経済広報

『経済広報』(2020年3月号)掲載
特集 東日本大震災から9年
災害多発時代へのレジリエントな危機管理
~ソフト対策の重要性とコミュニケーション~
藤江俊彦

藤江 俊彦(ふじえ としひこ)
千葉商科大学 名誉教授 

多発、激化、多様化する災害時代

 近年自然災害が多発し、巨大化かつ多様化している。発生件数と被災者数も増加傾向にあり、特にアジアや中東、南米などの社会基盤整備が不十分な地域での発生度が高い。背景には大気中の温室効果ガス濃度が上昇する「地球温暖化」が指摘され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が異常気象などへの注意を喚起している。日本は特に環太平洋に絡む地理的条件から、地震、津波、風水害などの自然災害が大きな経済的損害をもたらし、「災害大国」とも呼ばれている。阪神・淡路大震災や東日本大震災などの巨大地震に加え、最近では激化した風水害が続発している。平成30(2018)年7月、東海から西日本で「線状降水帯」が形成され西日本豪雨が発生し、堤防決壊、土砂災害などにより多くの犠牲者、家屋浸水、企業が被災した。同年6月には大阪府北部地震で被災した地域に、8月台風21号が上陸し、記録的暴風雨で被害が拡大した。9月には震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震が発生、土砂災害はじめ苫東厚真(とまとうあつま)発電所の停止により、日本初のエリア全域での電力崩壊(ブラックアウト)となった。発電設備を持たない企業は業務が停止し、保有していても稼働できない事例もあった。
 令和元(2019)年9月には千葉県を中心に最大風速45mの台風15号が上陸、60万戸を超える停電や断水が長期間にわたり、自動車工場の操業停止、給油困難、交通機関運休など、生活、産業、農業被害の大きさから激甚災害に指定された。10月には記録的大雨による大型台風19号が列島に上陸、政府は激甚災害とともに台風として初の特定非常災害を適用、災害救助法適用自治体は14都県にわたり、東日本大震災を超え最大の適用数であった。企業が備えるべき災害は、今後巨大地震や津波だけでなく、激甚化する風水害など多様な事象を想定して取り組まなければならない。

レジリエントな災害危機管理

 これまで災害対策用語には「防災」が多く使用されてきたが、「改正災害対策基本法」では基本理念が「災害の発生を常に想定するとともに、災害が発生した場合における被害の最小化および迅速な回復を図ること」と定められた。被害の最小化こそ「減災」であり迅速な回復は「レジリエント(強靱(きょうじん)化)」であろう。自然災害そのものを「防ぐ」ことは困難なため「減災」実現のレジリエントな「災害危機管理」が求められている。
 多様化する災害に対しては、単にハード面の対策だけでなく、ソフト面を重視した「管理」=「マネジメント」が大切である。PDCAサイクルを回しながら、平素から持続的に実施するのである。「防災」ではなく「災害危機管理」でなければならない。もう1つは「事業継続管理(BCM)」を含むことである。BCMを確実に実行するため事業継続計画(BCP)策定があるが、これだけを形式的に策定しても災害危機管理全体の意義を社員が十分理解して動かなければ実効性をあげられない。また企業売り上げの減少率にBCPの有無が影響することは経済産業省の調査で知ることができる。
 BCP策定での留意点として、災害事象ごとではなく、発災時に予想される損失、欠落する経営資源の結果事象より逆算して、事業継続や再開を早めるための資源調達を準備しておく必要がある。国際標準化機構はISO22301を作成し、経済産業省はBCPガイドラインを公表している。大企業の策定率は約8割だが、サプライチェーンを構成する中小企業はまだBCPの整備は不十分な状況である。海外供給先とのBCP策定も懸念されている。
 肝心なことは、社員への確実な浸透である。これまで起きた震災の度に防災マニュアルとBCPの2つを手元に持つ社員が、発生直後に混同したりどちらが優先か迷ったり、発動の時期をずらしたりと様々な問題が起きている。災害危機管理全体でBCPやBCMの意義や位置付けを研修や訓練を通して社員や関係者に十分理解、浸透させる必要がある。

ソフト対応としてのコミュニケーション

 災害時の総被害(損失)を最小化するのが「減災」とされ、そのための建物、施設などの耐震耐火補強がハード対応であり、災害情報の早期掌握、伝達、避難などがソフト対応といわれる。実際には事前に災害への災害危機管理研修、発生時の方針指示、応援要請、相互連絡、マスコミ対応などのコミュニケーションが迅速かつ円滑に進められ、復旧まで時間をかけずに回復する力がレジリエンスである。ソフト対応が災害危機管理では重要性を増している。まず発生直後、災害対策本部の設置が優先で、トップが本部長、広報は本部広報となる。危機管理マニュアルを整備する企業は増えているが、災害危機管理マニュアルに広報編があると、本部広報も適切なコミュニケーションが取りやすい。
 災害時の広告・CMについては広告代理店と急ぎコンタクトして中止手続き、販促イベントの企画があれば延期するのが通常である。また近年の大型災害では社員から義援金やボランティアの動きが出てくるが、これをパブリシティーにするのは日本では控えた方がよいだろう。
 震災時、大手企業は被災して応急対応に追われるのだが、マスメディア取材は早々に始まる。電話取材が多いが、時に電子メールや直接来訪する記者もいる。当日は被害状況確認が主となり、数日たつと復旧計画、事業再開、業績予想に移っていく。特に事業再開についてはBCPの有無やそれに関連した質問をされるだろう。また社内広報ではトップが社員に直接メッセージを述べ、ネットで流すケースも増えている。
 東日本大震災では携帯電話、スマートフォンなどでのソーシャルメディアが緊急時に活用された印象があるが、災害後の被災者への各種調査では、おおむね情報入手はラジオ・テレビや新聞など信頼度のあるメディア情報や職場などのクチコミが多く、TwitterやSNSはそれほど高い割合ではない。フェイク情報への警戒、通信不可となる問題、豪雨や強風にデジタル通信が弱いことも影響しているのだろう。改善されてきてはいるが、スマホなどの移動通信は基地局の停止や輻輳(ふくそう)などの課題もある。これらは北海道電力の全系崩壊からの教訓として、他地域からの緊急、融通、需要増に耐え得る発電所づくり、大手電力の送電網の一部を使用可能にし、再生エネルギーで地域の電気供給を賄えるようにする取り組みが望まれる。企業でも自家発電装置の準備は必須である。

 災害多発要因である気候変動への政策は世界的に進められ、脱炭素社会によるSDGsを目標として、企業も努力を重ねている。経営活動の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が注目され、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素に配慮した統合報告書が公表されるようになった。災害危機管理は単なる企業の「減災」による損失減らしではなく、災害多発時代の一歩進んだサステナブルな企業価値創造の要件になってきたのではないだろうか。

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