経済広報

『経済広報』(2020年6月号)掲載
新型コロナ感染拡大とメディア①
ニューヨークからの警鐘
萩原 豊

萩原 豊(はぎはら ゆたか)
(株)TBSテレビ ニューヨーク支局長

CBSニュースで2人の陽性を確認

 この一報が入ったのは3月11日の夕方。最初は耳を疑った。TBSニューヨーク支局は、米テレビ3大ネットワークの一つ、CBS放送センターの4階に入っている。そのビルの5階に勤務しているスタッフが、新型コロナウイルスに感染したというのだ。この時点で、ニューヨーク市内の感染者は、まだ37人に過ぎなかった。まさか、ごく身近なところで確認されるとは、という思いだった。実は、その前日から、州による非常事態宣言の発令、市長による在宅勤務の検討要請などを受けて、TBS支局員の出社を必要最小限にするテレワークに移行していた。その直後の出来事だった。
 翌日からCBSはビル全体の消毒を開始。事実上、封鎖状態となった。テレビ報道の取材は記者だけでは完結できない。特に重要なのはカメラや中継装置などの機材だ。幸い、テレワークへの移行により1セットをカメラマンが自宅に持ち帰っており、もう1セットは出張で使用中だった。その後、CBS内で陽性が次々と確認され、死者も出たため、私たちの立ち入りは2カ月間、許可されていない。
 それからの「感染爆発」は報じられている通りである。驚くようなスピードだった。これに対応して、州知事はミュージカルの休演、レストランの店内飲食禁止、外出制限令など対策を講じていった。こうした措置は、現場で取材し伝えるべきニュースである。一方で、スタッフの安全管理も重要となる。即座に支局スタッフを2チームに分け、完全に接触を断った。機材保管用のホテルを2部屋確保し、機材をチーム専用とした。チーム内で感染者が出た場合、濃厚接触者は自宅待機が求められることから、残りの1チームで取材を継続できるようにした。そして何より、スタッフに1人も感染者を出さないことが肝要だ。日々、刻々と変わる市中感染の状況に対応して、支局の安全対策を強化した。原則、屋外のみでの取材、取材相手と2メートルの距離を確保できるマイクの使用、支局専用車による移動、マスクの着用などをルールとした。米メディアの対応も参考に、TBSの他国の海外支局とも情報共有を重ねた。

東京が“ニューヨーク”になる前に

 日々の動きだけでなく、ニューヨークが陥った“失敗”から、多くの教訓を得て、日本に警鐘を鳴らすことが重要だと考え、取材、発信に取り組んでいる。例えば、外出制限のタイミングの遅さや医療崩壊への準備不足などだ。それこそが、この地で取材する日本の報道機関としての使命だと考えている。

東京大学文学部卒。社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、社会部デスク、「NEWS23」編集長、外信部デスクなどを経て現職。
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