経済広報

『経済広報』(2020年6月号)掲載
特集 パンデミックと危機管理広報
新型コロナウイルス危機と企業の情報発信
中島 茂

中島 茂(なかじま しげる)
中島経営法律事務所 弁護士

今こそ「経営理念」の実践を!

 新型コロナウイルスの脅威が世界中を覆っている。この危機的な状況下で企業は世の中に向けてどのような情報を発信し、開示していくべきだろうか。方向性ははっきりしている。いつも掲げてきた「経営理念」「企業行動指針」に基づいて活動し、その情報を発信することである。その点で平時の情報発信と変わるところはない。むしろ、こうした非常時に発信することで、これまで掲げてきた経営理念が「本物」であったことを社会に分かってもらえる。そうして得られた「社会的な信頼」は、コロナ危機が収束した後の、「ポスト・コロナ社会」ではかけがえのない財産になる。
 一点、心しておくべきは、非常事態に置かれている人々の感覚は平時では考えられないほど敏感になっていることだ。どの企業が「本音」で人の命と安全と幸福を守る企業であるのか、たちどころに見抜いてしまう。そのことを覚悟した上で誠実な行動をとり、積極的な情報発信を行うべきだ。

消費者に対する情報発信

(1)商品の場合は「安定供給」がキーワード
 商品を製造・販売する事業の場合のキーワードは「安定供給」である。「消費者第一」の経営理念の基本といえる。的を射た情報発信を行うためには「消費者の身になって考えること」が役に立つ。一時トイレットペーパーなどの買いだめが報じられた。批判する声もあるが、企業としては「消費者として当然あり得る行動だ」ということを前提とすべきだ。不安にかられている消費者の心を理解するところから情報発信は始まる。そう考えると、発信すべきは、商品は需要増をも踏まえ、十分に生産されていること、物流体制も機能していること、保管体制も整備されていることを告げる情報である。
 実際、多くの企業がホームページ(HP)を活用してこうした情報を開示している。内容的にも「中国での原料供給先が操業を再開した」「社員が交代制で供給体制を維持している」というように具体的である。ただし、HPだけでは不十分だ。すべての消費者が見てくれるとは限らない。マスコミを通じてより広く発信する企業努力が求められる。広報担当者の腕の見せどころである。
(2) サービス・流通事業の場合は「感染対策」がキーワード
 鉄道、バス、タクシー、航空、宅配、技術提供、教育などのサービス事業や小売り事業など、人と接する事業の場合、キーワードは「感染対策」である。人々は「飛沫(ひまつ)感染」「接触感染」という言葉におののいている。その不安を解消するためには徹底した感染対策を実行していることを、できるだけ具体的に分かりやすい言葉で発信することが望まれる。伝えるポイントは、「人的対策」として、運転士、乗務員、配達員、販売員などについて感染予防対策、感染チェック体制をとっていること、「物的対策」として、電車、車両、機体、使用機器、設備、店舗などの消毒を十分に行っていることである。ある鉄道会社で運行本数を減らしたところかえって乗客数が「密」になったという報道もあった。運営上の工夫も求められる。
(3)社内で感染者が出た場合
 社内で感染者が出た場合、社外への開示項目は感染者が出たこと、その担当部署・行動履歴・現状、濃厚接触者の有無、事業所・店舗の閉鎖など会社としての対応策である。感染を心配する消費者を最優先に考えた情報開示である。「もし自分が感染したらどうなるのか?」といった不安を抱えている社内の従業員らに対する社内広報も大切である。 

取引先への情報発信

 取引先に対しては自社の活動実態を正直に、なるべく詳しく伝えるべきだ。「パートナーシップを大切に」という経営理念の実践場面である。ある経営者は、「東日本大震災のとき、大口取引先から、『工場が崩壊しました。いっときだけ取引を中止させてください。半年後は必ず取引を再開します』と告げられました。不安でしたが、約束通り再開してくれました。その有り難さは忘れません」と今でも感慨深げに語る。こうして生まれた「パートナーシップ」は無敵のビジネス基盤となる。

株主・投資家に対する情報開示

 株主・投資家に対する情報開示は会社法・金融商品取引法などの法律で定められているが、「株主重視経営」の実行の場でもある。金融庁は2020年4月14日、「3月決算企業について有価証券報告書の提出期限を一律に9月末までに延長する」と発表した。だが、株主・投資家は投資先企業の実情を一刻も早く知りたいのだ。会社の担当者は自宅待機、リモートワークであり、海外子会社からは情報が入らない。監査法人も自宅待機。こうした中では迅速な決算は困難だ。そのことは株主側もよく分かっている。その中で、なお情報を欲している。別に9月まで待つ必要はない。なるべく早く決算情報の開示を実現できるよう努力すべきだ。株主・投資家はそうした企業の姿を決して忘れない。

企業の社会的責任(CSR)を実践する情報発信

 いま社会が大きな関心を持って見ているのは企業の「CSR姿勢」だ。日ごろ掲げていた「社会貢献」「CSR」「SDGs」の標語は飾りではないことを示すべきである。そのためには、例えば会社施設を「軽症者用の宿泊療養施設」として提供することなどが考えられる。既に自社ホテルの提供や車両の提供を申し出る企業が次々と現れている。こうした情報発信はポスト・コロナ社会での大きな信頼につながる。
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