経済広報

『経済広報』(2017年12月号)掲載
企業広報研究

ネット炎上のメカニズム

吉野 ヒロ子

吉野 ヒロ子(よしの ひろこ)
帝京大学 文学部社会学科専任講師

 経済広報センターは10月17日、「企業広報講座」を名古屋市内で開催した。帝京大学文学部社会学科の吉野ヒロ子専任講師が、ネット炎上のきっかけや、その対応について講演した。参加者は16名。

「炎上」の定義

 炎上とは、大まかにいえばネット上で批判的な投稿が盛り上がることを指す。場合によっては、電話での抗議などネット外の行動に及ぶこともある。チューリッヒ大のRostらは、「炎上は、大量の批判、侮辱的なコメント、罵倒が、個人や組織、集団に対して行われ、数千または数万の人々によって数時間以内に伝播されるものである」と定義している。
 また、荻上チキ著『ウェブ炎上』では、「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる」と説明している。
 複数のネットサービスで批判が盛り上がり、不特定多数の人からその様子が見える状態が炎上で、単なるネット上のいざこざとは異なる。

「炎上」の典型的なプロセス

 炎上のきっかけは、ソーシャルメディアでの言動や企業活動などがあり、mixi、Facebook、Twitter、Instagram、ニコニコ動画、YouTubeなど様々なネットサービスへの投稿から炎上が起きている。mixiやFacebookなどのSNSへの投稿は、つながっていない人には本来見られにくいが、投稿をTwitterや2ちゃんねるに転載されることで拡散してしまう。
 こうしたきっかけから、ソーシャルメディアでの批判につながる。ソーシャルメディアは、利用者が多く、不特定多数の議論の盛り上がりが可視化されてしまう。Twitterには、盛んに投稿されるキーワードをランキングにした“トレンド”という機能があり、“トレンド”に掲載されると、多くの人の目に触れてしまう。
 ある程度盛り上がると、まとめサイトやネットニュースで記事化され、さらに批判が拡大してしまう。ネットニュースによっては、影響力の大きいYahoo!ニュースに掲載されることもある。
 炎上にニュースバリューがあると、マスメディアにも取り上げられやすい。マスメディアで炎上が報道されると、企業の株価が有意に下がるという国内の研究もある。
 個人の場合は、所属先組織で謝罪や処分が行われ、企業の場合は、謝罪したりCMなどを取り下げるといった対応が取られる。謝罪後には、炎上は落ち着いていくが、ネット上の悪評は残ったままになってしまう。

企業が炎上に巻き込まれるパターン

 国内で企業が炎上に巻き込まれた事例の多くは4つのパターンに分類できる。
(1) 顧客の投稿によって巻き込まれる場合。コンビニおでんつんつん事件(2016年)など。この場合、企業は被害者であり、批判の対象にはなりにくい。
(2) 広告主として関わっているテレビ番組などが批判されて巻き込まれる場合。テレビ局などメディアに圧力をかけるために、広告主に対して問い合わせや批判が行われることがある。
(3) アルバイトや従業員の投稿によるもの。店のアイスケースに入って撮った画像を投稿する、来店した著名人の個人情報を投稿するといった事例がある。管理職や役員が差別的な発言で炎上した場合は、企業そのものの体質が問われることもある。
(4) 企業活動そのものが批判される場合。食品への異物混入がネットに投稿されて騒動になったり、納得できない扱いを受けた顧客の投稿から批判が広がったりする。

「炎上」が盛り上がる条件

 不適切な投稿が、必ず批判されるわけではない。盛り上がる「炎上」には幾つか条件がある。
 1つ目の条件は、対象が有名であること。有名であると、広く人々の耳目を集めやすい。大学生の炎上では、有名大学の学生の方が大きな騒ぎになりやすい。
 2つ目に、批判をさらに拡大する材料が出てくること。以前も不適切な言動をしていたことが発掘されたり、炎上への対応が不適切だったりすると批判が広がる。2016年に家事代行会社の役員がネットに投稿したパワハラ自慢で炎上した際、謝罪リリースの「誤解を与えてしまう発言」という表現が問題視され、役員個人だけでなく企業も批判された。同年に中高生向けSNSアプリが炎上し、いったん収束したものの、経緯をまとめたブログに削除依頼をしたため再炎上した例もある。批判をブログなどに書く人たちは、自分が正しいと思っているため、安易な削除依頼をしてはいけない。
 3つ目に、批判に一定の公益性があること。多くの人が間違っていると感じる問題への批判は広がりやすい。

Twitterで「炎上」が広がっていく情報構造

 PCデポの炎上(2016年)に関するTwitterの投稿データを見ると、たくさんリツイート(転載)される投稿には、新たな批判材料を発掘したり、うまくネタ化したり、炎上した事例から社会の在り方を論じて教訓を引き出すようなものが多い。注目が集まっている話題についてうまい投稿をすると、たくさんの人にリツイートされることもあり、いろいろな人が様々な角度から投稿する。それらの中から炎上前には問題視されていなかった不適切な企業活動が発見され、投稿が盛り上がっていったと考えられる。
 ラーメン二郎仙台店の炎上(2017年)は、同店の公式アカウントの投稿が炎上したものだが、発端となった投稿が残っているため、Twitterでの炎上の盛り上がりを実数で検証できる貴重な例だ。店のフォロワーは6000アカウントほどだったが、発端となる投稿から1分以内に2件のリツイートがあり、投稿から2分後には、2ちゃんねるで最初のスレッドが立っている。10分後には198件のリツイート、7件のリプライ(返信)、1件の間接的な言及があり、延べフォロワー数は14万7941アカウントとなった。30分後には、2ちゃんねるまとめサイトで最初の記事が公開されている。6時間32分後、同店が最初の投稿を補足する投稿をした時には、投稿の総数は5064件、延べフォロワー数551万5799アカウントとなっていた。炎上の広がりは、かなり速いものであることが見てとれる。
 また、これらのデータから、いったんTwitterへの投稿が収まりかけたところで、ネットニュースが記事にしたり、テレビ番組が取り上げたりすると、投稿の勢いが再燃することが確認できた。ネットメディアからすると、炎上ネタは取材コストが低く取り上げやすい。Twitterで盛り上がっている話題は、裏取りの必要もないし、みんなが興味のあるネタである。コタツに入っていても、記事が書けるということで、“コタツ記事”とも呼ばれている。
 そして、テレビで取り上げられると、タレントの発言がネットニュースで記事化され、その記事がTwitterで話題になっていることも確認できた。複数のメディアをまたぎ、話題が使い回されることで炎上は長期化していくと考えられる。
 2ちゃんねるなど他のネットサービスについてはまた別に検討しなければならないが、Twitterでの炎上は、まず情報の拡散(リツイート)が起こり、ネットニュースやまとめサイトなどのミドルメディアが取り上げ、さらにテレビの情報番組などのマスメディアが取り上げることで幾度も再燃しながら拡大していくことが特徴といえる。

なぜ「炎上」に参加するのか

 以前は、炎上に関与する人たちは、社会に恨みを持っている低所得者と考えられていたが、田中辰雄・山口真一『ネット炎上の研究』の調査で、炎上参加者は男性が多く、年齢は若く、子と同居している親が多く、世帯年収は高い傾向があると分かり、現在は否定されている。また、この本では、炎上参加者は国内ネットユーザーの0.5%と推計されている。
 私の調査からは、炎上に参加する人には、“祭り型”動機が強い人と、“正義感型”動機が強い人がいると分かった。
 “祭り型”は、面白半分に炎上に参加しているタイプで、年齢が若く、子どもがいるという傾向がある。心理的な特徴としては周囲の人に自分と同じ意見を持つことを求め、気が短い傾向がある。炎上対象者をたたいても自分が罰せられることはないとも考えている。炎上の対象に直接抗議するといった行動も取るが、炎上対象者を非難する気持ちが強いわけではなく、みんなで盛り上がりたいために炎上に参加していると考えられる。
 一方、“正義感型”は、社会を正すために投稿しているタイプで、自分の経済的状況への満足度が低く、向社会行動(外的な報酬を期待することなく、他の人や他の集団を助け、役立とうとする行動)の頻度が少ないという特徴がある。心理的な特徴としては、孤独感が強く、社会のことをよく考えていて、ストレスがたまっているという傾向がある。炎上対象者は常識が欠如していると考え、自分は社会正義のために行動していると認識している。炎上の対象には、直接抗議することは少なく、少なくとも当人は中立的だと思っている意見を書き込むことが多い。評論家目線で行動し、炎上対象者を非難する気持ちが比較的強いと考えられる。
 色々な炎上について幾度も投稿している人や、特定のタイプの炎上だけに反応する人など様々な参加者があり得るため、炎上参加者の特徴を一概に述べることは難しいが、もし炎上に直面した場合は、心理的な特徴の異なる人々を相手に対処しなければならない。

企業は「炎上」にどう対応していくべきか

 炎上の対応では、“祭り型”と“正義感型”の批判者に加え、批判以外の投稿者や報道を見てネガティブな印象を抱いている人たちを納得させることが必要になる。そのためには、まず、速やかな対応が必要である。対応が遅いと騒動が拡大し、騒動が拡大するとマスメディアで報道される可能性が高くなり、レピュテーションの低下につながってしまう。速やかな対応をするためには、ソーシャルメディアをモニタリングしておくことが必要である。メディアから問い合わせが入る前に、広報は状況を把握していなければいけない。Twitterや2ちゃんねるなどを対象としたモニタリングサービスの利用を薦める。
 また、適切な対応が必要である。過剰な対応を行うと、かえって騒動が拡大してしまう。東芝クレーマー事件(1999年)では、企業が個人のホームページに対して仮処分申請を行ったことが、世間の批判につながってしまった。さらに、新たな「燃料」を与えると炎上は拡大する。一般社員による自社の擁護や、謝罪リリースなどで不適切な弁明をすること、内部告発の告発者探しやもみ消し、検索避けのために謝罪リリースを画像で出すといった対応は、結果として炎上をあおってしまう。
 いずれにしても、それなりに炎上リスクのある企業であれば、対応ガイドラインの用意が必要である。過去の事例を精査して自社に起き得る「炎上」を具体的に想定し、深刻度を分けたガイドラインが望ましい。(1)問い合わせや取材への個別対応で十分なレベル、(2)謝罪リリース公開が必要なレベル、(3)記者会見が必要なレベル、といった分け方が考えられる。
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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