経済広報

『経済広報』(2019年3月号)掲載
企業広報研究
元報道記者の弁護士が解説する
戦略的危機管理広報
鈴木悠介

鈴木 悠介(すずき ゆうすけ) 
西村あさひ法律事務所 弁護士/元 TBSテレビ 報道記者

なぜ危機管理広報が重要なのか

 不祥事が発覚した際、その企業の命運を決するのは広報対応であると言っても過言ではない。広報対応を誤って、存亡の危機にまで追い込まれた企業は数知れず、逆に、不祥事を起こしたにもかかわらず、その後の広報対応が誠実かつ迅速だったとして、かえって評判を高めた企業もある。
 筆者は弁護士になる前は、テレビ局の報道記者として、事件・事故の取材に当たることを通じて、メディア側の立場から、企業の危機管理広報の難しさを体感した。弁護士になってからは、企業法務を中心とする法律事務所の危機管理グループにおいて、企業不祥事が発覚した際の事実調査やその後の広報対応・訴訟対応に当たってきた。ここでは、元報道記者・弁護士としての経験を踏まえて、“戦略的危機管理広報”について解説する。

危機管理広報の成否は、前提となる事実調査・法的評価に大きく左右される

 まず強調しておきたいのは、危機管理広報がうまくいくかどうかは、危機管理広報そのものだけではなく、その前提となる事実調査や法的評価の巧拙に大きく依存しているという点である。つまり、不祥事発覚時における危機管理広報の失敗事例というのは、広報対応そのものの失敗というよりも、その前提となる事実調査・法的評価が不十分・不正確であったことに起因することが少なくない。例えば、公表時点では判明していなかった事実が後から判明し、当局から刑事処分・行政処分を受けてしまうケースや、会見者が記者からの質問に言葉を詰まらせてばかりでまともに回答できないようなケースは、一つの典型であろう。
 企業による事実調査は、弁護士に依頼するにせよしないにせよ、当局による捜査でない以上、強制力を伴う調査はできないし、会社が事実調査に投入できるヒト・モノ・カネや時間には限界がある。そのため、調査事項を適切に設定しないまま、むやみやたらと調査を開始してしまっては、多くのコストをかけたにもかかわらず、深度のある十分な調査結果が得られないということにもなりかねない。
 こうした事態を避けるために重要なのは、調査開始の前段階から、そして実際に調査を進めている最中にも、メディアが調査結果についてどのように受け止めるかを強く意識して、調査事項を適切に設定することである。当たり前のことを言っているようだが、実はこれがなかなか難しく、社内の仲間意識や派閥抗争といった内向きの議論に引っ張られ、結局、表層的・総花的な調査しかできずに終わってしまうことも少なくない。そうなると、問題の本質に迫る調査が行われなかったということで、メディアから“ためにする調査”しか行わなかったという印象を持たれてしまう。

「見出し」の重要性

 不祥事の事実調査を行う際には、メディアが“どう受け止めるか”を強く意識するだけでなく、さらに一歩進んで、メディアに“どう受け止めさせるか”まで、戦略的に考えなければならない。より具体的に言えば、戦略的な危機管理広報の第一歩としては、意図した「見出し」を導くべく、事実調査も戦略的に行うことが重要となる。
 新聞やテレビの「見出し」は、読者や視聴者の興味・関心を引きつつ、読者や視聴者がニュースの内容を一見して理解できるための役割を担っており、これが読者や視聴者に与える影響は、記事の中身そのものが読者や視聴者に与える影響よりも大きいことすらある。ここ最近の傾向として、「Yahoo!ニュース」などのインターネット上のポータルサイトを通じて、ニュースを見る人たちが増えているところ、例えば、Yahoo!ニュースのトップページの見出しだけを見て、記事本文を読むことなく、見出しから得られる情報だけをインプットするという事態も起きている。また、ツイッターなどのSNSを通じて、Yahoo!ニュースの記事がシェアされる中、「見出し」だけが爆発的に拡散するというケースもある。つまり、企業不祥事を報じるニュースの「見出し」によって、不祥事を起こした企業に対する印象・世論の大部分が形成されてしまうと言っても過言ではない。

意図した「見出し」を戦略的に導く~ある情報漏えい事案のケース~

 こうした「見出し」の重要性を踏まえて、意図した「見出し」を導くための戦略的な事実調査の在り方について、具体的なイメージを持ってもらうために、ある情報漏えい事案のケースを挙げて説明する。
 クレジットカード会社のA社において、「A社のクレジットカード会員になってから、大量のダイレクトメールが届くようになった」というクレームが頻発しているというケースを想定してほしい。A社のサーバー管理担当者が、顧客データへのアクセス記録を確認したところ、社内の端末から大量の顧客データが記録媒体にコピーされた形跡が見つかっており、A社従業員による顧客情報の持ち出しの疑いが濃厚という状況である。
 顧客情報の漏えいが社会問題となっている昨今、こうした顧客情報漏えいが相次いでいること自体が1つのニュースであるから、この件は、このままでも「相次ぐ情報漏えい」という見出しで報道されるだけのニュースバリューがある。ただ、記者の中には、これだけではニュースとして“見出しとしては弱い”と考えて、A社の情報管理体制に着目し、さらなる取材を重ねる者もいる(むしろ、自分の経験を踏まえると、記者としては、担当記事のニュースバリューを大きくしようとして追加取材を試みるのが普通である)。
 その結果、記者が「A社の情報管理体制は、過去の他社事例と比べて杜撰(ずさん)であった」と判断した場合には、「相次ぐ従業員の情報漏えい 問われるA社の情報管理」といった見出し(見出し①)を付ける。逆に、「A社の情報管理体制は他社と比べても強固であり、A社は、現在、刑事告訴の検討など厳しい態度で臨んでいる」といった事情が認められる場合には、記者は、「相次ぐ従業員の情報漏えい A社、刑事告訴も検討」といった見出し(見出し②)を付けるかもしれない。
 見出し①と見出し②は、A社が、顧客の情報を漏えいした“加害者”の立場になるのか(見出し①)、情報を漏えいされてしまった“被害者”の立場になるのか(見出し②)という点で、世間に与える影響は全く異なる。
 危機管理広報としては、当然、見出し②のように報じられることを目指すべきである。そのために最も重要なのは、本件の事実調査において、記者が見出し②の記事を書きたくなるような事実を、なるべく多く収集しておくことである。これまでに報道記者や弁護士として、事実を扱う仕事をしてきた身からすると、事実というのは、最初からそこに“あるもの”ではなくて“発見するもの”だと感じている。客観的にはある事実が存在していたとしても、そこにうまく光を当てないと、その事実は周りから見逃されてしまい、まるで最初からそこに存在しなかったかのように扱われてしまうのである。危機管理広報に関わる者としては、会社にとっては有利な事実だけれども、うっかりすると見落とされかねない事実に、いかにして“光を当てる”かが腕の見せどころになる。
 上記の情報漏えい事案について、私であれば、A社が直近に実施した情報管理の強化策に関する資料および本件手口の悪質性や巧妙さを基礎付ける資料などを収集するようアドバイスする。その際、単に、A社が実施した施策に関する社内資料を収集するだけでなく、A社がその強化策を導入するに至った経緯が分かる資料や、A社の強化策が客観的に高い水準にあったことを基礎付けるための資料(業界他社の情報管理体制水準が分かる文献・資料など)についても収集する。また、こうした資料収集と並行して、強化策を導入した責任者などからも話を聞いておく必要もあろう。
 こうした作業は、いずれも、メディアに「A社は可能な限り情報管理を徹底していた」との印象を持ってもらうための材料集めの作業である。必要に応じて、記者会見の配布資料やリリース文の添付資料として、収集した資料の内容を簡潔にまとめたペーパーも準備する。記者は常に時間に追われているため、会社がこうしたペーパーを用意すると、それをそのまま記事やニュース映像に挿入して使ってくれたりする。これはすなわち、こうしたペーパーの作り方次第では、会社においても、ある程度、記事の内容を見通すことができる場合もあることを意味する。
 この他、私としては、所轄の警察に被害について一報を入れるとともに、社内の関係部署と調整した上で、「刑事告訴という法的措置も辞さない」という方針を社内的に固めておくようアドバイスする。これは、記者会見やリリース文などにおいて、「当社は、既に所轄の警察とも相談しながら、従業員に対する刑事告訴も検討しているところです」と発表できる形を整えて、「A社は被害者である」という事件の構図を、世間により印象付けるようにするためである。
 なお、本件のように、監督官庁や捜査当局が関係する不祥事の場合、広報の内容やタイミングなどについて、当局と擦り合わせておくことも重要である。危機管理においては、強制力を行使できる当局の機嫌を損ねることほど怖いものはない。当局にとっても、会社の広報内容やタイミングは大きな関心事であり、当局の意に反する広報にはリスクがあるからである。当局と事前に擦り合わせておくことで、記者から取材を受けた際に、「現在、関係当局と協議中であり、詳細についてはコメントを控えさせていただきたい」という形で、取材攻勢をかわすことができるという副次的な効果も期待できる。

広報部門も弁護士を起用して危機管理広報を乗り切る時代

 企業がよく陥りがちなのは、戦略を持たないまま事実調査を先行させてしまい、会社として一応の事実調査が終わったということで、いざ広報部門において、リリース文や記者会見時の想定問答の作成に着手するものの、それまでの事実調査を通じて、企業のレピュテーションを守るための危機広報に役立つ情報が何ら収集できていないことに初めて気付くというパターンである。特に、広報的なセンスを持ち合わせていない者によって、事実調査が行われてしまった場合には、そこから、広報部門の力で挽回しようにも、時すでに遅し、である。そうならないためには、広報部門こそが、事実調査の初期段階から危機管理に関与した上で、「広報部門としては……といった戦略で、当社を守るための危機管理広報戦略を考えている。そのためには、事実調査においても、この戦略に合致した情報の収集に努めてほしい」などと、積極的にリクエストすることが求められる。「こうした事実調査は、法務・コンプライアンス部門の領域なので……」などと、積極的な関与・発言に尻込みしていては、危機に陥りかけている会社を見殺しにしてしまう。仮に、社内的に広報部門の発言権が強くないということであれば、広報部門の利益代弁者となってくれる外部の弁護士を起用することも検討すべきである。実際に、私自身も、広報部門から依頼を受けて、危機管理広報に対するアドバイスを求められ、法務・コンプライアンス部門と協働しながら(時には、危機管理広報的観点から、法務・コンプライアンス部門を説得しながら)、危機管理対応に臨むというケースも増えている。危機管理広報に失敗して、多大なダメージを被る企業が続発していることを受けて、危機管理対応に当たっては、広報の目から見ても信頼できる弁護士を起用しなければならないという意識が、ようやく定着しつつあるように思う。

危機管理広報に備えた平時の対応

 最後に、いざというときの危機管理広報に備えて、広報部門として、平時から取り組める方策について紹介する。
 まず、危機発生時における自社の危機管理マニュアルの有無・内容を確認することが有益である。こうしたマニュアルは、詳細かつ分厚いものである必要は全くない。むしろ、実際の危機管理の場面にあっては、想定外のことばかり起きるので、詳細かつ分厚いマニュアルは使いにくいこともある。とにかく重要なのは、危機発生時に、社内のどの部門から、誰を招集して危機対応チームを組成するかというルールと、その際の情報の報告経路・共有範囲に関するルールを明確に定めておくことである。このとき、初動対応のチームメンバーに、広報部門の役職員を含めておくことを忘れてはならない。繰り返しになるが、危機をうまく乗り切るためには、広報部門が、事実調査の初期段階から危機管理に関与することが欠かせないからである。
 次に、平時の段階から、有事を想定して、不祥事の公表基準を策定しておくことも非常に有益である。この公表基準も、危機管理マニュアル同様、細かいものである必要はない。事業内容などから想定される不祥事の類型ごとに、原則として、公表するかしないかを定めておいた上で、公表の要否を判断する際に考慮すべき要素をあらかじめ列挙するといったもので十分である。例えば、顧客情報の漏えい類型であれば、「原則として公表する。ただし、情報が漏えいした顧客の数・範囲、流出経緯の特定状況、情報の性質、実被害の発生状況などに照らして、例外的に、公表しない場合もあり得る」などと定めることが考えられる。
 不祥事が発生したら、何でも公表しなければならないわけではないが、一方で、取締役らが、不祥事を公表しないと判断したところ、その不祥事が後に露見し、世間から「隠ぺい体質」との批判を招き、株価が下落した場合などには、不祥事を公表しないと判断した取締役らは、株主代表訴訟において、その善管注意義務違反を問われかねない。
 この点、不祥事の公表をめぐる重要な裁判例として、大阪高裁平成18年6月9日判決がある。同判決は、食品をめぐる不祥事を公表することおよび公表しないことのメリット・デメリットを十分に検討しないまま、「自ら積極的には公表しない」という成り行き任せの方針を採用した取締役らに対して、善管注意義務違反を認めたものである。ただ、同判決は、「不祥事があったら、常に公表しなければならない」とまで述べるものではないように思われる。取締役らが、不祥事を公表することおよび公表しないことのメリット・デメリットを十分に検討した上で、合理的な根拠に基づいて、「公表しない」と判断したのであれば、仮に、後から不祥事が公となり、会社が損害を被る事態に陥ったとしても、不祥事を「公表しない」と判断した取締役が法的責任を免れる余地を残しているように思われる。つまり、取締役らの善管注意義務との関係では、裁判所の目から事後的に見た場合に、公表の要否をめぐる取締役らの判断が、結果的に正しかったかどうかもさることながら、取締役らは、不祥事を公表することおよび公表しないことのメリット・デメリットを十分に検討した上で経営判断を行ったかという点が重要なのである。そうだとすると、平時から不祥事の公表基準を策定しておき、実際に不祥事が起きた場合には、その基準に従って、公表の要否を議論・判断するという手順を踏んでおけば、もし取締役らが、不祥事の公表をめぐる判断を誤ったとして株主などから訴えられたとしても、裁判所に対して、「当時、取締役らは、不祥事発生後のドタバタした状況の中で、よるべき基準もないまま、慌てて公表の要否をいいかげんに判断したのではなく、あらかじめ策定しておいた基準に則って、検討すべき事項について議論を尽くした上で判断した」などと、自らの正当性を説明しやすくなる。その際、「平時に策定した不祥事の公表基準は、専門家である弁護士のレビューも経たものである」とまで言えるようにしておけば、より裁判所を説得しやすい。このように、平時に不祥事の公表基準を策定しておくことは、いざというときに、取締役らを守るという意味でも重要である。
 また、究極の危機管理という意味では、広報部門が、平時から、企業不祥事を発生させない組織風土・従業員の意識醸成に取り組むことも重要である。いくら法務・コンプライアンス部門が、不祥事を防止するためのルール作りに注力しても、ルールを守る側のコンプライアンス意識が伴わなければ、ルールは正しく機能しない。広報部門が主体となって、企業理念の周知に努めたり、トップのコンプライアンスに対する強い決意を知らしめるなど、社内広報を活用した組織風土改革が求められる。
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