経済広報

『経済広報』(2018年4月号)掲載
企業広報研究

変化するこれからの企業広報

雨宮和弘

雨宮 和弘(あめみや かずひろ)
クロスメディア・コミュニケーションズ(株) 代表取締役
日本広報学会 理事、IABC 日本支部代表

 これまで25年間、国内外の企業コミュニケーションに関わり、調査してきました。ネットメディアの興隆に始まり、マスメディアの変化だけでなく、私たちの仕事や職能の在り方も大きく変化してきています。直属の上司よりも先に社会やお客さまが自分の仕事に反応し、判断を迫ることなど考えられたでしょうか? 広報のみならず、コミュニケーション全般、例えばそれは仕事のプロセスや危機対応の方法にも影響を及ぼしています。これから私たちの仕事や社会との関わりがどう変化していくのか、参考にしていただければと思います。
 直言を恐れなければ、多くの日本企業の企業広報は世の中の変化に対し対応が遅れていると言わざるを得ません。企業内人材に専門性が確立されず、せっかくのキャリアや経験は数年でローテーションされてしまう。経営への関与が薄く経営からの理解も薄い。ネットはITマターだとして情報システム部に任せっきり。それでは経営に資するコミュニケーションにはならないので企業は広報にコストをかけようとはしないというのが現状です。
 少々厳しめの発言ですが、企業広報分野で社会変化対応が進めば、日本企業のサービスの細やかさや、今まで培ってきた顧客からの信頼もアドバンテージとしても生きてきます。
 それでは今私が感じている企業広報の変化を10のポイントにまとめてご説明いたします。

1. メディアの変化:どうアウトプットするか?

 今、企業のニュースはマスメディアへニュースリリースを通して届けられるのと前後してそれぞれの企業のホームページでも開示されます。となると一部のストレート(速報)ニュース以外はニュース価値が減少してしまい、よほど公共性の高い内容以外はマスメディアで取り上げられにくくなってきています。当然ニュース性に加えてストーリー性も備えた「フィーチャー記事」がマスメディアの中心になってきます。そうなると“普段ごと”として企業は「なぜこのような製品(サービス)を出すのか」という背景情報をインタビューなどで提供する必要が出てきますし、問い合わせを受けなくてもオンラインメディアに開示しておかなければカバーされません。コンテンツマーケティングやコンテンツブランディングが盛んになってきているのはこのためです。

2. メディアの変化:どうインプットするか?

 広報の役割は社会に企業活動を知らしめることだけでなく、社会に耳を傾け、社外のニュースを担当部門のみならず経営や社員に知らしめる必要もあります。近年、紙の新聞に目を通す方が年々減っています。メディアの電子化に伴いポータルやニュースキュレーションメディア(アプリ)を見たり検索したりしているようです。当たり前ですがこれらはほとんど無料で、広告収入により成り立っていますので、人気のあるニュースが中心となり、ユニークで(その会社にとって)価値のある情報は目につきづらくなってきています。独自の情報入手方法を確立することが肝要です。

3. オンラインコミュニケーションの変化:発信から共有へ

 一昨年、オンラインに上がっているデータの9割近くがこの2年に作られたものだ、という発表がありました。
 「インターネットで情報発信」と言っていた時代は10年前に終わっています。やみくもに情報発信しても情報飽和の時代にはなかなか伝わらなくなってきているのです。多くの欧米企業は「今、何を考えているのか」をより明確にし、古い情報を削除し始めました。その方がステークホルダー(社会の関与者)の反応や行動化が顕著だからです。
 今はソーシャルメディアに代表されるように人々がストレートにモノを言える時代です。言いやすい環境を作ることもブランド形成やビジネス意図の浸透に大事なのです。

4. オンラインメディアの変化:オウンドメディアの在り方

 コーヒーを片手にパソコンの前に座ってネットサーフィンなどと言っていた時代が懐かしくなってきました。今、ネットアクセスの3分の2以上は携帯端末になりました。
 企業のホームページは携帯対応を進める中で文章の断捨離や短文化、ビジュアルの多様化に向かい、瞬時に判断や納得がいくようにコンテンツを磨いています。昨年アマゾンが買収したホールフーズというスーパーマーケットチェーンなどは製品や環境や労働環境に関する自社の考えをブログのようにホームページ(オウンドメディア)で日々綴り、定量データはフェイスブックやピンタレストなど、伝播性の高いソーシャルメディアにまとめていました。企業のオンラインメディアを管理コストの面から考えると衝撃的なことです(ほとんど制作コストはかけていません)。もうウェブサイトリニューアルに数千万円もかける時代ではなくなるかもしれません。

5. 社内コミュニケーションの変化:トップダウンからの脱却

 この20年、ネット活用の浸透や、安価で多くの機能を有するイントラツールの発展で、かえって社員コミュニケーションの目的が不明瞭なままである気がします。私たちは社外も社内も情報飽和の状態で、何のためにこの情報が必要なのか、思考停止してしまいます。社内コミュニケーションがうまくいき始めている会社の特徴には、以下のような傾向があります。
a. 経営と社員が共有すべき経営課題や会社の目的を明確にしている
b. 情報量を絞り、ツールの機能を限定している
c. 社員同士が自由に情報交換し、経営に提言している(ボトムアップ)
 このような環境を醸成するためには社員が経営から働きや行動を具体的に評価され、認められている状況を作り出す必要があります。

6. 危機対応の変化:社会との普段の関係構築が重要

 一昨年以来、大手企業の不祥事ニュースが続いていますが、各社の対応を見ていると、どうしても後手に回っている、あるいは衆目にさらされる時間だけを看過しているとしか見えません。このような状況から推察すると、自社にどのようなリスクファクターがあるのか、“普段ごと”としてリスクマネジメントを考えている企業は少なく、いざ事故や不祥事が起きてから対策を考えるクライシスマネジメント対応が大半です。
 企業は販促のためにウェブやソーシャルメディアを活用してユーザーや社会とつながろうとしますが、担当は営業やマーケティング部門であるため、多くの場合、有事の対応はできません。企業広報が普段から積極的に苦言も含めて社会の声を受け止めている企業は、いざ事故や不祥事が起きても、その解決後のブランドリカバリーが早いといわれています。

7. グローバル広報の変化:コミュニケーション言語の変化

 日本企業のホームページやアニュアルレポートを見ると、母国語(日本語)のコンテキスト(日本のコミュニケーション文化に基づいた文脈)のまま英訳されたり各国語化されたりしている例がほとんどです。いわゆる直訳(翻訳)のままですが、日本人の謙譲や直接ものを言わない文脈のままではうまく伝わっていない場合が少なくないようです。
 多くの欧米企業はリーマンショック前後からマーケットをいわゆるオフショアに移しているため、自国の言語や英語の文章をそれらの地域のノンネイティブのステークホルダーにも理解しやすいように平易な英語に変化させています。また、この数年のネット上の自動翻訳機能の進化には目覚ましいものがあり、海外の人が趣旨を理解したいために直接日本語のページをオンライン翻訳機能にかけることが多くなっています。
 日本国内でも多様な文化背景や価値観を持った人が増えています。そんな社会に理解されるためにどのような文章で伝えたら理解されやすいかを各企業なりに研究していく作業が急がれます。

8. 社員向け広報教育の可能性:社員一人ひとりが広報パーソン

 ある企業がツイッターでの不用意な発言を取り沙汰され、いわゆる炎上状態に追い込まれるまで2時間かかりませんでした。しかし発覚から3時間後に真剣に受け止めた企業広報部が謝罪と経緯を説明したニュースリリースをマスコミやホームページに発表したため、8時間後(その日の夕方)までに鎮静化することができました。このように経営や広報が迅速に対応できる事例はまだ珍しく、炎上の不安からソーシャルコミュニケーションに関与することを臆する企業が多いのも確かなことです。しかしほとんどの社員が個人的にソーシャルメディアに関わっている現状で、所属する企業のことを言及されたり意見を求められたりすることが珍しくなくなってきているのです。かつては経営の一部や広報が会社を代表して発言や対応(スポークスパーソン)をしていましたが、ソーシャルとの関わりの中でその対応スピードは待ったなしの状況なのです。社員一人ひとりがブランド(信用)を守り、向上させる責務、すなわち社員全員に広報マインドが必要になってきます。全社員向けに広報トレーニングやマニュアル、事例集を配備する企業も出てきました。

9. 広報担当者とアウトソーサーの役割の変化:企業の広報部のやるべきこと

 日本企業の間接部門では広報の専門教育を受けた人は少なく、ローテーションをベースに人材や組織が編成されています。今まで手弁当で社内の人材を中心に行ってきた広報業務、例えばニュースリリース作成や配信、イベント運営、社内報編集、危機管理などは、個々に専門化されたアウトソーサーが数多く出現してきたため、専門知識がなくても業務委託すればなんとかなる状況になってきており、ますます企業内の専門広報人材が育ちにくい環境にあります。「誰に何を伝えるか」を自ら考え、「どう伝えるか」を委託するなど、役割を明確に切り分けることで、社内の限られたコミュニケーション人材を有効に活用することができるようになります。

10. 広報人材の育成と組織設計の変化:どうプロ化していけばいいのか?

 今までの経緯を踏まえ、ではどうしたら次代の企業広報活動を担う人材や組織を作ることができるのか? という話でまとめたいと思います。
 これからの企業広報部には以下の能力が求められます。
a. 社会や経営や社員(他の事業部)が何を求めているか理解する能力
b. それらをつなげる方法を考える能力
c. コミュニケーションの目的を明確にし、優先度をつける能力
 「広報」を担当業務から考えるのではなく、事業を活性化させるために人と組織と社会をつなぐ役割と捉えるといいかもしれません。
 海外では職能を超えて企業コミュニケーションを考える団体(IABC:International Association of Business Communicators)が40年以上も活動しており、部門を超えて社会変化にどう応えていくかを考えています。筆者もこの団体に関わり10年以上たちますが、突き詰めるところ上記の能力が経営に嘱託される人材なのかもしれません。実際に日本企業で広報出身の役員やその後スピンオフしてプロとして活躍している方々にインタビューしてみると、元々の専門性がなくとも、社会や経営などへの興味が深く、他者理解に長けた方ばかりでした。そんなところに次代の広報組織作りのヒントがあるかもしれません。
pagetop