経済広報

『経済広報』(2020年3月号)掲載
特集 東日本大震災から9年
テレビ災害報道の舞台裏
西 浩一郎

西 浩一郎(にし こういちろう)
(株)テレビ朝日 報道局ニュース統括部長

災害報道はテレビ報道の最重要テーマ

 毎年のように日本列島を地震や台風をはじめとする自然災害が襲い、多くの被害をもたらしています。公共機関としてのテレビ局の使命としてテレビ朝日では、災害報道を最重要テーマの一つと捉え、防災や減災に貢献できる放送を目指しています。「想定外」というフレーズを最近よく耳にしますが、実際に我々の知識や経験を超えるような自然現象も起きています。
 そうした事態にも対応できるよう、視聴者にとって命綱である情報をどのように届けていくべきなのかについて試行錯誤を繰り返しながら、災害報道に取り組んでいます。テレビ朝日では早朝の「グッド!モーニング」から夜の「報道ステーション」まで、5つの生放送番組を編成し、放送時間は10時間を超えています。それらは報道情報番組で、ひとたび大きな地震などが起きると、急遽内容を変更して災害報道に切り替わります。
 生番組の特徴として、事前に予定していた内容を柔軟に変更して対応することができる点にあります。ちなみにバラエティーやドラマなどであっても、大きな災害などが起きた場合には、通常放送から緊急放送に切り替えて対応することになっています。緊急対応をするかどうかの判断は、社内マニュアルに則って行われます。

大災害への日ごろの備え

 アナウンサーや番組スタッフには、こうした緊急放送に対応するため、事前の準備やスキルが求められます。日ごろから、各番組単位で、大地震などを想定した緊急対応訓練を定期的に行っています。テレビニュースの現場は24時間365日休みなく動いていますが、深夜や休日には人手が手薄になります。
 とはいえ、災害は我々の事情などお構いなしに起きます。そのため日ごろの備えが重要になってきます。最小限の人員であっても緊急放送を続けることができるように、平日は報道ステーションの放送終了後、土日も夜間に地震訓練を実施しています。特に津波警報が出された場合には、避難を呼び掛けることにより、犠牲者を減らすことが可能であるため、初動の対応が非常に重要になってきます。
 訓練は夜間帯を取り仕切る泊まりの統括デスクが中心になって行われます。技術スタッフ以外に緊急対応用にスタンバイをしているアナウンサーや夜勤の記者など10人前後のスタッフで進行します。首都直下地震や南海トラフ地震などを想定したシナリオを幾つか準備しており、全国の地震に対応できるように日替わりでシナリオを選んで行います。各地に設置している無人の情報カメラのライブ映像や地震発生の瞬間を編集したVTRなどを使い、スキルアップを目指しています。
 アナウンサーには、起きた災害の程度により、被災者に呼び掛ける際の声のトーンにも注意してもらっています。地震だけの場合には、余震への警戒が大切になりますが、もし大津波警報が出された場合には、一刻一秒を争う事態となり、被災者に避難を直接呼び掛ける必要があります。そのため普段より強いトーンで「すぐに逃げてください!」と呼び掛け、行動を促すようにしています。もちろんあおり過ぎることは逆効果です。災害報道ではアナウンサーの力量も問われることになります。
 このほか、全国の系列局とも日ごろから情報交換を行い、定期的に複数の局と連携しながら訓練を行っています。テレビ朝日のスタジオと各系列局のスタジオや現場を中継で結び、ヘリコプターからの映像をスムーズに放送につなげるため、実践に近い形で訓練を実施しています。見つかった課題は、系列局とも共有して改善し、今後に生かすように心掛けています。

災害情報のマルチ発信に向けた対応

 テレビ局にとって、地上波だけでなくBSやインターネットなどに向けてコンテンツを発信していくことが求められるようになって久しいですが、災害報道でも例外ではありません。サイバーエージェントと共同で運営しているインターネットテレビ局AbemaTVとの連携にも力を入れています。
 中でもニュースチャンネルであるAbemaNewsはテレビ朝日報道局がコンテンツを制作しており、災害報道にも力を入れて取り組んでいます。地上波以上に柔軟に編成することができるため、地震や台風などの災害時には、長時間に及ぶ緊急配信が可能になります。AbemaNewsでは日ごろのニュースにおいても「いち早く伝える」ことを意識しており、事件や事故の速報から緊急記者会見などを、時間を気にすることなく伝えるネットメディアならではの特性を生かした発信を続けています。
 もちろん災害報道でも、より迅速な対応が可能となります。去年10月、台風19号が首都圏に被害をもたらした際、地上波では深夜スポーツ中継を行う一方で、AbemaNews向けにニューススタジオを開き、最小限の人員による緊急特番形式の番組を発信しました。多摩川近くの現場で取材を続ける記者と中継を結び、刻々と移り変わる現場の様子を伝え続けました。また関東以外のエリアでも、系列局が放送している災害特番などを積極的に配信し、テレビを見ることができない被災者に向け、スマホ経由で情報を届けるメディアとしての評価も高まっています。今後ますます地上波とAbemaNewsが連携し、ハイブリッドに被災者へきめ細かな役立つ情報を届けていきたいと考えています。

テレビの災害報道に求められるもの

 災害報道では国や自治体などが発表する情報や、現場の記者が取材した情報が中心になります。テレビでは映像も加わりますが、地上でカメラマンが撮影した映像だけでなく、被害の実態を俯瞰して伝えることができる上空のヘリからの映像も重要になります。これらはプロにしか撮影できないものです。逆にプロであってもどうしても撮影できない映像もあります。被災の瞬間や直後を捉えた視聴者提供映像と呼ばれるものです。こうした映像はその場にいなければ、決して撮影できないものであり、災害現場の状況を伝えるためには不可欠な存在になっています。
 また、我々が知り得ない、伝えきれていない情報もSNS上で多くの人が発信しています。AI(人工知能)による情報覚知ツールを駆使してツイッターなどから情報を収集するサイバー空間における取材は、すでにテレビの災害報道において、欠くことができないものになっています。もちろん中に紛れているフェイク情報を見分けるための慎重なウラドリは必要です。
 こうして入手した情報や映像をいち早く視聴者に届けることで、被害を未然に防ぎ、救える命もあると信じて災害報道と向き合うことが肝要だと考えています。特に、台風などの気象災害は、ある程度、事前に予測可能なため、早い段階から警戒を呼び掛けることが大切になります。人は「自分が被災者になることはないだろう」と思いがちです。正しい避難行動を取ってもらうためにも、刻々と変わる被災地の状況に合わせて、避難情報やインフラ情報などの適切な情報をタイムリーに伝えていくことが必要になるのです。過去の災害から学んだ教訓を生かすのはもちろん、一つとして同じ災害は起きないため、予測不可能な事態にも対応できるように、日ごろから視聴者や被災者の目線で、備えを怠らないように努めたいと思います。
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