経済広報

『経済広報』(2020年3月号)掲載
第35回企業広報功労・奨励賞を受賞して
時代の変化に対応する、新たな広報の試み
芝 道雄

芝 道雄(しば みちお)
ダイキン工業(株)
コーポレートコミュニケーション室 シニアスキルスペシャリスト

「大阪金属」から「ダイキン」へ。夜明け前の市場への挑戦

 ダイキン工業は、1924年に「大阪金属工業所」という社名で設立され、2024年には創業100周年を迎える。戦時中の航空機のエンジンを冷やすラジエーターチューブの製造に始まり、戦後日本初のパッケージエアコンを発売すると、日本の経済発展と共にバリエーションに富んだ空調機を世に生み出し、空調機メーカーとしての名を徐々に確立してきた。しかし1994年には、冷夏や急激な円高の影響で厳しい市場環境の中、成熟した国内空調機市場の中で消耗戦を強いられることになり、17年続いた黒字が赤字に転じてしまった。
 一方で海外に目を向けると、そこには空調機の普及率が低い国がたくさんあり、“夜明け前の市場”が広がっていた。各地の特性に合わせた空調機を展開し、売上高も2019年3月期で2兆4800億円になるまでに成長を遂げた。M&Aなども功を奏し、従業員数は約7万6000人となり、このうち6万人以上が海外で働く外国人である。このような事業のグローバル化に伴い、創業者が定めた「最高の信用」「進取の経営」「明朗な人の輪」という3つの社是に加えて、グループの社員全員にとって分かりやすい10項目のグループ経営理念を掲げることとした。社員が迷った時には立ち戻ることのできる心の拠り所になっている。

CC室が担う役割

 コーポレートコミュニケーション室(以下、CC室)は、広報と経営IRの2グループから成る。報道対応などを行う広報グループは大阪と東京を合わせて約10名体制。コーポレートブランドは総務部、商品宣伝は各事業部がそれぞれ担っている。
 CC室の役割は、ダイキン工業の企業価値を向上させるため、企業戦略や経営情報をステークホルダーに発信することと、外部からの情報を経営層にフィードバックする広聴の2つ、いわゆる双方向のコミュニケーションである。具体的には、取材対応、商品発表や決算発表、リリース作成などだが、特に私たちは記者に現場を見ていただくイベントを重要視しており、入社式に始まり、夏場の盆踊り大会など、年間を通して多くの広報イベントを開催している。また、経営トップが最大の広報マンであると捉え、様々なメディアに積極的にインタビューや懇談など提案を行っている。関西企業として、全国規模で知名度を上げていくにはそのような努力がとても重要だと考えている。
 また、変化の激しい時代の中でグローバル規模での技術競争に勝ち抜くため、異業種・異分野の技術を持つ企業や大学、研究機関との“協創”で新たな価値を生み出すことを目的として、2015年11月にTIC(テクノロジー・イノベーションセンター)を設立した際には大々的に発表した。最新鋭の実験設備である「人工気候室(あらゆる温度・気流などを再現できる部屋)」を記者に直接見てもらい、空調メーカーならではの“画になる広報”に取り組んだ。

海外事業の広報

 海外への事業展開は、広報も大きく動かなければならない。2012年に米国のGoodman社(全米1位の家庭用空調機メーカー)を買収した際には、3000億円の投資に見合う大規模なプレス発表をするため、同社のCEOを招いて日本で会見を開いた。現地向けには両社トップのコメント入りプレスリリースを配信した。
 また、2017年に500億円をかけてヒューストンに新工場を設立した際には、在阪他社の米国内案件と抱き合わせ、日本から記者に米国出張して取材してもらえるよう工夫した。このように海外での事業展開をメディアに取り上げてもらう仕掛けと工夫を広報として常に考えている。
 こうした会社のグローバル展開とは裏腹に、広報はまだ国内中心であることが課題だと感じている。そこで、案件に応じて『ウォール・ストリート・ジャーナル』などの海外メディア記者に対して、働き掛けることにした。前述のヒューストン工場新設の際には、同紙の東京特派員にアプローチし、その結果、US版にも掲載された。
 さらに、成長著しいインドにおいては、現地人トップによる広報で記事化につなげている。日本で担当だった記者のインド支局への異動を好機と捉え、その社長との対談をセッティングの上、インドでの研究開発を日本の紙面へ掲載してもらうことにも成功した。
 このように各国ごとに最適な手段とタイミングで海外事業の広報を行っている。

過去の経験に学ぶ危機管理広報

 ダイキンにとっての危機は、1988年に検査データの書き換えと文書偽装で逮捕者を出した「ココム違反事件(対共産圏輸出規制違反)」に始まる。その後、2009年に発覚した「不適切な会計処理」も有価証券報告書の虚偽記載となるなど大きな問題であった。
 メーカーが日常的に抱える危機は「工場事故」と「製品に対する苦情」に大きく分けられる。工場事故に関しては、2004年茨城県鹿島工場の爆発事故と2016年大阪府淀川製作所での塩酸漏れ事故の2つの事例がメディアで報じられた。メーカーの工場は総じて本社から離れた場所に位置することが多く、広報部員が到着するまでの間、来所するメディアへの対応は、工場長などの現場責任者を中心に現地スタッフに任される。また、事故の場合は普段から付き合いのある経済部記者ではなく、わが社に対する基礎知識があまりない社会部の記者が動くことが多いので、より丁寧な対応が求められることも特徴的である。私たちは、このような過去の苦い経験を教訓として、社員一人ひとりのコンプライアンス意識の向上はもちろん、工場の防災訓練時に、事故を想定した模擬記者会見を取り入れて、リアルに近い緊迫感のあるメディアトレーニングを実施している。
 もう一つ、メーカーにとって「製品の不具合」は避けることのできない問題といえる。リコールの際には、品質管理担当役員が記者クラブに実際の製品を持ち込み、分かりやすく説明する。同時に、対応窓口の連絡先を掲載したリリースを発表するが、その発表と同時に電話が殺到し、必要部品が不足するケースも少なくない。しかし、それを理由にリリース発表を遅らせれば、「発覚から発表までなぜ時間がかかったのか。その間に事故などが起こったらどうするのか」という批判がくることは必至だ。だからこそ、リコールする必要があると判断してから、データを集め、発表するまでの時間をどれだけ短くできるかが、広報のみならず会社全体の実力を試されるところであると肝に銘じている。

ダイキン広報の近年の注力テーマ

 ダイキンが近年注力している広報活動は、
① 広報イベントを多数開催
 入社式はメディアオープンにしている。トップの挨拶後は、トップ・役員陣と新入社員のフリーな座談会を実施しており、より多くの記者に来て見てもらえるように工夫している。フラットで気さくな社風を実感してもらえる場面として、入社式も貴重な広報の機会と捉えている。
 また、エアコンのシーズンである夏場には、プレス向けの工場見学や記者懇談会・勉強会、新製品発表のほか、盆踊り大会も毎年開催し、トップや役員との懇親の場を設けている。また、一般消費者向けにも、親子でエアコンを分解しながら、その仕組みを学んでもらうなど、夏休みの宿題に役立ててもらえるような「エアコン教室」を催し、一般消費者とのコミュニケーションの場としている。
② 消費者とのダイレクトコミュニケーション
 近年、猛暑が続き、「エアコンの使い方」に関心が高まっている。夏場の暑くなってきたタイミングで、エアコンの使用状況の調査結果などのニュースレターを発行、ウェブコンテンツを運営し、それとリンクしたSNS活用などで消費者へダイレクトに情報を発信している。
③ テレビに対する提案型広報
 テレビは非常に影響力が強いため、積極的な提案型の広報をしている。テレビ東京系列『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』などに取り上げられた際には、工場と連携して取材対応した。テレビは、取材の交渉から放映までの期間が非常に短いので、広報が社内の担当者にいかに素早く頼み込めるかが重要となる。普段の社内コミュニケーション力が試される。
 また、ワイドショーなどの情報番組のオファーも積極的に受けるようにしている。「エアコンの上手な使い方」など生活に密着した情報を届け、消費者に役立つ広報活動を行っている。放映を見た他局から更にオファーが来るなどの好循環が続いたケースもあった。
④ 時代に即したイノベーションの発信
 約10社の異業種企業と手を組み、「新しいオフィスの在り方」をテーマにシェアオフィス「point 0 marunouchi」を立ち上げた。ダイキンとしては個々の好みに応じてオフィスを快適に保つ温度の調整技術、快適な睡眠を実現する仮眠室、心地よい風が吹き出る窓型モニターなどで貢献している。
⑤ 広報戦略・活動の管理
 「時代の変化に対応した新たな広報」を経営課題の一つとし、それに応じた広報予定表を作成している。縦軸に「経営案件、トップ案件、環境・技術関連案件」といったテーマを置き、横軸には3カ月ごとの期間を示して、部員が自由に、担当や実施状況・進捗などを書き込める仕組みとなっている。毎週のミーティングではこの予定表をもとにして、それぞれの業務内容や量、進捗を全員が共有できるようにしている。こうした中でアイデアを出し合った例として、大阪・梅田の新シンボルとして「ぴちょんくん」看板の設置をPRする広報を行った。点灯セレモニーには大阪駅近くの通りを使わせてもらった。見学に来た通行人もイベントを盛り上げ、テレビ局をはじめ、多くの報道陣が集まるなど成功を収めた。
 今後も、時代の変化に即した情報発信を進めていきたいと思っている。
(文責:国内広報部主任研究員 森山洋平)
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