経済広報

『経済広報』(2019年9月号)掲載
マスコミ事情
有馬嘉男さんに聞く
キャスターは、記者の思いを伝える
“プレゼンター”
有馬嘉男

有馬 嘉男(ありま よしお)
NHK 「ニュースウオッチ9」キャスター

仲間の思いを伝える

NHKに入局されてからのご経歴をお聞かせください。
有馬 NHKに記者職で入局、初任地は香川県の高松でした。4年間、警察司法を担当。事件取材が大好きで、なんとか社会部にと思っていましたが、想定外の経済部。金融業界を長く取材しました。初めて担当したのは兜クラブ。大手証券の役員室で企業業績やマクロ経済を話すのは苦痛でしたが「千三つ」と呼ばれる市場関係者の話を聞くのは面白かった。いま振り返ると金融機関のディーリングルームと広報部は取材の最前線でした。金融スキャンダルと業界再編の動乱期を共にした広報の皆さんとは今もお付き合いがあります。
 1998年から4年間、ドイツのフランクフルトに初代支局長として駐在しました。広く各国にまたがる単一通貨ユーロのスタートをどうカバーし、新たにできた欧州中央銀行の取材ルーティンをどうつくるかがミッションでした。広い荒野を耕すような仕事は自信になりました。その後、再び経済部で、日銀クラブや電機貿易業界を担当した後、2009年からシンガポールに駐在。帰国すると、当時、大越健介キャスターの「ニュースウオッチ9」のデスクとなりました。まさかその後、自分が担当することになるとは思いもよりませんでした。
キャスターになり、記者時代と、ニュースに接する時の考え方は変わりましたか。また、変わらないことはありますか。

有馬 ずっと取材者であり続けたい、こう思っているからでしょうか、窓のないスタジオで分かったような顔をしていることには居心地の悪さがあります。現場を歩き、当事者の声を聞いたわけでもあるまいに、よくもまあしゃあしゃあとしゃべるもんだ。そんな視聴者や同僚の声が聞こえてくるようで申し訳ない気持ちになるんです。そこで自分に言い聞かせているのが、キャスターはプレゼンターだということ。今の仕事は全国のNHKの記者やディレクター、カメラマンたちが汗をかき、走り回って取材した結果を代表して伝える役目なんだということです。それなら頑張れると。仲間たちの現場での発見や出会い、喜びや怒りをあますところなく伝えたいと思っています。

記者出身キャスターとしての役割

有馬さんは記者出身のキャスターですが、アナウンサー出身と記者出身で違いを感じることはありますか。
有馬 僕はニュースアナウンスの技術研修を受けたことがありません。原稿を正しく分かりやすく読むという技術で本職にかなうはずもありません。山口の訛りはいまだに抜けないし、滑舌も悪いし、表現が大げさだと叱られることも少なくありません。であるのにキャスターを務めているということは、これまでの記者の仕事の蓄積がプラスアルファの価値を放送にもたらすと期待されていることになります。では、経済部や海外での取材経験が果たしていまの仕事に生かされているのか。これはもう視聴者の皆さんの判断に委ねるしかないです。
その日のニュースを決める事前の打ち合わせでも、ご自身の考えを伝えられることは多いのでしょうか。
有馬 自身の考えを伝えるというのはちょっと違うかもしれません。キャスターはプレゼンターなので(笑)。取材した仲間たちの思いを伝えるために、現場で何を見たのか、どんな話を聞いたのか、相手はどんな表情だったのか、とファクトはしっかり詰めますし、番組として何をメッセージにすべきかという点をしっかり議論します。

「ニュースウオッチ9」ができるまで

「ニュースウオッチ9」はどのようにつくられているのでしょうか。
有馬 「ニュースウオッチ9」は、毎日、5項目から8項目程度のメインニュースとその他のフラッシュニュース、スポーツ、気象情報で構成しています。そのニュースの採択と放送の順番を決めるのは編集責任者。早朝からニュースセンターに陣取り、出稿部や地方支局の取材予定をチェックし、午後一番にその日の放送の大方針をスタッフ全員に提示します。事前に取材は済ませたもの、朝から取材に取りかかったものを含め、全てのニュース制作はそこからのヨーイドン。準備ができたチームから早いもの順で、項目一つひとつについて打ち合わせを進めます。担当する記者とディレクター、僕と桑子キャスターが部屋の真ん中にある丸テーブルを取り囲むように座り、取材のポイントやメッセージ、演出などについて意見を交わしていきます。僕たちキャスターもこの円卓でニュース項目前後のコメントのイメージを固めます。この円卓の打ち合わせがどれだけ盛り上がるかが、その日の放送の出来を左右するのかなと思います。
表情や話し方で気を付けている点はありますか。
有馬 とにかく誠実に一生懸命やる、これに尽きます。取り繕った言葉や偽りの表情は心に届かないのではないでしょうか。テレビの嘘はたちまちばれてしまいます。桑子さんとは、背伸びをせず地で行こうね、と話し合ってきました。ちなみに桑子さんの座右の銘は「自然体で行く」。そのまんまです(笑)。

コアファンを大切にしつつ、若い世代にも

放送する時間帯の違いによっても、視聴者ターゲットが変わってくると思います。それはかなり意識されているのでしょうか。
有馬 「夜9時にどんなニュース番組が求められているのか」。ライフスタイル、テレビの視聴スタイルが大きく変わる中で私たちに突き付けられている課題です。NHKの主要な視聴者はシニア世代です。これまでNHKの番組を大事にしてくださってきたそうしたコアファンを大事にしつつ、40歳、50歳代にも見ていただきたい。特に女性に受け入れられるニュース番組を目指しています。ただネット同時配信も始まる激変期にあって、NHKもこの番組も具体的な取り組みのスピードが遅いと個人的には危機感を持っています。
NHKは、これまでの「堅い」イメージから、分かりやすく見やすいイメージに変わってきているように感じますが、その点はどのように受け止められていますか。
有馬 夜9時のニュースに有馬、桑子のコンビをキャスティングしているんですから、必ずしもハードな硬派路線を求められているわけではないのかなと。時には巨大な模型を作ったり、紙芝居風にしたり、いかに分かりやすく、楽しく伝えるか、毎日がチャレンジです。

キャスターの一挙手一投足が情報

現在でも、キャスターの立場で取材を行うこともあるかと思います。記者として取材をしていた時と違いはあるのでしょうか。
有馬 大勢の報道陣のスクラムの中にいてマイクを突き出していた時とは違うかもしれません。キャスターの一挙手一投足が強い意味を持つので取材中に曖昧さが許されなくなりました。カメラのフレームにも横顔が映り込んでいるので、どんな姿勢でどんな表情で取材対象に向き合っているのか意識せざるを得ません。話を先に促すために首を振っているのか、相手に同意を示しているのか、世論を真っ二つに割るような問題では相づちひとつに注意が必要です。政治家や経営者ら権力者とのインタビューもいまだ試行錯誤です。無邪気に懐に飛び込むわけにはいかないし、距離を取り過ぎても話は聞けません。相手を怖い顔でにらみ付けているとよく叱られるんですが、距離の取り方に悩んでいるだけなんです。
記者時代から現在までを通じて、最も印象に残った取材や事件は何でしょうか。
有馬 金融取材で経験した山一證券の破綻やリーマンショックには足がすくみました。目まいのように平衡感覚を失ったことを今でも覚えています。でも振り返るよりもこれからです。天災やテロなど、これまでの常識や経験がまったく通用しないニュースはいつ起きてもおかしくない。NHKの存在意義が問われるそんな有事に真価が問われると覚悟しています。

「そもそもを大事に。その先を知りたい」

今後、「ニュースウオッチ9」を含めて、どのような番組づくりをしていきたいと考えていますか。
有馬 いまNHKには非常に厳しい目が向けられていると認識しています。このピンチをチャンスに変えて、NHKは大胆に改革に取り組むべきだと考えます。ただ「ニュースウオッチ9」がやることは変わりません。「そもそもを大事に。その先を知りたい」。この番組コンセプトの通りに日々のニュースを分かりやすくお伝えしていきます。

山口県出身。上智大学卒業。1990年NHK入局。経済部では金融キャップ、電機貿易キャップを担当。フランクフルト支局長、シンガポール支局長を歴任。2014年から「BS国際報道」キャスター。16年から「ニュースチェック11」キャスター、17年から「ニュースウオッチ9」キャスター。

聞き手:経済広報センター 常務理事・国内広報部長 佐桑 徹 
(文責:国内広報部主任研究員 森山洋平)
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