておらず、中立的に評価しているわけでもない
論点2. 【リスクも大きい】協賛対象が五輪のように大規模であればあるほど、露出が多い分、曝されるリスクも大きい
論点3. 【メリットもデメリットも享受できない】協賛の活用方法によって、デメリットを被らないかもしれないが、メリットも享受できない
 ここから上記を一つずつ検証し、同時に対応策を考察していきたい。
論点1.【関心を持ってもらえない】
 NIKE、ヴァージン、マスターカード。この3つのブランドがロンドン五輪において共通する点はなんだったか、お分かりだろうか。もうお忘れかもしれないが、実はこの3ブランドとも、五輪協賛を行っていない。しかし、我々の調査結果では、この3ブランドは五輪後にブランドイメージが向上したのである。例えば、スポンサーであるビザカードと比べても、マスターカードは十分以上のメリットを享受しているといえる。それだけ人々の協賛に対する理解はあやふやなのである。
 ではどうすればよいのか。協賛企業は、競合との違いが分からない「協賛している」という事実をコミュニケーションするのではなく、自社のブランドとの親和性の中で、ブランドストーリーを介して協賛を語ることが大切なのである。
 例えば、ロンドン五輪でBBCが成功裏に進めたように、スポーツだけでなく、文化的な視点を含めて“オリンピックイヤー”への流れを盛り上げていくといった取り組みは、スポーツへの協賛よりもスポーツ以外への協賛の方がブランドへの貢献が高い場合が確認されることが多い、というインターブランドの経験からも非常に参考になる。
 もしくは、日清製粉のマラソンへの関わりのように、自社ブランドの商品がイベントのレベルアップに貢献するというストーリーを打ち出した取り組みなどは、ブランドにとっての協賛の意味をダイレクトに伝えていた例として参考になる。
論点2.【リスクも大きい】
 実は、ロンドン五輪での一部の協賛企業にとって、協賛はネガティブな結果となってしまっている。例えば、遺恨が残っている出来事や事件が五輪における露出増大をきっかけとして再燃してしまったDowやAtoSは、潜在リスクが表出してしまった例である。他には、ブランドとのイメージギャップが大きいと認識されていた状況に手を入れなかったため、協賛であることをネガティブに捉えられてしまった例もある。
 そして、会場における独占権などの協賛メリットの享受が、顧客にとってのデメリットと認識される企業活動となってしまい、結果としてブランドを毀損した例など、参考事例は存在している。
 それらと対比すると、五輪が国にもたらす意義をしっかりと認識したBA(=ブリティッシュ・エアウェイズ)は、人々の移動をサポートする航空会社であるにもかかわらず自宅で五輪を応援することを推奨するストーリーを展開し、自社ブランドへの認識をうまく逆手に取りブランドに対する好意度を高めた好事例といえる。
 より身近な事例では、自社ブランドの「人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念と、後発ではあるが業界に風穴を開けてくれそうな若くエネルギッシュな野球チームとをシンクロさせた一連の繋がりの中で自社のブランド価値を訴求している楽天も好事例といえるだろう。
論点3.【メリットもデメリットも享受できない】
 読者の皆さまには、企業ロゴの露出だけでは、対象大会やチームとの無機質な繋がりしか伝わらないということは、繰り返すまでもないだろう。確かにこのアプローチ自体にリスクは少ないが、上記で見てきた通り、リスクはより潜在的な部分に端を発する場合が多い。
 さらにロンドン五輪の個別事例を見ていくと、コンテンツの質と同様にコミュニケーションのタイミングも重要であるという示唆がある。メッセージの色濃さも配慮するべきポイントである。GE、BP、DowといったBtoB色のあるブランドでは、ブランドとして何を伝えたいかが明確なメッセージになっていないと、協賛のメリットを享受できない。
 このような失敗を避けるには、例えば、著名な、あるいは成長しつつあるアスリートと自社ブランドを結び付け、自社ブランドのパーソナリティを伝えるといった王道の打ち手が考えられる。しかしながら、全ての協賛がブランドパーソナリティと親和性の高い選手を見つけられるわけではない中では、明確にブランドの個性が際立つメッセージをブランドストーリーとして持つことで、BMWやEDFが実現したようなブランドの浸透を狙うのは、良いロールモデルになるのではないか。

スポーツ協賛のベストプラクティスとは

 では、ベストプラクティスはどこにあるのか。ロンドン五輪での最大の成功例として、「Thank You, Mom」を展開したP&Gが挙げられる。P&Gが成功した理由を端的にまとめると、以下の通りである。
1. P&Gはオリンピック協賛だけではなく、母親のサポーターであることをしっかりと伝えた(=ブランドストーリーが明確であった)
2. P&Gは「協賛企業である」という以上のメッセージを競合に先駆けて発信した(=ブランドストーリーの重要性に立脚したコミュニケーションであった)
3. P&Gは一貫してブランドストーリーを伝え続けた(=コミュニケーションが明確にブランドストーリーを軸に構築されていた)
 ここまでを振り返ると、様々な取り組みの可能性が見えてくる。例えば、広範囲の認知は協賛を強調するのではなく、ブランドとの親和性からアプローチするべきではないか。例えば、デジタルチャネルを中心としたエンゲージメントの深耕を、既存および潜在顧客に集中して進めるべきではないか。例えば、ブランドをテコ入れして、五輪に備えるべきではないか。例えば、ブランドに社会価値と経済価値の両立を目指したCSV(Creating Shared Value)戦略を組み込み、より一層協賛の意味合いを鮮明にするべきではないか。例えば、ブランドポジションと五輪のメッセージを親和させるべきではないか。例えば、ブランドストーリーを軸としたメッセージ戦略を明確にし、一貫性を担保するべきではないか。例えば、国や自治体に対するロイヤルティへの醸成を支援するべきではないか。例えば、ブランド的な刺激要素を織り込み、ブランドストーリーの個性を強化するべきではないか。
 様々な可能性の中で、今のタイミングで必要とされている骨子は、協賛企業であることをコミュニケートする(=広告宣伝にフォーカスする)だけではなく、しっかりとブランドストーリーを伝えるために何を伝えるかを構築することである。そのために必要な進め方を、参考に本稿の総括として図に取りまとめた。ぜひ、五輪協賛を筆頭としたスポーツ協賛に取り組まれている読者の皆さまには、進め方のガイドラインとしていただければ幸いである。
 しかしながら、実際には図をスタート地点から開始するのを待ち続けてきた協賛企業はないだろう。では、今の状態がどうなのかを立ち止まり、そして振り返ってほしい。最後に、そのための自己診断として「以下の質問に皆さまとして明確な回答がすぐに出せるか」を試してほしい。5つ共、瞬間的に回答できれば、満点。もし1つ、2つしか答えられない場合は、ぜひ取り組みの再検討を始めていただきたい。
Q1. そもそもどのような効果を狙うかが明確になっているか?
Q2. そのために、今、自社ブランドがどのような状態か理解・把握しているのか?
Q3. それを実現するブランドストーリーは存在するのか?
Q4. それはどのようなロードマップになっているのか?
Q5. そして、打ち手(=内容と手段)は自社の現状において有効な手段なのか?
図 ブランドストーリーの実現ステップ
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