経済広報

『経済広報』(2018年6月号)掲載
座談会 広報部長に聞く①

真価が問われる危機管理、 グローバル化など変化への対応

―「第13回 企業の広報活動に関する意識実態調査」について―

 経済広報センターは、1980年から3年ごとに「企業の広報活動に関する意識実態調査」を実施しており、今回で13回目の調査となる。広報の組織体制、業務内容の変化、危機管理広報やグローバル広報への対応――。最近の変化をどう捉えるのか、広報部長に聞いた。
出席メンバー:(氏名50音順)
臼井一起(うすい かずき)
キッコーマン(株) 執行役員 コーポレートコミュニケーション部長
飾森亜樹子(しきもり あきこ)
日本電気(株) コーポレートコミュニケーション部長
平林冬弓(ひらばやし ふゆみ)
花王(株) コーポレートコミュニケーション部門 広報部長
司会:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長

広報機能も年々多様化し、細分化・分散化の傾向に

広報を担当する部署の名称を見ると「広報部(室)」が前回調査より大幅に増加(22.9%→43.7%)している。一方で、「企画部門(経営企画部(室)など)」「総務部」などは減少傾向にある。こうした変化をどう見るか。

臼井一起 氏
臼井 今回の調査では、広報・IR部(室)が減っている一方、コーポレートコミュニケーション部は多少増えている。つまり「広報」に求められている機能がここ数年変わってきていることの表れではないか。具体的に言えば、IR活動は、この6年間に4.9ポイントも減少(46.2%→41.3%)しており、広報から分離・独立している傾向がうかがえる。
飾森 広報部門のレポートラインをどのように設定しているかにむしろ注目している。弊社は、経営企画部門のラインに入っているが、企業によっては、経営企画なのか、総務なのか、マーケティングなのか、どの役員、組織にひも付けられているのか、それによって求められているものが少しずつ変わっていると思う。
平林 コミュニケーションを司る範囲をどのように考えるのか、各社の考え方の違いが出ていて興味深い。弊社の場合、商品広報・宣伝をやっているグループと一緒だった時期もあるが、今は、「広報部」が企業広報担当部門として、新聞・テレビなどの報道対応、グループ広報、グローバルでの社内コミュニケーション広報、危機管理広報を担っている。社内には、別の部門として、株主・投資家に対応する「IRグループ」、マーケティング部門として商品広報を行う「メディア企画」がある。また、一般消費者からの問い合わせ対応などを行う「生活者コミュニケーションセンター」もある。近年、広報部では、IR部との連携が重要度を増している。
飾森 弊社は「広報室」から「広報部」となり、年を経るごとにデザイン機能、ブランド機能、社会貢献機能が加わったり入れ替わったりしながら規模や役割が変化を続けてきた。現在の「コーポレートコミュニケーション部」となったのは2000年。国内・海外のメディアリレーションを担当している「広報グループ」と、この春に社内コミュニケーション機能や会社・社員・社会とのエンゲージメント強化を目的に発足した「エンゲージメント推進室」、社会貢献機能を分離し、ESG投資に特化した「サステナビリティ推進室」、そしてカスタマーリレーション機能を有している。
臼井 弊社は「広報部」としてスタートし、広報・IR部を経て、コーポレートコミュニケーション部と変遷し、2012年に現在の「コーポレートコミュニケーション部」として機能を大幅に増やした。社内報(グループ報)やウェブ、CSR、また、工場見学、料理教室などの機能を有しているが、ここ最近、大きな変化はない。ただし、SNSの強化を進めるに当たり他部門との連携も拡がり、求められている中身の機能は拡大している。

社内での広報部門の位置付けは。

飾森亜樹子
飾森 社内外に向けたコミュニケーションの基点として、一貫したメッセージを打ち出すためにIRやマーケティング部門と連携しながら、コミュニケーション戦略の全体デザインと整合を行う部門でありたいと考えている。
平林 これまではペイドといわれる広告・宣伝活動と、報道対応によるノンペイド、いわゆる、お金を使わない広報活動と明確に区分けできていた。しかし、広告の効果が見えづらくなっており、それぞれの境界線が見えにくくなっている。また、ソーシャルメディアによって、個人がSNSで誰もが情報発信者であり、リアルな情報の信頼度が増している、といった状況を考えるとグループ社員は大切な「媒体」の役割を果たしているといえる。インターナルコミュニケーションは大変重要と考えている。
臼井 広報は外部にオフィシャルに発信できる社内で唯一の部署であると定義している。ボーダーが見えにくくなってきているが、原則として、お金で買わない情報発信については、全てを広報部がオーガナイズすべきであると思う。SNSやCSRはもちろんのこと、弊社が有するしょうゆ工場(来場者数・年間15万人)、ワイナリー(同年間20万人)など、お客さまがお見えになる工場見学も含めて「広報の仕事」だと考えている。

部門連携を強めながら、コミュニケーションの基点に

広報担当者の数は横ばい、予算・業務量は増えてきている傾向にある。こうした変化をどう見るか。

平林 弊社では、人員や予算は増加傾向にある。業務内容はそれを上回るほどの増加傾向にある。ソーシャルメディアについては、専門の部署があり、そこと連携して発信や状況監視を行っている。このスピード感による業務の増加も否めず課題である。また、事業の海外比率の拡大に伴うグローバル広報を強化することも急務。

飾森 BtoC事業があった時代から、完全にBtoBの企業となり、メディアリレーションやステークホルダーコミュニケーションの性質や方策がだいぶ変わっている。今は、メディアリレーションと同じぐらい従業員へのエンゲージメントを強化している。メディアリレーションとの連携強化、そして今の時代に即した双方向性機能を持たせた新たなデジタル社内コミュニケーションプラットフォームを模索しているところだ。

特に危機管理、ソーシャルメディアの業務が増えている。

臼井 この報告書を読んで疑問に感じたのが、危機管理の仕事は大幅に増えているのに、危機管理委員会のメンバーとしては減少傾向にあるという結果だ。危機管理マニュアルの作成やメディアトレーニングの準備など、広報部門が単に危機管理の「窓口」だけならば大きな問題だ。

飾森 有事の際こそ、旗を振らなくてはいけないのが広報部門。メディアだったり、お客さまであったり、省庁であったり、全てのステークホルダーに対するコミュニケーションを、どのような内容、どのようなタイミングで発信すればいいのかを、全体を見渡しコントロールするのが広報セクションの重要な役割であって、そのコアメンバーに入っていないのは考えられない。
平林 かつて「窓口」的な役割の時代もあったと推察するが、現在は、社長の言うところの「コケない経営」を支える有事の際の主管部門の一つとして、重要視され期待もされている。

飾森 最近ではどこの会社でもこれまでとは異なるリスク、例えばサイバーテロ、個人情報・プライバシーなど、予測を超えるリスクが増えていると思う。そうした際の備えや起きたときの説明内容をどうするかなど対策と訓練は重要と思っている。

外部委託が増えている傾向も見られるが、どのような体制か。
臼井 弊社は、メディアリレーションとIR業務を、私も含めて7名で担当している。基本的には自前だが、コンサルティング業務は外部にお願いしている。そのノウハウをいかに吸収・蓄積し、活用できるかが課題となっている。
飾森 報道15名、インターナルコミュニケーション10名という構成だ。基本的には弊社も自前でやっている。ただし、効果測定の分析は外部にお願いしている。効果測定そのものではなく、それを次のどういうアクションにつなげるかが重要なので、外部の新しいノウハウやアイデアを活かしたい。
平林 弊社は、メディアリレーションとインターナルコミュニケーション、危機管理対応を18名で行っている。BtoC事業のカテゴリーの幅が広く、さらにケミカル事業やプロフェッショナル向けのBtoB事業も有する。例えば“洗剤にまつわる広報”と“ビューティの広報”では自ずと違いがあるわけで、いろんな広報手法を取り入れてきた。BtoBについては、これまで積極的ではなかったが、技術力や本質研究をアピールする方法として情報発信に力を入れている。

様々なスタイルのメディアトレーニングが定着

会員企業の約半数(48.4%)が、トップ・役員への緊急時のメディアトレーニングを実施しており、徐々に対応する企業が増えている。
飾森 役員に対しても、緊急時のメディアトレーニング、実際の記者会見のリハーサル方式でのトレーニングを定期的に行っている。
臼井 弊社では必要に応じて実施している。有事の際の記者会見は、基本は広報部が対応する想定である。
平林 様々なタイプのメディアトレーニングを行っている。トップへの記者会見訓練以外にも、工場での事故を想定し、工場長および現場の初動のトレーニングも行っている。また、海外赴任する新しいCEOの研修にも取り入れている。社会からの視点や広報業務の理解にもつながっていると考えている。

効果測定は、社員のモチベーションを 上げるための材料に

広報部門の悩みとして、毎回トップに挙げられるのが「効果測定の難しさ」(71.4%)。ソーシャルメディアの時代になっての効果測定の新しい取り組みや悩みとは。
臼井 効果測定はやっていない。もちろん、どれだけ露出があったかは調べているが、それは評価の対象としては除外している。
平林 実績および推移・傾向を見るための目安として使っている。外部委託で測定している。何のカテゴリーが増えているのか、他社と比べてどうなのか、KPIにはしていない。また、おおらかな見方として、株価の変動も一つの効果と捉えたい。
飾森 部員のモチベーションになること、次のアクションを検討すること、行動を変えるための指標をみるためのものとして活用している。業界でのベンチマークなど、あくまでも傾向をみるためのものとして活用している。

グループ広報でも、 危機管理対応が重要に

グループ広報についてどのような形態で行っているか、また、どんな目的で行っているか、最近の傾向は。

臼井 グループ広報は主な関連企業を対象として原則、年1度、各社、所属ごとに我々が各地に出向き、実施している。危機管理の面では、特に工場の担当者に対しては、いざという時の当事者として意識してもらうよう、働き掛けている。ここ15年くらいグループ広報会議は開いていなかったが、現場の担当レベルのマネジメントスキルも上がってきており、昨年から東京本社に関係者を集めた会議をスタートさせた。
平林 特にカネボウ化粧品・広報との連携強化について検討を進めている。グループ広報で重きを置いているのは、インターナルコミュニケーション、危機管理の初期対応についてである。
飾森 グループ企業と緩やかな連携をとっている。月1回グループ広報会議を開き、情報共有を行い、広報メッセージの確認や案件どうしの整合などを必要に応じて行っている。

担当者の育成、体制づくりが課題

グローバル広報については、現地への権限委譲が進んでいるという結果が出ている。体制や活動についての悩みや課題は。

平林冬弓 氏

臼井 広報活動の日本における位置付けと、海外における位置付けが違うため、海外は、これからの課題となっている。ただし、日本のメディアが海外で取材するときは、現地と連携しながら日本の広報が主導で行っている。
平林 各国現地での企業としての存在感がまだまだなので、優秀な従業員を定着させるためのインターナルコミュニケーションや危機管理の備えから着手している。広報専任が各国にいるわけではなく、まずは兼任者に対しきちんと広報業務をオーソライズしてもらうことと、ヘッドクオーターへのレポートラインを構築することなど、体制づくりの段階だ。

飾森 過去には日本から米国、欧州、シンガポールに広報担当者を派遣していた。それが現地人主体の体制に変わっていたが、昨今、グローバルなコミュニケーション人材育成という意味合いも含め、改めてグローバル広報体制を見直しているところだ。最近では広報担当者をシンガポールとロンドンに送り込んでいる。現地では、広報業務だけでなく、マーコム(マーケティング・コミュニケーション)、AR(アナリスト・リレーション)、トップのサポートや社内コミュニケーションをはじめ、マルチタスクをやってもらうので総合的なコミュニケーション人材としてのいい経験になっている。


(文責:国内広報部主任研究員 吉満弘一郎)
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