経済広報

『経済広報』(2019年1月号)掲載
第34回「企業広報賞」受賞者インタビュー

企業広報大賞

“ポテチショック”を戦略的情報発信につなげる

伊藤秀二

伊藤 秀二(いとう しゅうじ)
カルビー(株) 代表取締役社長兼CEO

「掘りだそう、日本の力。」

「“ポテチショック”というクライシスを自社内の課題にとどめずに、地方創生と結び付けて戦略的に対外発信を行った」ことが評価されての企業広報大賞受賞となりました。受賞されてのご感想をお願いいたします。

伊藤 素晴らしい賞を頂き、大変うれしく、選考いただきましたこと、深く感謝いたします。改めて、企業活動をしていく中で、伝えたいことを伝えるということが、とても難しいことであり、大事なことであると思いました。伝えたい相手の視点で常に考えなくてはいけません。企業は、上手な伝え方のノウハウを考える前に、まずは、正しい企業活動を行うことを大前提に考えるべきです。その前提の上で、おいしい商品を作ったとしても、しっかりと伝わらないということもあります。やはり、お客さまとコミュニケーションを綿密に図っていく必要があります。良いものを作りさえすれば、お客さまも理解してくれるだろうというのは、もう通じません。

“ポテチショック”後に、社外とどのようにコミュニケーションを図りましたか。

伊藤 台風によるじゃがいもへの被害はとても大きいものでした。畑が、池のように水浸しになってしまいました。じゃがいもは、水に浸かってから24時間以内であれば使うことができます。従って、雨の中、我々も生産者と一緒になって、じゃがいもを掘りました。すぐに加工しないとダメになってしまうので、普段、休日には止めている工場を稼働して、少しでも市場にポテトチップスを提供しようと努力しました。
 あまりそのようなイメージが伝わっていないかもしれませんが、実はじゃがいもは、とても繊細な食物です。収穫量は自然環境に大きく左右されてしまいます。これをどのように調達し、安定的に市場に供給するのか。この点は、我々のビジネスにとって大きな問題です。供給面では生産者とコミュニケーションを行い、販売面ではお客さまと向き合う。この両者の真ん中に入って、うまくコントロールしなくてはいけません。この点に関しては、まだまだ世の中に伝えきれていません。お客さまは普段からスーパーなどでじゃがいもを目にすることが多いからか、簡単にポテトチップスを作り上げることができるというイメージがあると思われます。そんな中で、今回、ポテトチップスが売り場から消えたと話題になりました。ただ、売り場から消えたのが、台風の影響によるものであるという認識を持ってもらえていませんでした。そこで、ポテトチップスの原料事情までさかのぼって、しっかりと説明を行いました。マスコミの皆さまの前で、5回ほどじゃがいもに関する事情を説明する場を設けました。そうして、少しずつ理解を得ていきました。
 次のアクションとして、需要を喚起していくために、「♥ JPN(ラブ ジャパン)」という企画を始めました。「掘りだそう、日本の力。」をコンセプトに、全47都道府県で地元ならではの味を再現したポテトチップス50種類を自治体などと共創し発売しました。これは、企画段階から47都道府県それぞれの自治体に加わってもらう企画です。地元の産業をどうにか盛り上げようという各地域の強い思いを支援したい想いが背景にありました。地方の新聞社、テレビ局の方々に関心を持っていただき、それが各地域で報道され、結果として全国の皆さまに情報を発信するという良い機会になりました。東京では報道されない地方の話題であっても、47都道府県でそれぞれ実施されたイベント情報が各地で発信されました。今までの商品開発・販売の発想を変え、各行政から商品アイデアを頂くという方法をとり、商品の発表会では、知事を表敬訪問しました。私も20カ所の発表会に出席し、その自治体の知事などと一緒に商品を発表させていただきました。

「掘りだそう、自然の力。」には、どんな想いが込められているのですか。
伊藤 「掘りだそう、自然の力。」というコーポレートメッセージには、我々が農業など自然と一緒にビジネスを行っているというメッセージが込められています。おかげさまで、カルビーはお客さまには明るくて元気というブランド認知度が高いのですが、一方で、原料に対する取り組みやこだわり、生産の苦労といったことは、あまり伝わっていませんでした。今回のような厳しい状況にある時こそ、日本のじゃがいも産業に関心を持ってもらえる良い機会だと捉え、我々が日本の農業の一翼を担っているということを発信いたしました。

社員とのダイレクトコミュニケーション

社員へ経営理念を伝えるための取り組みはどのようなことを行っていますか。
伊藤秀二

伊藤 社員とのコミュニケーションは、大変重視しています。2018年からは、より現場に近いところで対話の場を持つように手法を変えました。これまでは、トップが訪問するところに現場の人を集めるという形で、トップだけが語る一方向のコミュニケーションになっていましたが、現場の意見を積極的に引き出したいと考え、地域ごとに社員が集まる行事に私が行くという形にしました。
 そうすることで、生の声を聞き、実際の活動を見ることができました。その拠点の責任者と社員のやり取りを、私も一緒に聞きながらコミュニケーションを深めていくことで、より分権化が促進されていくのです。特別なタイミングを設けるのではなく、普段の仕事の延長線上で気付きを得てもらうことで、自然と積極的な意見が出てきて、それが組織を良い方向に変えていきます。つまり、ワンウェイのコミュニケーションではなく、ツーウェイコミュニケーションを重視し、社員とマネジメント層とのコミュニケーションをより高めていきたいと思っています。指示された通りのことしかできない現場ではなく、自ら考えて適切な判断をしてほしいという想いが強くあります。ですから、現場訪問の回数が自然と増えています。工場や支店の数だけ回らなくてはいけません。労力はかかりますが、そうする必要があると感じています。以前のやり方では、年に20回ほどしか社員と話す機会がありませんでしたが、このようなやり方に変えたので、年に70回ほどに増えています。そのおかげで、コミュニケーションを図れる社員の数は5倍に増えていると思います。

どのような効果がありましたか。

伊藤 今までも社員とダイレクトコミュニケーションを取ってはいましたが、こちらが主役になってしまっていました。 我々と社員との間にいる現場の管理職の存在が薄くなってしまっていたのです。通常行われている社員と管理職とのコミュニケーションにまで入り込めていませんでした。そこに違和感を感じ、現場の風通しを良くしたいと思ったのがきっかけです。
 今では、徐々に遠慮なく発言が飛び交うようになってきました。今まではどうしても、業績の数字だけが表に出てしまい、何のためにこの事業をしているのか、SDGsやESGといった観点の話が目立っていませんでした。しかし、我々の事業は、「掘りだそう、自然の力。」というキーワードを根幹にしたビジネスを行っています。財務的な指標の背景にある考えをしっかりと伝え、それを数値化した目標に落とし込んで伝えるように意識しています。

テレワークとフリーアドレスの導入

テレワークや女性の活躍推進においても先進的に取り組んでいると伺っています。

伊藤 トータルで生産性を上げていくために、思い切って導入すべきものは導入し、運営しながら改善を加えていきたいと思います。様々な問題が発生するとは思いますが、それを想定してから導入を検討していたら、いつまでたっても会社は変わりません。発想を変えていかないと、新しいことができなくなってしまいます。
 社員の8割以上が、生産や物流業務を行っています。その社員たちは、どこででも仕事ができるわけではありません。社内で、職種によって適切な働き方を考えていく必要があります。
 社員が個人の能力を最大限発揮し、プライベートと仕事を両立できるように最大限配慮しています。会社が社員へ投資した結果として、社員が生き生きと仕事をし、その成果が会社の利益となって戻ってくるという好循環は、社員とコミュニケーションを取り、信頼関係を築かなければできません。

フリーアドレスを導入していますが、その目的は。
伊藤 組織は内部だけで仕事を完結したがるものです。そのようにして、他の部門との間に壁をつくってしまいます。そうすると、部門内だけで物事を考えてしまいがちですが、その中で完結する仕事なんてほとんどありません。セクショナリズムを壊し、部や課を超えた仕事をしなければ、新しいものは生まれません。そのような発想から、フリーアドレスを導入しています。常に他部門の人の意見を聞きつつ、自分の仕事をどのように遂行していくのか、誰に相談すればうまくいくのかを自ら考えていかないといけません。部門長には、社員の自立と連携を促し、部門の付加価値を上げていくことを期待しています。

マスコミ対応・SNS対応

マスコミ対応で心掛けていることは何ですか。
伊藤 何よりも、情報をオープンに、公平に発信するということが大前提であると考えています。都合の悪いことだからといって隠してはいけません。全てオープンにしていくことが基本姿勢です。正しいことを行い、正しいことを発信していくということをベースにした経営を心掛けています。
SNSでのコミュニケーションで気をつけていることはありますか。
伊藤 こちら側からではなく、お客さま側のコミュニケーション構造を考えるべきだと思っています。そうした姿勢を持っていなければ、お客さまとのコミュニケーションは途絶えてしまいます。まずは、カルビーという会社に興味を持ってもらうため、お客さまに対して何ができるかということを考えなくてはいけません。

食育の出前授業を展開

食育、出前授業にも力を入れていますね。
伊藤 今は小学校で出前授業を行っていて、それは非常に重要な機会であると考えています。食べ過ぎを防止し、カロリー、時間、量をコントロールしながら正しくおやつを食べるということをテーマの一つとして授業しています。2003年から活動を開始し、昨年度は年間700校超、延べ5万人超を対象に出前授業を行いました。ただ、これからは時代の変化を捉えながら、どのようなメッセージを伝えるかを考えていきたいと思っています。これも、食品メーカーとしての非常に重要な役割であると考えています。

広報への期待

広報部門に期待することは。
伊藤 情報を受け取る側のニーズをきちんと捉え、タイムリーに、かゆいところに手が届くような情報を発信することが大切だと思います。今回の“ポテチショック”によってお客さまの知りたい情報のニーズが顕在化し、それに対して発信することでコミュニケーションが生まれました。お客さまが持っている関心を探り、それに対して適切な情報を発信していくことが、広報に期待されていると思います。
聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長
(文責:国内広報部主任研究員 遠藤 瞭太)
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