経済広報

『経済広報』(2018年7月号)掲載
特集 危機管理広報

日大の事例から考える、最新危機管理広報

江良俊郎

江良俊郎(えら としろう)
(株)エイレックス 代表取締役/チーフコンサルタント

 経済広報センターが2018年2月に発表した「第21回 生活者の“企業観”に関する調査」の結果によると、企業の果たす役割や責任として、97%が「不測の事態が発生した際に的確な対応を取る」ことが「非常に重要」もしくは「重要」としている。これは、「安全・安心で優れた商品・サービス・技術を適切な価格で提供する」(99%)に次いで高い割合だ。また、企業を信頼できない理由としては「企業の不祥事が明るみに出て、日本全体の品質に対する信用低下」「利益優先の企業体質」「情報開示のタイミングや内容が不適切」「経営の不透明性」「不都合な情報を隠そうとする隠ぺい体質が垣間見える」など危機対応やクライシス・コミュニケーションに関する項目が多く挙がっている。
 このデータからも生活者は、企業の不祥事そのものよりも、むしろ「説明責任を果たしたか」といった「その後の危機対応」を直視していることが分かる。
 不祥事は行為そのものが非難の的となるが、それ以上に社会が注視しているのは、当事者組織は危機にどう対応したのか、ということである。

日大の悪質タックルは、どうして社会問題化してしまったのか

 悪質タックル問題を巡る日大の危機対応は、組織の危機管理広報の失敗として歴史に残る事例といえるだろう。
 ここではポイントを挙げて、日大の対応から企業が学ぶべき危機対応上の教訓を解説したい。
① 初動のまずさ、組織としての対応の遅れ
 5月6日の試合終了後、問題の動画がネットにアップされ、徐々に「あり得ない」「故意による傷害事件だ」といった批判が拡大。大学は「チーム間で解決すべき問題」として対応しなかった。直後から大学が「重大な事態」として即座に事実関係を調査し、被害者に謝罪するなどしていれば事態は変わっていた可能性が高い。その後も組織として対応しているとは言えず、危機は深刻化していく。
 初動対応が問題とされた最近の事例としては、大手自動車会社N社の不適切検査問題がある。昨年秋に国土交通省に完成車検査を正規の検査員ではない補助検査員が実施していたと報告、会見した。この際、登壇したのは経営幹部ではなく部長2人。国が定めた試験を規則通り行っていない重大な不正、不祥事と捉えた社会部記者を前に、会社側は「検査自体はしているので安全性には問題ない」と強調した。国の制度に問題があると言わんばかりの態度に、完成車検査のルールを軽視していると、石井国交大臣は「制度の根幹を揺るがす行為で、極めて遺憾」と痛烈に批判した。深刻な事態という認識を持ち、少なくとも経営幹部が会見に出席する判断ができなかったのか、と思う。
 その後、「N社、社長謝罪後も不正検査 公表せず」と朝日新聞がスクープし、大きなダメージを受け、経営責任も問われた。
 不祥事によるダメージの程度は初動の対応が極めて重要だ。「報道のトーン」は、初期対応とメディア対応で方向付けされる。危機発生直後の広報の仕事は「今直面している問題は何か、最悪のシナリオは何か」を明確化すること。そして、最悪の事態に至ったとしても後々批判されない初動対応を行うよう提案しなければならない。
② 早々に「なかった」ことに――虚偽説明の疑惑
 5月10日、日大アメフト部のホームページに数行の謝罪コメントを掲載。この頃から、悪質タックルは「監督からの指示だった」との内部の証言が報道される。日大広報部は、「指示してはいない、あり得ない」「あくまで偶発的なアクシデントだ」などと全面否定。関西学院大学への回答書でも、「選手の受け取り方に乖離が起きていた」と指示を否定、選手の問題とした。今回は「人事担当常務理事」「実質No.2」という経営幹部である監督への疑惑であり、「直接事情を聞くこともできず、とりあえず否定しているから」の線に沿った回答案といった印象を受ける。これまで危機を乗り切ってきた「内輪の論理」そのものだ。内田氏に進言できるような状況ではないということが後に分かるが、本来このような場合、まず理事会や理事長が主導し、毅然と調査して、事実認定して責任を明確にすべきだった。
 一方で、加害者の日大選手の会見は見事だった。選手は顔を公にし、謝罪した。監督やコーチから何を言われ、どう思っていたのか、反則行為に至る経緯の説明も具体的で、一貫性、説得力もあった。「たとえ指示されたとしても、自分で判断できなかった自分の弱さ」。ぶれずにこの言葉を繰り返した。周囲から事前のアドバイスがあったかもしれないが、この回答は本心から思っていなければ到底無理だと思う。

企業では起こり得ない対応

 日大の対応の遅さ、非常識な対応は企業なら起こり得ないレベルだが、「ものが言いにくい社風」の場合は注意が必要だ。多くの企業はコンプライアンス(法令順守)やガバナンスの指針を実行し、危機を未然に防ぐ施策を整え、内部通報制度などで情報を集めている。早期に危機の芽を摘む努力があり、万一危機が発生した際も、準備された対応がとられるように思う。
 日大のケースを企業に例えるなら、トップの不正関与が疑われている事例に相当する。例えば、2011年の精密大手O社では、過去の会計処理に不信を抱き、調査を求めた当時の外国人社長を取締役会が解任。その後結局、不正が暴かれ株価は急落、主導した会長らは辞任し、粉飾決算事件となった。ものが言えない組織では、内部告発やメディアでの報道といった外部の力を借りた軌道修正が必要になる。
③ 開示姿勢の欠如、記者会見での説明責任放棄の姿勢
 大学側には、悪質な反則行為を重大視し、即座に事実関係を調査して謝罪と説明責任を果たすなど適切な対応を取るチャンスは幾つかあった。ベストは「つぶせ=けがをさせろ」が監督の指示だとの指摘が出た時点で、真相究明に乗り出し、事実を公表する姿勢を見せるべきであった。この事件を取材したある記者は、「大学広報は個別の質問を受け付けなかったどころか、電話にも出なかった。一切の取材を拒否しているように見えた」と話す。企業の広報担当者は、取材拒否が最も記者に嫌われる行為だということを肝に銘じておきたい。
 22日の当該選手の会見の翌日、23日に開かれた前監督と反則を直接指示したとされるコーチの会見。「謝罪」と口では言うものの、問われていることの本質に向き合わない姿勢で、疑惑を深めた。選手の発言は前監督やコーチの理不尽な指導、パワハラとも思える言動への悲痛な叫びのようだったが、それを誤解だと否定する姿は、真実を語らず保身に走るものと冷ややかに受け止められた。また、司会者が会見を強引に打ち切ろうとする一幕も、強い批判を浴びた。その模様はテレビのワイドショーなどで盛んに取り上げられた。説明責任の放棄だと感じた方も多いと思う。
 不祥事会見においては、打ち切るという行為は厳禁だ。また司会者は、目立ってはならない。記者と口論するなど場外乱闘そのものであり、会見をより炎上させてしまう最悪のケースである。
④ ネットとテレビ番組も意識すべき――アピアランスの重要性
 最近は衆目を集めるこの手の不祥事記者会見でテレビ情報番組の若手ディレクターやいわゆるリポーターからの質問が増えている。テレビで強調されるのはアピアランス(外見)だ。謝罪する人の態度、視線、服装などに注目し、例えば頭を下げたのは何秒だったか? ネクタイは何色か? といった話に時間が割かれる。
 製鉄大手K社の会長兼社長が会見した昨年10月13日、記者会見の途中で何度か表情が笑っているように見えた。このような場合、本人も気付きにくいことから、広報担当者としては何らかの方法で本人に気付かせ、改めてもらう必要がある。
 最近の大型不祥事会見はネットで中継され、問題だと感じればすぐに掲示板にスレッドも立つ。事件の経緯や謝罪内容より、「不遜な態度」の一瞬が強調されるということをトップは覚悟しておきたい。
⑤ 不祥事への対応はトップのリーダーシップが不可欠だが
 日大のケースでは、学校経営のトップである理事長が会見せずに批判された。企業不祥事でも同様だ。社会部記者は最高責任者がその不祥事をどう受け止めているか、どこに問題があったと考えているのかを問いたいと考えている。問題解決に向けたリーダーシップはトップの発信力によるところが大きく、企業にとっても積極的なメッセージ発信は信頼回復の近道といえる。
 ただし、謝罪会見では社長出席はマストではない。深刻な事態とまでは言えないケースで不用意にトップを出すことは、かえって危機を拡大させるからだ。例えば、公共交通機関の事故などの場合で被害拡大の恐れはなく、まずは発生している事態の詳細な説明が必要な際は、トップの出席よりも最も現場に近く詳細を説明できる方の出席を優先すべきだ。記者会見に誰を出席させるかは、慎重な検討が必要だ。広報責任者も相場観を磨き、想定される不祥事の種類や危機のレベルに応じ、事前にガイドラインを設けておきたい。
 無資格検査不正発覚後の自動車2社の初期対応に限れば、初めに発覚したN社に比べ、S社のトップの覚悟を評価したい。S社では不正を経済紙がスクープした当日に、緊急会見を決定。夕刻から開催された記者会見で社長が「質問には全て答える」として2時間半近くに及ぶ長時間の質疑に応じている。またS社のトップは、組織のトップらが記者会見で謝罪する際に最も重要な、自分の心の中の反省を吐露する場面がしばしば見られ、参加した記者は決意を感じたという。S社は残念ながらその後計4回不正が発覚し、トップが交代するに至っている。

新たな情報開示のきっかけとしてネットの書き込み

 企業が不祥事を公表するきっかけには様々なパターンがある。素材大手T社が昨年11月、子会社のタイヤ補強材の一部などについて、品質データを不正に書き換えていたと発表した。対象となったのは2008年4月から2016年7月にかけて製造した製品。会見では、社長らが登壇し謝罪した。この件は当初、「公表するつもりはなかった」という。しかし11月上旬に、ネットで不正が行われているとする書き込みがあり、書き込みを見たメディアが取材を開始。週刊誌などに取り上げられそうだと感じて、記者会見で公表せざるを得なくなったものだ。
 そもそも発表するつもりがなかった、調査に時間がかかる……など公表が遅れる事情は様々だ。事態の深刻さを客観的に判断できる人材が社内外に必要だ。不祥事を巡って発表すべきか否か迷う企業は多い。当事者である企業と世間との意識のギャップを修正する機能が必要になる。

日大問題の本質とは風通しの悪い組織に共通する病理

 5月下旬、関東学生連盟が監督とコーチの指示があったと事実認定し、彼らの責任を厳しく追及した。
 日大をアメフト日本一に返り咲かせた立役者である内田氏。常務理事で、事実上のNo.2の実力者。「誰も反論できない」独特の体育会気質。選手は精神的に追い詰められ反則行為に及んだという。指示に従わないと自身が否定され、不利な状況に追い込まれるという恐怖感が組織を支配していたとされる。
 大手電機メーカーの不適切会計問題で経営陣が「チャレンジ」と称して現場に高い目標達成を迫ったケース、他にも財務省や文部科学省で上司の意向を忖度し、不正への関与が指摘される森友・加計問題、一連の名門企業における数々の不正など、似たような不祥事も多い。いずれも閉鎖的でメンバーが固定化、同質性を重んじる共同体型組織=日本型組織が特徴的と言える。共同体型組織は一体感や高い忠誠心といったメリットも多く、上司が目標達成のため現場に発破をかけること自体も悪いことではない。問題は「風通しの悪い組織になっていないか」「違法行為をしてもよいと思わせるまで追い詰める組織体質になっていないか」だ。
 不祥事発覚後、組織内で自浄作用が機能せず、これまで通りの口裏合わせ、口封じ、隠ぺい、虚偽報告など、不正を指示した幹部を守ろうとする論理も風通しの悪い組織に共通している。
 風通しの悪い共同体型組織は、外の世界と交わらず、内側には絶対的な序列や上下関係が存在する。メンバーは組織だけで通用する慣行や掟に従って行動し、不正が始まる。求められるのは開かれた組織、外部の空気を内部に入れることだ。本来広報は組織の顔であり、窓である。体の半分は外の世界に置き、五感をフル動員して外の空気を社内に送り込まなければならない。「内輪の論理」から脱して、一個人、良識ある広報パーソンとしてどう正しく組織と向き合うのか。今回の事件は、広報担当者としても考えさせられることが多い。
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