経済広報

『経済広報』(2019年9月号)掲載
企業広報研究
SNSの活用法とリスク対策:
データ分析が明らかにするSNSの実態
山口真一

山口 真一(やまぐち しんいち)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 講師
東洋英和女学院大学 非常勤講師

SNS時代の光と影

 インターネット、そしてSNSの普及は、誰でも自由にオープンな場で発信することを可能とした。それまではマスメディアや著名人しかそのようなことができなかったことを考えると、これは革命的な出来事であり、まさに一億総メディア時代が到来したといえる。このような時代において、消費行動とマーケティングは、劇的に変化している。
 NTTコムリサーチの調査によると、6割の企業がSNS活用で売り上げ増加を実感している。また、筆者がグーグル合同会社と行っている調査研究プロジェクトでは、ネット上のクチコミには年間1兆円以上の消費押し上げ効果があることが明らかになった。
 しかし、そのような変化に伴い、「ネット炎上」のリスクが高まっている。炎上とは、ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、ネット上で多数の批判や誹謗(ひぼう)中傷が行われることを指す。例えば、あるおそば屋さんのアルバイトが洗浄機に入った写真をTwitterにアップした結果、不潔だとして批判が集中し、大炎上した事例がある。最終的にその店は倒産してしまった。
 「SNS活用」と「炎上」は表裏一体である。SNSを活用すればそれだけ炎上のリスクが高まるため、高い効果は分かっているにもかかわらず、多くの企業がうまく使えていないのが現状である。「使わなければリスクが低い」「淡々と情報発信していれば燃えない」のは確かであるが、それでは多くのビジネスチャンスをみすみす逃すこととなる。
 重要なのは、SNSの実態を正しく理解し、適切に活用していくことである。そして、このように一億総メディア時代という「新時代」到来によってビジネスが大きく変革し、複雑化が進むと、これまでの経験則だけでは適切にビジネス戦略を立てることが難しくなってくる。
 そこで本稿では、豊富な統計データ分析と事例によって、SNSを正しく理解し、顕在するリスクを回避しながら効果的に活用する方法を提示する。

2日に1回は企業が炎上している

 そもそも炎上は、どれほどの頻度で発生しているのだろうか。ジールコミュニケーションズ社の発表によると、炎上はなんと2017年度に1086件発生している。そして、その対象として最も多いのが法人であり、250件発生しているのである。1年は365日しかないので、2日に1回以上は、企業が炎上している計算になる。
 実際、企業の炎上案件を挙げ始めたら枚挙にいとまがない。例えば、「PCデポ不要契約炎上事件」では、家電量販店PCデポが、認知症患者と不要な高額のサポート契約を結び、解約しようとした家族に20万円もの解約料を請求したことがTwitterで広まり大炎上した。そして多くのネットメディア、マスメディアで大々的に取り上げられた結果、株価が一時18%安と急落した。
 このような、炎上で株価が下落する現象について、慶應義塾大学の田中辰雄氏の実証研究によると、炎上の平均的な株価への影響は、マイナス0.7%であった。さらに、大規模な炎上に限ると、5%程度の下落が見られたという。0.7%というと大きくなさそうであるが、実は航空機事故や化学爆発による株価の下落幅と、同程度の数字である。
 企業は、サービス提供・消費者とのコミュニケーション・従業員教育、全てにおいて、炎上をケアしなければいけない時代になったといえるだろう。

データ分析が明らかにした「意外」な炎上の実態

図1 炎上とのかかわり方
 このように様々な影響を及ぼす炎上であるが、そもそもどれくらいの人の声が反映されたものなのであろうか。
 2014年に約2万人を対象とした筆者らの調査分析の結果は、驚くべき炎上の実態を示した。過去全期間を通して1度でも炎上案件に書き込んだことのある人はネットユーザーの1.1%にとどまり、これをさらに過去1年間――「現役の炎上参加者」――に絞ると、わずか0.5%(200人に1人)しかいないことが分かった(図1)。これを炎上1件当たりに換算すると、0.0015%程度(約7万人に1人)と推計される。
 ただし、これをもって「炎上は些末(さまつ)な出来事」と考えるのは早計である。同様の調査では、炎上を認知していない人は全体の8%と、10人に1人以下であることも分かった(図1)。炎上参加者は少ないかもしれないが、炎上の認知度は高く、その社会的影響は大きい。
 このような炎上のメカニズムを図にすると図2のようになる。最初ソーシャルメディア(SNS)上で批判的な拡散が起こるだけであるが、最終的には、ネットメディアやマスメディアで大量に拡散される。そして、帝京大学の吉野ヒロ子氏の研究や、東京大学の武田史子氏の研究によると、実は炎上認知経路としてはテレビが最も多く、マスメディアが話題にすると株価にマイナスの影響があるという研究結果もある。

炎上の防ぎ方

図2 炎上のメカニズム
 炎上を完全に予防することは、少なくとも2019年現在では不可能である。しかしながら、正しくネットの実態を知り、従業員教育を充実させれば、ある程度予防することはできる。具体的には以下のようになる。
①炎上しやすい話題を知る
 宗教・社会保障・格差・災害・政治・戦争・性別など、炎上しやすい話題がある。また、誤った情報の発信や、何かに対する批判も炎上につながる可能性が高まる。このような話題を取り扱う時は慎重に発信すべきである。
②炎上しやすいタイミングを知る
 大災害時など、社会に大きな影響を与える事件が起こった際には、通常の発信でも炎上対象となることがあるため、慎重に発信していく必要がある。著名人や企業が、ただ通常の活動や発信をしているだけで「不謹慎」と批判される、いわゆる「不謹慎狩り」という現象が起こることが知られている。
③社員教育を徹底する
 教育は、当たり前の情報発信に関わること――「常に良識ある態度を心掛ける」「やらせ行為はやめる」など――と、情報の受信に関わること――「ネットの情報を安易にうのみにしない」「情報が偏っている可能性を考慮する」――の2軸から成り立つ。昨今では、バイトでない正社員や役職持ちの人が炎上する事例も少なくない。社内教育は新人に向けて行うだけでなく、全社的に行っていくべきである。
 これらを気を付けても炎上してしまった場合には、適切で迅速な対応が求められる。検知ツールを導入するなどして早期に発見し、事実確認を行う。そして、謝罪すべきかどうか、確認された事実や炎上規模などから冷静に判断した後、どのような対応をするにせよ、「事実確認の公表」に重点を置く。仮に消費者に非があった場合も、消費者を批判しない。
 また、謝罪する際には、「隠ぺい」や「言い訳」は絶対にしない。その上で、「謝罪対象の明確化」「謝罪理由の明確化」「どのような対処を行い、今後どうしていくか」の3つのポイントを押さえた謝罪文を発表する。

SNSの先端的活用

 以上を踏まえた上で、SNSを有効活用することが、情報社会のビジネスにおいては欠かせない。そこで、「SNSキャンペーン」「ソーシャルリスニング」という、2つのSNSの攻めの活用法を述べる。
1.SNSキャンペーン
 SNS上では様々なキャンペーンが打たれているが、「成功するキャンペーン」となるには、次の3つのポイントを押さえる必要がある。第一に、消費者の持つネットワークを活用する。第二に、消費者に自発的な参加を促す。第三に、キャンペーンの目的を明確にする。
 例えば、米国のアイウエアブランドで「Warby Parker」というところがある。ここは通販で眼鏡を販売しているが、Instagramを活用した、5日間5つのフレームを送料無料で試着できるキャンペーンで成功を収めた。消費者にとって魅力的なこのキャンペーンの条件は、ハッシュタグ「#warbyhometryon」付きでInstagramに試着姿を投稿するということである。この例では、消費者・企業双方に大きなメリットがあることが特徴であり、これによって消費者が自発的に参加するようにした上で、消費者のネットワーク(フォロワー)をうまく活用している。バイラルマーケティングのうまい事例といえる。
2.ソーシャルリスニング
 ソーシャルリスニングとは、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNS上の消費者の生の声(投稿)を収集・分析することで、マーケティングに生かす手法のことである。ソーシャルリスニングは、「安価で実施可能」「消費者の自然な会話を取得可能」「リアルタイムで消費者の声を分析できる」という3点から、近年注目されている。
 ソーシャルリスニングツールを導入した小学館の子ども向け学習サービスの事例では、消費者のSNS上でのクチコミをリアルタイムで分析することによって、広告が確かに効果を持っていることや、主要顧客の間でのCMタレントの評判、商品への不満などを知ることができ、エビデンスをベースに戦略を立てたり、消費者対応をしたりできるようになった。
 また、91か国に4100以上のホテルを所有するヒルトンは、SNSで自社に関する投稿をチェックしており、ポジティブな投稿に返信を飛ばすことでコミュニケーションを取り、顧客エンゲージメントを高めている。また、不満的投稿にも迅速に対応し、例えば、宿泊客がクローゼットの狭さについて写真と共に不満をツイートしたところ、1時間もしないうちに、より大きいクローゼットのある部屋に変更された。サービス改善と顧客エンゲージメントを高めることに、SNSをうまく活用した事例といえよう。
 以上見てきたように、SNS活用にはリスクもあるが、大きなメリットもある。実態を正しく理解し、ビジネスにうまく組み込むことが、これからの情報社会において欠かせない。
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