経済広報

『経済広報』(2018年3月号)掲載
企業広報研究

データ分析が明らかにする炎上の実態・対策と
ソーシャルメディア活用戦略

山口真一

山口 真一(やまぐち しんいち)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 講師/研究員
慶應義塾大学 非常勤講師(産業組織論)
東洋英和女学院大学 非常勤講師(ネットメディア論) 

 経済広報センターは2017年12月18日、「企業広報講座」を大阪市内で開催した。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師の山口真一氏が、ソーシャルメディアの炎上の実態・対策と活用戦略をテーマに講演を行った。参加者は31名。

インターネットがもたらしたもの

 インターネットは1960年代に生まれ、90年代~2000年代にかけて日本においても急速に普及し、現在では不可欠なインフラへと成長している。その利点の主たるものの一つに、時間や場所の制約なしに、どこでも誰でも自由にアクセスし様々な情報を引き出すことができることが挙げられる。また、非対面、対多数のコミュニケーションが瞬時にできるようになり、一般の消費者が発信者として誰でも平等に、世界に情報を発信できるようになった。情報やサービスの受信者であった消費者が、発信者に転じることになり、いまや1億総発信時代に突入したともいえる。
 インターネットは社会の変革をもたらし、消費、社会、政治など様々な分野を変えつつある。消費面においては、クチコミサイトやレビュー、SNSを通じた情報共有など多種多様な情報源から、企業の情報だけでなく、「人々のナマの情報を取得」することができるようになった。例えば、情報のシェアを目的に、インスタグラムに写真や動画をアップし、自由に発信・受信を楽しむという文化が形成されつつある。最近では、見栄えの良い写真や動画を撮るためにわざわざイベントに出掛けたり、話題の店に行ったりするというような「発信するために消費する」といった新しいトレンドも生まれている。さらに、メーカー顔負けの高度な知識や技術を持つ消費者が、自ら生産者となり、洋服やアクセサリーなどを製作し、宣伝・販売する「プロシューマー」の増加もSNSがもたらした影響が大きい。こうした消費行動の変化は、モデル分析の結果によると、市場規模の大きい外食分野や商品単価の高いパソコン・家電分野で大きな消費喚起効果をもたらしており、ネット上のクチコミによる消費の押し上げ額は年間約1.5兆円にも上ると見られている。

新たなリスク「炎上」

 情報のシェアが人々の消費を押し上げる一方、時に「炎上」することで社会に大きな影響力を持つようになっている。「炎上」とは、ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、インターネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることである。企業はそうしたリスクへの対策を施すために、サービスの提供や消費者とのコミュニケーション、従業員教育など全てにおいてネット言論を気にしなければならなくなっている。1億総発信時代の到来に伴い、炎上事例も様々なケースが増加。特に、スマートフォンやフェイスブック、ツイッターが普及し始めた2011年から急増しており、15年には年間1000件程度発生しているといわれている。

炎上の分類

 炎上対象が「何をしたか」によって分類できる。①反社会的行為や規範に反した行為、②何かを批判する、暴言を吐くデリカシーのない発言をする。特定の層を不快にさせるような発言・行為、③自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈、④ファンを刺激、⑤他者と誤解される、の5つである。特に企業においては①と②が多い。ちなみに、ステルスマーケティングとは、消費者の情報選択を誤らせてしまうように宣伝と気付かせずに行うコマーシャル行為のことである。日本でも消費者庁が2011年に発表したガイドラインで、実際の物よりも明らかに優良であると誤認させるようなクチコミは「不当表示として問題となる」としている。

炎上の社会的影響

 炎上という言葉にはネガティブな響きがあるが、炎上がもたらした良い影響もある。それは、企業など強者の不正行為に対し、消費者という弱者の声が通りやすくなったことである。また、炎上によって今まで明らかにならなかったような問題が明らかになることも少なくない。しかし、一般的には炎上がもたらす悪い影響の方が大きい。ミクロ的な影響を見ると、炎上対象者の心理的な負担増加や、社会生活への影響が挙げられる。企業であれば、企業イメージの低下や株価の下落、企業の倒産をもたらすなど社会的影響の大きさを物語る事例も数多く発生している。マクロ的な影響を見ると、炎上を避けるために表現が萎縮され、企業が発信自体をやめるケースも出てくる。そうなると個性的なサービスがなくなり、中庸的になってしまうという弊害が起きる。結果的に企業が競争力を失っていくことにつながり、多様なニーズを求める消費者に対するサービスやコンテンツがなくなることが懸念されている。

「ネット世論」は本当に世論なのか?

 「ネット世論」は、本当に大衆の意見を反映したものなのかどうかを聞かれることがある。20代から60代を対象とした「炎上に書き込んだことがあるか」という調査(2014年)では、過去全期間で約1.1%、1年間では約0.5%しか書き込んでいないという結果が出た。またすでに、有識者の間では、ネットで罵詈雑言を書き込んでいる人は数人のケースが多く、ネット世論は、一部の偏った意見であるという認識が“常識”となっている。
 さらに、ネット世論は、電話や訪問などによる一般的な世論調査のような「受動的に述べた意見」とは違って「能動的な意見」である。確固たる信念を持って強く批判する人ほど、強い思いを持って多く発信する傾向があり、中庸的な意見は消えていくことで偏った意見が残りやすい。
 炎上加担の動機についての調査(2016年)によると、どの炎上事例でも、約6~7割が「正義感」に基づいていることが分かった。「間違っていることをしているのが許せなかったから」や「その人や企業に失望したから」という正当性の主張による理由である。炎上加担者の属性については、「男性」「年収が高い」「主任・係長以上」が炎上に参加しやすいという特徴が明らかになっている。社会的地位があり、知識のある人が攻撃を加えているという実態が浮き彫りになった。価値観についても、社会に対して否定的、攻撃的で不寛容な人というプロフィール結果が出ている。そうしたネット意見を「世論」だと判断し、萎縮する側も問題である。強い思いを持てば持つほど声が大きくなるような場所がインターネットであり、それは必ずしも代表的な意見とは限らないからである。

炎上の予防・対処方法

 炎上のメカニズムは、図Aの通りである。火種が投下されると、それに反応したごく一部の執拗に書き込む炎上加担者が現れ、批判・誹謗中傷が集中しているように見えてくる。さらに炎上し拡散されていくと、何度か書き込むだけのライトな炎上加担者の目に多く触れることで批判が増える。さらに、まとめブログやネットニュースで取り上げられた上で、それをチェックしているマスメディアにも取り上げられ、大炎上につながっていく流れである。
 炎上の予防方法・注意点として、次の5つがある。①炎上しやすい話題を知っておく。具体的には、食べ物・宗教・社会保障・格差・災害・政治・戦争・性別など多岐にわたる。また、災害時は特にセンシティブである、②誤った情報・捏造を発信しないように注意する。拡散にも責任が伴う、③コミュニティーの規範を知っておく。規範はサービスごとに異なる、④SNSを利用した広報は複数人で行う、⑤ガイドラインを制定したり、従業員への教育を徹底したりする、である。
 対処のための基本は、炎上の発生に対し、普段からその発生源を検知するための仕組みづくりをしておくことである。その一つの指標となるのが、広報アカウントに10件程度以上の批判が書き込まれたかどうかである。そうなったときには、事実確認を行うことが重要である。つまり、その書き込みの原因が、企業側に非があるのか否かを判断し、その後の対応を考えることである(図B)。明らかに企業側に非がある場合、迅速な謝罪、事実関係の確認・発表が必要である。その際には、言い訳や隠蔽行動をしないこと、生活者への批判・反論をしないことが重要となる。事実を抹消しようとしたり、隠蔽したりする行為がネットに漏れ伝わり、大炎上につながることが多いからである。

情報社会のこれから

 1700年代半ばに産業革命が起き、産業社会(モノの豊かさを重視する社会)が200年以上続いたことを考えると、2004年にSNSがスタートしたばかりの現在は、まだ情報社会の黎明期にあると考えることができる。こうした黎明期は、価値観やビジネスモデルに大きな変化が起きている途上であり、様々な問題が発生する。産業社会の黎明期も、生産性が著しく向上する一方で、児童労働やフリーバンキングなど多くの問題が起こった。「過剰な批判」を批判する空気の形成やネットファシリテーターの登場、ネガティブな議論でなく有意義な議論ができるサービスの登場など、「表現の自由」を保障したまま発展していく必要性がある。
図A 炎上の予防・対処方法
図B 炎上の予防・対処方法

(文責:国内広報部主任研究員 吉満弘一郎)
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