経済広報

『経済広報』(2019年7月号)掲載
企業広報研究
地方の企業を取り巻く広報PR環境
妹尾浩二

妹尾 浩二(せのお こうじ)
(有)プリズム 代表取締役

掛け声倒れの「地方の時代」に生き残る

 「地方の時代」といわれ続けて数十年。依然として東京一極集中と地方の疲弊、人口減少は止まらず、むしろ加速している。そんな中で、地方の企業が将来にわたって生き残るには、結局、正しい自助努力を継続する他ないのだろうと思う。本稿では地方企業の広報PR環境について考えてみたい。

広がりつつある「意識の地域間格差」

 筆者は大学卒業後、広告代理店を経て1989年、香川県に本社を置く準大手マンションメーカーに転じた。高松と東京で広報部門の立ち上げを任され、同社の全国展開におけるPRを担当した。2005年に独立し、地元香川県および中・四国の企業の広報支援活動を行っている。
 事業を始めて約15年の間に、家庭にまでインターネットが普及しスマホやSNSが出現した。Wi-FiやBS放送は国内隅々まで行きわたり、情報環境の地域間格差が大幅に縮まったのは確かである。
 しかしながら地方の、特に中小企業では、デジタル機器の導入やネットを使った情報発信にも保守的で、周りの反応を見ながら、二の足を踏んでいる経営者が多い。誰もがAI導入に躍起になっている首都圏と比べて、意識の地域間格差は広がりつつあるようにも感じる。

地方にあっても必須の広報PR

 情報発信戦略としての広報PRも、理解されているとは言い難い。依然としてPRとは「マスメディアにお金を払って宣伝してもらうこと」「ウェブサイトに会社概要を載せること」といったレベルから脱し切れていないのだ。
 地元の町の、半径数キロの商圏だけで成り立つ商売であれば、ウェブやマスメディアを活用してまで情報発信する必要はないだろう。しかし、会社を発展させ、県外・全国あるいは海外まで展開したい経営者は、最新のPR手法を学び、使える限りのメディアを駆使し、より幅広くタイムリーに発信していく必要がある。
 ウェブでの情報発信を小まめに行い、マスメディアで取り上げられ、SNSでクチコミが伝播(でんぱ)・拡散し始めると、経営者自身にも社員にも自覚が芽生え、会社への愛着が深まる。社会的な評価の高まりと社内の意識向上がリンクすれば、会社はおのずと発展に向かう。

地方からの情報発信は全国ブランドへの早道

 ところで、高校野球で大都市圏から地方の高校へ野球留学する球児が多いのはなぜだろう。それは、甲子園への道は都会より地方からの方が近いからだ。
 東京や大阪の強豪校だと、部員間の熾烈(しれつ)なレギュラーポジション争いがあり、地区予選参加校も多いので、優秀な選手でも甲子園の土を踏むのは超困難だ。その点、山陰や東北、四国など人口の少ない地方では、予選で5試合勝てば甲子園に行ける県もある。甲子園では大都市圏の高校も地方の高校も同じステージで戦える。そこで活躍すればスカウトの目に留まり、プロ野球選手になる夢がかなうかもしれない。だからこそ、親元を離れて地方へ野球留学する球児が後を絶たないのだ。
 マスメディアに向けたパブリシティーも同じことが言える。全国メディアに取り上げられる確率は、大都市圏より地方発の方が断然高い。
 東京都内には約50万社、大阪府内には32万社の中小企業がある。筆者のいる香川など、人口が百万人前後の県ではおよそ3万から4万社。10倍を超える開きがある。一方で、全国紙の都道府県面、地域経済面の記事スペースにそれほどの差はない。夕刊の有無や紙面構成などの条件は違うが、地方では記事掲載を獲得するための競争率が圧倒的に低い。特に中小企業の場合、地方で発信する方が全国ブランドに近づく早道といえるのだ。

地方では小さな会社も取材対象になりやすい

 地方の県庁所在地などの記者クラブには、官庁や金融機関、電力会社、JRなどのプレスリリースは頻繁に配布されるが、民間の中堅・中小企業からの情報提供はまだわずかだ。
 例えば『日本経済新聞』の場合、地方経済面は人口規模や県の面積の広さによって、1県から5県程度で毎日1ページを記事で埋めている。四国地方の経済面は4県で1ページだが、そもそも企業の数と情報量が少ないので、記者たちは日々のネタ探しに頭を悩ませている。積極的にリリースを発信しタイムリーなネタを提供できれば、たとえ小さな会社でも取材される可能性は高いのである。
 『日本経済新聞』の地域経済面の記事は、同様の内容で『日経MJ』『日経産業新聞』、日経電子版に転載されたり、ニュースバリューによっては本紙全国版で扱われたりする。他の全国紙地域面の記事もデジタル版にも掲載されるし、Yahoo!などのニュースサイトに反映されることがある。紙面ではその日、その地方でしか読まれなくても、ネットで検索されればいつでも、全国どこからでも読んでもらえる。ネット上では首都圏版も地方版もない。

テレビもローカル局はハードルが低い

 テレビについても同様だ。首都圏の中小企業は関東ローカルのテレビ番組に登場することさえ非常に難しいが、地方ならハードルはぐっと下がる。ローカル局に取材されて、面白いネタであればキー局の情報番組やニュース番組に拾ってもらえることもある。
 NHKにも各地のローカルニュース枠があり、地方に行くほど経済関連の情報は不足しているので、取材される可能性は高い。ネタとタイミングによってはNHKニュース「おはよう日本」や「ニュース シブ5時」などの枠で全国放送されることもある。
 また、放送した動画を各局のウェブサイトにアップし、全国からアクセスできるようにしているテレビも増えている。地方局で放送されたニュースが全国ネットの呼び水となるケースは、今後も増え続けていくだろう。

地方を起点としたメディアスパイラル

 ある酒造会社は数年前、1年の間に『日経新聞(四国経済面)』に8回、『日経MJ』に5回、『日経産業新聞』『NIKKEIWEEKLY』に各1回、『朝日新聞(地域面)』に12回、『読売新聞(地域面)』 に3回、地元紙やテレビに10数回など、コンスタントにメディアに露出し続けた。
 すると、これらの情報をキャッチしたキー局の報道番組や情報番組、海外のテレビ局などが興味を持ち、たびたび取材が入るようになった。地方を起点として全国規模のメディアスパイラルを起こすことができたのだ。
 東京や大阪の中小企業がメディア向けのPRを始めようとすれば、まずは載りやすい業界紙や専門紙、インターネットのニュースサイトから一歩ずつ、というのがセオリーだが、地方ではネタ次第でいきなり全国紙やNHKに登場することも夢ではないのだ。

メディアキャラバンでサポーター記者を増やす

 また、東京や大阪では、企業の担当者がプレスリリースを抱えてテレビ局や新聞社を直接訪ねても、記者に会うことは至難の業だ。アポを取ろうとしても「郵送で結構です」とか「資料は受付に渡しておいて」といわれて終わることが多い。
 その点、全国紙の地方支局や地方紙、ローカルのテレビ局は寛容だ。事前に電話を入れ「○○の件でプレスリリースを持参して記者の方にご挨拶したい」と告げれば、かなりの確率で記者につないでもらえる。たとえ記者が不在で、名刺と資料を受付に渡すことしかできなくても、後日、連絡をもらえることが多い(あくまでネタ次第だが)。地方では、訪問すべきメディアの数が限られるので、キャラバンも効率がいいのだ。
 何度かメディアを訪ね、取材してくれた記者、顔見知りの記者が増えていくと、さらにアポが容易になる。今どき、リリースは各社にメールで送ることも容易だが、後々まで財産となる記者とのコネクションは足で稼ぐべきである。
 地方にいる記者たちは、官庁のお知らせや大企業の動向よりも、その地域で頑張っている民間の人たちに興味があり、応援したいという想いを強く持っている。その想いに応えてあげさえすれば、企業とメディアのウィン・ウィンが実現するのだ。

パブリシティーとデジタル活用はPRの両輪

 インターネットやSNSのデジタルツールの普及は、国内の地域間情報格差をなくした。地方でも最新のソフトウエアやアプリを駆使すれば、自社情報を効率よく全国に発信することができる。そうした企業を増やすために、政府がIT補助金などを用意しているので有効活用していけばよい。
 パブリシティーとネットによる情報発信は企業PRの両輪だ。地方企業がこの2つをうまく活用できるようになれば、地元での雇用を増やし、人口を増やし、将来の地域経済の復活につながっていくはずだ。

「悪目立ち」さえしなければよい

 以上のような理由で、筆者は地方の企業経営者に対して、積極的なパブリシティー活動でメディアに登場することを勧めている。ところが中には、「他社にまねされる」「税務署に目を付けられる」「悪口を言う人が増える」などの理由で「できるだけ目立ちたくない」という人がいる。
 地方の人は奥ゆかしいのだ。奥ゆかしさは日本人の美徳でもある。しかし、ビジネスの世界では有名になることを恐れてはいけない。
 自社の際立った特徴を認識してもらうことは、会社が存続していく上で必要不可欠だ。大きなプラス面に比べ、ごく小さなマイナス面に意識を向けるのは、あまりにももったいない。「悪目立ち」さえしなければよいのだ。
 他の会社が持っていない特許技術、よそではできないサービス、目を引くデザイン、他社にはない歴史や伝統、社長のキャラクター、社内制度……どんな分野でもかまわない。際立った特徴を前面に打ち出し、同業他社から頭一つ抜け出そう。
 出る杭は打たれやすいが、出過ぎれば誰も打てなくなる。その地方で、その業界で「出すぎた杭になること」、それこそがブランドづくりである。
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