経済広報

『経済広報』(2018年2月号)掲載
第33回「企業広報賞」受賞者インタビュー

広報はトップの務め

出口治明

出口 治明(でぐち はるあき)
立命館アジア太平洋大学 学長
ライフネット生命保険(株) 創業者

社員に叱咤されて始めたSNS

企業広報賞で「選考委員会特別賞」を受賞されました。誠におめでとうございます。自社だけでなく、業界全体について数多くの出版や講演、SNSの活用などで、長年にわたって、幅広い情報発信を行ってきたことが受賞につながりました。「選考委員会特別賞」受賞後のご感想をお聞かせください。

出口 本当に光栄です。ありがとうございます。個人で賞をいただいたことは、これまでないので、これが初めてです。大変嬉しいのですが、全て社員のおかげです。僕は古希を迎えており、ツイッターやフェイスブックになじみのない人間です。きっかけは、若い社員からの勧めでした。20代の社員が、「全て手続きは行いました。後はつぶやくだけです。今日からSNSを始めてください」と指示してくれたのです。ツイッターや、フェイスブックを始めると若い世代とのつながりができ、すごく面白くて、プライベートでも活用しています。若い社員の勧めがなければ、絶対にやっていませんでした。

SNSの活用に当たり、抵抗はありませんでしたか。

出口 僕は面倒くさがり屋なので、若い社員からSNSの活用を勧められた時、断ったのです。すると、社員から「出口さんは普段から、『大手生保と同じことをしていたら、規模が小さい当社は負けるに決まっている。知恵を絞りなさい』と言っていますよね。私たちは全ての保険会社を調べました。経営トップで、SNSを使っている人は誰一人いませんでした。出口さんは、有言不実行ですか」と叱られました。社員の言い分は筋が通っていたので、「分かった。すぐにやるから」と答えました。

起業は偶然

起業のきっかけは、何だったのでしょうか。

出口 起業は完全に偶然でした。友人の紹介で会った人から、その場で保険会社の起業を誘われました。感じのいい人だったので、即答したのが全てのきっかけです。
 起業に当たり、調査をすると、若い世代の平均所得が低いということが分かりました。保険料の負担を半分にすることで金銭面での余裕を創出し、安心して赤ちゃんを産んでもらいたいと思いました。保険料を安くするには、インターネットを使うしかないという思いにすぐに至りました。

ビジネスモデルをつくっていく中で、困難なことはありましたか。
出口 世界中を見ても、インターネットと生命保険を掛け合わせたビジネスモデルはありませんでした。期間の短い商品を数多く提供している他の金融業とは異なり、生保は終身の商品を売る超長期の業界です。会社のことを信頼してもらわなければ、商品など買ってもらえるはずはありません。しかも、信頼できる会社である、と誰かが言ってくれるわけでもありません。そこで、講演会や出版、SNSなどでの発信を始めました。全て、会社を信頼してほしいがために始めたことでした。
 起業の準備段階から、ちょうど10年がたちました。これまで、社長、会長として陣頭指揮を執ってきました。まだまだ小さな会社ですが、トップラインが100億円超、営業CF(キャッシュフロー)も40億円を超えており、社員1人当たりの売り上げも7000万円を超えています。僕は古希を迎え、会社の次の10年を考えた時に、若い後任を選ぶことによって、お客さまも安心なさるのではないかと思いました。今の僕は、1人の個人として、会社のPRや若手の教育業務を担ってほしいと依頼されて、会社と業務委託契約を結んでいる状態です。
 当社は、マニフェストを掲げています。約束を意味するマニフェストは、「私たちの行動指針」「生命保険を、もっと、わかりやすく」「生命保険料を、安くする」「生命保険を、もっと、手軽で便利に」の4章から成っています。創業時に、現社長の岩瀬と相談し、真っ正直に経営し徹底的に情報公開を行い、分かりやすい商品、安い商品、便利なサービスをお客さまに約束しようと決めました。保険と聞くと、約款は分厚く、数多くの営業員を要するビジネスを想像すると思います。当社は、「紙」と「人」を減らすことにしたのです。

創業の想いを社内外へ

マニフェストを業務にどのように反映していますか。

出口 当社のコンタクトセンターとウェブサイトは、社外の格付けで6年連続最良の3つ星を獲得しています。コンタクトセンターは、平日9時から22時まで開いています(土日祝は9時から18時まで)。22時まで営業しているコンタクトセンターは、ライフネットが初めてでした。仕事があり平日は夜遅くでないと電話できないという人に配慮したのです。新しく入社したオペレーターには、僕から会社の理念やマニフェストを説明しています。やはり、創業者自らが説明するのが最も想いが伝わると思います。

社内にマニフェストを浸透させるためにしていることはありますか。

出口 「出口塾」を毎月行っています。これは、自主的に集まった若手社員と、1冊の本をベースに議論を行う場です。事前に読んだ本を題材にして、2時間ほど議論を行い、会社の考え方や理念をシェアするようにしています。毎回、約70名の社員が集まります。本のジャンルは決まっていません。
 当社は、マニフェストをホームページにアップしています。当社への応募者は、マニフェストを事前に読んで、当社の考えに共感した人が大半です。情報公開を徹底することによって、自動的なスクリーニング効果が得られるのです。応募者は、基本的に企業のホームページを見ます。そのホームページにマニフェストが大事であると記載してあれば、応募者は事前にマニフェストを読んできます。その時点で、当社が自分には合わないと思った人は応募してきません。

広報はトップの務め

講演会は、年間どれくらい行っていますか。

出口 講演会は、10人以上であれば原則、呼ばれたらどこへでも行くようにしています。創業者という立場になってからは今まで以上に機会が増えて、約40回講演がある月もあります。日に3回講演することもあります。テーマは、主催者が望むものなら何でも行い、最後に会社のPRを行っています。出版に関しても、「ライフネット生命の出口」という肩書きが付くわけですから、会社のPRにつながります。会社を信頼してもらうためには、こうした活動を続けていくことが大事だと思っています。

ご自身の広報観を教えてください。
出口 以前、6年連続で国際業務に従事していた時、グローバルな経営者と数多く議論した経験があります。そこで、誰よりも長時間働き、誰よりも会社のことをよく知っていて、最も会社のことを発信できるのは、トップであると教えられました。欧米の会社は、株主総会の質問もトップ自らが全て答えます。そうでないと、トップとしての能力がないと見なされるのです。ですから、トップが広報を行うことは当たり前であると自然に考えるようになりました。信頼されるためには、トップの顔が見える経営が大切です。

悪いニュースこそ早い報告を

リスク管理についてはどうお考えですか。

出口 最も優れたリスク管理は、情報公開だと思っています。全て公開していれば、隠し事ができません。隠さないことは、リスクの減少につながります。僕は、コンプライアンスとは、法令順守のことだとは考えていません。会社の全ての行動が社会にオープンになった時、適切な会社経営をしていると社会に認めてもらって、初めて適切なコンプライアンスであるといえるのです。
 また、リスク管理の根本は社員のモラルにあります。社員が元気に明るく楽しく働いていれば、ミスは減るものです。職場に怖い上司がいたら、暗い気持ちになり、ミスも起こしがちになります。社員の充実した毎日が、日々のリスク管理につながるのです。そのためには、トップが率先して元気に明るく楽しく働く必要があるのです。

ミスを起こさないために、具体的に社員に啓発していることはありますか。
出口 良いニュースは後でもいいから、悪いニュースを早く知らせてほしいと話しています。社内には、「ギャーッと叫べルール」があります。仕事をしていて、異常事態が起こった時には、すぐに大声で叫ぶというものです。叫んだら、周囲の人が寄ってきて、皆で事態の収拾に当たることができます。まずは事態を収拾して、それからゆっくりと原因を考えればいい。人は真面目ですから、有事の際には、自分で解決しようとしてしまいがちです。そこで事態が収まればいいのですが、そうでない場合は時間が無駄になってしまい、時にはお客さまに迷惑がかかってしまうこともあります。大声で叫べば、役職や部署にかかわらず、周囲から人が寄ってきて、すぐに事態の収拾が図れるのです。「誰の責任だ」と叫ぶ上司がいたら、誰も悪いニュースなんて報告しなくなります。

若い世代との交流が新たな活動を生む

株主に対して配慮していることはありますか。
出口 以前、ロンドンに駐在していた時に、株主総会は休日に開催することを経験しました。世界的に見ると、平日に株主総会を開くということは、株主に来てほしくないということを意味します。そこで、当社は創業以来、日曜日に株主総会を行っています。
CSR活動については、どのようにお考えでしょうか。
出口 企業が率先して、社会問題の解決に当たっていく時代です。その一つに多様性の問題があります。当社は、業界に先駆けてLGBT(女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、トランスジェンダーの各英単語の頭文字を組み合わせた表現)に対応し、保険金が受け取れるようにしました。これは、SNSをきっかけとした若い世代との交流から生まれたものです。若い世代との交流では、数多くの気付きを得られます。僕の昔からの友人関係では、どうしても病気や健康法などの話題になりがちです。若い世代と話をしていると、SDGsやAI、不登校の問題にまで話が及び、すごく刺激を受けます。世の中のリアルな問題が、生きた情報としてビビッドに入手できるのです。

アイデア勝負の時代にこそ、年配者が社会のロールモデルに

今後の抱負についてお聞かせください。
出口 経験の豊かな高齢者こそ、頑張らなくてはという気持ちでいます。若い世代にとっては、年長者がロールモデルとなります。年長者が頑張らなくては、若い世代も頑張ろうとは思いません。僕は還暦でベンチャーを起ち上げました。人生100年時代といわれて久しく、日本は世界一の超高齢社会です。これからは、年齢に関係なく、みんなが社会を支えるべきです。若者が高齢者を支えるという考えは間違っています。サービス産業が中心の現在では、アイデア勝負となるので、高齢者であっても活躍できます。しかも、経験や勉強で得たものは、蓄積されていきます。僕は推挙されて、2018年1月に立命館アジア太平洋大学の学長に就任しました。新たなチャレンジの場が与えられたことにワクワクしています。
若い世代に何を教えていきますか。
出口 急激な変化の時代を迎えていますが、ダーウィンの言葉(最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化に対応した者だけである)はとても大事な示唆を与えてくれます。将来何が起こるか分からない時代に、適応できるかどうかで全てが決まります。社会が生き残っていくためには、若い世代が適応力を持つことが欠かせません。そのためにも、僕の人生70年で学んできた知見が、これからの若い世代の学びにつながる一つのきっかけになってくれれば本望です。
聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤瞭太)
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